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エコッツェリア協会は3月20日、丸の内プラチナ大学「再生可能エネルギー入門コース」の講義の一環として、「さがみこファーム視察ツアー」を実施しました。再エネの一つである太陽光発電と農業のハイブリッド事業として期待されている「ソーラーシェアリング」の現場を見学し、昨年に収穫されたブルーベリーと蜂蜜、それにヨーグルトをいただきながら、さまざまな質問や意見交換を行いました。
はじめて再生可能エネルギー電源を見るという参加者も多く、活発な意見交換となりました。今後は、ソーラーシェアリング以外の再エネ施設の見学も企画していく予定です。
視察ツアーは「3部構成」の内容で実施しました。まずは東京駅前に集合し、貸し切りバスで目的地まで移動。バスの中での「予習」が第1部。現地での見学が第2部。そして最後に感想や質問を述べたり意見交換したりしたのが第3部でした。
バスの中で「ソーラーシェアリングとは何か」について講義してくれたのは丸の内プラチナ大学「再生可能エネルギー入門コース」の講師を務める三上己紀(みかみ・みき)氏です。
「隙間を開けて太陽光パネルを並べると、太陽光が地面にも届く。太陽光パネルで電気をつくりながら、その下で農作物を育てましょうというのがソーラーシェアリングです。試行錯誤が行われ、どんな農作物なら収量が多く付加価値を高くできるか、当たりがつくようになってきています」
なぜソーラーシェエアリングが登場したのでしょうか。その背景には日本の農業を取り巻く厳しい現状があるそうです。基幹的農業従事者(主に自営農業に従事している者)の平均年齢は68.4歳(2022年)に達し、高齢化が進むとともに農業の担い手が減少しています。その結果、耕作放棄地は徐々に増え続け、2010年に39万6000haだったのが、2015年には42万3000haになっているのが現状です。
「そこに着目したのが経済産業省で、耕作放棄地に太陽光パネルを置けば太陽光発電ができる、耕作放棄地の拡大防止のためにもなるとの発想から、ソーラーシェアリングという仕組みを農林水産省と一緒にスタートさせました」
農地は使用方法が厳しく法律で定められていて、農地転用という手続きを経ないと農業以外には使えません。ソーラーシェアリングの大きなメリットは、農地転用しなくても太陽光発電事業に利用することができる点です。
「ソーラーシェアリングはエネルギーと農作物を生み出す『二毛作』です。しかも農作物に二酸化炭素(CO2)を固定できるため環境に優しい事業になると言われています。地域雇用の創出というメリットもあります。こうしたことを考えると、ソーラーシェアリングはもっと注目されてもいいと思います」
三上氏はそう解説し、バスの中での講義を次のように締めくくりました。
「現場を見ていて難しいと思うのは、発電事業は経産省、農業は農水省と所管が異なることです。省庁間の調整ってすごく大変です。官民が力を合わせて取り組まないと、ソーラーシェアリングの利用は加速しません」
バスは出発してからおよそ2時間で「さがみこファーム」に到着。所在地は神奈川県相模原市緑区青野原。圏央道相模原ICから車で15分の場所にあります。周りを山で囲まれ、のどかな雰囲気の中山間部です。視察に訪れた日は快晴で暖かく、ウグイスがしきりに鳴いていました。
現地集合の2人を加え総勢14人を出迎えてくださったのは、さがみこファーム代表取締役社長の山川勇一郎氏と同社マネージャーの小出竜士氏です。山川氏は「たまエンパワー株式会社」の代表取締役社長も務めています。
ここで名称を整理しておきましょう。さがみこファームはブルーベリーの栽培を、たまエンパワーは太陽光発電をそれぞれ受け持つ会社で、ブルーベリーの観光農園としては「さがみこベリーガーデン」と呼んでいます。さがみこベリーガーデンは2022年6月に開設されました。
さて、さっそく2班に分かれて見学です。山川氏は以前に東京の多摩市で太陽光発電の導入を支援する会社を経営していたそうです。4年ほど前に神奈川県相模原市の事業者と知り合い、「この場所なら自然共生型のソーラーシェアリングをやってみる価値がある」と考えたのがきっかけだったとのこと。
もともと畑だった土地を利用し、現在管理しているのは1万4000m2、その半分の7000 m2に太陽光パネルを設置しています。太陽光パネルの下で栽培するのは36種類のブルーベリー。ポットを使用した養液栽培を採用しているのが特徴で、窒素・リン酸・カリウムなどの栄養素が入った養液を酸性にコントロールしてポットへ供給しています。ポットの数は1100個、つまりブルーベリーの木は1100本あるそうです。
