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【国際】ホステル開業ブームとその課題

地域の新たな文化発信基地に?――インタビュー:小池邦夫さん(鳳明館社長)

人気が高まる長期旅行のための交流宿ホステルは、ヨーロッパ発祥。Photo: Goodmorning Lisbon Hostel(Hoselworld.com)

ユニークなホステルが続々開業

浅草のラブホテルが和洋折衷の旅人宿になった「カオサンワールド浅草 旅館&ホステル」、蔵前の玩具店の問屋が旅人の宿兼バーラウンジに変身した「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」......。

今、日本ではホステル開業ブームの到来と言われています。しかも従来の旅人向けの簡素な安宿とは異なり、創意工夫を凝らした特色ある宿や、古い一軒家を改築して町の資源を活かした宿、国際交流を打ち出した宿なども登場しています。
このホステルブームの現状と課題、そして今後の展望について、業界事情に詳しい本郷の宿「鳳明館」社長の小池邦夫さんにお話を伺いました。

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ヨーロッパ発祥、長期旅行のための交流宿

ヨーロッパ発祥、長期旅行のための交流宿

日本風にいえば「自分探しの旅」? 「ギャップイヤー」は欧州なら誰もが一度は通る道(写真はイメージです)["Looking Over Santa Barbara" photo by Simon Hooks(flickr)

ホステル(hostel)とは一般的に、安価に宿泊できる相部屋(ドミトリー)があり、セルフキッチンやゲスト同士の交流スペースがある、旅館営業もしくは簡易宿泊営業の許可証を取得した旅行者向けの宿泊施設のことを言います。ヨーロッパが発祥と言われていますが、その背景には「ギャップイヤー」という旅文化があるそうです。

「ヨーロッパでは『ギャップイヤー』と言って、高校あるいは大学卒業後や転職の際に、長期的に海外に旅へ出て自分自身をもう一度問い直すというということが、一般的に行われています。すると一泊あたりに、そんなに費用がかけられなくなる。また、自分と同じような旅人と交流したい。こうしたニーズに応える宿泊施設として出てきたのが、ホステルです。」

なお、ホステルは日本ユースホステル協会が会員制で運営する、青少年育成のためのユースホステルとは別物です。また、日本では小規模のホステルがゲストハウスと呼ばれることもありますが、英語圏ではGuest House(ゲストハウス)と言うと、荘園領主が建てた邸宅マナーハウスのようなイメージになります。

土地への愛着とソーシャルブームを追い風に

ロンドンにある元裁判所のホステル「Clink78」[Photo: Hostelworld.com

京都の町屋や実家の古い持ち家をリノベーションするなど、最近開業したホステルには、町の建築資源を活用するクリエイティブなアイデアが光っています。

「ヨーロッパでも以前から古い裁判所、修道院や牢獄がリフォームされ、ホステルに生まれ変わった事例が多数あります。もともとヨーロッパでは、歴史的建造物を町の財産と考えて活用する『アクティブユース』という考えが浸透しています。また、旧市街地では景観を守るために新しい建築物はなかなか許可が降りないという事情もあります」

日本では個人それぞれの土地や旅への愛着心や、近年のソーシャルブームが開業ブームの原動力となっているだろうと、小池さんは分析します。

「京都などでは土地への愛情、愛着心を汲んだホステルを開業する方が増えています。また、海外のホステルに泊まった経験のある日本人が、ビジネスホテルに泊まるよりも、こういうスタイルの宿のほうが交流もできて楽しいと開業する方もいます。さらには、他者とつながりたいという若者のソーシャルブームの流れからの注目もあります。自分ならこんな宿に泊まりたいという、熱意と創意工夫が発揮されています」

旅人の命を守る宿泊業

小池さんが経営する、鳳明館本館玄関。外国人客が増えたため、大きいサイズのスリッパも用意

他業種からの参入は、その固定観念のないユニークなアイデアがホステル開業ブームの原動力になっている反面、新たな問題も浮上してきています。

「営業許可、飲食業の許可といった、宿泊業の当たり前のルールを知らないまま開業する人が増えています。宿泊業は、旅人の命を守る仕事です。部屋が空いているから泊めてもいい、というものではありません。何かあってからでは取り返しがつきません。

納税の義務を知らない方も見受けられます。納税しない人のところに泊まる観光客が増えても、国全体は良い方向に向かっていかないでしょう」

ホステル文化発展への期待

小池邦夫さん(明治創業の登録有形文化財の宿、鳳明館本館中庭にて)

小池さんはホステル予約サイトの世界的な大手であるホステルワールドの運営を行う日本総代理でもありますが、最近は外国人だけではなく、日本人が日本国内のホステルの予約に同サイトを利用するケースが増えているそうです。

「ホテルにも旅館にもない、ホステルならではの宿泊スタイルを国内でも選びたいという人が増えている、そしてその文化が浸透してきているということでしょう。自分らしいと思えるスタイルが日本でも選べるというのは、結構なことなのではないでしょうか。

欧州の民宿にはB&B、つまりベッドと朝食(Bed & Breakfast)を提供するスタイルが多いのですが、日本のホステルは宿泊者だけでは家賃の支払いが難しいという事情もあり、バー併設のホステルが増えています。これからはB&Bといえばベッド&バー(Bed & Bar)という時代になるかもしれません。今後、ホステルはこうしたそれぞれの地域や日本ならではの発展が見られるのではないでしょうか」

国籍問わず人気を集め、文化発信の基地となりつつあるホステルは、地域そして日本全体にどのような影響を与えていくのでしょうか。その成長が期待されます。

小池邦夫(こいけ・くにお)

文教の地・本郷にある明治創業の登録有形文化財の宿「鳳明館」社長。
団体宿泊の激減を背景に、インターネットを活用して国内外からの予約を受け付け、個人・団体・宴会のバランス重視の都市型旅館として展開。世界のホステル予約サイト「ホステルワールド」日本総代理。


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