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経済成長の一途を辿る中国。昨今、世界経済のけん引役として注目を浴びていますが、今後のビジネスを考える上で、中国の現状をとらえることは我々日本人にとっても必須。製造拠点や市場としてはもちろん、国内でビジネスを展開していく上でも、中国は避けては通れないマストな国といっても過言ではありません。しかし、最も身近な海外であるにもかかわらず、日本のマスメディアやSNSなどを通して伝わる中国や中国人の様子は、極めて煽情的で実態とはかなりのズレがあることも事実です。
そこで今回、中国の実情や中国とのビジネスに精通した中島リチャード幸一氏(Cubic Micro株式会社 代表取締役社長)、田中栄氏(株式会社アクアビット 代表取締役)、杉山彩香氏(川上産業株式会社 常務取締役/プチプチ文化研究所所長)の3名をお招きし、"素顔の中国"を一切のバイアスなく語っていただくコンファレンスを実施。赤裸々な現地レポートや実体験をもとにした鋭い考察を前に、参加者からは度々驚きの声が上がりました。
最初に登壇したのは、中島リチャード幸一氏。国内外の半導体設計やマーケティングの分野で多彩な経験を積んだのち、2004年米カリフォルニア州サンノゼで、半導体設計とコンサルティング事業を主としたCubic Micro株式会社を創業。2014年ルネサスでIoT事業推進室長を務めたのち、2016年4月よりCubic Micro株式会社の代表に復帰。現在は中国をはじめ、UAE、シンガポール、台湾などに半導体設計、IPビジネスモデル提供などのコンサルティングや最新技術のブリッジングを行っており、2018年8月8日に新たに立ち上げたiXOS株式会社では、AIスピーカーの開発などにも力を入れています。
今回、中島氏が掲げたテーマは、「AI/IoT/5Gの未来 ~CES Asia in 上海(6/13-15)から見えてきた中国の脅威~」。「CES Asia」は、毎年ラスベガスで1月上旬に開催される世界最大の家電見本市のアジア版として2015年に始まり、今年で4回目の開催を迎えた家電見本市。「なぜ、CES Asiaにポイントを置いたかということをこれから30分の間でお話したいと思います」と中島氏。
前半では、CES Asiaの視察に際して、氏が目の当たりにした中国の実態が次々と紹介されました。最初に取り上げたのは、「2018 FIFAワールドカップ」。ひと昔前なら、日本メーカーが名を連ねていた同大会のスポンサー企業の半分は、家電大手の海信集団(Hisense)、乳業大手の蒙牛乳業、「vivo」ブランドでスマートフォンなどを手掛ける維沃移動通信など、近年、最も勢いのある中国メーカーだったというのが実情です。
「中国ではサッカーが非常に盛んになっていて、将来的にワールドカップを中国で開催しようという動きも始まっています」(中島氏)
2017年6月に上海を訪れた時は、「街じゅうにあふれていた」というシェアサイクルこと「モバイク」。「人間の活動そのものが、車ではなく自転車という感じでしたが、今年6月には、廃棄されたモバイクがあちこちで山積みの状態に。好き勝手に放置するなど、いわゆる秩序のなさに政府が音を上げたようです。しかし、一方では次の移動手段を考え始めています」と中国の"切り替えの早さ"についても言及しました。
街の至るところに設置されている「監視カメラ」は、今の上海を象徴する特徴のひとつ。 カメラ映像技術とAIがリンクして、大衆の行動管理を徹底することで、犯罪の低下、治安の維持を助長しています。「監視カメラ社会になったことで、タクシーの運転手しかり、市民の"お行儀"が非常に良くなっています」と中島氏。アリババの「芝麻信用(セサミクレジット)」は、社会信用度として浸透しているのだそう。
このほか、「誰も注文に並ばないマクドナルド」や「無人コンビニ」、アリババの生鮮食品店「盒馬鮮生」、「EV Carシェアリング」などについても紹介。マクドナルドでは、備え付きのタッチパネルかスマホから注文するので、キャッシュの必要はなし。無人コンビニは、WeChatアプリを使って出入口を解錠し、支払いは中国で最も勢いのあるモバイル決済アプリの「WeChatPay」か「AliPay」で行う。盒馬鮮生の注文もアプリで行い、店舗から半径3kmまでは、30分以内に配達。店頭で受け取る場合は、商品をスキャンしてAliPayで決済。
