2月8日、CSV経営サロンの第6回セミナーが開催されました。明治安田生命の永島取締役を迎えて開催された前回に続いてのセミナー回。明治安田生命でのフィールドワークを前に、今年度のサロンを振り返り、来年度の新たなアクション策定に向けて、事務局から提言を行うとともに、参加者同士でアクションプランを議論し、ニーズを抽出するのが狙いです。
オープニングのインプットトークのゲストは『未来予測レポート』で知られるアクアビットの田中栄氏。定期的に開催している「未来予測コミュニティ」の例を挙げ、イノベーションシティとしてのありうべき大丸有の姿についてさまざまな示唆を行いました。事務局からの提言を受けてからの議論は、恒例のワークショップ形式を取り、ファシリテーションは、企業間フューチャーセンターの臼井清氏、塚本恭之氏が務め、活発な意見交換が行われました。
冒頭、"道場主"小林光氏が、これまでのサロンの振り返りとともに来年度に向けた抱負、今回の議論で深めたいポイントを解説。本サロンが「実際にやらないと分からない、というレベルまで議論を深めた」としつつ、「次のステップとして、この場でしかできないこと」を「誰か"偉大な一人"で行うのではなく、大丸有に集う多様な人、リソースを使」い、実現してほしいと話しました。
「私としては、"生態系に学ぶ"という意識を持ってほしい。弱肉強食ではなく、お互いに報われ、進歩していく、大丸有の生態系を生み出して」と小林氏。大丸有、ひいては日本が世界から取り残されたために、「その尖兵が、ここに集まったみなさん」と、今回のサロンに寄せる期待を語りました。
続いて三菱地所の井上成氏が登壇し、イノベーションを起こすためのまちづくりをいかにして行うか、イノベーションシティ創出に向けた青写真の提示がありました。これは、DBJ・iHubで開催されたフィールドワークの際にも語られたもので、投資を誘致する、成功者がメンターとして次のベンチャー支援を行うといった、イノベーションのエコシステムを街の機能として実装することを目的としているもの。また、シリコンバレーモデルとは異なり、大丸有には重厚長大企業が多いことから、社内ベンチャーを促進する、イントレプレナーを育成する機能などが求められるといったガイドラインも示しました。また、今大丸有に欠けている要素として「人々が暮らしているという生活文化」や「街とリンクした場」などを提示。そして「三菱地所が行うまちづくりの文脈だけでは、イノベーションシティを生み出すことはできない。いろいろな企業、いろいろな人たちと一緒に創出を目指したい」と希望を語り、活動への参加を呼びかけました。
インプットトークでは、アクアビットの田中氏が、氏の進める「未来予測コミュニティ」の姿を通して、イノベーションシティ・大丸有についてさまざまな示唆を行っています。
「未来予測レポート」とは、15年未来の世界像、変化のプロセスを予測、提示するもの。企業が中長期戦略を立案するために必要なツールとして2003年の初発刊以降、ニーズが年々高まっています。最新版は『未来予測2015-2030レポート&デジタルサービス』。価格は30万円ですが、エレクトロニクス・通信・ネットサービス分野の大手企業を中心に約120社が導入、利用しています。
この未来予測の内容は今回のセミナーの本論ではありませんが、「未来は過去の延長線上ではない。社会構造が変化しているからだ」「サステイナブルとは"足りない"という、ビジネスの新しい前提である」といった視点による将来の予測は非常に示唆的です。田中氏は、今後の変化の最大要素が「クラウドコンピューティング」であると指摘。ヘルスケア産業、エネルギー産業等、多くの業界でさまざまな変化が起こりうるが、そのどれにもクラウドコンピューティングが不可分になるからです。クラウドコンピューティングが産業の中心に来るこれからの(あるいは今の)産業のあり方を、氏は「クラウドロニクス」と呼んでいます。
