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【レポート】洋上風力の国内先進地、秋田由利本荘のエネルギーと食の未来

秋田由利本荘の食と洋上風力の未来 2024年9月29日(日)開催

洋上風力事業の国内先進地として知られる秋田県由利本荘市。その魅力と未来を語るトークイベントが9月29日(日)に開催されました。前半では、由利本荘市役所や秋田由利本荘オフショアウィンド合同会社の方々が登壇し、同市の大きな魅力である「食」や、秋田県沖で進行中の洋上風力発電事業をご紹介。後半は、登壇者とエコッツェリア協会のメンバーを交えたクロストークが行われ、地場産業の活性化や地域振興を目指す同市のさまざまな取り組みについて、ディスカッションが繰り広げられました。

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豊かな自然に恵まれた秋田県由利本荘市の魅力

豊かな自然に恵まれた秋田県由利本荘市の魅力

image_event_240929.002.jpeg由利本荘市役所観光文化スポーツ部まるごと売り込み課 伊藤貴人氏

秋田県南西部に位置する由利本荘市は、四季折々の美しい姿を見せる標高2,236メートルの霊峰・鳥海山、その山を水源とする一級河川の子吉川、日本海を一望できる広い海岸線など、豊かな自然に恵まれたまちです。神奈川県の約半分に相当する県内一の面積を誇り、現在の人口は約7万1,000人。江戸時代中期以降、"動く総合商社"の異名を持つ「北前船」の寄港地として栄え、由利本荘市からは、多くの米や木材が大阪などの他地域に運び出されたといわれています。同市沖で進む洋上風力発電について、由利本荘市役所観光文化スポーツ部まるごと売り込み課の伊藤貴人氏は次のように話しました。

「2024年6月、由利本荘市は、にかほ市沖とともに秋田県南部沖として、国の浮体式洋上風力発電実証事業の実施海域に選定されました。現時点では、着床式と浮体式の風力発電事業を同時に進めている全国唯一の自治体です。秋田県では4海域での洋上風力発電所の建設、ならびに運転開始の動きが進んでいますが、その中でも由利本荘市沖のプロジェクトは規模が最も大きく、発電設備出力は84.5万kW、建設されると日本最大規模の洋上風力発電になるもので、2030年の操業開始を予定しています」

秋田県沖の4海域で進められている洋上風力の経済波及効果は、約3,550億円、雇用創出効果は約34,000人と試算されています。そのうち、由利本荘市沖による経済波及効果は県全域の約44%を占める1,560億円、雇用創出効果は15,000人と推定されており、かねてより力を入れてきた陸上風力発電とともに、今後の発展に大きな期待が寄せられています。

image_event_240929.003.jpeg左:工芸品「本荘ごてんまり」と「本荘こけし」が並べられ、美しさと技の粋光る同市の特産品も紹介された
右:同市の美しい自然が描かれた法被のデザイン

image_event_240929.004.jpeg由利本荘市役所観光文化スポーツ部まるごと売り込み課 佐藤大二郎氏

続いて、同じく由利本荘市役所まるごと売り込み課の佐藤大二郎氏が登壇し、現地食材の魅力を紹介しました。

「由利本荘市には、アマダイ、バイ貝、りんご、アスパラガス、干し椎茸など、雄大な自然に育まれたおいしい食材が沢山あります。鳥海山をはじめとする山々に囲まれ、豊富な雪解け水により多種多様な天然山菜が生育しています。『ミズのこぶ』は、独特のぬめりとシャキシャキとした食感が特徴的な山菜のひとつで、和え物や一夜漬けとして地元の人々に親しまれています」

なかでも近年、ふるさと納税で人気を博しているのは、秋田由利牛、フランス鴨、三角油揚げだそうです。秋田由利牛は、サシ(脂)までおいしいきめ細やかな肉質が特徴的な最高級黒毛和牛、フランス鴨は、一般的な合鴨や野生の鴨にみられる特有の臭みやクセがなく、柔らかい肉質とまろやかなコクをあわせ持つ、食べやすい高級鴨肉です。

