イベント特別イベント・レポート

『アートデザイン』×『プレイスメイキング』で共創するこれからのまちづくり

東大先端研研究者×ECOZZERIA 未来共創プログラム vol.2 2023年5月18日(木)開催

4,10

様々な分野で最前線を走る東大先端研の研究者たちと、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)で社会課題に取り組むエコッツェリア協会のコラボ企画「東大先端研研究者×ECOZZERIA 未来共創プログラム」は、これからの社会に必要なテーマについて参加者とともに考え、ディスカッションを行う場です。第2回目となる今回のテーマは、「『アートデザイン』×『プレイスメイキング』で共創するこれからのまちづくり」。世界を舞台に活躍中のデザインエンジニア、東大先端研の吉本英樹特任准教授、「プレイスメイキング」のエキスパート、一般社団法人ソトノバ共同代表の石田祐也氏による話題提供とディスカッションが行われ、未来のまちづくりを考える上でインスピレーションの源となる貴重な知見が共有されました。

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アートデザイン、教育、人材育成。東大先端研のさまざまな取り組み

アートデザイン、教育、人材育成。東大先端研のさまざまな取り組み
森 晶子氏(東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員)

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最初に森氏が登壇し、東大先端研におけるアートデザインの位置づけや、2021年4月に開設した、次世代育成を支援するワンストップ機能「先端教育アウトリーチラボ(AEO)」の取り組みについて紹介しました。

「東大先端研では、環境・エネルギー、社会科学、生物医科学など文理にまたがる6領域で、約40にのぼる専門分野の研究が行われており、サイエンティストたちの中からアートデザインの機運が生まれています。先端アートデザイン分野(AAD)という新たな分野を立ち上げ、6領域の中心にアートデザインを普遍的なものとして位置づけています」

先端教育アウトリーチラボ(AEO)では、高大連携・接続、探究活動、STEAM教育など、多様な教育実践・研究、学校や地域の垣根を超えた取り組みを行っています。

「AEOでは、先端アートデザイン分野(AAD)の先生方と連携しながら、アートやデザインを用いた教育に取り組んでいます。今後は、大学と学校とをリエゾンするコーディネート機能、人材の資質能力やマネジメント手法の開発にも取り組んでいきたいと考えています」

高校の部活動で書道に出会い、大学時代から20年以上、日本を代表する書壇に所属しながら、現在は会派を超えた書家バンクの構築に取り組むなど、プライベートでもアートに親しんできた森氏。それらと東大先端研での活動を通じて感じることについて、次のように話しました。

「アートやデザインは、人間性、感性、感動など、人間の根幹的な部分に寄与するものだと思います。言語、合理性、論理性を超えて人を結びつける力があり、個を磨く材料にもなり得ると思います。まちづくりにおいても、アートやデザインが、言語や属性を超えて人が集まり、人を動かすものとして重要なファクターであるとするなら、今後、ウェルビーイングなまちづくりにおいてより一層大切になってくると思われます。ただ一方で、アートやデザインがそこに在るだけでは気づかない、伝わらない場合もありますので、受け手が享受できる素地や仕組みが必要です。その意味でも、教育や人材育成、ならびに創り手と受け手をつなぐインターフェイスの機能や機会の創出はとても大事になってくると思います」

インターフェイス機能として重要なことは3つ挙げられると、森氏は話します。

「一つは、教育や人材育成において、特定の教科や技能の習得というような、一つの枠やエリアの中に押し込めるのではなくて、総合的な学びや環境作りです。また、アートの効果は短期的、数量的な成果を主張しづらい側面がありますが、そのことに価値を認める機運作りも非常に大事です。そして最後に、クオリティや本質を大切にしながら、相手に届くやり方で届ける工夫です。インターフェイス機能を担う立場として、これからも尽力していきたいと思っています」

デザインエンジニアリングの取り組み 事例紹介
吉本英樹氏(東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授)