電子マネーは、もはや当たり前。氏によると、モバイル決済利用率は、日本6%、米国5.3%に対して、中国は98.3%。モバイル決済額は爆発的に拡大しており、2016年には1兆8500億ドル(約210兆円)にも上ったと言います。EV Carシェアリングも同様に普及しており、中国のカーシェアリング市場は、2017年の11億元(約190億円)から、2020年には8倍の85億元まで成長する見込みとのこと。消費者の行動が「購入」から「利用」へと変化している様が伺えます。
「まさしく先端を行く状況です。こうした実情を見ると、ある意味、中国に先を越されているなという感じがいたします」と中島氏。納得と言わんばかりに、うなずく参加者の姿もありました。 「びっくりしたのは、週末の電気量販店。まず、お客さんがいない。いたとしても、見に来るだけで、購入はeCommerceが主流です。消費のあり方が確実に変わり始めている今、ショッピングストアも大きな曲がり角に立たされています」(中島氏)
そして、本題の「CES Asia 2018」へ。上海市浦東新区にある「上海新国際博覧センター(SNIEC)」で開催されたコンシューマ・エレクトロニクスの見本市第4回では、初回の約2倍となる約500社が出展。6月13日から15日の3日間で、約4万人の来場者が訪れました。
一方、今年1月に本家本元のラスベガスで開催された「CES 2018」には、約4000社が出展し、17万人が来場。「ラスベガスに比べると、CES ASIAの規模はまだ小さいですが、加速度的に広がっているので、あっという間に肩を並べてくるのではないかと思います」と中島氏は話します。
氏がCES ASIAに行ってみて分かったのは、「中国人のための中国企業による見本市」だということ。Huaweiや海信集団(Hisense)、Haier、Lenovo、Pico、百度(バイドゥ)など出展社の9割が中国企業で、主役は「AI」。EVやスマートカー、AIで健康やロボット工学、顔認証技術、5GやIoT、スマートホーム、VR/ARで360動画やモーションセンサなど、ラスベガスのCES 2018に引けを取らない先端テクノロジーの展示がずらり。中国のプチ富裕層が目指す「Smart Home Smart Life」を実現すべく、AI家電、AIスピーカー、AIテレビなどが展示されてあり、「家を丸ごとIoT家電で埋め尽くすかのように、とにかくAI一色だった」と話します。
「中国はいわゆる"見栄"の社会です。人よりもいいものを持ちたい、見せたいというのが、中国人の趣向。政府主導によるスクラップ・アンド・ビルドか、瞬間花火か。これからが見どころですが、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら先進国化する中国に対し、後追い状態の日本の後進国化が懸念されます」(中島氏)
「AIの未来を知りたければ、ただ西へ目を向ければいい。日本海の先、中国だ」とアメリカに言わせしめた中国ですが、目指すのはその先の未来の実現です。
「82年の1Gに始まり、92年の2G、01年の3G、12年の4Gと、ほぼ10年ごとに新しい高速通信規格が生まれてきた。そして2020年には5Gの時代を迎える。ここで中国は大きなチャンスをつかむことになるだろう」
CES ASIA 2018の基調講演で、海信集団(Hisense)グループの周厚健会長が語ったように、63兆円市場とも言われる次世代通信規格「第5世代(5G)」をAI、IoTと掛け合わせることで、「中国は間違いなく世界制覇を目論んでいます。その動きだけはよく見ておいてください」と氏は語気を強めました。
何のためにそこまでやるのか。その答えは、一帯一路構想を踏まえた「中国制造2025」にあります。次世代情報技術産業をはじめ、2025年までに国際競争力のある10の製造業を作り出すという国家戦略のもと、7500億円規模のファンドを投入。その実現に向け、国民はそれぞれの分野で鋭意努力しているのです。
テレビ、PC、携帯電話、タブレット。今や世界は、中国の製品なしには生活できない時代に突入しています。スマートフォンにおいては、米国のアップルと韓国のSamsung(サムスン電子)が上位のシェアを占めていますが、Lenovo(レノボ)やHuawei(ファーウェイ)など、中国ブランドをすべて合わせれば36%ものシェアに。今後、中国が「製造立国」から「製造強国」へ、中国ブランドは世界ブランドへと成長を遂げていくことは火を見るよりも明らかです。
CES Asia 2018には、日本から5企業が参加しましたが、悲しいかな、"Made in Japan"と謳っても、「中国人にはさほど響かず、過去の遺物という印象だった」と中島氏は回想します。唯一、日本企業で活気があったのは、台湾に本社をかまえ、中国に生産拠点を持つFoxconn(フォックスコン)に買収されたシャープのみ。
