10月6日、就業者や来街者と一緒に、街歩きをしながら丸の内の生きもの調査を行う「丸の内生きもの観察会 ―都市部でも感じられる生きもののつながり発見― 」が開催されました。
これは、2016年度に都市と緑・農が共生するまちづくりに関する調査委託を国交省から受けた「東京都心部における緑化推進検討会」とエコッツェリア協会の共催で開催したもので、まちづくりにおける生物多様性の評価軸を構築しようとする試みのひとつです。また、一般参加型のモニタリング調査により、エコロジカルなコミュニティアクションを喚起するとともに、「生物多様性に配慮する街 丸の内」としての大丸有地区のブランディング構築などにもつなげたい考えです。
講師兼街歩きと生物のガイドとして、NPO地域自然情報ネットワークの井本郁子氏、梶並純一郎氏、NPO生態教育センターの奇二正彦氏、佐藤真人氏が来場。また、アプリ開発を担当したPacific Spatial Solutionsの八十島裕氏、この生物多様性と都市緑化の課題を5年前から関わってきた合同会社共有価値計画の近江哲也氏も参加しました。
この日は一般市民も含めて、参加者およそ50名で実施。4つのルートに分かれて大丸有地区を歩き、生きものを探す調査となります。
調査に先立ち、NPO生態教育センターの奇二氏から「丸の内の生きもののつながりについて」と題したショートトークがありました。奇二氏は2009年から「丸の内さえずり館」で毎月生物調査を実施しており、丸の内の生態系の動態に詳しい人物。これまでの調査のさまざまなエピソードを交えながら、大丸有にも意外なほど生きものが多いことを解説。「日比谷公園、お濠周辺、そしてビル街へ向かうにつれて生物量は減るが、『こんなところにも?』と思うような場所に生きものがいるのが大丸有」と話します。例えば「ビルを崖に見立てて狩りをするハヤブサ」、「噴水のような水辺にいるギンヤンマ」、「夜になると地面に降りてきてゴキブリを狩るオオカマキリ」などなど。都市型の生物多様性のあり方を考えさせるエピソード満載です。
そして大丸有に多様な生きものが見られる理由として「皇居、日比谷公園が供給源になっている」ことを挙げ、まちの中の公園や植栽など緑地を増やし、その質を高めることで生物多様性がさらに豊かになると指摘。たとえば、3×3Lab Futureに隣接する植栽スペースは、皇居が近くにあり、植栽に工夫がこらされていて驚くほどさまざまな生きもので溢れています。
また、NPO地域自然情報ネットワークの井本氏からは、従来の市民参加型のモニタリングの多くは、在来種を中心にした調査が多いものの、今回は特定外来種・要注意外来種、温暖化指標生物なども対象としており、事実を客観的に認識するための調査であると示されました。「気候変動や人為的影響も含め、どのような状態なのか、そのまま調査することで都市の生きものの原資を知ることができる」と話し、さらに「継続的に行うこと」が信頼性を高めるためにも重要であることも指摘しました。
その後八十島氏からアプリの説明がありました。このアプリは、見つけた生きものを撮影し写真をアップロードすると、スマホのGPS機能を使い、地図に写真とともに生物の情報を格納するというもの。アプリには予め観察で見つかりそうな動植物・昆虫がリスト化されており、写真撮影後に照合し特定ができるようになっています。アプリに格納された生きもののデータは、「鳥類」「昆虫」「植物」「その他の動物」「分類なし」で色分けされており、タップすると写真が表示される仕様。誰でも見ることができるようになっています。八十島氏は「リストで見つけられない場合は、写真だけ撮影しても良いので、とにかく観察会として楽しく歩くことを心がけて」と呼びかけました。
そしていよいよまちの中へ。観察会はA~Dの4つのコースに分かれて行いました。
Aコース:ホトリア広場→パレスホテル→和田倉濠→和田倉濠公園→ホトリア広場......水辺の生きものを観察するエリア
Bコース:ホトリア広場→大手町の森→ホトリア広場......豊かな植物相があるエリア
Cコース:ホトリア広場→大手町仲通り→川端緑道→エコミュージアム→ホトリア広場......緑道とコンクリートの混在するエリア
Dコース:ホトリア広場→内堀通り→行幸通り→ホトリア広場......鳥の観察が中心となるエリア
不思議なもので、ビルに囲まれた街であっても、自然と向き合うとなぜかウキウキとした気持ちになってきます。
3×3Lab Futureに隣接する植栽では、早速スズメガの一種「オオスカシバ」の幼虫を見つけたり、「エゴノキ」「ソヨゴ」といった木の名前を教えてもらい、一団は明るい表情で各ルートに分かれていきました。
Aコースでは、内堀通りを桔梗濠沿いに南に向かい、お濠の生きもの観察へ。講師兼ガイドの近江氏、井本氏から生物の説明を聞きながら、お濠に息づく生きものを次々とキャッチしていきます。足元のお濠を覗き込むと、水草の上を飛び交うトンボたち。ウスバキトンボ、アキアカネ、アオモンイトトンボ、ギンヤンマ......。向こうの水面に目を向けるとカイツブリがしきりに潜り込んでいる姿が見られます。そしてその向こうの石垣の上にはハクセキレイ。ほんのわずか歩いて、きちんと目を向けさえすればこんなにもたくさんの生きものたちがいるのです。参加者にとっては、お堀の水面をとぶトンボや遠く向こうで泳ぐ鳥の姿など、生きものを見つけるたびに驚きと感動が広がる様子でした。
調査終了後は、全チームが簡単に調査結果をシェアしました。各コースで見つけた生きものの数は、Aコースが植物5、昆虫12、爬虫類2、魚類2、鳥類6。Bコースは昆虫10、鳥類3。Cコースは昆虫6、鳥類3。Dルートは昆虫16、魚類2、鳥類10という結果でした。
この結果を振り返り、井本氏は「今日歩いた小さなエリアだけでもこんなにもたくさんの生きものを見ることができて良かった。大丸有地区全体では、それこそ記録しきれないほど生きものがいるだろう」と今後のモニタリング調査に期待を見せました。
参加者からの感想は、「こんな都市部にこれだけ生きものがいることが驚き」という感想が大勢を占めていました。調査手法について、ある参加者は「結果がオンラインで共有されている点が素晴らしい」とコメント。「自然調査でまとめられた結果は、一般の人が見られないことが多い。自分が見つけたものを他の人に見てもらえることも嬉しさがある。自分の地域でもやってみたい」と感想を語りました。
長年都市緑化の課題に取り組んでいる講師兼ガイドを務めた近江氏は、このモニタリング調査手法を都内の他の地域にも広げていきたいと話しています。また、2020年に向けて「皇居周辺のエコロジカルネットワークが市民の手によって支えられていることが見える化されていく」ことにも期待しているそうです。
大丸有地区のこうした生物多様性への取り組みが、市民のエコアクションや、都市開発における自然資本の評価や地域のバリューアップにつながっていくことを願ってやみません。