「試行錯誤の末に現在はポット栽培を採用している」ということですが、ポット栽培のメリットは、小さい苗のうちは弱いのでポットごと移動させて集中管理できる点だそうです。ブルーベリーはもともと北米の高緯度地域の水はけのいい土壌で栽培されてきた植物のため、ポットの中に吸湿性のフェノール樹脂を詰め、水はけのいい土壌を再現しています。
ところで、栽培植物としてなぜブルーベリーを選んだのでしょうか。その理由を山川氏に聞いてみると、次の4点を挙げて説明してくださいました。
「一つ目は日陰でも育つのでソーラーシェアリングとの相性がいいこと。二つ目は気候的なこと。この近隣にはブルーベリー農家があり、栽培に適した環境と言えます。三つ目はすぐそばに国道413号があること。この道路沿いにキャンプ場がたくさんあり、週末に自然派の人たちが行き来し、ブルーベリーの摘み取りに立ち寄ってくれるようになります。四つ目はブルーベリーの付加価値が高いこと。ソバやコメだと単位面積当たりの売り上げはそんなに大きくなりませんが、ブルーベリーは観光農園事業によって4~5倍の売り上げが期待できます」
日陰でも育つというブルーベリーの特性についてもう少し説明してもらいました。植物は光を受けて光合成を行いますが、光合成の特性は光の強度によって変化するものの、光の強度がある点を超えると光合成速度が緩やかになります。それを光飽和点と呼ぶそうですが、ブルーベリーは光飽和点が低いのだそうです。つまり、太陽の光が存分に必要というわけではなく、日陰があっても十分に育つのだそうです。
「場所によって多少違いますが、太陽光パネルの遮光率を45%に設定していても問題なくブルーベリーは育ちます」。太陽光パネルの下に立ち、山川氏はそう教えてくれました。
太陽光発電所は4基あり、そのうち2基が発電を開始してから3年、残り2基が2年経っています。ブルーベリーは2年ものの苗を植えて2年が経ち、昨年の夏にプレオープンして観光客を初めて入れて収穫。そこでわかったことは「太陽光パネルがあると、びっくりするほど涼しいこと」だったようです。
ブルーベリーの収穫シーズンは6月から9月上旬で、最も暑さが厳しい時期。「普通は30分もいたら暑くて耐えられませんが、太陽光パネルによって日陰がつくられることで2時間ぐらいいられます。暑い夏の収穫作業は重労働になるため、農地に日陰ができるメリットは大きいですね」と山川氏。
さがみこファームには全体で272kWの発電設備があり、一般家庭向け電力に換算すると約80軒分を生み出しています。4つの発電所のうち二つは「特定卸供給契約」によって企業に電力を販売しているそうです。
また近隣の青野原前戸地区自治会と災害時に電力を供給する協定を結んでいます。2019年10月の台風19号により相模原市に甚大な被害がもたらされ、青野原前戸地区でも土砂災害が発生しました。そうした事態を受け、自治会員がポータブル蓄電池を購入して太陽光発電所のコンセントに接続すれば、充電できるようにしています。「蓄電池からスマートフォンへの充電に使ってもらえれば安心安全につながります」(山川氏)
3番目の発電所を見学しているとき、山川氏から問題が出されました。「ここの太陽光パネルは今まで見てきたものとは違います。どこが違うでしょうか」。参加者は「パネルの傾き?」「パネルの間隔?」と口にしますが、どれも正解ではないようです。ようやく出されたのが「両面で発電する太陽光パネル」という答えでした。
3番目と4番目の発電所では、「両面受光型」と呼ばれる太陽光パネルが採用されています。パネルの表面と裏面の両方が受光面となっていて、一部の透過した太陽光や散乱光が地面で反射し、それを受けて裏面でも発電できるようになっています。「地面に白いシートを敷いたら発電量が7%アップしました。両面受光型の太陽光パネルはだんだん安くなり、イニシャルコストをランニングコストでカバーできるようになりました」と山川氏は説明してくれました。
太陽光発電所の脇には温室があり、その中でブルーベリーが栽培されていました。ボイラーを焚いて加温しているわけでもないのに、十分な暖かさです。受粉が終わり、実が膨らみ始めたブルーベリーがポット栽培されていました。
「温室の中では1カ月から2カ月ぐらい早く生長します。今年成功したら来年はもう少し多くやろうと思っていますが、なんとなくいけそう。これがうまくいけば、ブルーベリーの収穫は通常6月からですが、ゴールデンウイークに当てることができます」(山川氏)
