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【国内】ソーシャルビジネスとしての「和食」

「おにぎり」「丼」、世界へ

「和食」をめぐる動きが活発化

昨年の世界文化遺産登録を受け、来年のミラノ博、さらには2020年開催の東京オリンピックまでを視野に入れ、インバウンド、アウトバウンドだけでなくさまざまな方面から「和食」を盛り上げようとする機運が高まっています。先日レポートした「ハラル認証」対応への動きもそのひとつと見ることができるでしょう。

エコッツェリア協会で開催されている「地球大学」でも「和食」を取り上げ、さらに広く日本の食文化を包含しうる形で「Eating Design」=食べる行為自体をデザインするという姿勢を打ち出していることは周知のとおりです。また、地球大学プロデューサーの竹村真一氏は「和食は世界を救う"OS"である」と語り、その可能性を強く訴えています。

そんな中、6月に和食をめぐって興味深い活動が2つスタートしました。「おにぎり」と「丼」です。

「和食」全体のプロモーションの中では亜流でサブカルチックなものに見えるものかもしれませんが、その中身は意外とマジメでメインストリームの向こうを張る可能性を感じさせるものでした。

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「おにぎり」は無限の可能性があるクロスプラットフォーム

「おにぎり」は無限の可能性があるクロスプラットフォーム

一般社団法人おにぎり協会 代表理事 中村さん

6月15日に発足後初めてのイベントを開催したのが、一般社団法人「おにぎり協会」です。
「おにぎり、いいよね、と面白がってくれる人がたくさんいて、だったらとことんマジメに一般社団法人化しちゃったほうがさらに面白いかなって思って」と話すのは、同協会代表理事の中村祐介さん。おにぎりで一般社団法人。その面白さとは裏腹に、発足の理由はいたって真面目で真剣です。

「今、おにぎりといえばコンビニで買うのが当たり前になってしまっています。僕たちが子どものころは、お母さんが握ってくれるものだったのに、コンビニで売られるようになり、ファスト性ばかりがクローズアップされるようになった。このままでは次の世代の子どもたちは、おにぎり=買うものが当たり前になってしまう。これは日本の食文化的に考えても非常にもったいないのではないか、と思うようになりました」

しかし、あまり真面目に「食育」「食文化」を訴えてもなかなか普及しにくい。そこで考えたのが「大人の遊びのように、おにぎりを楽しみながら広めていくこと」でした。「おにぎりを広めたいんだよね、と話すとみんなが面白がってノッてくるんです。ポスターやキャッチコピーも、知り合いのデザイナーやコピーライターのみんなが損得抜きで手伝ってくれたもの。おにぎりには、そんなみんなが楽しめる不思議な力があると思います」。

「おにぎり」の要素は「ご飯(米)、海苔、塩、具材」に分解できますが、この組み合わせは地方によっても違いがあり、その数は無限に存在すると言ってもいいでしょう。おにぎりを通じて、地方、食材、食べ方が交差し、その違いが浮き彫りになります。「おにぎりは、いろいろな人が関われる"場所"みたいなものなんですよね。プラットフォーム、OSみたいなものと言ってもいいかもしれません」。

6月29日のサルベージパーティ共催イベントのひとこま

6月15日のファーストイベントは「塩にぎり」がテーマ。東京で一番古いといわれるおにぎり屋の「浅草宿六」の店主・三浦洋介氏、ソルトコーディネーター協会代表の青山志穂氏を招いて、参加者全員でおにぎりを握り、塩の違いを食べ比べるイベントを開催しました。また、6月29日には、無駄な食材廃棄を防ぐことを目指す「サルベージ・パーティー」とイベントを共催。「おにぎりでフードロス解決」を掲げ、あまりがちな食材を活用したおにぎりレシピを紹介し、実際におにぎりを作りました。7月18日には「海苔」をテーマに開催し、「しっとり派」「パリパリ派」の対決も行われたそうです。多岐にわたるジャンルとタイアップして活動できるのがおにぎりの強みであり、可能性でしょう。さまざまな人が相乗りできる、まさにプラットフォーム。

