手前の母屋のデザインを踏襲したポートランドのタイニーハウスADU(左奥)
手前の母屋のデザインを踏襲したポートランドのタイニーハウスADU(左奥)
タイニーハウスをご存知だろうか。アメリカで15年くらい前に生まれ、今、各地で話題になっている狭小住宅のことである。ここオレゴン州ポートランドでは、タイニーハウスが住宅の増築・拡張を考える際の選択肢として大きなブームとなっている。
基本的には、タイニーハウスにはキャンピング・トレイラー型(車輪付きで牽引できるタイプ)と、普通の家と同じ固定型がある。これまでポートランドではDIYによるトレイラー型タイニーハウスが主流だった。これはポートランド在住でタイニーハウスのパイオニアでもあるディー・ウィリアムズ女史がPAD(Portland Accessory Dwelling)というNPOを率い、積極的に啓蒙してきた功績が大きい。彼女が著作『Big Tiny』の中で自身の暮らし方を紹介したところ、新しいコンセプトの生き方として、また従来の大型住宅に対するアンチテーゼとしても注目を浴びた。
不必要に大きな家でエネルギーを消費し、人と関わりを持たない暮らし方を疑問に思う人々はアメリカでも少なくなく、タイニーハウスは確実に支持を拡げてきた。特にアメリカでは昔からキャンプ用RVやモーターホームが普通に見られるので、トレーラーに違和感がないという背景もある。最近、日本でもタイニーハウスのDIYワークショップが行われているが、これもトレイラー型が中心だろう。
しかし、ここへ来てポートランドでの主流は完全に固定型のバックヤード・ハウスにスイッチした。これは言わば「離れ」のようなもので、母屋の付属住宅としてADU(Accessory Dwelling Unit)というカテゴリで呼ばれている。母屋より床面積が小さく、デザインを踏襲し違和感のないようにという条件があり、一般的には床面積20~80㎡のものが多い。実は昨年よりポートランドでは他市と比べてADUの基準や規制がぐっと緩くなり、戸建住宅に住む人々がこぞって空いている庭先にADUの建設を考え始めたのだ。
ご存知のようにアメリカの住宅の敷地は広い。平均面積は約250㎡、日本の倍である。ポートランドでも住宅の最低の敷地面積や間口が定められており、勝手に小さく区画割することは出来ない。だから、ゆったりしたバックヤードかフロントヤードがあるのが普通で、空けておくのはもったいないという考えが起こるのは容易に想像できる。
ADUは母屋から上下水道を引くこともでき、 規模以外は普通の住宅とあまり変わらない。私たち日本人は小さな家に違和感がないこともあり、実際のタイニーハウスを見学すると、トレイラーハウス型はキャンプのキャビンにような簡易な造りの一方、ADUはごく一般の住宅仕様と感じた。
ただ、具体的なADUの目的とは一体何だろう。通常の離れとして子供や家族に住まわせる例も多い。しかし、今ブームになっているタイニーハウスの目的のほとんどが家賃収入であろうことは想像に難くない。つまりADUを賃貸住宅にしたり、話題の宿泊施設Air B & Bとして貸し出すのである。ADUの使用は家族に限定されている都市が少なくないが、ポートランドでは他人に貸すことが許可されているのだ。
近年、ポートランドは全米住みたい街ランキング上位の常連都市であり、アメリカのみならず日本でも脚光を浴びている。東京23区の6割くらいの面積の街に、毎週平均400人程度の移住者があり、人口は増え続ける一方。人気に伴って不動産価値も右肩上がりで、この5年間で平均約30%上昇している(プライムエリアでは50%UPの所も)。そのような状況下であちこちに再開発プロジェクトも進行しており、ジェントリフィケーション(地域の高級化)による先住民の住宅難が加速している。政府による低家賃プロジェクトもあるが、競争が激しく限られた条件であったりする。そこで、このADUがポートランドの住宅問題解消に繋がるのではという期待感も出てきた。
では、元々のタイニーハウスが持っていたコンセプト、すなわち環境に配慮し小さな暮らしを実践する流れはどうなったのか。実は、一方でそれもまた続いている。その一つがタイニーハウスによるビレッジ型コミュニティの建設である。
2014年秋に完成したSimply Home Communityは、4軒のタイニーハウスとコモンハウス計7人のビレッジ型コミュニティ。それぞれオーナーのDIYによるトレイラー型で、他の場所で建造して、牽引して設置した。各戸に簡易なキッチンやトイレ・シャワーを備えているが、コモンハウスも利用できる半独立型のコミュニティである。Simply Home Communityでは最初に住人がプロジェクトメンバーとして集まり、一緒にコモンハウスとしての住宅物件を探すことから始めたという。リーダーが物件を買い上げた形で、住人は「賃貸料」を払ってその庭に各々のタイニーハウスを設置している。住人同士が家族のような感じで、プライベート感も強い。みんなで畑をつくりコモンハウスで一緒にご飯を食べるなど、コミューン的な雰囲気もある。しかし、このトレイラー型タイニーハウスは、現在ADUとは認められていない。つまり、これを庭に置いて住宅として使うことは厳密に言えば違法となる。この形態が今後どのように扱われるか見守りたい。
タイニーハウスは将来の住まい方を変えるだろうか。まだ何とも言えない。ただ、ADUは賃貸住宅を補完する物、あるいはAIR B&Bのような民宿的な施設として、またビレッジ型コミュニティは新しい集合住宅の形となる可能性を秘めている。独立性を保ちながら共有するあり方は一般住宅だけでなく、リゾートホテルやケアハウスのような施設も考えられる。ADUはアメリカの特殊な形態だとしても、タイニーハウスの可能性は日本でも参考になるところがあると思う。この流れが今後の住宅事情にどんな影響を及ぼしていくのか注目していきたい。