地球大学2013年度第1回シンポジウムが10月3日(木)に開催されました。ファシリテーターに、竹村真一氏(京都造形芸術大学教授)、プレゼンテーターに、専門委員の細川モモ氏(予防医療コンサルタント 社団法人Luvtelli(ラブテリ) 東京&NewYork主宰)、中田典子氏(福井県小浜市企画部)、奥村文絵氏(フードディレクター)を迎え、講演を踏まえたディスカッションが展開されました。
第1回のテーマは、ユネスコの世界無形文化遺産登録が間近に迫っている「日本食」。東京オリンピックの開催が決まり、おもてなし食としても注目されるであろう日本食の、世界遺産的な価値はどこにあるのか。知恵はどのくらい継承され生きているのか。
日本人が日本食の本当の価値に気づいていない今、日本食の宝はどこにあるのか、継承すべきもの、未来に向けて発展させるものはなにか、日本食を、その歴史を知ることが必要です。
歴史を学ぶのは未来をデザインするためです。現在しか知らない人は、未来への創造力も低い。多様な文化を知っているほど、未来への想像力は高まっていきます。現在の文化を見直して、未来のデザインにつなげていこう。地球食OSとしての日本食の価値を再発見しようと、挨拶がありました。
日本食の魅力とは?と問われたときに、我々日本人はどうプレゼンテーションするべきか、共通見解になっていく必要があると考えています。
近年の日本では、食生活が洋食に偏っており、小麦の消費がお米の消費を上回っています。我が社では、小麦がアレルギーになりやすいということもあり、日本食を1日1食は摂るように奨めています。なぜ日本食が良いのか聞かれるが、私たちのチームでも、実は共通の返答が難しい。それぞれ日本食の良いと思っている部分が違うからです。アメリカでは、食べ合わせが良くヘルシー、ダイエットに効果がある、一汁三菜が良い部分と捉えられています。
しかし私は、日本食を語る上で、伝統技術が日本食を支えていることに着目すべきだと考えています。一汁三菜、四季ごとの料理、おもてなし料理など、すべての土台には、「発酵」と「天日干し」という技術があります。鰹節や味噌、醤油やみりんなど、日本食の"味"そのものが発酵という技術の上に成り立っています。食や特産物の保護活動を支えているのもその技術です。
発酵と天日干しは、食品にかける魔法です。発酵により栄養価の増幅、元の食品には含まれていない成分の出現があります。天日干しにより殺菌消毒効果、旨み香りの増幅、そして、通常より消費期限も長くなり、安価で手に入れることができます。
都内の小学校5,6年生を対象にした食生活調査の結果では、ほとんどの家庭で一汁三菜のバランスが取られていませんでした。給食も助成金など出ていない地域では、廃棄分を減らすために子どもの好みに偏る傾向にあり、バランスを欠いている印象を受けることが少なくありません。総合的に和食の頻度が減っています。こうした食生活の変化が生活習慣病の若年化を早めている原因のひとつです。和食は洋食に比べて手間がかかると感じるお母さんが多く、栄養バランスよりも手間が優先されてしまうのが共働き家庭の抱える課題といえます。
食の伝承としてキーワードになるのは、「教育」。教育というと学校に任せがちですが、食文化はそもそも家庭で継承されてきています。一汁三菜は頭で学ぶより見て学ぶもの。ですので、家庭教育も例外ではありません。弊社では、管理栄養士とともに簡単で手間のかからない和食レシピを開発するなどして、一般家庭の食卓のサポートを行っています。
日本食を支えるふたつの技術を保護していくべきであり、日本食の世界遺産登録を契機に、価値の再発見、伝承を行っていくべきだと考えています。