しかし、現在はこの活動をどうマネタイズするか、というのがひとつの悩みではあるそうです。「活動を定期的・継続的に続けていくには、やはり一定の収益を上げる必要がありますが、今のところはすべて持ち出し。面白がってノッてくる人はたくさんいるので、うまく利益が出るようにタイアップしていきたい」。

夢は2020年の東京オリンピックで、アスリートがエネルギー補給におにぎりを食べているシーンが世界中に放送されること。
「和食は、スシ、テンプラだけじゃないんだぞと(笑)。"おにぎり"が"ONIGIRI"として世界に広まることを目指します!」

無数の"ドン"が織り成す丼物語

全国丼連盟のサイト

時を同じくして、6月10日に発足イベントが開催されたのが「全国丼連盟」です。キャッチーな「丼」というキーワードに加え、多くの種類の丼を試食できるということもあって、多くのマスコミがつめかけニュースになりました。会長には日本ハンバーグ協会会長の西村俊彦氏が就任。「丼ファンの全国組織化」「丼を通じた地域活性化」「"Donburi"文化を世界に発信」していくことを目的に活動を展開していくそうです。

「冗談みたいに言ってますが、丼は世界を平和にするパワーがあると思っています」。そう話すのは、全国丼連盟事務局長の波房克典さん。「丼はご飯があり、載せるものがあり、ひとつの器の中で完結する"創造的宇宙"なんです。ご飯のうえにいろいろなものを受容することで無限の可能性がある。ほかの文化と融合として、例えばアメリカやフランスの食材を使った、アメリカの丼、フランスの丼だってあっていい」。

受容力があり、無限の組み合わせを持つ「和食」の可能性を世界に広げようという点ではおにぎり協会とよく似ています。はじまりのきっかけが「面白いから」という点も同じ。「もともとまちづくりワークショップや地域活性化の取り組みをしている中で、仲間内で各地の丼を食べてフェイスブックで報告しあうことを始めたのがきっかけです。2年前に始めて、だんだん勝手に仲間が増えていって今では700名にまで増えました」。ここから「丼で日本を元気に!」という機運が高まり、今回の連盟結成につながったそう。

全国丼連盟の特徴のひとつは、波房さんが「秘密結社マーケティング」と呼ぶ手法を用いている点にあります。「合言葉」や「ルール」を決める、無理なく日常的に行えるミッションと報告を課すなどして、参加者の帰属意識を高めていくというやり方。「『ドン●●(名前)』と名乗ったり、『丼活報告します』と書き出して食べた丼の報告をしてもらうのはまさにこの手法です。熱源の高い、本気で取り組む人が20名いれば無視できない大きなムーブメントにつながっていきます」と波房さん。ポイントは「楽しみながらやること」。社会的意義や公益性といった堅苦しいことばかりでなく、みなが楽しみながら参加できるフィールドを作り出すことで、波及力も大きくなっていきます。

6月10日の発足パーティの様子

また、地域活性化の活動とともに「個店」の結びつきを高めようとしている点も注目したいところ。個々のお店の活性化なくして地域振興のムーブメントの加速もありえないからです。また、モザイク化する市場を、ネットを通じて開拓する試みとしても興味深いものといえるでしょう。「丼の報告をしてくれる連盟員を増やしながら、丼のデータベースを構築していきたいと思っています。全国の個店とつながって、コミュニケーションをとり、次のステップに進めたい」。
7月22日には「全国丼グランプリ」の募集も開始しました。天丼、カツ丼、牛丼などのスタンダード丼に加えて「ご当地丼」「メガ盛り丼」「バラエティ丼」など全11部門で全国から丼メニューの募集を受け付けています(発表は11月の予定)。
「いずれは世界大会である『ワール丼カップ』を開催し、世界一の丼を決めたいです」

日本の食文化をもう一度考え直す

「おにぎり」と「丼」。ばかばかしいように見えるかもしれませんが、冷静に考えれば、これほど受容力が高く、多様性に富む日本の食文化を端的に象徴している食べ物はそうそうないのではないでしょうか。

伝統的な日本の食は、厳密には失われて久しいと言われています。和食の世界文化遺産登録を無邪気に喜んでばかりはいられません。日本の食文化を改めて、考え直さなければならない時が来ているのではないでしょうか。「おにぎり」「丼」は、間違いなくそのきっかけを与えてくれるものかもしれません。


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