11月7、8日の2日に渡って、青森県弘前市で「CSV大学 in 弘前」が開催されました。主催は複数の企業で構成される「CSVサーベイランスネットワーク」。地元・弘前市の企業と学生、都市型企業としてネットワークに参加する企業が10数社が参加し、弘前市の抱える社会的課題を議論し、CSVビジネスの可能性を探りました。
弘前市は今年度からCSV事業に取り組んでおり、9月にはJTBのアレンジメントで千葉商科大学の学生20数名が同地を訪れる課外授業が行われています。今回のCSV大学は、こうした弘前市の活動を受けて開催されたものですが、CSVサーベイランスネットワークとしては初の試み。都市型企業として東京から10社20名。弘前市からは、市職員、地元企業9社から20名が参加し、2日間のカリキュラムに取り組みました。
初日はネットワーク顧問の水上武彦さん(株式会社クレアン)が講師を務め、CSVのコンセプトと経営のあり方、フレームワークを解説。その後、弘前市から、市が抱える課題やCSV展開につながるリソースのプレゼンテーションが行われました。その後は「食とモノづくり(美)、(食)」「観光とまちづくり(農)、(環境)」の4つのグループに分かれ、テーマ別に現地を視察して回っています。
「初日からテーマ別に分かれてグループ分けしたことが良かった」と関係者が言うように、最初からテーマごと10名程度のグループに分かれて活動したために、メンバーが同じ問題意識や方向性を共有することができました。夜の食事やその後の酒席もそのメンバーで動いており、2日目のワークショップが始まる前から、熱心な議論が続けられたのでした。
2日目は、ネットワーク座長の赤池学さん(ユニバーサルデザイン総合研究所)によるCSV事例の紹介で始まりました。「社会は、自動化社会から最適化社会、そして自律社会を経て、やがては自然化社会へと進むだろう、その社会でのモノづくりは、ハードウェアからソフトウェアへ、五感と愛情に訴えるセンスウェア、そして公益を技術基盤とするソーシャルウェアに進むだろう」。CSVはその流れに沿うべきもので、一定の方程式はあるものの個別の柔軟な対応が必要になります。
美、食、農、環境の4つのグループは、赤池さんの講義を踏まえ、昼食も交えながらその後3時間に渡ってワークショップを行いました。
印象的だったのは地元企業側の鋭さです。こうした場では"都市型企業が地元企業をリードする"という流れになるかと想像していましたが、地元企業の皆さんも、まちづくり、観光振興に活発に取り組んできた経験の持ち主です。むしろCSV事業に対する理解は一般企業よりもはるかに深いと言えます。都市型企業側が「地元の人が気づかない価値を見出す」というよくあるような図式はそこには見られません。非常に高いレベルでの議論が交わされました。
また、より実現性の高い議論ができたグループには共通した特長がありました。
それは、参加者が自分の持っているリソースやツールを十分に理解している点、企業がCSVビジネスに理解を示している点です。社会課題を見せられても、自分の持つリソースを理解していなければ解決に向けてはめ込むことはできません。あるいは、個人としてCSVに賛同していても、所属する企業が賛成してくれていなければ議論に積極性は欠け、ビジネスに展開することはできません。その辺の違いが議論の成熟度に端的に現れました。
最後に蛯名副市長はじめ市の幹部らを前にしてのプレゼンテーションがありましたが、その内容については、ここで述べるのは控えます。しかし、議論を重ねて鍛え上げたアイデア、そして、企業を動かす立場にいる人員が参画しているために、非常に実現性の高いプランが提案されました。赤池さんが「このうちいくつかは間違いなくビジネスとしてスタートする」と手ごたえを感じ、水上さんが「ここでの議論が弘前を変える力になる」と太鼓判を押したほどのものです。いずれ世間をあっと言わせるプロジェクトが始まるに違いありません。
プレゼン終了後に蛯名副市長から総括がありました。「都市型企業の方々からのアイデアで、実にいろいろな価値を見出すことができた。これがまさにCSVであろうと思う。こうした知の集積を充実させていくことで、いずれ弘前が注目されるようになってほしい」と期待を語りました。また、今後は「いただいた意見を具体的な形にするために事業計画を立てて、多面的視点で」、市を挙げて取り組んでいくそうです。
CSVネットワークサーベイランスの事務局を運営するJTBコーポレートセールスの綿石さんは、「市の農工商のメンバーが一堂に会し体系的に議論できた。自治体内部でもここまですべてのセクションが集まって議論することはできないだろう。それができただけでも意義があった」と手応えを感じていました。
都市型企業側にとっても、「首長のトップダウンで、部長クラスと前向きに議論できる席は通常ありえないことであり、ビジネスチャンスをつかむ機会になることがはっきりわかった」そうです。地元の人たちと共通の価値を作り、ビジネスとして共業していくことがCSVの目的ですから、お互いが "地域の役に立ちたい"という自然な気持ちでテーブルにつくことができるのです。その意味で、CSV大学という場それ自体がCSVであったと言えるでしょう。
「CSV大学は、ここまでできるパッケージなんだということを地方自治体の方に知ってほしい。そのため、今回のプレゼンを元にした"ビジネス化"という結果にはこだわっていきたい。また、今後さらに各地でCSV大学を開催し、5年後くらいには全国大会を開くところまで進めるのが目標です」(綿石さん)
CSVサーベイランスネットワークは来年度をめどに社団法人化し、活動をさらに加速させていく予定。CSV大学はその核となる活動として、今後も注目を集める存在となりそうです。