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【レポート】パリ協定6条ルール決定を受けた海外環境ビジネスへの期待会員限定

CSV経営サロン2022年度第2回 2022年8月29日開催

8,9,11

2021年に開催されたCOP26で、パリ協定ルールブックの最後のピースである6条ルール(二国間クレジット制度などの先進国と途上国の協力の仕組み)が合意されました。この合意により、日本の技術を使って海外でカーボンクレジットを取得し、それを国内で活用するなど、新たな海外環境ビジネスへの期待が高まっています。

2022年度第2回CSV経営サロンは、「パリ協定6条ルール決定を受けた新たな海外環境ビジネス」をテーマに有識者2名をゲストに迎え、海外環境ビジネスの事例や今後のビジネス展開の期待などについてご紹介いただきました。司会進行を務めたのは、本サロン座長の小林光氏(東京大学先端科学技術研究センター研究顧問、教養学部客員教授)と、副座長の吉高まり氏(一般社団法人バーチュデザイン代表理事)。後半では、登壇者と両氏を交えたディスカッションと質疑応答が行われました。

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環境を良くするために、日本ができることを考える

環境を良くするために、日本ができることを考える

パリ協定6条ルールの合意に至るまでには、長い歴史があります。1997年に採択された「京都議定書」では「京都メカニズム」が導入され、先進国が削減目標を達成しやすくするためのスキームとして、共同実施(JI: Joint Implementation)やCDM(クリーン開発メカニズム)が用意されました。のちに続くパリ協定では、先進国のみの削減努力では足りないとされ、先進国・開発途上国に関わらず、加盟国全てが対象となる新しい時代が到来しました。

「国際的な削減についてはさまざまな議論があり、現場から見ると良いことばかりではないと思います。しかし、環境には国境がないので、世界中の資金や技術を動員して、世界の隅々にある削減機会にきめ細かく対応していくことは良いことであり、取り組んでいくのは当然だと思います。ここで大切なのは、クレジットを転々売買して儲けることではなく、環境を良くすることが目的であり、その達成のために、クレジットやプロジェクトをどのように作っていくかということだと思います」(小林氏)

小林氏はこう問題提起した上で、次のように続けました。

「採算が取れなくても追加性の高いプロジェクトの場合、国際機関による『シーズマネー=補助金』をうまく活用できないと、取り組めるプロジェクトの幅が広がらないという課題があります。例えば、日本政府が国際機関に拠出している支援資金はアンタイドですが、この資金の還流量を増やして、国内の企業や大学に先行投資するような形でプロジェクトの開発部隊に使うなどの工夫を凝らしていく必要があるでしょう。今日はクレジットの創出も含めて、日本ができることについて皆さんと議論できたら嬉しく思います」(小林氏)

カーボンクレジットの現状を知る

続いて、吉高氏が本日のテーマであるカーボンクレジットの現状について説明しました。2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルをめざすことを宣言しました。達成時には、全体としてゼロになるものの、残余排出と吸収・除去の主体が異なることが想定されるため、それらの相殺を可能にするために、クレジット取引などが想定されています。

「クレジットによるオフセットを活用する際には、まずは自らのエネルギー消費量の削減やエネルギー転換による排出量削減が最優先であり、それらを進めた上で、なお残る排出量について、排出量削減を補完する目的でクレジットを活用すべきであるという『ヒエラルキーアプローチ』があります」(吉高氏)

政府は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、産業、金融、エネルギー、消費市場のあるべき方向性を示し、エネルギーの脱炭素化推進や産業部門でのトランジション、イノベーションのための投資促進と排出削減の両立など、さまざまな戦略を打ち立てています。

「カーボンニュートラルには不確実な要素もあるため、カーボンクレジット市場を形成し、各部門の行動変容を促すカーボンプライシングを埋め込むなど、ポリシーミックスでカーボンニュートラルを実現するための議論が進められています。また、2022年2月に経済産業省が提唱した『GXリーグ』は、カーボンクレジット市場も含む実証事業を実施しながら、2023年4月以降の本稼働をめざした議論が進められる予定です。パリ協定6条は、まさにこれから仕組みが作られるところであり、登壇者お二人のお話が皆様の具体的な指針になることを期待しております」(吉高氏)

講義1「カーボンクレジットの取組とパリ協定6条への期待」

三菱商事 EXタスクフォース カーボンマネージメントチーム
統括マネージャー 小山 真生 氏

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続いて、三菱商事の小山氏が登壇し、カーボンクレジット市場の動向や同社のカーボンクレジットの取り組みについて説明しました。