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続いて吉本氏が登壇し、東大先端研の先端アートデザイン分野(AAD) 先端アートデザイン研究室の取り組みについて紹介しました。同研究所は、東大先端研の研究者とアートデザイン領域の第一線で活躍するプロフェッショナルから成る、分野横断的な研究グループです。中心メンバーは、神経行動学、生体-機械融合を専門とする神﨑亮平教授、東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターを務めるヴァイオリニストの近藤薫氏、ミラノ在住のデザイナー、伊藤節氏と伊藤志信氏、そして、デザインエンジニアとして活躍する吉本氏の5名です。

「先端アートデザイン分野は、『Nature-Centered(自然主義)』をフィロソフィーに掲げています。Nature-Centeredとは、森羅万象を大切に考える東洋思想の中でも、特に日本が培ってきた自然と共生する生き方、すべてを包括的に捉える『和』の視点に基づくアプローチでものごとを考え、人間も生物もあらゆるものを横断するような世界をイメージしながら、自然と社会のバランスが取れた問題解決に取り組んでいこうというものです」

image_event_230518.004.jpeg東京大学先端科学技術研究センター 先端アートデザイン分野 ADVANCED ART DESIGN LAB
「高野山會議2023」 公式サイトより

そのフィロソフィーを体現しようとしているプロジェクトとして、吉本氏は「高野山會議」を紹介しました。2021年にスタートしたこの會議は、1200年前に空海が開創した高野山の真言宗総本山金剛峯寺で、1200年前のことを考えながら、1200年後のことを考える場として生まれた科学文化学術会議です。東大先端研の科学者や研究者をはじめ、僧侶やミュージシャン、アーティスト、デザイナーなど、多様な人々が集まり、科学技術、アートデザイン、宗教の深い対話を通じて、ダイバーシティとインクルージョンの未来を形づくることを目的としています。

「さかのぼれば、宗教や哲学、科学、芸術、文化というのは、ごちゃ混ぜであり、その中心に色んな人が集まり対話をする場所がありました。その意味でも、高野山は本質を考えることに適した環境であると思っています。この會議は、3泊4日の合宿のような感じで、みんなでお寺に泊まりながら開催するのですが、さまざまな視点や意見が混ざり合うので、非常に面白いです。今年はコロナも落ち着いたので、一般参加も可能にしようと、最終準備を進めているところです」

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次に、吉本氏は、2015年にロンドンで設立したデザインエンジニアリングスタジオ「Tangent」や日本に拠点を移してからの自身の活動について紹介しました。ドバイにある世界で最も高いビル「ブリジュ・ハリファ」のファサードに映し出される映像作品「ASCENSION」(2016年)をはじめ、スイスの高級時計のフェアにおけるエルメスの展示空間(2019年)、六本木ヒルズのウェストウォークを飾るクリスマスツリー「BON-BON BLOSSOM」(2021年)、名古屋のミッドランドスクエアの「ジャングルジムツリー」(2022年)など、デザインとテクノロジーを融合させる手法でさまざまな作品を創り、国内外で発表を続けています。

続いて、吉本氏が取り上げたのは、千利休の有名なエピソード。千利休の屋敷の露地に美しい朝顔が咲き乱れているという噂を耳にした豊臣秀吉が、茶の湯を所望し、屋敷を訪れたところ、庭の朝顔は一株残らず引き抜かれていました。秀吉が呆気にとられて茶室に入ると、床には見事な朝顔が一輪だけ挿してあったという話です。

「この一輪の花のように、一つの要素が空間の意味を変えてしまうということは、プレイスメイキングにも通じることで、パブリックアートは、その最たるものだと思います。また、美しい朝顔をたくさん見せるのではなく、その中からよりすぐった最高の一輪だけを見せるという千利休の趣向は、デザイナーの仕事にも通じるところがあります。全員に対して同じおもてなしをするのではなく、その人に対して何が一番心を揺さぶるおもてなしかということを考える。これは、私が常に大切にしていることでもあります」

最後に、吉本氏は、今年立ち上げた新プロジェクト「クラフトテック」について紹介しました。日本の伝統工芸と新しいテクノロジーを掛け合わせ、コンテンポラリーなデザインを生み出すべく、 自身を含む6人のアーティストが6産地とタッグを組み、その産地ならではの伝統工芸の魅力を生かした作品を作るというものです。