そして、田中氏が手がけているのが、この未来予測レポート導入企業を対象にしている「未来予測コミュニティ」です。会員企業同士のビジネス創発を目指す、定期的な"コミュニケーションイベント"。ここから、大手電機メーカーが食品関係企業と提携した植物工場、新興国マーケットを狙ったパーソナルEVといった事業がビジネスアウトしています。いわば"ガチ"のイノベーションコミュニティですが、田中氏はその要諦を以下のように解説しています。
ポイントのひとつは「未来予測レポート導入企業に限定している」ということ。「昔はオープン参加にしていたが、そうすると、毎回1、2時間は未来予測の説明に取られ、話が先に進まない。新しいビジネスを具体化することが最大の目的。そのために未来予測を共通のプロトコル、前提にした」。これは、換言すれば共通の問題意識と目的を持つということでもあります。また、「実ビジネスにフォーカスしている」点も同様。「ビジネスマンは多忙。"会社から言われて来ました"という人、名刺交換や情報交換を目的とした人はお断りしている」という徹底ぶりです。
そしてまた、求める人材が「企業の95%を占める"サラリーマン"ではなくて、ビジネスを起こすことに挑戦する"ビジネスマン"、あるいは、社内で"ビジネスを創る"ことを目指すイントレプレナー」であることも大きなポイントでしょう。「ビジネスを創るには、とても大きなエネルギーが必要。ただの興味やあこがれだけではなく、本気でやりたい気持ちを持つビジネスマンが必要だ」とも話しています。
そして、「ビジネスをリアルに創出するポイント」として、1)共通認識を持つ人のつながり、仲間 2)プランを具体鉄器かつリアルにする人脈 3)「やりたい」「やらなければ」という想い、志の質の高さであると整理して見せ、そのうえで、イノベーションシティを目指す大丸有に「主軸を持つこと」とアドバイス。
「未来予測コミュニティは、未来予測という軸があって、意識の高い人を集めることができた。例えば、大丸有で未来予測の密度の高い勉強会を本気で開催すれば、あこがれではなく、本気で取り組みたい意識の高い人が集まるのではないか」
また、「大丸有が選ばれる強い理由を作ることが必要」とも指摘します。世界のメガシティ、日本国内の都市間競争の中で、大丸有が積極的に選ばれる理由がなければ、人材も集まらず事業アイデアも集まらず、投資も入ってはきません。「まずは海外インベスターを積極的に呼び込む理由を作る。海外からの投資が集中すれば、腰の重い国内の金融機関も動くようになり、活性化が促進されるだろう」。
そして最後に、「大丸有でイノベーションシティを目指すなら、やりたいことがある」と田中氏は言います。それは「時価総額一兆円超のメガベンチャーを生み出すこと」。アメリカのベンチャー「WhatsApp」が、設立5年で190億ドルでFacebookに買収された例を挙げ、「将来性をインベスターのプロトコルでグローバルに語ることができるならば、決して不可能なことではない」とし、大丸有にその実現可能性があると期待を語りました。
トークの後は恒例の"模範稽古"。小林"道場主"とゲストスピーカーによる対談がありました。小林氏からの質問は「ビジネス創発する人のモチベーションは何なのか」、田中氏の話にあった、大企業の95%は"サラリーマン"で、ビジネス創発できる"ビジネスマン"は5%しかおらず、変わり者扱いされているという話を挙げて「95%の人間はビジネスマンになれないのか」というような、"普通の人"が、新たなビジネス創発するための道筋を探るものでした。これは、次年度のアクションプラン策定の議論に備えたものであったに違いありません。
対談の後は、事務局から来年度のアクションについての提言がありました。事務局の平本氏は「これまでのサロンで参加者から出た意見を事務局で整理したものだが、これで決定というわけでなく、これからどうするかという点について、思いの共有をし、さらに意見を聞きたい」と会場に呼びかけました。
