イベント地球大学・レポート

地球大学・TIP*S/3×3Labo オープニングシンポジウム
「食×地域・農」 開催レポート

10月31日(金)開催

高まる「食」「農」問題への機運

10月30日のTIP*S/3×3Labo開設記念式典に続き、翌31日には、オープニングシンポジウムが開催されました。テーマは「地域×食・農」。TIP*S/3×3Laboで初めての本格的なシンポジウムということもあり、200名にのぼる来場者が集まりました。

基調講演は地球大学の竹村真一氏。今、「触れる地球ミュージアム」でも企画展「食をつくり、地球をつくる。」を開催しており、「食」「農業」はもっともホットなトピックスと言えるでしょう。その竹村氏をモデレーターに、「ビオファームまつき」の松木一浩社長、農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の林聖子氏、JA全農、総合企画部事業開発課の太田純氏をゲストに迎え、地域と食、農の問題をじっくりと話し合いました。

また、後半は懇親会とTIP*S/3×3Laboのお披露目イベントとして、サプライズゲストも登場し、大いに盛り上がりました。

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日本農業は地球価値を創造する

「触れる地球」から見えてくる日本食文化の特異性

シンポジウム開催に先立ち、TIP*S、3×3Laboの今後についての説明がありました。TIP*Sの岡田恵実氏は「事業、経営上における"課題"の解決は、中小機構でも長年実績がある。しかし、その前の段階、悩みが顕在化していないいわば"エントリーレベル"を対象にしていきたい」と話しました。当面は「新しいことを学ぶ、知る連続型のテーマ性を持ったセミナーやワークショップを連続して行う」予定で、「やる気のある中小企業、地方の活性化、創業を希望する人たちの応援をしていきたい」と目標を語りました。また、3×3Laboの田口真司氏は、富士ビルの旧3×3Laboで得た手ごたえから「全国の中小企業と、大企業が集まる大丸有のリソースをすべて掛け合わせて、ビジネスにおけるイノベーションの街を作り上げたい」と抱負を話しました。

これに続いて竹村氏の基調講演がありました。地球のモデルを「触れる」「動かす」「見る」ことで、"地球"をどう感じるのか、「触れる地球」がもたらす体験についてのセッションがあり、また、"世界のいま"を感じるプログラムとして、地球のいろいろな場所にズームインしてその場所のリアルタイムのweb cam映像を見る「地球ライブカメラ」、地球に触ると、その地域のTwitterが表示される「Twitter Sphere」、現地のラジオの音声がシームレスに飛び込む「地球聴診器」などが紹介されました。

そして、地球儀上で日本で生まれたマグロが太平洋をアメリカまで横断してゆく様子などを紹介し、今回のテーマである「食」の問題へと移っていきます。
「日本はモンスーン気候から生まれた発酵文化を持つ国。味噌や醤油はもとより、カツオブシもまたカビによって作られるもので、いわば、高温多湿な気候の中で、微生物とともに共進化してきた食文化と言えるでしょう」と日本の食文化の要諦を指摘。さらに、実はこの「共進化」というキーワードは、日本の伝統的な農業のスタイルでも当てはまるのだと言います。

日本の農業が示唆する「地球価値創造」

「日本は多雨だと言われるが、実は急峻な地形のために、洪水を起こしながらすぐ海まで流れてしまい、使える水は少なかった。それを"スローな水"にデザインしたのが水田文化。水田のスローな水は、魚や両生類、それを食べる鳥類などをも養い、豊かな生物相を作り上げることに貢献してきた。これは、人間が関与することでより高次の生態系を作り上げた稀有な例と言える。洪水も多いが、このように災いを恵みに転じることで日本の農業は成り立ってきたのではないでしょうか」

つまり、日本の農業は環境との共進化によって成立したもので、自然と対立するものではないということ。そしてさらに竹村氏は「この日本の農業のスタイルは、世界の未来に対して重要な示唆を与えてくれる」と話します。

「地球環境問題を考えるとき、農業は世界における"原罪"であるかのように語られますが本当にそうなのでしょうか。日本では、自然が持つ価値を損なうことなく、むしろ自然資本を高める農業を何百年も続けてきた。これは『地球的な価値』を創造することに他なりません。日本の農業は、地球価値創造型の食文化、農業のやり方を提案できるのではないかと思います」

