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【レポート】空間と情報の開放からはじまる、公民連携まちづくりの実践会員限定

CSV経営サロン2023年度 第3回 2024年1月30日(火)開催

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1月30日(火)、2023年度CSV経営サロン第3回が開催されました。最終回となる今回のテーマは、「公民連携まちづくりの実践」。当時、歴代最年少の女性市長として、2期にわたり滋賀県大津市長を務めた越直美氏をゲストに迎え、市長時代に取り組んだ公民連携事業の事例を交えながら、公民連携が望まれる理由や公民連携の可能性についてお話しいただきました。

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私利私欲ではない公民連携をさらに強化していくために

私利私欲ではない公民連携をさらに強化していくために

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冒頭、本サロンの座長を務める小林光氏(東京大学先端科学技術研究センター研究顧問/東京大学教養学部客員教授)が登壇し、環境分野における東京都の取り組みを紹介しました。

「今は、自治体ができることは自治体がまずやってみる時代です。東京都を例に挙げると、環境確保条例の改正によって、太陽光発電や断熱を義務付けしたほか、再生可能エネルギー系の電力や燃料の社会実装を加速化するための検討会を設置して、COP28にも自治体として積極的に参加し、発信を行いました。こうした動きを見ていると、環境分野で自治体が担う役割が非常に大きくなっていると感じます。企業・市民は自治体をもっと活用するべきだと思いますが、私利私欲だけでは公民連携はうまくいきません。それではどうすればいいのでしょうか。今日は、越先生にその秘訣を教えていただきたいと思っております」

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続いて、当サロン副座長の吉高まり氏(一般社団法人バーチュデザイン代表理事)が登壇し、2023年11月30日から12月13日までドバイで開催されたCOP28について情報提供を行いました。

「COP28の焦点となったのは、パリ協定の目標設定に向けた世界全体の進捗を評価するグローバルストックテイクに関する決定でした。重要なのは、COPとしては初めて『化石燃料からの脱却』に向けたロードマップを承認したことです。ジャパン・パビリオンでは15社・団体が出展し、『2050年カーボンニュートラル』の実現と世界の脱炭素を支える脱炭素技術や取り組みを発信していました。日本の技術は、海外の方から高く評価されていました」

2050年カーボンニュートラルに向けて環境省は今、「脱炭素先行地域」の選定を進めています。その評価委員を務める吉高氏は選定された先行地域を訪れ、フォローアップを行っている最中だと話します。

「これまでに4回の募集を行い、74の提案が選定されました。選定された先行地域の中には、うまくいっているケースもありますが、提案書の内容は素晴らしいのに、実際の計画がほとんど動いていなかったなど、問題のあるケースも見受けられます。皆さん、努力されていますが、自治体によっては、自分たちの力だけでCO2排出実質ゼロを事業として進めるのは難しいのではないかというのが率直な感想です。今日は越さんのお話を伺い、ぜひ参考にさせていただきたいと思います」

 講義「公民連携まちづくりの実践 -空間と情報の開放から始まる‐」元大津市長/三浦法律事務所 弁護士/OnBoard株式会社CEO  越 直美氏

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2012年、36歳で大津市長に就任し、2期8年の任期中、54園の保育所などを設立、待機児童ゼロ、人口増加、M字カーブの解消など数々の改革を実現してきた越氏。最初に、地方自治体の現状について説明しました。

「2023年、日本の総人口が約60万人減少しました。人口減少が進む中、地方自治体の歳出が減るかといえば決してそうではありません。社会保障費が増加しています。私が大津市長を退任した前年(2019年)は、社会保障費が市の一般会計の42%を占めていました。その一方、人口減少が進む自治体においては、歳入のうち大きな割合を占める住民税が減少することになります。また、多くの地方自治体で共通しているのは、公共施設の老朽化です」。

人口減少に伴い、自治体の役割が変わってきていると越氏は話します。

「人口が増加する時は、子どもが増え、新しい学校が作られます。新しいまちができ、新しい道路や施設が作られます。そうした"美味しいパイ"を振り分けるのが、自治体の仕事でした。しかし、人口が減少する近年は、施設を統廃合したり、補助金を廃止するなど、市民に痛みを伴う"マイナスのパイ"を切り分けなくてはなりません。市民からは批判を受けますし、決して楽しいことではありません。しかし、これをやらなければ、いずれ自治体は財政破綻してしまいます。では、まちづくりはできないのかというと、そうではありません。その答えは、公民連携にあるのではないかと私は思っています」

image_event_240130.005.jpeg大和リースの公園

続いて越氏は、大津市長時代に取り組んだ公民連携のまちづくりの事例として、

競輪場跡地の再生を紹介しました。大津市は、2011年に競輪事業を廃止しましたが、財政状況が厳しい中、施設の解体に約20億円かかることが予想されたため、解体ができませんでした。

