イベント後半の料理体験では、肥後小林市長、伊藤園取締役笹谷氏の両名もエプロンをつけて料理に挑む。実に楽しそうである
イベント後半の料理体験では、肥後小林市長、伊藤園取締役笹谷氏の両名もエプロンをつけて料理に挑む。実に楽しそうである
3月24日、3×3Lab Futureオープニング関連イベントの一環として、「宮崎と東京をITでつなぐ地方創生―宮崎県にしもろ地方農家民泊ハッカソン報告&実証実験」が開催された。
西諸県(にしもろかた)は、宮崎県南西部にあり、フランス語に聞こえるCM"ンダモシタン小林"で有名になった小林市、えびの市、高原町の3自治体を含む(現在の「西諸県郡」は高原町のみ)。これまで3×3Labo、NTTデータの2者が、地方と東京をつなぐ新しい関係性を構築するため、2015年10月、12月の2回に渡り、西諸県をテーマにしたイベントを開催してきた。
その後より深く西諸県にアプローチするため、NTTデータは一般参加を募っての「ハッカソン」を実施、今回のイベントは、ハッカソンの結果とともに、これまでの成果を発表・シェアする報告会として行われた。
基調講演には伊藤園の笹谷秀光氏を迎え、小林市・肥後正弘市長、えびの市・村岡隆明市長を会場に招いてのパネルディスカッションのほか、キッチンでは西諸県と映像をつないでの料理体験なども行われた。
ハッカソンには9チーム約30名が参加し、「農家民泊」「ICT」をテーマに2日間に渡るアイデアソン&ハックに取り組んだ。この日の午前中に、その最終プレゼンテーションおよび実証実験、審査と表彰が行われている。
最優秀賞を獲得したのは、収穫の終わった棚田を利用して行う"どろんこバレー"を中心にした「どろんこ民拍数」サービスのチーム「どろどろ」。NTTデータの吉田氏は「どろんこバレーの国際大会を開催することも夢ではない」としており、肥後市長、村岡市長、高原町の日高光浩町長の3首長も「実施に向けて始動したい」と強い意欲を見せた。このほかさまざまなICTを活用したアプリ、サービスのプロトタイプが発案され、西諸県と中継をつないで、東京とのコミュニケーションの実現度、有用性の検証も行われた。
今回のハッカソンは、「農家民泊」、さまざまな機器を提示しての「ICT活用」とフレームがしっかり決められており、従来の集中開発的なハッカソンとは大きく異るものだ。このハッカソン設計に協力した「ハックキャンプ」副社長の矢吹博和氏は、「集約的開発を目指すハッカソンは、日本では難しい現状がある」とし、「近年自治体が求めるのは"価値創造型""マーケット型"のハッカソンではなく、"課題解決型"」であると説明している。課題解決型ハッカソンとは、プロダクトアウトやサービスアウトを真の目的にはしていない。むしろ、「きっかけ作り、環境づくりを目指す」ものでフューチャーセッションに近い。しかし、ハッカソンである以上「アウトプットの精度が高く、実現性が高い」という特徴があり、短期的かつ具体的な「成果」を出しやすい。今回でいえば「実証実験が行われ、人の行き来が生まれた」という点が大きく評価されている。
3首長がハッカソンの結果を大いに評価し、補正予算編成も視野に入れて、今秋の実施をリアルに考えているだけでも、今回のハッカソンの成果の大きさは分かるだろう。
一方で、今回中心的役割を果たしたNTTデータ側はどうなのか。実は、社内の一部から、この取り組みがビジネス化できていないことに懸念の声が上げられているのも事実。10月、12月のイベントはもちろん、3月のハッカソン、今回の実証実験においても、すべての予算は同社の持ち出しによる(3自治体の予算は一切使っていない)。
しかし、吉田氏は「ビジネス化、収益化は次のフェイズ、周辺領域で考えればいい。今は実現に向けて一歩を踏み出すことを考えたい」と非常に前向きだ。この取り組みをモデルケースに、他地域への営業を行う、ということは、今のところ積極的には考えておらず(要望があればもちろん応える)、九州一円を視野に入れた新しい観光産業の構築や、インバウンド戦略の立案等、大きな枠組で新しいビジネスフェイズを生み出したい考えだ。吉田氏は「企業が地方創生に手を出して、やりっ放しにして捨て置く、なんてことは絶対しない。むしろ絶対に離さない(笑)」と話している。ビジネスと地方創生の狭間の新しい価値創造の取り組みがまさに始まろうとしているのかもしれない。
「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。