今回の作業を説明する高内氏。画面直交する2つのAxisが示されている
今回の作業を説明する高内氏。画面直交する2つのAxisが示されている
1月14日、「2035年の東京の未来」を考えるシナリオ・プランニング講座の第三回が開催されました。シナリオ・プランニングとは、不確実性の高い未来に対し、有効な戦略決定を下すための思考法でありビジネスツール。"都合の良い未来"を想定するのではなく、意思決定の周辺にあるさまざまな要因に焦点を当てて、構造の異なるいくつかの未来感を想定することで、戦略決定の議論を誘導する「高度な意思決定のための」方法論です。
言葉で定義するのは簡単ですが、実際にその思考法を実践するのは難しいもの。11月に始まった本講座では、具体的なテーマを設定し、4回にわたる講義で実際にその方法論に基づいた作業を経験していきます。第3回目の今回は、シナリオライティングの一つ手前のプロセスにあたる「シナリオ構築検討」。実は、ファシリテーターを務めるSBI・高内氏が、第1回の講義の際に「ここがもっとも困難なパートになる」と予告していたもので、参加者が行った作業には、終始迷いと疲労が伴っていました。そんな講座の模様を、今回もダイジェストでレポートします。
講座は大きく2つのパートで進められました。前半は、前回までの講座で出された外的要因(External Force)を、「不確実性」をキーワードにリ・クラスタリングする作業が行われました。これは「不確実性の軸」(Axis of Uncertainly)を構築する作業でもあります。
「Decision Focusに照らし合わせて重要だと思われるもので、なおかつ不確実性が高い外的要因を、お互いに"強め合う"もの同士で集めて束にする作業」とファシリテーターの高内氏。「この軸を3つ選びだしてほしい。また、軸はそれぞれ独立しており、3軸直交することが望ましい」と指導しましたが、「おそらく大変に難しい。最初はものすごく混沌とするだろう。前回抽出したKey Questionをスタートポイントにして始めてほしい」と解説しました。
前回の講座で約200項目出された外的要因は、その後高内氏らSBIのメンバーによって「生活者意識」12項目、「東京の競争力」21項目、「経済産業構造」21項目、「技術・インフラ」6項目に整理されています(災害関連3項目は保留)。この日、参加者はこの整理された外的要因のテーブルをもとに軸の抽出を行いました。4項目あるKQをもとにスタートすることも可能ですし、まったく異なる軸を仮定して議論を進めるやり方でも良いとされています。この後2時間以上かけて、軸の選定を行いました。また、ある程度軸の選定が進んだところで、各グループで、その軸の"両端"すなわち不確実性の"振れ幅"を設定する作業も追加されました。
先取りして言えばこの作業は、いまだ多義的解釈が可能な外的要因を再定義し、未来が不確実だとしたら、それがどの程度不確実なのか、その程度を決める作業であったと言えるでしょう。
例えば外的要因「デジタルネイティブスの行動」は、生活における楽しみ方の変化要因と考えれば「生活者意識」のクラスターで議論することができる一方で、オンラインベースの活動が当たり前になり、ソフトウェア・オンラインへの偏重が起こると考えれば、編入するクラスターは「経済産業構造」にも「東京の競争力」にも成りえるのです。このゆらぎを定義し、どのクラスターで議論すべきなのかを決定する。また、その外的要因が、どのように変化する可能性があるのか、クラスターごとにその軸の両端を決め、そこに収納される外的要因の変化する幅を定義します。
分かりにくい説明にはなりますが、例えて言えば、クラスターとその両端とは「関数」であり、そこに収納される外的要因とその振れ幅は「変数」だということもできるかもしれません。この2つが定義されることで、具体的な曲線が描かれ、次の段階であるシナリオライティングに進むことができるのです。しかし、講義を終えた今だからこそ、その中身が改めて俯瞰でき、行った作業の意味が見えてくるのですが、現場にいた当日は、何をしているのか雲をつかむような感覚で、ずっしりとした疲労が残ったのが印象的でした。