「民間事業者の力を借りて解体することができないかと考えました。公園が欲しいという市民の声があったこと、競輪場跡地を事業用地として使いたいという企業が複数あったことから、競輪場を解体して公園をつくることと、定期借地権を設定し、借地料を支払うことを条件に、跡地を活用する民間事業者を募集しました。複数の応募の中から決定し、2019年末に、公園の中の商業施設として新たにオープンしました。商業施設とひょうたん型の公園が融合したユニークな空間は、買い物やスポーツを楽しむなど、市民が集える場として人気を集めています」

この再生事業を通して、公民連携の価値について考えたと越氏は言います。

「公民連携のまちづくりに取り組んだきっかけは経費削減でしたが、市民が楽しめる空間を作るためには、民間事業者との連携が不可欠であることに気づきました。"マイナスのパイ"を切り分けると同時に、建物や土地など、自治体が保有するものを手放して、民間事業者に活用してもらうことが、新しい時代の自治体の役割だと思っています」

image_event_240130.006.jpeg町家のオフィスで対話する大津市役所の職員と市民の様子

次に越氏が取り上げたのは、「行政のかたちを変える」ことでした。町家をリノベーションし、そこに移転した「町家市役所」について紹介しました。

「市役所というと、カウンター越しに市民と職員が話す場面を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。向かい合って座ると、要望する側、それを受ける側という風に、対立構造になりがちです。そこで、町家に移転した都市再生課では、長いテーブルを一つ設置し、市民と職員が場所を共有して仕事ができるコワーキングスペースを設けました。すると、『これをやってください』ではなく、『お店を開きたいのですが、良い空き家を知りませんか?』という具合に、市民からの投げかけが能動的になり、職員とのやりとりにも変化が表れました。物理的にオフィスの形を変えることによって、人の行動も変容することを実感しました」

越氏の在任中、大津市では、滋賀県では初となる「リノベーションスクール」も実施しました。実在の遊休不動産を題材に、受講生がユニットを組んで活用プランを計画し、オーナーに提案し、事業化を目指すというものです。

「地元の若者や民間事業者、市の職員が、町家の活用法などを一緒に考える良い機会となり、児童クラブや飲食店が新たに生まれました。まちづくりの一端を担おうとコミットする若者の存在が、まちを大きく変えることを実感しましたし、若者や女性が参加できる場づくりの重要性にも気づきました」

image_event_240130.007.jpeg大津市で行われた自動運転バスの実証実験の様子

さらに大津市では、京阪バスや日本ユニシス(現ビプロジー)と共同で自動運転バスやMaaSの実証実験を行ってきました。越氏は、その頃の経験を通じて得た気づきを参加者と共有しました。

「自動運転に取り組んだ理由の一つは、当時からバス運転手の高齢化し、運転士不足が予想されたからです。2024年問題といわれますが、今年は、そうした労働力不足の問題が広く認知される年になると思います。自動運転の実証実験を通じて気づいたのは、失敗を許容することの必要性です。現在、弁護士としてシリコンバレーのスタートアップ案件に関わる中でも思うことですが、新しいテクノロジーに関しては、失敗し、それを早く改善させることによって、発展していきます。ゼロリスクからの脱却を図り、失敗を許容できるかどうかが、日本が新しいテクノロジーを実装できるかどうかのポイントになると思います。特に、自治体は、これまで税金を使って公共事業をしてきたことから、無謬性を求められてきました。しかし、自治体も失敗を恐れるのではなく、失敗が起きることを前提にしっかり制度設計すること。そして、事故が起きた場合は速やかに検証し、再発防止策とともに、市民に公表するプロセスが必要だと思います」

越氏は、大津市の行政DXの事例として、全国初のAIによるいじめ予測のシステムやLINEによるいじめ相談についても紹介しました。

「大津市では、私が市長になる前の年に、中学生がいじめを苦に自ら命を絶ちました。学校から教育委員会にいじめ事案報告書を提出することを徹底し、その内容をもとに、いじめが深刻化するリスクのAI分析を行いました。また、LINEによるいじめ相談を始めました。これは、中学生からSNSでのいじめ相談を希望する声が多かったからです」

