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【レポート】都市における生物多様性とは――?

第1回 都市緑化における生物多様性に配慮した新たな評価の方向性についての検討委員会 1月13日開催

「都市」で生物多様性をどう評価するのか

1月13日、エコッツェリアで「都市緑化における生物多様性に配慮した新たな評価の方向性についての検討委員会」(以下「検討委員会」)の第1回が開催されました。本検討委員会は、大丸有における生物多様性に配慮した「環境共生型まちづくり」を、行政・民間を巻き込んだ多様なプレーヤーで総体的に実践することを目指して発足したもので、第1回の今回は、主だった東京都緑地行政の関係者のほか、大丸有の地権者、ビル管理者らが一堂に会する非常に意義深いものとなりました。

エコッツェリア協会は、環境省の「住民参加による低炭素都市形成計画モデル策定モデル事業」で採択された、三菱地所設計の「大丸有地区の環境共生型まちづくりの取り組み事業」の共同実施者となっており、2013年に内部に生物多様性に関する検討委員会を発足、広範に取り組むためのスキームの検討を重ねてきており、本年からはさまざまなステークホルダーとの具体的な協議と実施のフェイズに移っていくことになります。開会に先立ち、検討委員会の座長を務める東京大学工学系研究科教授の横張真氏は、「今までは都心における生物多様性評価システムがなく、郊外型をスライドするばかりであった。大丸有という都心も都心で行うことで非常に有意義なものになると期待している」と、今後の活動に対する期待を語りました。

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提示された課題

提示された課題

冒頭、検討委員会の事務局(エコッツェリア協会)の近江氏から、昨年までの経緯の説明がありました。本事業は「都市型の生物多様性に配慮した環境を創出することで、うるおいのある就業スペースを生み出すと同時に、隣接する皇居とリンクした緑化を」という"思い"から始まっているとし、昨年の検討委員会で出た課題を4項目提示しました。それは、さまざまなステークホルダーと共有できる「目標像の検討」、面的かつ持続的に活動を進めるための「モニタリングの実施」「活用推進スキームの検討」、さらに「当地区における生物多様性に向けた具体的な取り組み」です。

目標像の設定では、生物多様性=生物種の多様さ、豊富さなどの数量的価値のみを目標とするのではなく、連鎖的にもたらされる「価値」に焦点を当てています。ここでは(1)皇居とのリンク、(2)生物存在を主流化するコミュニティの醸成、(3)生物多様性によりエリアのブランド価値を高める、という3点が提示されました。特に皇居と連結したエコロジカルネットワークの構築は、今後の東京の自然を考えるキータームになる可能性があります。そのための活動の軸となるのがモニタリングによる見える化であり、来街者を含めた参加型とともに、ビルの管理会社が日常業務として取り組みやすい平易な形が必要であるとされました。また、こうした活動を支えるため、関係者が集い連携する「連絡会」の設置も提案されています。

そして、具体的なアクションイメージとして「『はぐくむ緑』のアクション」と「『つなげる緑』のアクション」が提示されました。「活動の場となるまとまった緑を"はぐくみ"、人やコミュニティを"はぐくみ"。そして、多様な生き物が、行きかうように"つなぐ"緑を整備することも必要だろう。生き物だけではなく、人やコミュニティも広くつながっていくことも重要で、大丸有だけでなく、(先行事例である)駿河台、または上野エリア、広く東京と考えるならば、さらにほかの地区や多摩地区などの山間部との連携の可能性も検討していくことが提示されました」と話し、本年度の検討委員会では、さらに議論を深めていきたいと語りました。

これからの街づくりの動向

大手町1-2計画に取り組む三井不動産・三井物産からは、当計画における大規模緑地整備と都市環境向上の取り組みについての説明がありました。敷地面積は20900㎡で、高さ160mのA棟、200mのB棟の2棟が建ちます。貢献要素を取り入れ、容積率は1450%(指定は1300%)。敷地内に6000㎡の広場空間を設置し、大規模緑化を図るそうです。現段階の予定として「高さの異なる在来種を用いた多層的な森を作るほか、生物の営巣やたまり場となるエコスタックを設置し、生物多様性に貢献したい」と三井物産の島田氏。6000㎡のうち3000㎡は緑地とし、3000㎡は交流と活動の場となる「にぎわい広場」にする予定。「大手町1-1計画との連携も見据えており、(エコキッズ探検隊のような)大丸有の環境イベントの場として提供していきたい」と面的活動の可能性を示しました。

モニタリングの重要性

Boys and Girls Club Birding photo by Beverly Skinner / USFWS[frickr] ※写真はイメージです

つづいて検討委員会の植田委員(三菱地所設計・都市環境計画部副部長)から、モニタリングについての検討報告がありました。モニタリングは、本事業の成果を検証するばかりではなく、活動の核それ自体ともなります。昨年度の委員会の提案を受けて、まず、さまざまなモニタリング事例を収集し、その内容の検討についての報告がありました。

