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【レポート】Jリーグ&丸の内&東大先端研、異色の組み合わせが日本を変える!?

“Jリーグ × 丸の内 × 東大先端研” PROJECT ~Pre-Match Event~2019年10月18日(金)開催

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日本のサッカーを強くするだけではなく、「サッカーやスポーツを通じた地域活性化」を目指しているJリーグ。新領域の開拓・研究を通じて社会課題解決に取り組む東京大学先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)。そして日本最大規模のビジネス街・丸の内を拠点に活動する三菱地所とエコッツェリア協会。今、この4つの組織が関わり合い、新しいコトを起こそうとしています。それが「Jリーグ × 丸の内 × 東大先端研" PROJECT(通称:Jリーグ丸の内ラボ)」です。10月18日、そのプレイベントが三菱地所内会議室、並びに3×3Lab Futureで開催されました。この四者がつながることで、何が生まれようとしているのか。その様子をレポートします。

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"Jリーグをつかおう"シャレン!とは

"Jリーグをつかおう"シャレン!とは

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エコッツェリア協会の田口真司

はじめに、本イベントの主催であるエコッツェリア協会 事務局次長の田口真司より、丸の内というエリアの特色のほか、そこでまちづくりを進める当協会についてプレゼンテーションを行いました。

「まず、大手町・丸の内・有楽町を合わせた120haを総称して"大丸有(だいまるゆう)"と呼ぶこの地区には、約4,300の事業所があり、28万人の就業者が集います。エコッツェリア協会は、大丸有地区の企業との協力関係をもとに、2007年5月に設立されました。当時は環境問題が大きなテーマでしたが、現在は人手不足や健康の問題をはじめ、国内のさまざまな社会課題の解決に向けて次世代の働き方を実験しつつ、研究開発・事業企画に取り組んでいます。

東京、そして大丸有地区での活動は、人材や食材、建材等、あらゆる分野で地域に支えられています。また、地方出身者が多数集まる地区だからこそ、地域への思いを持ったビジネスパーソンが多くいます。"もっと地域と関わりたい"という熱い気持ちを持つ方々と全国の地域が連携し、互いのリソースを活用することで、課題解決を実現できるのではないかと考えています。

Jリーグ丸の内ラボは、当協会のほか、同じく地域への思いを持って活動している四者が連携して検討している構想です。このプレイベントでは、各団体の取り組みについてご紹介しながら、都市と地域の連携について皆さんと一緒に考えていきたいと思います」(田口)

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Jリーグ理事の米田惠美氏

次に登壇したのは、同じく主催であるJリーグで理事を務める米田惠美氏。米田氏からは、Jリーグの理念や社会との関わり方、そしてJリーグ丸の内ラボを通じて目指すものについて紹介されました。1993年のリーグ開始当初から「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」という理念を掲げ、スポーツを通じて幸せな国づくりに寄与することを目指しているJリーグ。その実現のために、全国各地のJクラブは日常的にホームタウン活動と呼ばれる地域での活動を行っており、その回数は年間2万回以上(2018年度)にも上るそうです。しかし一方で、各クラブのホームタウン活動は、「"良い活動をしているんだね"というところで話が終わってしまいがちな点が課題で、非常にもったいないと感じていた」(米田氏)そうです。そこで米田氏が立ち上げたのが「Jリーグ社会連携プロジェクト、通称シャレン!」というプロジェクトです。

「サッカーの好き嫌いに関係なく、多くの人に"街にJクラブがあることで人生が豊かになった"と感じてもらいたいと思っています。Jリーグのホームタウン活動の質と量を高めるための仲間づくりが、このシャレン!であり、(逆側から見れば)企業や団体にJリーグを"つかってもらう"ためのプロジェクトです」(米田氏)

地域の企業や学校、NPO団体等の組織が、ダイバーシティや教育、健康、子どもの貧困といった地域・社会課題の解決のために、発信力やコミュニティ形成力等の特徴を持つJリーグを使うというものです。過去にJクラブが実施していたホームタウン活動の中にも、これらの課題解決につながるようなものもありましたが、敢えてJリーグ×他組織の形を取ることが重要だと、米田氏は説明します。

「従来は"Jクラブ"が主語でしたが、シャレン!においては"地域とJクラブ"が主語になります。主語が変わると、価値交換モデルから共創モデルに転換します。どちらかと言うと今までは"スポーツを応援してください"という文脈でのコミュニケーションが多かったのですが、主語を変え、モデルを変えることで、 "地域のために共に歩んで行きましょう"というメッセージを強く打ち出していけます。

私個人の思いですが、社会に横たわる課題解決のためには、"問題を解決したい""社会を良くしたい"と願う人をひとりでも多く増えることが大切だと考えています。だから、このシャレン!を通じて、世の中に"当事者"を多く生み出していきたいと考えています」(米田氏)