2021年10月、同社は世界規模の社会課題であるカーボンニュートラル社会の実現に向けて、温室効果ガス排出量の新たな削減目標と、EX(エネルギー・トランスフォーメーション)関連投資に関する指針を策定しました。資源・エネルギーをはじめとするさまざまな事業に携わってきた当事者として、天然ガスなどのエネルギーの安定供給とカーボンニュートラル社会実現の両立に取り組んでいます。

同年、国内初の政府公募の洋上風力発電、全3案件を落札したことをはじめ、革新的な脱炭素技術の社会実装を加速させるべくビル・ゲイツ氏が立ち上げたプログラム「Breakthrough Energy Catalyst(BEC)」に、アジア域内企業として初参画し、1億ドルの出資を行うなど、同社のEXの取り組みは多岐にわたります。CCU建材への出資・技術開発・販売事業にも力を入れており、カナダのCarbon Cure Technologies Inc.に資本参画し、コンクリート建材にCO2を注入するカーボンリサイクル技術の事業拡大に向けた業務提携に合意しました。加えて、世界最大の気候ソリューションプロバイダーであるスイスのSouth Pole社と協業し、環境コンサルティングサービス提供に向けた取り組みが進められています。

カーボンクレジット市場の動向について、小山氏は次のように説明しました。

「現在、流通量としては、民間認証クレジットを企業の自主削減に活用するケースが多いと思いますが、今後パリ協定6条の国際制度が、CORSIA(国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)など業界の排出規制への活用に加えて、各国の排出規制、企業の自主削減への活用においてどのように連携し、コンプライアンス需要やボランタリー需要ができていくのか、その動向を注視しています」(小山氏)

クレジットの需要は、「今すぐできる削減取り組みとしてのクレジット需要」と「残余排出量をオフセットするクレジット需要」の2種類があり、ボランタリークレジットの購入企業についても2種類に大別されると小山氏は話します。

「その1つは、ステークホルダーの脱炭素化圧力を受ける多排出業界です。トランジション期の排出削減強化のために、短期的な削減が難しい排出のオフセットに取り組む傾向にあります。もう1つは、脱炭素分野のブランディング構築を狙う業界・企業です。同業他社に対する差別化のために、オフセット、カーボンニュートラル達成などに取り組む傾向がみられています。一方、クレジット投資に関する海外企業は、資金力のある資源メジャー・金融機関などがディベロッパーへの投資や、ディベロッパーとの協業によるクレジット資産への投資を加速している状況にあります」(小山氏)

クレジットに係るグリーンウォッシュ批判に関しては、クレジットの質(供給側)と利用方法(需要側)の両面での国際基準の整備が進行中で、どういった条件であれば、クレジットを購入して評価されるのかといった需要側の行動に対して、さまざまなガイドラインを定める動きが始まっています。

GXリーグにおける自主的な排出量取引とカーボンクレジット市場について、小山氏は次のように説明しました。

「GXリーグ参加企業は、カーボンクレジット市場で自主的に排出量取引・クレジット調達を行い、削減目標達成に向けて取り組むことが求められますが、設定した目標に達しない場合は、国内のカーボンクレジット市場からクレジット購入することが可能な仕組みです。GXリーグで活用可能なカーボンクレジットの種類は、日本のNDC(国が決定する貢献)の達成に資するカーボンクレジットに加えて、流動性の高い海外のボランタリークレジットであっても、日本の経済・環境に好循環を付与するものであれば活用が認められるべきではないかという指針が、経済産業省主催のカーボンクレジット検討会で提示されています。今後GXリーグの検討会で明確なルールが設定されていくことになると思います」(小山氏)

最後に小山氏は、同社のカーボンクレジットの取り組みとして次の3つを紹介しました。

1つ目は、オーストラリアで原生林再生プロジェクトを通じたCO2の吸収とカーボンクレジットの販売を手がけるAustralian Integrated Carbon社への資本参画です。2つ目は、South Pole社との協業。炭素除去技術由来のカーボンクレジット開発・販売に取り組みながら、炭素除去技術の普及・促進を目的とした「NextGen CDR Facility」の設立を検討中です。3つ目は、CCS/CCUS関連プロジェクトからボランタリークレジットを創出するための方法論を開発する国際的な取り組み「CCS+Initiative」への参画です。