しかし、その一方で日本は「食文化のバトンを落としつつある」と指摘します。水田を通じて人間と自然がコミュニケーションしてきた歴史をどれくらい伝えられているか。また、日本食は「未来食」ともいうべき、健康にも環境にも良い世界に誇れる食文化ですが、残念ながらコメを中心とした「一汁三菜」の食文化は現代日本人の食卓から次第に失われつつあります。日本食がユネスコ無形文化遺産に登録されても、「日本人の食が果たして無形文化遺産の名に値するか?正直疑問もある」と竹村氏。

「食を作りながら地球をつくる農業、未来の地球人の食文化を次世代につなげられないのは非常に残念なこと」。そして、それをつないでいくために必要なのが「人」。「地球価値創造型の農業、"未来食"としての日本食に続く要素として、それを支える『人』のつながり、農村のコミュニティという重要な資産が日本にはあります。それを、日本の食と農を支えるソーシャルキャピタル(社会資本)として見直すことで、次世代にバトンを渡す方法を模索したい」と語り、ゲストのプレゼンテーションに進みました。

「タネ撒きから人の口に入るまで」

ビオファームまつきが経営するレストラン「Bio-s」のサイト

「ビオファームまつき」の松木社長からは、「中間山地の有機農法をビジネス化するモデルを作る」「新規就農者の拡大」をミッションにする同社の取り組みについてプレゼンテーションがありました。

「離農が進んでいると言われていますが、平野部は生産効率が高いために必ず誰かが引き継ぐようになっています。離農がもっとも問題になるのは生産効率の低い中間山地なんですね。だから中間山地の農業で利益を出すには、付加価値をどうのっけるかが勝負になっていくんです」と松木社長。そのために行っているのが、
〇多品種少量生産
〇デリを作り、加工品を販売する
〇畑の中にレストラン
ということです。

「簡単にいえば、"タネをまくところから人の口に入るまで"をやろうということ。今でこそ『6次産業化』という言葉があり、最近『松木さんがやっているのも6次産業化だよね』と言われるようになりましたが、意識してやっているわけではありませんでした。中間山地農業はコストが高く、作った野菜に、自分たちのエスプリを乗っけていくかが大切なポイントになるんです」

6次産業化といえば、単純に「加工品を作ること」だと考えがちです。しかし、その本当の意図とは「口に入るまでをプロデュースすること」だという松木社長の指摘は、当たり前と言えるかもしれませんが非常に示唆的です。

デリでは、ビオファームまつきの生産物だけでなく、近隣のニジマス養殖業者や、牛飼いをやっている人とネットワーク連携を図ることで、「ここでしか作れないものを安く提供できることを強みにしている」。また、レストランでは「"畑の1年を伝える"をコンセプトにしている。やってみて思うのは6次産業化とは"伝える仕事"なのだということ。これがないと成立しない」と、現場ならではの方向性、可能性が語られました。

エンドリーチが6次産業化の課題

林氏が取り組む「あしもと逸品プロジェクト」に参画する「四万十ドラマ」のサイト

A-FIVE、6次産業化サポートセンターの林氏からは、A-FIVEの出資状況の現状や、6次産業化に向けた課題のレポートがありました。

「地銀と連携して49のサブファンドを立ち上げ、これまで34件23億円の投資を行ってきました。最近は水産業が増えてきている傾向にあり、また、農業者からの依頼では、加工における事業拡大がほとんどです」

A-FIVEの投資対象は、事業計画認定を受け、生産者が生産物を使い、加工や販路拡大を担うパートナーと組んで新事業体を作ったもの。投資額は事業費の50%まで。事業者と同額をファンドで賄う形になります。

とはいえ、「経営や販路拡大に課題が多く、相談の6割以上が『売れない』といったもの」だそう。「多くの"6次産業"が、売れずにあまったものを加工しているもので、マーケティングもない、ターゲティングもしっかりできていない」と林氏は指摘します。そこで登場するのが6次産業化サポートセンターから派遣されるプランナー、専門家です。

「登録している専門家の中には、飲食業界の現役のかたがたがいらっしゃり、6次産業メニュー開発や品質管理についてのアドバイスをし、軌道に乗せることに成功している例が多々あります」

「6次産業化すれば売れる」という甘いものではないという良い例かもしれません。また、逆に言えば農業従事者、そこから立ち上がる加工業者の多くが、経営や販売について知識、経験がなく、そこに6次産業化の課題があることを端的に物語っています。そこで林氏が取り組んでいる活動、「あしもと逸品プロジェクト」につながります。あしもと逸品プロジェクトとは、「脱商談会を掲げ、都市と地域をリアルにつなぐ」取り組みです。

「いいものを作っている。でも、販路に困っている。そんな生産者と売り手をつなぐ、いわばビジネスマッチングの仕事です。百貨店、飲食店、通販運営会社のかたがたをお招きし、生産者の方にプレゼンをしていただく。顔が見える、信頼できる人しかお招きしません。試食会、勉強会、そして見学会なども開催していきたいと考えています」

