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【レポート】日本一細長い半島を出よ!?

【丸の内de地方創生】 えひめ編 ~ 美味しく 楽しく みんながつながる ~ 2020年1月24日(金)開催

8,10,11

1月24日に「丸の内de地方創生 えひめ編」が開催されました。フィーチャーされたのは四国最西端の伊方町。日本一細長い半島の佐田岬半島を町域とする自然豊かな町です。柑橘の栽培と水産業で知られる町ですが、人口減少と農水産業の担い手不足に悩むのは昨今の地方自治体と同様です。こうした問題にアプローチし、地域を活性化させるには「関係人口を創出することが鍵になる」と、本イベントをプロデュースし、進行役を務める中村正明氏が解説します。

「関係人口とは、"友達以上恋人未満"みたいなもので、観光で訪れるよりは関係性が深いが、移住・定住には至っていないような人たちを指し、総務省では『地域と多様に関わる人』と定義されています。私は、風を吹かせたり呼び込んだり、新しいことを引き起こすような人、いわば『風の人』だと思っていて、今日のイベントでも、伊方町と関わる風の人を増やすヒントを見つけたいと思います」

この日は、前半に伊方町の関係者4名からのプレゼンテーションが行われました。登壇者は、伊方町総合政策課まちづくり戦略室主任 米沢光平氏、地域おこし協力隊・農業担当の大久保玲香氏、同じく協力隊・まちづくり担当の橋田豊代氏、第三セクターの地域活性化企業「クリエイト伊方」の黒川亜貴子氏です。後半には伊方町の特産品、お酒などをおいしくいただきながら意見を交換する交流会という構成で行われました。

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伊方町のアウトライン

伊方町のアウトライン――米沢光平氏

伊方町は「日本一細長い半島」として有名な佐田岬半島を町域にする、自然豊かな町。その魅力を米沢氏は「神様と対話するような場」であると話しています。

「伊方町は、四国、愛媛の西端にあり、九州に向かってピンと伸びた日本一細長い半島で、3つの豊かな海に囲まれていることがまず一番の魅力だと思います。自然に囲まれ、至るところに絶景がある。自然、そして神様と対話するような、そんな体験ができる場です。私も毎朝早く起きて、朝焼けを見るのが何よりも楽しみなのです」

「3つの海」とは瀬戸内海、豊予海峡、宇和海。特に豊予海峡、宇和海は豊かな漁場として知られており、この日提供されたタチウオをはじめ、タイ、サバ、アジ(岬サバ、岬アジは伊方町のブランド魚)がよく知られています。また、半島の大部分が海から急に立ち上がる山地で形成されており、水はけが良いことから漁業と並んで柑橘類の栽培が主産業となっています。

また、町が抱える課題として、高齢化と人口減少が挙げられると米沢氏は続けます。

「人口はこの30年で4割減少し、1万人を切りました。行政だけでなく、住民のみんなが危機感を抱いている状況です。年配の人は、山地の農業のおかげで足腰はしっかりしていますが、やはり人がいないと新しいことをやるのは難しいと感じます。25年前から『人がいて新しい町がつくられる』(1995年の町勢要覧)と謳い、人を大切にする取り組みを進めています」

そして今、特に意識しているのが「すべての世代が住みたいまち」にすることだと続けます。そのために取り組んでいるのが「観光振興」「子育て環境の充実」「移住・定住の促進」「産業の活性化」の4項目です。これは「おとずれる、しあわせ。」から「くらす、しあわせ。」へとつなげていく一連の施策と見ることもできるもので、使いやすい補助金等を設定し、人の動きを誘導しています。

特にユニークなのは、現町長が力を入れる子育て対策です。結婚祝い金10万円、第3子以降の出生児1人につき祝い金100万円、紙おむつ引換券年間5万円分、英語スクールの無料受講(小学1~3年生対象)、中学校卒業までの医療費助成......と、制度が充実しています。移住に関しても空き家等の既存資産を利用するだけでなく、町内でリゾート施設を運営する大手ディベロッパーと協同で「お試し住宅」を設置するなど、独特の取り組みが行われています。しかし、移住したとしても、仕事がなければ暮らしていくことはできません。そこで「産業活性化」として、特に柑橘栽培の推進に力を入れています。そのポイントとなるのが「思いをつなぎ、物語をつむぐこと」だと米沢氏。

