写真はイメージです。(photo:a transilvanian room by Indigostern)
写真はイメージです。(photo:a transilvanian room by Indigostern)
「シェアハウス」を巡る問題は、今年5月にインターネットカフェ大手が運営するシェアハウスの違法性が指摘されたことが発端となり、その後大手メディアが「脱法ハウス」と名づけ、その実態を繰り返しレポートし社会問題化してきました。
報道でもご存知のとおり、名ばかりの悪質なシェアハウスも多く、その実態は容易にはつかみがたいのが現状です。これに対して国土交通省が9月に出したのが「シェアハウスは建築基準法の『寄宿舎』とする」という技術的助言でした。法的拘束力はなく、判断や対応は自治体に任されるものですが、この判断に従えば、擬似家族的に知人が数人集まって一軒の家を借りて住まうシェアハウスも違法となり、現状運用されているシェアハウスのほとんどが違法扱いとなりかねません。
このシェアハウスの問題は、単に違法か否かといった議論にとどまりません。恐らくこれからの暮らし方、生き方を考えるうえでも重要なものになると考えられています。
9月6日の国交省の通知を受けて、10月19日には一般社団法人日本シェアハウス協会主催で緊急フォーラム「これからのシェアハウス」、11月5日には一般社団法人HEAD研究会主催によるシンポジウム「シェアハウスは脱法か」が開催されました。
2つのイベントで共通して主張されているのは、「安易な法的規制はシェアハウスの可能性の芽をつぶす」という意見です。
居住スペースのシェアリングはコミュニティの醸成につながります。若年層を中心に、都会暮らしでも人と人との触れ合いを求める機運は高まっており、シェアハウスが新しいコミュニティをデザインする現場になる可能性を秘めていることが指摘されています。また、多くのシェアハウスが既存住宅(中古住宅)を活用しているために、今後ますます増加すると見られる空き家の問題に寄与する可能性を指摘する人もいます。
パネリストの一人が「シェアハウスはハードビジネスではなくソフトビジネス」と指摘したように、ハード面だけで見ていくと、シェアハウスの可能性を見誤る可能性はとても高いでしょう。また、高齢者・障害者向けのグループホームも一種のシェアハウスと考えるならば、既存住宅のグループホームへの転用は現在ますます盛んに進められており、地域資源として認められるほどにもなっています。
居住スペースや生活の一部を他人とシェアリングする暮らし方は古くからはありますが、改めて新しいものとして考えるべきでしょう。シェアハウスやゲストハウス、今は亡き下宿屋が昔ながらのシェアリングだとしたら、近年の新しいシェアリングは「ソーシャルアパート」や「コレクティブハウス」です。
ソーシャルアパートは、シェアハウスに比べ個々のプライバシー性が高く、共有スペースの設備が充実しているのが特徴です。学生やベンチャーに挑む30代までが主なターゲットで、新しいビジネスを生む土壌にもなっています。
コレクティブハウスは多世代居住のシェアリングです。若年層からお年寄りまで、お子さんのいるファミリー層を含めて多様な人々が参加しているのが特徴的です。共用スペースを持ち、共同の食事作りをするなど、居住者同士がゆるやかにつながる暮らしで、多世代ならではの取り組みができるのも魅力的です。関東圏でコレクティブハウスを展開するNPOコレクティブハウジング社では、現在中野区北東部に新しいコレクティブハウスを作るための取り組みを行っています。
また、狭山市や福生市では、米軍の「ディペンデントハウス」を範にした、コミュニティデザインを含む賃貸アパートの取り組みも始まっており、新しいローカルスタンダードとしても注目されています(詳細はこちら)。
人口減少、超高齢化社会へと大きく日本が転換しつつある今、シェアハウスは単に「脱法ハウス」として排除して良い問題ではありません。「何をシェアするのか」という議論もしながら、もう一度自分たちの暮らし方を考えるきっかけとして、シェアハウスを見直すべきかもしれません。