あしもと逸品プロジェクトは、大丸有でも開催する予定とのこと。妙齢の美女だちがいろいろなものを食べて評価し、情報発信していくという、林氏のもうひとつの活動である「つなガールズ」も大丸有と連携するそうで、これからの活動の成果にも注目していきたいところです。

「農業」問題はグローバル化している

Cameroon's agriculture: bananas photo by Carsten ten Brink ※写真はイメージです。

JA全農の太田氏からは、日本のみならず世界の農業を取り巻く現状と、JAグループの考え方の提示がありました。

冒頭、食をテーマにしたミラノ博の「良質の、健康に良い、持続可能な食料を全 人類に十分に確保することは可能か?」という大テーマに触れ、JAグループの考え方を示しました。

「JAグループ全体としての考え方は、農業生産の多様性と、食文化の多様性を認め合い、尊重するというものです。世界にはアジアモンスーン気候特有の水田農業、ヨーロッパの三圃型農業、プランテーションのような大規模農業、さまざまな形の農業があります。アジアではハシで食べる文化が多いですが、ナイフとフォークで食べるなど、それ以外の食文化も、世界には多様にあるのです」

そんな中で、現代の世界の農業の課題には大きく3つあると太田氏。
(1)農業の画一化
(2)食糧の偏在化
(3)食の画一化、栄養バランスの偏り
農業の画一化は、プランテーションなどで顕著です。「生産性の高い地域でプランテーションが展開し、そこでは換金作物に特化している。森林は減少し、伝統的農法が衰退し、必ずしも貧困化が解消されるわけではない」と太田氏は言います。その一方で、食糧は北半球に偏って存在しており、北半球の国々は輸入超過になっているという現象が起きています。「このままでは、不作のときに、食糧が行き渡らなくなる」と太田氏。また、食文化が画一化していることは、みなさんご存知の通り。日本に限らず、世界中で地域ごとの食文化は衰退し、大量生産・大量消費にマッチした食文化へと傾いているのです。

これに対してJAでもさまざまな角度から取り組みを始めているそう。

「地域の気候風土に適した伝統的農業の再評価と、持続可能な技術による増産を目指します。また、食糧不足地域では、生産のための組織化が重要。国連もその機能を重視しており、地域ごとに自給率を目指すためには、協同組合的な生産組織が有効な手段となるでしょう。食文化でも、世界各地の伝統的な食文化を再評価し、技術を活用して簡便に食文化を維持できるようにしていきたい」

プレゼンテーションの後のセッションを経て、最後に竹村氏が「今回はTIP*S/3×3Laboのオープニングセミナーでもあったが、これから食と地方、農業の問題は1年半かけて取り組んでいく、その宣言となった」と、これからもこの問題に力を入れていくことを語りました。

もっと楽しく、もっとまじめに

後半は懇親会でした。思い思いに交流する様子は、広くなったとはいえ3×3Laboならではの姿かもしれません。

懇親会と並行して、オリーブオイルソムリエの石井秀代氏が、広島や和歌山、四国各県などで、ミカンの耕作放棄地をオリーブに転用して作っているオリーブオイルを会場で紹介し、来場者がさまざまな国産オリーブオイルを試飲しました。
さらに、懇親会後半では、ミラノから朝大学モデレータ、プロデューサーの古田秘馬氏が音声で登場し、「日本の食文化は"Peace Food"。イタリアにピースキッチンを作って、日本の食文化を伝えようと思います」と現地の様子を語りました。

また、サプライズイベントとして、富士ビル3×3Laboのファイナルでも登場したアカペラユニット「XUXU(しゅしゅ)」が登場し、TIP*S/3×3Laboのオープニングに華を添えてくれました。さらなるサプライズで、丸の内検定のキャラクターであるマルケンが登場し、XUXUとともにダンスを披露してくれたのでした。

3×3Laboが新しくなり、今までと変わってしまうのでは?と不安に思う人もいたかもしれません。しかしご覧のとおり、3×3Laboは相も変わらず、真面目で楽しげです。これまで3×3Laboにお越しいただいた方は、引き続きの利用を、そしてまた、まだ来たことのないという方は、これを機にぜひとも足を運んでほしいと思います。


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科学研究の最前線を交えながら、地球環境のさまざまな問題や解決策についてトータルに学び、21世紀の新たな地球観を提示するシンポジウムです。「食」を中心としたテーマで新たな社会デザインを目指します。

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