福井県南部、若狭湾に面する小浜市は、明日香・奈良時代に豊富な海産物や塩を朝廷に献上し「御食(みけつ)国(くに)」と呼ばれていました。その伝統を受け継ぎ、市民と行政が一体となって推進しているのが、2000年に始まった「食のまちづくり」です。2001年には日本で初めて食をテーマにした条例「食のまちづくり条例」を制定。条例においては食育を重要な分野と位置付けており、幼児から成人までを対象に「生涯食育」の推進に努めています。中でも子ども達に対しては「ベビーキッチン」「キッズキッチン」「ジュニアキッチン」農業や漁業体験、校区内型地場産学校給食などが定着しており、このまちで生まれ育つすべての子ども達が食育を学び体験できるように「義務食育」体制を整備しています。
現在特に力を注いでいるのは、市民の「フードリテラシー」「選食力」の向上を目指した取り組みで、今年の3月にそのためのテキストとして「元気食生活実践ガイド」を作成しました。これは、日本型食生活の大切さを説くとともに、科学的な根拠や栄養学に基づく健康的な食生活のノウハウ、さらに「身土(しんど)不二(ふじ)」「一物(いちぶつ)全体食(ぜんたいしょく)」などをはじめとした東洋的な考え方を全体的に溶け込ませたものであり、食生活だけにとどまらず、郷土の偉人杉田玄白先生の「養生七(ようじょうしち)不可(ふか)」などを引用して、健康で長生きするための、心の持ち方や考え方などにも触れている点が特徴です。
小浜の様々な食育事業を通じて、日本人が日本人らしく健康で健やかに生きていくために、何をどのように食べるべきかということを、全国に発信していきたいと思っています。
東京ミッドタウン内の21_21 DESIGN SIGHTで開催された「テマヒマ展<東北の食と住>」は、食と住(暮らしの道具)にスポットをあてた展覧会です。企画・サポートとして参加させていただきました。東北地方の約60箇所をまわり、何を見せたら良いのか模索し、保存食を中心に60品目を展示。
特徴は、土が痩せていてお米が穫れないため、雑穀を中心とした食文化が広がっていたこと。そして冬は雪に覆われてしまうので、副菜がない。しかし、保存食の種類が豊かで、大根の天日干し、ジャガイモのフリーズドライ、鮭を食べつくす文化など、同じ食材を飽きないように食べるための技術も発展しました。
ですが、時代とともに味が失われつつあり、展示されているものの多くが、10年以内に作り手を失っていくと考えられています。テマヒマ展ではこのような現状と向き合いながら、こういった文化にどうやって接していくか、考えるきっかけになったのではないかと思います。この「テマヒマ」に込められた文化が素晴らしいものだと、誰かが言っていかなければ、見直される動きが起きない。これが、現在の地方と都市との関係なのではないかと感じています。
ディスカッションでは、話を聞き感じたことをテーブルごとにシェア。
「日本人の食について、ゲストのお話を聞いてどう思いましたか?」「日本食が持つ真の価値を次世代に伝えていく為に何をしたらいいと思いますか?」について、シェアしながら模造紙に思いついたことや気づきを書き出していきます。
・とんでもない状態なのだと実感。
・幸せな食生活について、東京と地方では違うことを知った。
・日本食はそんなにすごくて、外国の食はそんなに悪いのか?
・子どもの食事の大切さを知った。
・自社の仕事が食文化を壊してしまっているのではないかと痛烈に感じた。
・まず自分で発酵食品、天日干しをやってみる。
・売上、業種業態の勉強会をやっているが、そこで問題定義してみたい。
・自分が農業をやることではなく、知らせることが自分の役目ではないかと思った。
一人だけではとうてい考え至らないことへの気づきが共有されました。
「食」という字は、人を良くすると書きますが、本当に人を良くするものになっているのでしょうか。食の中に眠っている潜在力を引き出す、膨大な知恵を、私たちは足元に持っています。この日が、そういうOSを未来に活かしていく出発点として、今後のシンポジウムでも続けていきたいと考えています。
科学研究の最前線を交えながら、地球環境のさまざまな問題や解決策についてトータルに学び、21世紀の新たな地球観を提示するシンポジウムです。「食」を中心としたテーマで新たな社会デザインを目指します。