昼休みを挟み、各グループが3軸の選定を終えたところで発表し、その中からもっとも矛盾が少なく、妥当と思われるものを投票で決定しました。
ここからが後半のパートになります。選ばれた3つの軸は各グループに振り分けられ、収納されている外的要因ひとつひとつについて、Axis Extreme、すなわち軸の両端となる振れ幅を定義していきます(前出のAxisⅠ~Ⅲの例示を参照)。高内氏は「これが、シナリオライターに与える指示書になる。シンプルに分かりやすく、矛盾がないように決めてほしい」と指導しました。
注意すべき点について、高内氏は「両端は、三菱地所のDecision Focusに照らし合わせて考える」ことや「縦のラインで統一感ある世界観を思い描く」必要はあるが、「この時点で極を縦に眺めた時に一貫性がある必要はない」と一見矛盾する指示を飛ばします。ここで定義されたそれぞれの極(Axis Extreme)が、これから描くシナリオの方向性を決めるのは確かなのですが、ここでは同時に、シナリオライターに対してそれぞれの不確実要因に関して、それぞれ独立した振れ幅の自由度を提供しようとする意図もあるからなのです。
こうして両極を確定してくことで、例えば先程の3軸を例にとると、
AxisⅠ「国際経済の中の日本」の「維持」=(A)、「変化」=(A')とし、AxisⅡ「働く人の意識・価値観」の「孤立」=(B)、「協調」=(B')、AxisⅢ「都市の多様性」の「モノカルチャー」=(C)、「多様性」=(C')には、以下のような8つの極の組み合わせが成立します。
・A-B-C
・A-B-C'
・A-B'-C
・A-B'-C'
・A'-B-C
・A'-B-C'
・A'-B'-C
・A'-B'-C'
参加者はこの組み合わせによって与えられる世界観から、ストーリーとして仕上げたい3つの異なった世界観を選び、シナリオライターは、その極の組み合わせが描き出すベースラインを頼りにシナリオをライティングするのです。
ちなみにAxisの数を増やした場合、極の組み合わせは2のn乗で増えていきます。例えば5軸にした場合、その極の組み合わせは32通りになってしまいます。それぞれのシナリオに大きな差異があるのであれば、そこから幾つかの組み合わせを選択する議論をすることにも価値はあるのでしょうが、延々と議論を繰り返し微妙な差異の組み合わせから幾つかの異なった世界観を選択して合意を得るのは至難の業です。また、良く使われる2軸シナリオでは、組み合わせの数も少なく4つ表出する未来を全て表記するのが一般的です。SBIは、逆にこのように単純化しすぎた未来感では納得感が得られにくいと考えるそうです。
高内氏は、「複雑な課題になると4軸目を足すこともありますが、3軸に収められる場合は、できる限り3軸での作業に留めるのが良いでしょう。」と述べ、今回も3軸8通りの組み合わせからシナリオを選択するよう誘導されたということになります。SBIの方法論で重要な点は、むしろここで3つの軸に単純化してもなお、数十項目のForceを全て使い、その集合体として3つの異なった未来を描き出すところにあるのでしょう。
この後、フォーステーブルを埋めたグループは、最後にAxis Extreamの最下段に、その世界観のサマリーを記入し、この日の作業はようやくひと段落したのでした
次回までに、ここで構築された8つのシナリオベースラインから、3つのラインを参加者の投票で選びます。
選び方は、「Believable」「Structurally Different」「Internally Consistent」「Challenging」の4つだと高内氏。「信憑性があること、内部矛盾がないこと、そして、主体にとって一番イヤなことを選ぶこと。気持ちの良い、安逸なものを選んではいけない。サディスティックに選んでほしい」と締めくくりました。
選定された3つのラインがどのような形になり、シナリオライティングされるのか。次回、2月18日に開催される第4回に乞うご期待です。