「三角油揚げは、大正14年に創業した佐々木商店が、当時と変わらぬ製法で作り続けており、外はサクサク、中はふっくら芳醇な味わいが独特で、由利本荘市のソウルフードとして知られています。交流会では、これらの食材を使ったお料理に加え、厳選した小麦粉を塩と湧き水だけで練り上げた本荘うどんもお召し上がりいただけます。どうぞお楽しみください」

image_event_240929.005.jpeg3×3Lab Futureのキッチンで前菜サラダをつくる合同会社FOOD GROOVE JAPAN代表の鈴木基次シェフ

次に登壇したのは、合同会社FOOD GROOVE JAPAN代表の鈴木基次シェフです。2023年2月13日、同社と由利本荘市は、食を起点とした地方創生と関係人口創出の推進を目的に、「食に関わる包括連携協定」を締結し、「由利本荘ツアー」「おいしいお魚講座」「ゆりほんじょうを熱くする~熱燗イベント~」など、さまざまな連携事業を実施しています。

「由利本荘ツアーでは、この地域ならではの食材の魅力を知るために現地を訪れ、生産者の方々と交流させていただきました。お魚講座では、由利本荘市で獲れたアマダイを使った料理講座を開催し、近年の漁業者や魚を取り巻く状況についても多くの方に知っていただける機会にもなりました。関係人口をつくるためには、やはり市に人を集めることが重要です。熱燗イベントは、そのフックの一つとして、燗酒と地元食材を使った料理のペアリング体験を事業者の方々に提供させていただきました。熱燗で市を盛り上げ、新たなブームを作っていくべく、市の方々と手を携えながら取り組みを進めています」

image_event_240929.006.jpegトークイベント中、参加者全員に振る舞われた、鈴木基次シェフ作の前菜サラダ。具材は、由利本荘市のミニトマト、ミズのこぶ、キクラゲ。

現地で進む日本初の大型洋上風力事業について

image_event_240929.007.jpeg秋田由利本荘オフショアウィンド合同会社地域共生担当 池田佳史氏

続いて、秋田由利本荘オフショアウィンド合同会社の池田佳史氏が登壇しました。同社は2021年12月、秋田県由利本荘市沖の洋上風力発電事業者に選定されて以来、一般海域における日本初の大型洋上風力発電事業の開発に取り組んでいます。

「本事業は、発電出力13MW(メガワット)の風車65基を設置し、合計出力845MWの洋上風力発電所を建設するものです。現在は、関係漁業者や自治体など、地域の皆さまにご協力いただきながら、風況や海底地質調査、設備設計の建設準備を進めています。2026年3月に、陸上送変電設備工事に着工し、2030年12月に運転開始する予定です。また、持続可能で自立した地域共生策の実現に向け、地元小学生を対象とした稚魚放流イベントや都内で開催される秋田物産展の開催など、地域の皆さまと連携したさまざまな取り組みも実施し始めています」

image_event_240929.009.jpeg由利本荘市 徳栄丸 漁師・佐々木徳隆氏

前半の最後に登壇したのは、由利本荘市で漁師として活躍している佐々木徳隆氏です。高校卒業後から17年以上、父親が営む漁船・徳栄丸を2人で操業しています。

「秋田の魚といえば、ハタハタのイメージがあると思いますが、ここ数年、私たちが行っている刺し網漁法では、ハタハタが以前ほど獲れなくなっているのが現状です。今のところ、その原因は分かっていません。その一方、秋田沖では、これまでほぼ見たことのなかったアマダイのような魚が獲れるようになっています。おそらく海水温の上昇によって、南にいた魚が北上してきているのかなと思います。現在、秋田沖では、洋上風力発電の風車を設置する前の調査が行われているのですが、その一環として、私たち地元の漁師は、船の巡視業務の委託を受けました。漁師は、魚を獲って生活しているので、風車を海に設置することで、もし魚が獲れなくなったら...と考えると、正直、不安で複雑な気持ちです。でも、設置されたら、風車を近くで見てみたいという方たちを遊漁船で案内できるかもしれないですし、何か新しいことで連携できればいいなとも思っています」

由利本荘市の洋上風力や食の発展を願って

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トークイベントの後半は、登壇者の伊藤氏、池田氏に加えて、大友長栄氏(由利本荘市役所観光振興課)、佐藤圭氏(由利本荘市役所産業振興部エネルギー政策課)、エコッツェリア協会の三上(丸の内プラチナ大学 次世代エネルギーアナリスト)が登壇し、クロストークが行われました。モデレーターは、同協会の田口(丸の内プラチナ大学 副学長)が務めました。