「農業というのは、作り手のさまざまな思いが詰まった仕事だと思います。土や作物への思い、家族への思い、そして食べる人への思い。また、冬になればこたつにはみかんがあって、みかんがあれば家族が笑顔になる、そんな物語をつむぎだすのも農業の仕事だと思います」

そこで、農業の物語への入り口を広くするため、ボランティアがみかん等の柑橘類を収穫体験するプロジェクト、5~10日の短期農業研修、1~2年の農業研修など、さまざまな体験メニューを用意し、交通費支援、賃金補助など制度面からもサポートしています。

そして最後に、今回の丸の内de地方創生のように、都市との連携を深めていくことについて、次のように期待を込めて語りました。

「大阪や東京など都市部では、伊方町出身者からなる『伊方ふる里会』や『伊方サポート会』などを実施していますが、それらの会は情報交換をしながら、いいアイデアを生み出そうという取り組みでもあります。情報が交わる場でしかいいアイデア、面白いアイデアは出てきません。都市との連携とはそのような場作りです。今日の集まりも、そのためのものと考えていますので、皆さんと存分に情報交換したいと思います」

米沢氏に続いて、伊方町で活躍する3名からのプレゼンテーションが行われました。

「農業女子はじめました。」――大久保玲香氏

大久保氏は農業担当の地域おこし協力隊員。ご主人とともに就農目的で2018年4月に移住し、ご主人は2019年4月に研修を終えて柑橘農家として独立しました。この日は大久保氏が「農業女子」として取り組む活動についてお話いただきました。

まず、テレビの取材を受けるなど注目度の高い活動として鳥獣被害対策の様子を紹介。

「伊方町の基幹産業はやはり一次産業で、柑橘が主産品になっています。何種類もの柑橘があって『みかん』と言っても地元の人には通じないくらいです。このみかんを狙う獣がたくさん出るために、罠猟免許を取得して、獣を捕獲しています」

多く出没するのはハクビシン、アナグマ、たぬきだと話す大久保氏。イノシシも出没しますが、柵を無視して突っ込んでくるので、柵や罠の設置にも工夫が必要であるなど、とにかく獣への対策は大変なのだとか。農業女子が鳥獣被害対策に取り組むのは珍しいことから、地元のローカルテレビの取材も受けました。「伊方町までメディアが来るのは珍しいことなので、地域の人たちもすごく喜んでいた」そうです。

また、町内では「お母さん」たちの団体の活動のお手伝いもしています。「"お母さん"といっても平均年齢70代で、継続のことも考えていかなければならない」と、ここでも担い手不足、後継者不足がある状況ではありますが、地域食材を使った郷土料理の伝承、柑橘を使った創作料理の開発などを行っています。

「『さつま汁』という魚をまるごと使う冷や汁のような郷土料理は、イベントで出店すると『昔おばあちゃんが作ってくれた』と若い人に人気です。こういう料理を地域で守り伝えていくことも、私たちの仕事だと思っています」

高校などに出張して郷土料理を教える活動にも取り組んでいるほか、柑橘をまるごと絞ったジュースの開発・販売も行っています。「これは町外で大人気」とのこと。また、現在7名いる地域おこし協力隊で協力して、地域向けのイベント「はなマルシェ」を開催したそうです。

「地域の飲食店、雑貨屋さんに協力してもらって、雰囲気作りから取り組んで地域の皆さんに喜んでいただけるイベントにすることができました。タピオカが流行した際には、キッチンカーでタピオカミルクティーを販売したら、子どもたちに大人気でした」

このほか、県内農業女子が集まる「さくらひめ」への参画、町外・県外へのPR活動への協力など、幅広く活動する様子も紹介しました。

「裂き織りを地域資源として考える」――橋田豊代氏

2018年6月から地域おこし協力隊として伊方町で暮らす橋田氏が、移住を決めたきっかけは四国で唯一、伊方町だけに残る「裂き織り」でした。その出会いを橋田氏は「古いけど最先端。目からウロコ、人生観がガラリと変わる体験でした」と話しています。

裂き織りとは、古布や着古して着ることのできなくなった衣類などを裂いて作った横糸を使う織物で、「厚みがあって丈夫、風合いが良い」のが特徴。

「アップダウンの多い山道を、背負子を担いで歩くために、昔から丈夫な着物が必要だったそうです。海からいきなり山になる伊方町だからこそ生まれた織物で、女性が家族のために織っていた民具なんです。エコ、リサイクルという言葉が生まれる前から、もったいない精神で、布も大事に使う発想で受け継がれてきたものです。リサイクルといえば化学的なイメージがありましたが、指の力だけで、古い布を新しく生まれ変わらせる裂き織りに目からウロコの思いでした」