Jリーグ丸の内ラボは「東京と地方をつなぐ窓」

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※データ提供元:Jリーグ
Jリーグ丸の内ラボの概念図

ではJリーグ丸の内ラボ構想を通じて何を目指しているのでしょうか。それは、丸の内という日本屈指のビジネス街と関わることで、Jリーグのハブとしての役割を強め、地方創生の重要なピースである交流人口や関係人口の増加に貢献していくことです。

「私自身、東京で働いてきた中で"もっと地域に関わりたい"、"自分のスキルを使って社会に貢献したい"という思いを抱いていましたが、それを発揮できる場はなかなかありませんでした。同様の考えを持つ方が丸の内にもいると思いますが、そうした人々がJクラブを通じて地域との接点が生まれていくと、社会課題の解決に貢献できるかもしれないと思ったのがJリーグ丸の内ラボ構想の出発点でした」(米田氏)

Jリーグはホーム&アウェイ形式で試合を開催するため、もともと交流人口を生み出すことが得意と言えます。そこからさらに発展し、地方に何らかの価値を提供する人を増やしていきたいといいます。

「いきなり移住することは難しいですが、地域に関わる窓としてJリーグが丸の内にラボをつくることで、例えばボランティアや副業・兼業のような形で地方クラブ、地域、あるいはスポンサーやパートナー企業と関わっていく人を増やすことができると思っています。そうすることで地域の課題解決にもつながりますし、クラブとしても担い手増加やサポーター獲得につながっていくはずです」(同氏)

このようにJリーグを"使って"地域を豊かにすることがJリーグ丸の内ラボの目指すものなのです。

鹿島アントラーズ、松本山雅から見る「Jリーグ×地方」の実例

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アントラーズホームタウンDMOの岡本文幸氏

続いては、実際に地域と関わり、様々な課題解決に取り組んでいるJクラブのスタッフが登壇しました。先にプレゼンテーションをしたのは、一般社団法人アントラーズホームタウンDMOの岡本文幸氏。岡本氏からはアントラーズホームタウンDMOが目指すものや、ホームタウン活動について紹介がなされました。

国内外合わせて20ものタイトル獲得実績があり、2018年度にはクラブ史上最高となる73.3億円の営業売上高、44万人以上の入場者数を記録している鹿島アントラーズ。名実ともにJリーグ有数のクラブですが、ホームタウン(茨城県鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市)の合計人口は約28万人と、決して大都市とは言えない地域に属しています。そんな地域の「稼ぐ力」の増強を目指して設立されたのがアントラーズホームタウンDMOです。

「このDMOは、現時点では助成金をもらっていますが、数年後には交付が切れます。しかしアントラーズが関わる以上、助成金の有無に関わらずしっかりと地域のために稼ぎを得られるようになっていきたいと考えています。そこで我々は"地域観光事業"と"自走化に向けた収益事業"の2つを核にした事業展開に取り組んでいます」(岡本氏)

「地域観光事業」については、アントラーズや地域の資源を活かして(1)スポーツツーリズム、(2)グリーンツーリズム、(3)エコツーリズム、(4)ヘルスツーリズムの4つを中心に展開。「自走化に向けた収益事業」については、農産物や工芸品などの開発・販売を行う地域商社事業や、新電力事業などに着手しているそうです。

「2018年度のアントラーズのホームゲーム入場者数は約44万人でした。これにより、地域経済効果は約24億8000万円となり、これは定住人口約2000人分の年間消費額に相当します。定住人口を増やすことは容易ではありませんが、交流人口を増やしていけばそれだけ経済が潤っていきます。我々のミッションはDMOを通じて色々なきっかけを作っていくことです。そのためにも、多くの方に鹿島アントラーズやアントラーズホームタウンDMOを使っていただきたいと思っています」(岡本氏)

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左:松本山雅FCの星野亜紀子氏
右:同じく渡邉はるか氏

次に登壇したのは、松本山雅FCの星野亜紀子氏と渡邉はるか氏。両氏からは、松本山雅のホームタウン活動について紹介がありました(ホームタウン:長野県松本市、塩尻市、山形村、安曇野市、大町市、池田町、生坂村、箕輪町、朝日村)。

「子どもたちを笑顔に」「地域に暮らすみんなを笑顔に」「山雅を使って地域をもっと元気に」という3つの軸でホームタウン活動に取り組む松本山雅。具体的には、地域から請われて活動する「地域イベント依頼型」だけではなく、地域住民と共に自発的に持続可能な課題解決に取り組む「地域課題解決型」も含めて活動を推進していると言います。その代表例として紹介されたのが「のんびり村DEスマイル山雅農業プロジェクト」です。これは、農家の後継者不足や農地の荒廃化といった課題について、松本山雅を通じて地域の子どもたちや、ファン・サポーターに知ってもらうためのプロジェクトです。

「実際に子どもたちとともに作物の栽培・収穫体験をして食育を学んでもらったり、サポーターの方々にも農業に興味をもってもらう活動を実施し、参加者だけではなく農家の方々も喜んでくださいました。2019年には、ターゲットをアウェイのサポーターにまで広げ、試合の前にホームタウンである松本市に泊まっていただき、農業体験や地域のグルメを提供し、関係人口を増やす取り組みも実施しています」(渡邉氏)