CSV経営サロンが目指すのが、「1000年続く街」であり、いちディベロッパーの利益を追求するのではなく、社会全体、日本、ひいては世界に向けて範たるべき街を作ることを目指すこと、そのためにCSVの視点が必須であり、新しい価値を創出できる社会になることが求められるとしています。そして、そのために必要なのが「志」「オープンな場」「アクション」「仕組み」の4つの要素。これらは、これまでのサロンで出された参加者からの意見を整理し、抽出された機能であり、CSV経営サロンの共通認識であると言っても良いもの。そして、プラスアルファとして「開発に向けたビッグ・ピクチャー(ストーリー)」、さらに、「それが良いことである」「みなでやるべき」と広範な認識「社会的合意」が必要であることも示唆されました。
最後に、臼井氏、塚本氏のファシリテーションで、アクションプラン策定に向けたテーブルごとのワークショップが行われました。アントレプレナー、キャピタリスト、プロデューサーの3つの立場をそれぞれ選び、ロールプレイ的な議論を行って、今後大丸有に実装させるための機能・役割の提案まで行いました。ワークショップの最後には、各テーブルで議論された内容をシェア。各テーブルから出された内容の概略を以下に記します。※<>内は、グループが選択した役割の種類
<アントレプレナー-環境>
大丸有はベンチャーから遠いイメージ。ビジネス創発をドライブするには、思いを持った人同士が出会う必要があるが、その場に欠けている。
<アントレプレナー-働き方>
大丸有の"イクメン"をイケメンに変える仕組みがあったらどうか。男性の価値を高める、働きながら健康になるといった仕掛けがあると良い。さらにいえば、大丸有が共働きしたくなるような街にすることも必要
<人材育成プロデューサー>
大丸有は"人に会いやすい"という価値があると考えられる。人材育成に必要な人の交流を、企業間の横のつながりで醸成することはできないか。ネガティブでいえば、大丸有はダイバーシティ、層の厚みに欠けている。さらにいえば、必要な人材が欠けているともいえる。この点をクリアにすべき
<キャピタリスト>
事業をドライブする側としては、大丸有のブランドや信頼度に価値は見いだせるが、若者、交流の場に欠けていると言わざるをえない。計画、実行、管理をサポートできる体制とともに、人材交流の場が必要ではないか
<アントレプレナー-働き方>
大丸有は4万社23万人がいるというが、ものづくり日本の要である、工場もなければ研究所もない。一歩踏み込んで、ラボやものづくりの現場を創出することができれば、一歩踏み出せるのではないか
<人材育成プロデューサー>
人事が横串で語り合える場、交流できる場があれば何か生まれるように思う。また、イノベーションの失敗例を語り合える場がほしい
<全般として>※小林道場主、ゲストの田中氏のテーブル
大丸有は強みとして「ブランド」「洗練」「同居する歴史と新しさ」などが挙げられるが同時に弱みとして「大企業病」「現場感覚が薄い」などがある。概して「すでに持てる者」の弱みであり、これは"枯れ始めている"ということではないか。提言としては、グローバル視点の導入、海外インベスターの誘引、生き生きとしたライブ感の創出などが挙げられる
珍しくワークでは辛辣な歯に衣着せぬ批評、意見が飛び出しましたが、最後に小林道場主は「今日は良い気づきをもらえたと思う。"次の一手"として強力な意見はなかったが、それがあるくらいならもうやっているわけで(笑)、ようやくきちんと現状分析ができたのが今回までだったと思う。ぜひ、来年度の本格的なアクションに向けてがんばりましょう」と締めくくりました。
経営・マネジメントのレイヤーを対象にした環境経営サロンと、現場感の強いCSRイノベーションワーキングが発展的に統合してできたCSV経営サロン。ようやく現場からのボトムアップと、マネジメント視点からのトップダウンの交差点でイノベーションに向き合う視座が醸成されてきたように見えます。今年度の活動もあとわずか。来年度に向けてどんなプランが策定されるのか楽しみに待ちたいと思います。
エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。