「NextGen CDR Facilityは、技術由来の炭素除去クレジットの需要家を集約し、炭素除去事業者によって規模感のある量の炭素除去クレジットをオフテイクすることで、事業者の経済性向上に寄与し、黎明期にある炭素除去技術の発展・コスト削減を促進させ、世界の脱炭素への貢献をめざした取り組みです。CCS+Initiativeにおいて弊社は、海外の大手企業とともにコアパートナーとして参画させていただいております。今後は、参画企業との協力のもと、国連やさまざまな国の制度との連携も図っていく次第です」(小山氏)

講義2「パリ協定6条による今後のビジネス展開の期待」

環境省 地球環境局 国際脱炭素移行推進・環境インフラ担当参事官室
国際企画官 小圷 一久 氏

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次に小圷氏が登壇し、パリ協定6条の必要性や意義について説明しました。

「6条の基本的な精神は、国際協力を通じて削減・適応を進め、移転を実現しながら、さらなる削減を達成していくというものです。6条では、排出を減らした量を国際的に移転する『市場メカニズム』が規定されています。このメカニズムに基づき、環境保全だけでなく、人権や情報公開などへの配慮についても説明することが求められています。6条の活用により、費用対効果の高い削減が促進されるとともに、信頼性を高めることによって、民間投資の活性化を通じて、世界全体での追加的な削減を実現できるとしています」(小圷氏)

6条には、大きく分けて3つの要素があります。1つ目は、小圷氏が最も重要だと話す6条2項(協力的アプローチ共通ガイダンス)。他国で実現した排出削減量を自国の削減目標量などに活用する際に二重計上を防止する共通ガイダンスで、JCMを含む二国間の取り組みや国連管理型メカニズム(6条4項)などが対象となっています。2つ目は、6条4項(国連管理型メカニズム)。CDM(クリーン開発メカニズム)の後継メカニズムで、国連が管理するメカニズムのルール・手続きを規定しています。3つ目は、6条8項(その他国際協力)。「クリーンエネルギーの開発、適応、地域の強靭化など、削減量の国際的な移転を伴わない活動も、国際的な削減協力のもとに実施される削減として認めていくものとして規定されています」と小圷氏は説明しました。

「最終的に6条が何にとって必要なのかと言うと、パリ協定の1.5℃目標の達成に寄与するためです。専門家による試算では、6条を適切に実施することによって、2030年までに世界全体で年間最大で40億~120億トンのCO2の追加的削減ポテンシャルを秘めており、2030年時点で約27兆円の市場規模が見込まれています。もう1つ重要なのは、6条の実施ルールは、国同士の削減量(クレジット)の移転だけではなく、国際航空分野をはじめ、民間企業の自発的な削減の取り組みにも準用されることです。非常に多くの国が6条に関心を持っており、新たにNDCを提出した165ヶ国中122カ国が6条の活用に言及しています」(小圷氏)

次に小圷氏は、COP26における6条の合意と日本の貢献について説明しました。

「二重計上防止策については、日本提案である排出削減プロジェクトの実施国の政府が『承認』したクレジットのみをNDCなどにおいて利用可とする案が採用されました。CDMクレジットのパリ協定への移管に関しては、2013年以降に登録されたクレジットのみを対象とすることが決まりました。また、6条2項の二国間型メカニズムからの適応への資金支援については、6条4項の国連管理型のみ義務として規定し、自主的貢献と報告義務で決定しました。2013年から実施してきた二国間クレジット制度・JCMでの経験が血肉となり、ルール交渉にしっかり臨むことができました」(小圷氏)

さらに小圷氏は、COP26後の環境省の6条実施方針(2021年11月26日発表)と対応状況についても共有しました。6条ルール交渉をけん引し、世界に先駆けてJCMを実施してきた日本として世界の脱炭素化に貢献するべく、「JCMのパートナー国の拡大と国際機関と連携した案件形成・実施の強化」、「民間資金を中心としたJCMの拡大」、「市場メカニズムの世界的拡大への貢献」の3つのアクションに尽力しています。

「JCMと6条の実施の両輪で、パートナー国の拡大と案件の形成、実施を図っていきたいと考えています。先週、セネガルとチュニジアの2カ国が新たに署名し、パートナー国は18カ国になりました(注:2023年6月現在26ヵ国)。2025年を目処に30ヶ国をめざして関係国との協議を加速させていく考えです。また、2022年度中に、民間資金を中心とするJCMプロジェクトの組成ガイダンスを策定し、普及を行ってまいります」(小圷氏)