「第1弾は東北で、できあがった作品は、来年4月にミラノで発表する予定です。今後は、北陸、関西、九州と、さまざまな地方で活動を展開していきたいと考えています。海外で発信することで、海外の人々に新しい視点で日本に注目していただくきっかけを作っていきたいと思っています」

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石田氏は、東京と三重県四日市市に拠点をかまえ、パブリックスペースに特化したメディアプラットフォーム「ソトノバ」を運営しながら、パブリックスペースを活用した都市再生手法に関する研究や、建築・パブリックスペースの設計など、多彩なプロジェクトを手掛けています。冒頭、氏は、ニューヨークのタイムズスクエア、大型のショッピングモール、ヴェローナのブラ広場(イタリア)、原宿のGAP前の4枚の写真を紹介し、パブリックスペースについてこう話しました。

「この4つの中で、私がパブリックスペースだと思うのは、ニューヨークのタイムズスクエアと原宿のGAP前です。多様な人間が多様な過ごし方を選択できる空間だからです。他の2つは、一見するとパブリックスペースに見えますが、実は、行動の選択肢がすごく少ないんですね。カフェにしろ、劇場にしろ、お金を払わなければ、快適な空間を得られないというのは、パブリックスペースではないと思います」

「パブリックスペースでは、選択肢があることがとても大事」とした上で、石田氏は、齋藤純一氏(早稲田大学教授)の著書「公共性 publicness」(岩波書店 2000年)の内容を紹介し、次のように説明しました。

「齋藤先生は、公共性を定義する上で3つの大事な考え方があるとおっしゃっています。まず、 国家に関係する"公"的なもの=official。次に、特定の誰かにではなく、すべての人々に"共"通のもの=common。そして、誰に対しても開かれている=open。これからのパブリックスペースに求められるのは、とくに3つ目の"誰に対しても開かれている"の部分だと思います」

誰もが自分のやりたいことを選択できるような空間を作っていく上で大事になってくるのが、プレイスメイキングの考え方だと石田氏は話します。

「プレイスメイキングにおいて重要なのは、まず使ってみるということです。作る目線で、作ったものを使うのではなく、使う目線で使われるものを作り、使いながら考えるという両輪のプロセスが、とても大事です。プレイスメイキングは、①使い手とともに作る ②さまざまな過ごし方ができるよう、工夫を施す ③場の魅力を維持向上するスキーム:プレイス・マネジメント ④「手軽に・素早く・安く」始めることが、重要なポイントになります」

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プレイスメイキングの実例として、石田氏が紹介したのは、路上駐車スペースを1日限定で小さな公園に変えるパブリックスペースアクション「Park (ing)Day(パーキングデー)」。2005年、アーティスト集団「Rebar」がサンフランシスコ市の路上駐車スペースで始めた取り組みで、今では世界中の都市で毎年9月の第三金曜日に実践されています。日本国内では、ソトノバが2017年より、「普段、車に占拠されている空間を1日だけでも歩行者の手に戻す」べく、全国の路上駐車スペースで開催しています。

2020年からは、国土交通省官民連携まちなか再生推進事業の助成を受け、パブリックスペースにおけるアクションの実践知や、プレイスメイキングに関する思想や概念について学び、Park(ing)Dayの企画と実践を行うソトノバ・スタジオを開催し、パブリックスペースのプレイヤーの裾野をさらに広げる取り組みにつなげています。

最後に、石田氏が紹介したのは、公衆電話ボックスを町の小さな図書館に変えた「USED BOOK BOX」というユニークなプロジェクトです。四日市市の商店街で、かねてから可愛いと評判だったボックスに撤去告知の貼り紙が張られたことがきっかけで始まりました。

