先の漢方薬を巡る記事でも指摘したように、昨今ヘルスケアビジネスへの注目が高まっています。連日ニュースで「ヘルスケア」という言葉を目にしている人も多いでしょう。
1月にアメリカで開催された「2014 International CES」で話題になったのも、センシング技術を活用したウェアラブルなスマートデバイスの数々。先ごろ、ドコモとオムロンの合弁企業であるドコモヘルスケアが「ムーブバンド」を発売したのも話題になりました。
こうした動きと連動するように、さまざまな企業がヘルスケア関連で動いています。今回はそうした動きから注目したいものをピックアップしていきます。
2014年になって話題になった企業、ニュースをピックアップしてみましょう。
■日立製作所......2/4にヘルスケアグループ、ヘルスケア社の新設が発表されました。これにより、各部門に点在していたヘルスケア領域の事業が一本化。経営体制も7グループになります。MRIや超音波検査機などの高度医療機器を扱ってきた日立メディコも完全子会社化され、ITを活用したライトなヘルスケアから従来の高度医療までフォローする幅広い体制を整えようとしています。
■三菱ケミカルHD......つい先ごろ、同社の持つヘルスケア関連事業を統括する子会社「生命科学インスティテュート」の設立が発表されました。統合されるのは、検査機器、医薬品などを扱う4社。ICTを活用したヘルスケア、創薬のサポート、再生医療や遠隔医療など"次世代医療"の開発を主眼に置いて展開する予定とのこと。
■任天堂......1/30の決算説明会でヘルスケア部門への注力が発表されました。「楽しくQOL(Quality of Life。生活品質)を向上させる」ことを目標に掲げ、そのためのプラットフォーム構築を目指します。大局的に見ると、同社のWii Fitが、目に見える形で家庭に健康を取り込んだ最初の取り組みとも言えるわけで、そんな同社が改めて取り組むヘルスケアには注目したいところです。
このほか、自動車業界、住宅業界などさまざまな分野の企業がヘルスケア事業に参画してきていることは皆さんもよくご存知の通り。また、傍証となりますが、こうした動きを受けて、日経では『日経メディカル』『日経テクノロジー』『ITpro』などのヘルスケア関連の記事を利用する『日経デジタルヘルス』を1月から立ち上げ、ビジネス展開を図っています。
超高齢化社会の到来を迎え、「健康」が巨大なビジネス分野に成長することは間違いないでしょう。医療費の削減は国家の急務ともいえます。2014年はさらにヘルスケア関連事業がますます加速していくことが予想されます。
そこでは、従来の高度医療だけでなく、予防医学、未病、QOLなどがキーワードになっていくでしょう。しかし、そこで気になるのが、「ヘルスケア」の一人歩きです。ウェアラブル機器の発達とビッグデータの活用は、一方で「健康」の数値化を生み出します。
各学会が発行するガイドラインで定義された数値や治療法の効果は認めつつも、その一方でその限界が指摘されていることも事実です。たとえば、2013年の糖尿病学会では、ガイドラインが規定する血糖目標値の重要性を認識しつつも、「個々の患者に適した、患者セントリックな治療が重要」という考えが改めて確認されました。つまり、数値至上主義の医療は必ずしもベストではないという認識です。
伊藤計劃の『ハーモニー』で描かれたエキセントリックな健康管理社会は大げさに過ぎるかもしれませんが、「健康であること」の定義は、一人一人に帰属している社会であるほうが望ましいことはいうまでもありません。そのためには、健康をめぐるリテラシーの向上も求められるようになることも予想されます。
ヘルスケアビジネスの発展は楽しみではありますが、どのような方向に、どのように進むのかも、意識して見守っていきたいと思います。