日本は、6条実施の能力構築の重要性をQUAD(日米豪印)首脳会合、日米気候パートナーシップなどの成果文書に記載するとともに、国際協調を促すべく各国に働きかけを行ってきました。質の高い炭素市場構築に向けた「パリ協定6条実施パートナーシップ」の立ち上げを宣言したCOP27を経て、G7気候・エネルギー大臣会合(日本議長国)において6条の実施に向けたさらなる議論が想定されています。

最後に、小圷氏はJCMの画期的展開事例として、ベトナム各地の変圧器をアモルファス高効率変圧器に置き換え、ラオスで同製品・同技術に展開した事例のほか、カンボジアでのLED街路灯ネットワークを軸としたスマートシティへの展開事例を紹介しました。

「冒頭、小林先生がおっしゃったように、さまざまなステークホルダーが携わるプロジェクトをいかに形成していくかということが、G7に向けた重要なトピックになると思います。JCMや公的資金の活用を組み合わせて大規模な案件を形成し、削減の成果を両国で分け合うとともに、引き続き企業の皆様と一緒に取り組んでいきたいと思います」(小圷氏)

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多くのポテンシャルを秘めた海外環境ビジネスの未来

続いて、小林氏、吉高氏、小山氏、小圷氏の4名によるディスカッションと質疑応答が行われました。最初に上がったのは、「CDM時代の反省点はありますか?また、政府としてJCMを支援する理由は何ですか?」(小林氏)という質問です。これに対し、小圷氏は次のように回答しました。

「2004年からCDMに関わってきましたが、さまざまな経験を蓄積することができた良い取り組みだったと思います。ただ、追加性のないプロジェクトも多くあったことが、先進国としてのクレジットの購入意欲を低下させたことも事実です。JCMはそうしたCDMの反省点をベースに、優れた日本の技術の普及と貢献を目的として作った制度です。公的支援の理由は、国内企業の背中を押すためです。優れた技術やプロジェクトに対して先行投資を行うことが、良い技術を導入するきっかけにもなっていますし、JCMを1件行うと、相手国との関係を通じて新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。そうしたきっかけを作ること、場合によっては、2~3件目以降は、JCMがなくてもやっていけるような状況を作っていくことが重要であると考えています」(小圷氏)

吉高氏からは、「実際、民間企業はボランタリークレジットについてどう考えていますか?」という質問が投げかけられ、小山氏が次のような見解を述べました。

「個人的には、6条とボランタリークレジットが融合していくのではないかと想像しています。6条の仕組みは国と国の間での移転ですが、企業間で移転が起こってもいいわけなので、その2つが一緒にトランザクションされることが増えてもおかしくないと思っています。日本企業のお客様からは、ボランタリークレジットを購入しているが、国が認めるルールの中でやっていきたいという声も上がっています。日本の文化的にも、この方がフィットすると思いますが、欧州拠点の日本のOEMの方などは、ボランタリークレジットを通じてカーボンニュートラル化を図らなければ、海外のお客様に対応できないと危機感を抱かれています。6条のクレジット制度は、まだこれからというところですので、ある程度ボランタリークレジットで対応していく必要があると思います」(小山氏)

最後に、吉高氏はオンライン視聴者から上がった「今後、JCMでどれぐらい資金支援を行っていくのか?」という質問を紹介した上で、「民間資金と公的資金を組み合わせるブレンデッドについての考えもお聞かせ願いたい」と小圷氏に投げかけました。

「2030年に向けて分母を増やしていくべく、JCMの資金支援の規模を拡大している状況です。例えば、今年の設備補助事業は、昨年の約80億円の2倍に相当する約170億円となっています。ブレンデッドについては、企業の皆様のご意見を伺いたいと思っています。近年、アメリカやノルウェーが主導する森林プロジェクトでは、政府で枠を作り、そこに企業の出資を入れるといった形でのクレジットがありますが、我々もそういったことを考えていくことが、企業の皆様にとってより使いやすく、安心して使っていただける、信頼性のあるものにつながっていくと考えております」(小圷氏)

活発な意見が飛び交った第2回CSV経営サロンは幕を閉じました。「ビジネスの種がたくさんあり、まさに前途洋々という気がいたしました」と小林氏が述べたように、パリ協定6条ルール決定による海外環境ビジネスの未来は多くのポテンシャルを秘めています。第3回のCSV経営サロンでは「動き出した生物多様性 国際動向からビジネスのいま」をテーマに、国際ルールや先進的なビジネスの動向について有識者にお話しいただきます。乞うご期待ください。

CSV経営サロン

環境経営の本質を企業経営者が学びあう

エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。

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