成功者が過去の技術を守ろうとする「イノベーションのジレンマ」が起きている日本。対して、「スクラップ・アンド・ビルド」をベースに、国防以外の消費者向けの技術や製品なら、B to CやB to Bにかかわらず、貪欲に何でも取り込んでいく中国。
「中国を脅威とするのか、チャンスとするのか。これはもう日本人の考え方次第だと思います。向こうはウェルカムです。基本的には大手を振って握手してくれると思います。その意味では、我々日本人がどう行動していくかが、今後の課題だと思います」(中島氏)
続いて、株式会社アクアビット 代表取締役の田中栄氏が登壇。幅広い分野の企業で中長期戦略立案を支援しながら、戦略やビジョンを議論するための前提として、2004年より法人向けレポート「未来予測レポート」シリーズを刊行。エレクトロニクス、自動車、エネルギー、医療など、産業の将来を予測する独自の手法をもとにしたレポートは、 トヨタ自動車やNECなど200を超える企業が導入しています。
今回のコンファレンスの2週間前に、上海、深圳、香港の3都市を視察した田中氏。中国に行こうと思ったきっかけは、仕事仲間が言った「上海では、1000円でランチが食べられない」というひと言。とっさに「嘘だ!」と疑うも、それを自分の目で確かめずにはいられず、現地に飛んだのだそうです。
テーマは『中国の「今」』。この日のために田中氏が用意した約200枚の写真と共に、それぞれの都市のライフスタイルや価値観について紹介されました。まずは、中国最大の経済都市、上海。モダンな高層ビルが林立する中にも、旧イギリスの趣が漂う文化的建造物や遺産があり、「新しいものと古いものが同居している、非常に洗練された街」と田中氏。日本でいうところの原宿に相当する繁華街を行き交う人々も、店頭に並ぶ商品も食べ物も、すべてがエッジィ。「はっきり言って、日本よりもみんなカッコいいです。服装も非常に小洒落ていて、気遣いやマナーも素晴らしかった」と回想します。
貧富の差が顕著なことも、上海の特徴のひとつ。住民用と使用人のエレベーターが別個になった200~300㎡の高層マンションで優雅な生活を送る"スーパーリッチ"な人々がいる一方、"鳩小屋"と呼ばれる狭い部屋に大勢で暮らす下層階級の人々もいます。 不動産の販売価格は、約20㎡のマンションで4000万円、48㎡前後になると1億円と日本に比べて相場ははるかに高く、参加者たちは驚くばかり。家賃が7万円前後のいわゆるワンルームのような物件はニーズがなく、空室になっていることがほとんどなのだそう。
「ひと言で言えば、上海と深圳は巨大な街。いずれも今、恐ろしく成長しています。中でも、わずか30年の間に、人口が30万人から1400万人に増加した深圳の成長スピードは人類史上最速と言われています」(田中氏)
深圳の建物は、日本のビルとは比にならないほど、とにかくスケールが大きく、凝ったデザインが多いと言います。メトロポリスと呼ぶにふさわしい近代的な街の中には、広大なゴルフ場も。その一方、昔ながらの個人商店がところ狭しと立ち並ぶ地下街などもあり、まさに新旧の中国が混在している様相です。
昨今、深圳が"中国のシリコンバレー"や"中国の秋葉原"と呼ばれるようになった所以は、1万店舗以上の電気店やパーツ問屋が集まる巨大電気街「華強北」にあります。
「部品屋さんでは、ピンセット片手に、その場でパーツを作っている人もいました。上海と同じく、WeChatPayなどの電子マネーが浸透していて、現金を使っている人はまずいません」(田中氏)
上海と深圳。どちらが洗練されているかというと、「やはり上海。深圳は、街も人も、もっと変化していくでしょうし、その意味ではこれからが楽しみですね」と氏は述べました。
最後は、香港。今回で4度目の訪問となる田中氏は「おそらく皆さんがイメージする通りの街です。ある意味、香港は正常進化した中国。日本へのリスペクトが非常に感じられて、日本人を安心させてくれる街ですね」と率直な意見を語ります。
その一方、「今の香港の人からすると、日本はただの貧乏人の国でもある」とドキッとする発言も。不動産価格が高騰を続ける中国の中でも、群を抜いて高額なのが香港。約100㎡の物件の販売価格が、3億5千万は下らないと言います。
「このチラシをよく見ると、"大阪"って書いてありますよね。大阪では40㎡の物件が1750万円で買えますよ、利回りは6%ですよと言っているのです。つまり、日本の物件がいかに格安で買えるかということを示しているわけです」(田中氏)
不動産のみならず、香港は物価がとにかく高い国。田中氏が訪れた飲食店やスーパーでは、ソフトクリーム1個が約900円、白桃1個が3000円、ステーキ用の牛肉一切れが割引価格で約3500円など、驚くばかりの値付けがされていました。またAEON STYLE内にある日本の飲食店では、海鮮丼が3000円弱、カレーが約1300円。上海のみならず、香港のランチも1000円以上が常識のようです。