この先人の知恵を受け継ぎつないでいきたいという思いから、広島からの移住を決意。裂き織りの伝承の場となっている「オリコの里」で活動をはじめました。オリコの里は、1991年に廃校になった大佐田小学校の校舎跡を活用した施設。一般向け体験なども行っていますが、ここでも担い手の高齢化が問題になっています。

ここで活動を始めた橋田氏は、「自分だけが引き継いでも伝統を守ることにはならないのでは」と思うようになり、地域の人々に裂き織りに触れてもらうため、体験機会を増やす取り組みをスタート。広報紙に4コマ漫画を掲載するなど、人目につくように工夫を重ね、「じりじりと応募が増えて」中学生から大人まで、10名ほどが参加してくれているそうです。

特に20~40代の若い世代が少ないことから、小さな簡易織り機を用意して「ちょっとかわいいな」「私でもできるかも」と思ってもらえるようにし、間口を広げています。

体験活動から「裂き織りラボ」もオープンし、いろいろな素材やデザインを募集して、裂き織りの可能性を探り、現代に蘇らせる活動もしています。

「身の回りに材料は無限にあると思います。着ることのできなくなった子どもの浴衣、おばあちゃんから受け継いだ着物。東京オリンピックの幟とか、使わなくなったらどうするのって思いませんか。そういったものを使って作品を作るのも面白いのではないでしょうか」

現在では、思い出のある服や着物などをバッグや敷物に生まれ変わらせる"再生"のサービスもオンラインで開始。Tシャツなら5枚でラグマットを作ることができるそうで、なかなかの好評なのだとか。

「でも本当は、佐田岬に来てもらって、この雄大な景色の中で織物をするという気持ちのいい体験をしてもらうのが一番の願いです。そして、裂き織りを通して伊方町の人々の心に触れてもらえたらと思います」

クリエイト伊方――黒川亜貴子氏

クリエイト伊方は、地元JA、JF、そして民間企業が出資して1997年に設立された第三セクター企業です。黒川氏からは、その活動の概要の紹介がありました。

同社設立の目的は「地域の雇用創出と、農水産業の振興」であると黒川さん。そのため、町内5カ所の事業所では、農水産物の加工・販売を主に行っています。

本社にほど近い「湊浦事業所」では、水産物の処理加工をメインに行っています。魚のすり身加工や、名物の「じゃこ天」、メディアでも話題になった「じゃこカツ」(じゃこ天のカツレツ)の製造を手掛けています。また、柑橘類の果実ジュースやマーマレードなどの農産物の委託製造も引き受けており、シーズンには柑橘農家からの持ち込みを受け入れています。これら製品は道の駅「伊方きらら館」に直売所を設けて販売し、好評を博しているとのことです。

また、二見事業所ではトマトの養液栽培を手掛けています。これは露地モノが出ない秋から翌年夏までの期間に栽培され、青果市場や産直所に卸されています。

この他、町内唯一の天然温泉「亀ヶ池温泉」、宿泊と農業体験ができる「瀬戸アグリトピア」の指定管理なども受託し、伊方町の農業と観光の振興にも取り組んでいます。

目指せ"関係人口"

後半の交流会は、料理研究家の四分一耕氏による料理が揃えられ開催されました。メニューは、柑橘類、水産物を活用したもので、「ちりめんさんしょのごはん」「じゃこカツ」「さつまいもの伊予柑煮」「アカモクの味噌汁」「タチウオの塩焼きポンカンのせ」というものでした。また、一玉800円という高級品種「紅まどんな」をはじめ、「甘平」「温州」などの特産柑橘も揃い、テーブルに華を添えました。

日本酒では町内唯一の蔵元「松田酒造」から純米大吟醸「宮乃舞」のほか、みかんジュース「太陽と潮風」「きよみしぼり」などが提供されました。

交流会では、伊方町の生産者、加工事業者、愛媛県庁職員の方などがリレーするように、次々と伊方町、愛媛県のPRをし、参加者と積極的に意見交換する姿が見られました。参加者の一人は、「移住するなら、温暖な気候で食べ物がおいしいところにと考えていた。その点、伊方町は両方とも満点。間違いなく移住の有力候補になります」と笑顔で語っていました。


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