検討されてきた主な内容は、対象となる生物種の選定、適切なモニタリング手法、分かりやすいアウトプット(結果報告)です。本事業の目標像に照らし合わせ、対象生物種は鳥類、爬虫類、昆虫類(水生含む)、土壌生物などが示唆され、手法としては、定点観測、ライセンサス(一種のルート調査)、営巣調査、生物季節調査などが提示されました。また、調査の実施は専門家ばかりではなく、来街者、ビル管理者なども参画できることが望ましいとしています。特にビル管理者は、毎日の業務に組み込むことで定期的な調査とともに調査練度上昇が期待できるなど、さまざまな期待がかけられます。そのためには「普段の業務に、プラスアルファされるくらいの、簡便な調査手法を取り入れることが必要で、ハードルは極力下げていきたい」と植田委員は語りました。

アウトプットに関しては、「個体数増加」「生物種増加」などの6つのイメージは提示したものの、今後さらに「都市型」を意識した方法を検討したいとし、今後の検討委員会でさまざまな意見を寄せてもらうよう出席者に投げかけました。

横断的組織の設置の提案

実運用に当たって求められる「大丸有エリア生物多様性連絡会(仮称)」の設置については井上委員(エコッツェリア協会理事)から説明がありました。本事業は、一社、一事業者だけで取り組んでもその効果は期待することはできません。重要なのは、横断的に「みんなで、継続的に取り組むこと」であり、それが「街のブランドにならなければならない」と井上委員は指摘しました。そのためには、参加する管理会社など事業者が、ビジネス的なメリットを感じる必要があり、そこが「もっとも苦心するところで、腐心しなければならないところ」です。また、「来街者にとってもメリットのある"経年優化"する緑地を作ることで、ビジネス・エコシティ東京を世界に向けて示したい」と話しました。

そのような有機的な実施のプラットフォームとなるのが連絡会であり、ステークホルダーの交流や情報交換の場であるとともに、社会に向けて情報発信を行うなど、都市の環境問題の「見える化」の役割を果たします。井上委員は、「各企業が"取り組みたい!"と思うためにはどのような要素が必要なのかご意見をいただきたい。また、各企業の資源を活用した環境イベントの可能性なども連絡会で協議していきたい」と、各企業がビジネスに即して連絡会を活用するよう検討することを促しました。

皇居を中心にしたエコロジカルネットワーク

Imperial Palace photo by Agustin Rafael Reyes[flickr]

本検討委員会のもっとも重要なファクターであり、核ともなるのが皇居の自然です。その皇居の生物相について、環境省・皇居外苑管理事務所の飛島次長からレポートがありました。

皇居外苑は、面積115haで千代田区の約1割を占めています(皇居を含めると2割230ha)。内水面は12の濠で37haあり、貴重な生物資源なっています。「外苑は一見生物多様性に欠けるように見えるかもしれないが、人為的に自然を取り込むことで多様な生物相を構成している」と飛島氏は指摘。皇居内部も含めると、オオタカが生息し、その生息を支えるほど豊富で高密度な基盤生物相が確認されています。江戸時代から現代に至るまで、人の手を加えられてきた人為的な自然であるにもかかわらず、長い時間をかけて武蔵野の生物種が流入し、平均的な関東平野部の自然相となっている点は特筆に値するでしょう。

また、極めて貴重な生物種も生息しています。牛が淵、桔梗濠に生息するヘイケボタルは、DNA解析によって千葉など近隣のヘイケボタルとは独立した一群であることが確認されています。純粋な東京在来種はサンプルがないため、非常に貴重な生物群であると言えるでしょう。また、天然記念物のヒカリゴケ、準絶滅危惧種のベニイトトンボなど、レッドリスト掲載種も多数生息しています。

飛島氏は「皇居周辺は、生物多様性ばかりではなく、景観にも配慮した管理が必要。また、ヘイケボタルの繁殖を促すため、濠に面したオフィスの夜間照明は外に漏らさないよう要請するなど、部分的な活動も行っている。今後、この事業を通して、さまざまな方の協力を得られることを期待したい」と話しました。

次世代の都市型生物多様性評価軸を目指して

報告の後は活発に意見が交換されました。その質疑応答で改めて見えてきたのは、都市における環境配慮が、緑地面積という量的な規制から、生物多様性や人に与える影響など質的な問題に移行し、その定量的・定性的な評価を行う長期的な評価システムが必要であるということでした。かつては設計し、適当な樹種を選定して植えればそれで評価されましたが、これからは適切な質的維持管理を行い、緑地の価値を高めていくことが求められるようになります。また、それを実施する各事業者が、高いモチベーションをもって取り組めるよう、価値の定義と評価スキームを、行政、民間、学術団体などが協議し、構築していく必要があるでしょう。

最後に座長の横張氏は、「モニタリングは重要だが、その手法が特定の価値感やイデオロギーに左右されてはならない。例えば外来種の調査はネガティブだから行わないというのでは中立性に欠けるのではないか。在来種として指定された種だけが気候の変化に対応した適切な樹種とは限らないかもしれない。モニタリングをしてみたら、以外と他を駆逐したりしないということも明らかにできる。これからは『フェアネス』がキーワードになる時代だ。中立性のあるモニタリング指標を構築することで、時代や場所に関わらず通用するシステムを作ることができる。今後、そんな活動に期待したい」と締めくくりました。

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