このような形で、松本山雅が地域のハブとなることを目指していると言います。そんな同クラブが求めるのは「コミュニケーション能力に長けている」「SNSを使ったセルフプロモーションが得意」「地域に馴染む努力を厭わない」「戦略と実践が得意」の4つを持つ人物だと言います。

「地方の場合、最初のうちは地域に受け入れられにくい面もありますので、心を開いて馴染む努力ができて、コミュニケーション能力がある人は重宝されます。また、我々も少ない人数で回していますので、アイディアを練るだけではなくて実践に移せる人を求めています。そして最も重要なのは、ワクワクしながら楽しめる熱量を持っている人です」(渡邉氏)

さらに、東大先端研で共創まちづくりに取り組む小泉秀樹氏も登壇。東大は以前からテクノロジーの観点でJリーグと連携し、選手の動作解析やビッグデータ活用などの取り組みを実施しており、小泉氏はこのプロジェクトのリーダーでした。氏は、先端研に、今欧米で広がりを見せている「リビングラボ」を立ち上げ地域共創を進めています。氏は、この「リビングラボ」のアプローチが、Jリーグ、丸の内、地域の共創にも役立つと考えています。

「リビングラボとは、人間中心型社会に向けて、マルチステークホルダーが各々のナレッジや技術を持ち寄り、市民と共に社会課題解決を図っていくための拠点のことです。東大先端研でもリビングラボを立ち上げ、複数の研究者がそれぞれの技術を使いながら地域にアプローチをしています」(小泉氏)

東大先端研は、テクノロジーなどの知見も用い、例えばビッグデータを活用したスタジアムの魅力アップ、エンターテインメント領域の向上、サポーターの健康増進のためのコミュニティ構築などに取り組んでいきたいと、展望を話しました。

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東京大学先端科学技術センター教授の小泉秀樹氏

丸の内が地域とJに提供できるもの、地域とJが丸の内に提供できるもの

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それぞれのプレゼンテーションを終えたあとは、各登壇者によるパネルディスカッション、そして聴講者を含めたワークショップへと移ります。ワークショップのお題は「Jリーグ、クラブの現状や課題について感じたこと」「それに対して自分ができること」の2つです。

「地域課題を解決するには、クラブだけではなく地域住民などのステークホルダーの意識を高めることが重要」と感じたあるグループは、そのために「地域住民が都心に赴いてインターン経験を積めるプログラム」を構築し、そのつながりから丸の内の企業人が地方に"期限付き移籍"できる仕組みを作ってみてはどうかというアイディアを紹介しました。

副業、プロボノのような形で地域に関わるというアイディアは複数のグループから出されましたが、一方であるグループからは「仮に本業の会社がそれを許したとしても、サステナブルに続けていくのは簡単ではない」という意見も出ました。

「たとえ自分が応援するクラブであっても、持続的に関係を続けていくには何らかのリターンが必要だと思っています。それは必ずしも金銭的な見返りでなくてもよくて、例えば地域との絆であったり、ご当地グルメや温泉といったものでもいい。そうした、心のスキマを埋めるようなものを提供していくことも考えなくてはならないと感じました」

地方やJクラブだけが一方的に恩恵を受けるだけではなく、逆に都市側に恩恵を与える。そのような三方良しの関係構築が、今後の1つの鍵になると言えるでしょう。

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実際にスポーツビジネスに関わる人や、スポーツ好きな人、あるいはスポーツとあまり関わりを持たない人など、異なるバックグラウンドを持った人々が、膝を突き合わせて語り合ったワークショップは、白熱のうちに終了の時刻を迎えました。その後一行は場所を3×3Lab Futureに移し、この日開催された明治安田生命J1リーグ第29節「松本×鹿島」をパブリックビューイングで観戦しながら、サッカーを通じた地方創生の可能性などについて存分に語り合っていきました。

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三菱地所の河合悠祐氏

本イベントの共催である三菱地所の河合悠祐氏は、「丸の内には様々な企業や人々が集積しており、そこを拠点に活動する我々は、そうした企業・人と地方をつなげるハブになることができると考えています。このJリーグ丸の内ラボを活用していただくことで、継続的にJリーグやまちづくりに携わる人を増やせればと思っています」

そして、米田氏は次のようなコメントを残しました。

「丸の内で働く人々の中には、"自分のノウハウを活かして社会に貢献したいけど、どう実現すればいいのかわからない"というモヤモヤを抱えている人も多いと思います。Jリーグはそんなモヤモヤを受け止める器になりたいと思っているので、興味のある方は一歩踏み出すきっかけとして気軽にこのラボに参加してみていただければと思います」(米田氏)

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Jリーグ、丸の内、東大先端研という異色の組み合わせが、これからどのような化学反応を見せていくことになるのか。乞うご期待です。

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