受粉にはハチの力を借りたいところ。ミツバチが活動するのは3月中旬以降なので、それより早く受粉させようとするとクロマルハナバチという寒くても動くハチを導入する必要があるそうです。
発電所の隅にはミツバチの箱がありました。まだ春が始まって間もないこともあり、木箱は断熱材で覆われていましたが、開けられた穴から盛んにミツバチが出入りしていました。すぐ近くには菜の花畑があり、そこで蜜を集めるほか、半径2キロ圏内にある花から蜜を集めてくるそうです。
さがみこベリーガーデンでは、シーズンにブルーベリーの摘み取りができるほか、蜂蜜やキノコなどの販売も行っています。
ブルーベリーの摘み取りなどは機械化がほぼできないため、人手に頼らざるを得ません。品種によって違いがあるものの、1本の木から3~5キロほども実がなるため、観光客にブルーベリー狩りをやってもらうというわけです。本格的な収穫は今年からで、観光農園として「1700万円の売り上げを計画しています」(山川氏)とのこと。昨年の来園者は1000人ほど、今年は3000人ほどを見込んでいるそうです。
さがみこベリーガーデンは会員制になっていて、個人の年会員だと特典に応じて2000円、5000円、1万円の会費が設定されています。入園料は年会員が大人2000円、子ども1000円。ブルーベリーは食べ放題です。
ブルーベリーは粒が大きいものから小さいものまで、甘いものから酸っぱいものまで、さまざまな種類があるそうです。「皮がやわらかい品種は傷みやすくあまり出回らないので、ここに来て味わってもらえばハッピーになれるかもしれません」と山川氏。
昨年に収穫されたブルーベリー、ヨーグルト、そして蜂蜜をいただきながら、参加者が一人ずつ感想や質問、意見を述べ合う場が最後に設けられました。いくつか発言をご紹介します。
浅川紗穂さん(東洋大学)「再エネコースを半年間受講し、新しい学びが多くありましたが、実際にここに来てみて体験して食べてみてフィールドワークがためになりました。夏に来てブルーベリーをたくさん食べたいです」
崎原秀利さん(宮崎市)「日本の大きな課題解決策を感じさせてもらいました。こうした農地の活用方法を宮崎市に持ち帰り、農政、環境、商業にしっかりとつなげていきたいと思います」
入部英成さん(慶應義塾大学)「ブルーベリー、ヨーグルト、蜂蜜というキラー・コンビネーションをこの太陽のもとで気持ちいいと思いながら食べることに至福の楽しみ方があると感じました。この場所に潜在的なニーズがあり、それがこれから流行っていくのは面白いと思います」
古畑結基さん(東京理科大学)「ポットの中の樹脂はなぜ使われているのでしょうか。根はうまく張れますか」
その質問に対して、「栽培方法はいろいろ悩んで、今あの方法を採用していますが、あれが唯一無二の方法ではありません。今後、地植えも試していこうかと思っています。ポットの中では根はそれ以上に張れませんので、生長が頭打ちになることがあるかもしれません」と山川氏。
清水朝一さん(三井不動産)「FIT(固定価格買い取り制度)の期限を終えた後、どのような展開を考えているのでしょうか」
山川氏は、この質問に答えながら、将来構想について次のように語りました。
「ある企業に特定卸供給をしていますが、それだけで終わりたくはありません。私たちがやりたいのは地域連携です。電気を供給する以外に、ブルーベリーを社員食堂に提供するとか、摘み取りにきたときにこの場所で研修やイベントを一緒に開催する。法人会員を増やし、多面的な連携をしていきたいと思います。将来的には地域マイクログリッド(小規模電力網)も運用できないかと考えています。現状では法律上、難しい問題がいろいろありますが」
また「この地域以外でソーラーシェアリングを展開してみたい」とも話します。その場合、ブルーベリーの観光農園が適さない場所もあるため、ワイン用のブドウ栽培を行えないかといったプランも温めているようです。「障がい者就労支援の施設と一緒にやっていきましょうと話をしていますが、障がい者の作業に適したソーラーシェアリングの架台の設計はどうあるべきかといった発想が必要になります。そうした課題を一つ一つクリアして成功事例をつくっていけば、海外にも展開できるようになるのではないかと思っています」
さがみこファームのソーラーシェアリングへの挑戦は始まったばかり。ビジネスアイデアはいろんな方面へ膨らみそうで、数年先の姿が楽しみです。
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