「なくなってしまうのはもったいないので、再利用できる方法を考えてほしいと、商店街の人から依頼を受けました。いろんなサイズの本を並べられるように、大小の木箱をランダムに積み上げたデザインを街の方によるDIYで作りました。ここに置いてある本は、市民の方からの寄贈で成り立っています。利用者は古本を1冊持参すると、ボックス内の図書を持ち帰ることができますが、商店街の店舗にも古本を持ち込むことができます。次の読者へのメッセージや本の感想などをふせんに書き、その本に添えてもらいます。このようにシステム化したことで、市民の方たちと商店街との交流が生まれるきっかけにもなっています。ボックス内には120冊ほど入れられるのですが、それ以上に多くの本が集まっており、市民に愛される施設になっています。公共的な施設を通じて、関わりしろを作っていくことも、プレイスメイキングのあり方の一つだと思います」

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クロストーク

後半、吉本氏、石田氏、森氏と、ファシリテーターの田口真司が登壇し、クロストークが行われました。

田口:アートデザインやプレイスメイキングの形作るところと、そこに込められたメッセージ性との関係性についてコメントをいただけますか?

吉本氏:例えば、六本木ヒルズのクリスマスツリーをデザインする時、私が誰のためにデザインをするのかというと、第一義的にはクライアントさんのためです。クライアントさんが、どんなメッセージをお客様に投げかけたいかということを一緒に考えながら、それを作品にしていくアプローチが多いです。

森氏:アーティストやデザイナーを支える立場としては、その方の想いと、自分のメッセージがクロスする感じです。掛け合わせですね。

石田氏:私が意識しているのは、分かりやすさです。もっとカッコいいものを作りたいなと思うときもありますが、パブリックスペースに置くものは、より多様な方に使っていただくことに価値を置いているので、やはり分かりやすさが一番のポイントかなと思います。

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石田氏:吉本先生のお名前もご活躍も知っていましたが、その当時は、六本木ヒルズのクリスマスツリーが先生の作品とは知らずに見ていました。じっくり眺めていると、ドライフラワーの意味やそこに込められたメッセージが伝わってきました。今日のお話を伺って、「吉本先生の作品だったんだ!」という、逆の発見がありました。

吉本氏:私は石田さんのお話をお聞きして、プレイスよりもメイキング、つまりプレイスを作り上げていくプロセスがすごく重要なんだろうなという印象を受けました。いろんな人たちを集めて議論を重ねながら、何ヶ月間もの間、その場所について考えるということが財産であるという風にも感じました。

石田氏:プレイスメイキングにおいて地域と関わっていく上で、吉本先生が気をつけられていることや目指されていることがあれば、お聞きしたいです。

吉本氏: 実は地域の皆さんと一緒になって何かを作るという経験は、ほとんどないんです。ただ一つ、少し近いかも知れないと思うのは、先ほどお話した伝統工芸のプロジェクトです。その道一筋50年というような職人の方々は、それぞれに誇りを持ってお仕事されていますが、ご苦労されている部分もたくさんあります。そこに私のような人間が突然やってきたら、自分たちがずっと大切にしてきたものを、ぶち壊されるんじゃないかと思われる可能性は十分にあります。

でも、私は職人の方々を心からリスペクトしていますし、このプロジェクトは、自分が持ちうるアセットを使って、その方たちと一緒に何かやりたいという純粋な気持ちから始まったものです。そうした想いを伝えていくと、徐々に心を通い合わせることができますし、「こんなことやったことないよ。でも、できるかも。あ、できた。良かった!」とすごく嬉しそうにしてくださる瞬間があるんです。私も同じくらい嬉しいですし、非常に貴重な経験だと思っています。

田口:御三方には、アートデザインやプレイスメイキングにおいて、それぞれのアプローチの仕方や見方がある一方、共通項もあるという印象を受けました。まちづくりも、いろんなアプローチがある方が多層的で面白いですが、根底には伝統工芸を守ろう、地域住民の方たちと一緒に楽しもうといった共通項があると思います。根っこの部分に共通するものがありながら、それぞれの表現や方法を一つにまとめるのではなく、掛け合わせていくことが、これからのまちづくりにとって大切なのではないかと思いました」

東大先端研研究者×ECOZZERIA 未来共創プログラムは、これからの社会に必要なテーマについて、皆さまと一緒に考える機会を創出してまいります。今後の展開に乞うご期待ください。

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