最後に、越氏は、これからの自治体の役割について述べました。

「人口減少社会における自治体の役割は、空間を開放すること。そして、スマートシティを作るには、自治体のデータ活用も重要です。民間事業者の皆さんと一緒に、公民連携でまちづくりを進めていくことが必要です」

質疑応答&パネルディスカッション

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後半、越氏と座長の小林氏、副座長の吉高氏が登壇し、パネルディスカッションが行われました。

吉高氏:素晴らしいご活躍に触れ、感動いたしました。議会との関係についてお伺いしたいのですが、首長としてどのように対応されていましたか。

越氏:首長によってさまざまだと思いますが、私の場合は、是々非々でした。市民が喜ぶことは基本的に議会も賛成で、マイナスのパイを切ることについては反対となることが多いです。議員の背後には、施設の統廃合や補助金の削減に反対の市民がいるからです。市民は、市の財政状況が厳しいことは理解しています。しかし、自分の使っている施設がなぜなくなるのか。総論賛成、各論反対となります。大切なのは、市民にどれだけ理解してもらえるかです。全員の賛成を得るのは無理なので、首長としてできることは、過半数の人に納得してもらえるまで、説明を続ける。泥臭くやるしかないと思います。

吉高氏:大津市のいじめ対策として、LINEによるいじめ相談のお話がありました。SNSを使うだけでも大変だと思うのですが、さらにそれを教育委員会と組んで行うのはハードルが高かったのではないでしょうか。

越氏:いじめ問題が発覚した際に、「あの学校の校長を辞めさせてください」と綴られた手紙が市民から私の元に多く届きましたが、首長にそうしたことを決める権限はありません。それを決めるのは、教育委員会です。しかも、市の教育委員会ではなく、県の教育委員会です。

いじめ事件の再調査に対しても、教育委員会は反対していましたが、調査がきちんと行われないのは無責任ですし、市民から見て誰が責任者か分からない制度は悪い制度だと思います。私は国会の委員会などでも教育委員会を廃止するべきだと言い続けてきましたし、文部科学大臣にも意見書を提出しました。現在は、首長と教育委員会が話し合う総合教育会議が設置されるなど、法律改正がありました。決定権を持つのは依然として教育委員会ですが、首長としてはこうした会議で地域の教育の課題やあるべき姿をしっかり共有していくことが大事だと思います。

小林氏:これまで公民連携を行ってきた中で、失敗例はありましたか。

越氏:大津市では、海外企業が、シェアサイクル事業を実施したことがあるのですが、その企業が撤退してしまったんです。大津市がお金を出していたとすれば、市民の税金の無駄遣いになりますが、そのようなことはありませんでした。公民連携の場合、こうしたことが起きても、ある意味で許容されるのかもしれません。

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続いて、越氏と参加者の方との質疑応答が行われました。ここではその一部をご紹介します。

Q 企業が自治体と関わっていくためには、どんな方法がありますか。

越氏:何をしようとされているかにもよると思いますが、いくつか方法はあります。包括的な協定を結んで、そこから始めることもできますし、自治体の入札要件を満たすなら入札するのも一つの手です。予算がかからない場合は、包括的な協定であっても議会を通さなくていいので、首長の同意を得られればやりやすいと思います。難しいのは、そこに予算がつく時です。議会の議決が必要となり、また、基本的には入札となります。

Q人口減少と高齢化が進む中、国としてやるべきことは何だと思いますか。

越氏:日本の債務残高はGDPの2倍を超えています。人口減少と高齢化が進めば、借金の返済もできなくなります。国としてできることの一つは、少しでも人口減少を食い止め、人口を増やせるような政策を講じること。そして、国の歳出を減らすことです。これをやると不人気になりますが、政治家の仕事だと思います。

Q 「大津市長としての任期中に、こんな人材が育った」など、人にまつわるエピソードがあれば教えてください。

越氏:市役所は、終身雇用・年功序列の組織ですが、その中でもダイバーシティが重要だと思っています。実は都市再生課を町家に移転させたのも、自動運転の実用化に取り組んだのも、若手職員でした。若手職員は、これまでとは違う発想で新しいことに取り組むことができ、非常にありがたかったです。また、市役所の業務の多くは、市民の生活に密接しています。市民の半分は女性です。女性の力を活かせないことは市民にとっても損失になると思い、女性の管理職を増やすことにも注力していました。

大津市長として官民連携のまちづくりに精力的に取り組み、そこで得た知見を惜しみなく共有してくださった越氏。本会の終了後も、氏の周りには参加者が集まり、活発な意見交換が行われました。来年度のCSV経営サロンも、乞うご期待ください。

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エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。

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