田口:由利本荘市沖で洋上風力発電の取り組みが進む中、地域との連携や地域貢献についてどのように考えていらっしゃいますか。

佐藤氏:地域の皆さまからはさまざまな声が寄せられていますが、我々自治体としては、洋上風力という新しい産業に大きな期待を寄せています。たとえば、風車に使われている部品の総数は自動車1台あたりの部品数に相当する約2万点といわれています。現状、日本の風車メーカーはすべて撤退していますが、再度、国内での風車の部品製造を盛り上げていこうという国の動きもあります。少しでも多くの地元企業がその一端を担うなど、新たな産業に関わる企業やスタートアップが増えてくれればと期待を寄せています。
また、再生可能エネルギー事業は、風や太陽光など、その土地の自然資源を活用して行うものです。由利本荘市で事業を行う方々には、地元に資する活動を期待しています。

池田氏:佐藤さんのお言葉をお聞きして、発電事業者として改めて身の引き締まる思いです。30年という長い事業期間中、漁業関係者の皆さまと共生しながら、美しい由利本荘市の海をお借りして、安定的かつ安全に発電事業を行うために尽力していきたいと思います。

image_event_240929.011.jpeg左:佐藤圭氏(由利本荘市役所産業振興部エネルギー政策課)
右:左から順にエコッツェリア協会の三上、池田佳史氏(秋田由利本荘オフショアウィンド合同会社)

田口:洋上風力発電設備のインフラツーリズムによる観光産業の活性化などの取り組みについていかがですか。

大友氏:現在、由利本荘市鳥海町では、2032年の完成を目指して鳥海ダムを建設中です。発電、洪水調節や水道用水の供給などを目的とした多目的ダムなのですが、大規模なダムが造られていく過程を見られる機会はなかなかないと思いますし、これを機に由利本荘市に興味を持っていただければと思い、鳥海ダム工事見学周遊ツアーを開催しております。今年は8回開催を予定しておりますが、多くの方に参加いただき好評を博しております。
今後、洋上風力発電にかかわる工事が進んでいけば、工事の風景を沖合で見てみたいといった要望も出てくることが想定されます。漁業関係者の方々のご協力を仰ぎながら、市としてもそうした期待に応えられる施策を打っていく考えです。本市では、洋上風力発電のみならず、陸上風力発電、水力発電も推進していますので、クリーンエネルギーをテーマとした観光ツアーで、お客様を呼び込むことも検討していきたいです。

image_event_240929.012.jpeg由利本荘市役所観光振興課の大友長栄氏(左)と同市役所まるごと売り込み課の伊藤氏(右)

三上:私の知るかぎり、これほど多様なクリーンエネルギーが近くに集まる自治体は、由利本荘市しかないと思います。由利本荘市が取り組まれているクリーンエネルギーは、東北電力の系統や首都圏の配電会社を通して、実は都会で暮らす我々の家庭にも届くものです。「電気のふるさと」とつながることができるという意味でも、由利本荘市は非常に貴重なまちだということを実感しています。

田口: 首都圏をはじめとする他地域とのつながりについては。

伊藤氏: 私が所属する由利本荘市役所まるごと売り込み課では、市産品を域外にPRし、ブランド化や販路拡大を効果的に進めていくために、首都圏に拠点を置く5つの企業と連携協定を締結しています。試食販売会などのフェアの開催、連携先バイヤーを本市に招へいした現地視察、売れるモノにするための商品開発や改良のアドバイスをいただくなど、さまざまな活動を行っております。こうした活動を通して、地道にコツコツと関係人口や交流人口を増やしていくことで、本市に興味を持ってくださる方や好きになってくださる方が少しずつ増えていくことを願っています。

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交流会では、バイ貝の煮付け、フランス鴨のロース煮や秋田由利牛のローストビーフなど、由利本荘市の食材をふんだんに使った料理が振る舞われました。アマダイの松笠揚げに使われたアマダイは、漁師の佐々木徳隆氏がイベント当日の朝に獲ってきたものです。参加者の皆さんは、地元のお酒とおいしい料理を囲んで、由利本荘市の方々との交流を楽しみました。今後も、私たちは、由利本荘市の洋上風力と食の発展を追っていきます。乞うご期待ください。

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