日本食を食べられるレストランがそこかしこにあり、セブンイレブンがあり、ちびまる子ちゃんグッズをはじめ、カルピスウォーターや午後の紅茶など、至るところで日本の製品が日本のラベルのまま販売されていたりして、日本人には馴染みやすい街ではありますが、「香港だけを見ていたら、中国を間違える」と田中氏は警鐘を鳴らします。
「上海や深圳では新しいものが生まれていますが、香港にはそれがありません。これだけ物価が高いのに、エンターテインメントもほとんどない。それを楽しむためにお金を払う人がいないからです。ロンドンのように、人々が文化を享受する街にこそ、また新しい文化が生まれ、発展していくと思うのですが、その意味でも、香港は先進国とは言えないでしょう。では、ハイテク化の一途をたどる上海や深圳が先進国かというと、ここにも疑問が残ります。本当の先進国とは何か、我々はどこを目指すべきかということを真摯に考えなくてはいけない。今回の視察ではつくづくそう思いました」(田中氏)
「情報は行って、見て、自分で感じるもの。行ってみて、初めて分かることがたくさんあります」と田中氏。飛行機に乗れば、日本からわずか3時間ほどの距離にある中国。上海や深圳の動向に関心を持つシリコンバレーやヨーロッパの人たちからすれば、「これほど羨ましい状況はない」と言います。最後に、「中国と対抗しようなんて、はなから無理なことです。もっと理解を深めて、信頼関係を築いていきましょう」と参加者に呼びかけました。
コンファレンスのラストを飾ったのは、川上産業株式会社 常務取締役であり、プチプチ文化研究所 所長を務める杉山彩香氏。2001年より、ロックバンド「GYPSY QUEEN」と共に、日本・中国・ASEANエリアでフレンドシップコンサートイベントの制作を手掛けており、これまでに中国17都市で66回のコンサートを開催。現在、チャイナフェスティバル実行委員会運営事務局で、駐日中国大使館との交渉業務と広報担当を担っています。
杉山氏が掲げたテーマは、『中国人と共にいきていくための「12の秘訣」 思想・文化から読む中国とのお付き合いの仕方』。この17年間、仕事を通じて多彩な中国人と交流を深めてきた氏は大の"中国好き"。カルチャーショックを受け、失敗を重ねながらも、場数を踏む中で培ってきたリアルな秘訣は興味深く、実践的な内容ばかりでした。
中国人と共にいきていくための「12の秘訣」
その1 メンツを立てる その2 戦わないで。理解しましょう その3 そしてお酒も最高のツール その4 中国語で少しでも話そう その5 鈍感力で乗り切ろう その6 食事をしないと始まらない その7 中国に行かなきゃ始まらない その8 でも感傷的にはならない。帰国後のメールに反応がないのは... その9 友達に優るものはない その10 老華僑と新華僑 その11 日本人の好きなところは秩序 その12 チャイナフェスティバル2018
「中国人と付き合う上で、日本人以上に気を遣うのがメンツです。メンツで仕事をするといっても過言ではありません。常に相手のメンツを立てることを大切にしますが、それだけでは仕事はうまくいきません。相手のメンツを立てた上で、権限のある人も立てていかなければいけない。もはや、忖度の嵐です」と杉山氏が言うと、参加者一同からドッと笑いが起きました。
氏の言う権限のある人とは、当局の人のこと。つまるところ、国と手を携えなければ、コトを動かすことができないのが中国。当初は「複雑なピラミッド構造が存在する非常に難しい国」だと思っていたのだそうです。
"面倒なことが嫌いな私"を自負する杉山氏にとって、「音楽を通じた交流」は中国人とうまく付き合えるきっかけになったと言います。「音楽は国境を超える」とよく言われますが、中国と日本の関係にも当てはまることで、中国人は日本人以上に、音楽や宴を大切にしているのだとか。
「2001年から中国とASEANエリアで音楽を使った交流活動をしていますが、まさしく"音楽は最高の武器"です。コンサートだけでなく、カラオケでも、テレサ・テンやKiroroの中国語バージョンなど、中国語で歌えるレパートリーが1曲あるだけで、急速に仲良くなれると思います」(杉山氏)
中国人と付き合う上で、キモとも言えるのが「お酒」。大量のお酒を一気に飲み干しては、何度も乾杯するのがお決まりで、「飲めるか飲めないかで、今後の関係が決まってくるといっても過言ではない」と杉山氏。飲みつぶれたことも多々あるそうですが、同じ時間を過ごした中国人は、今なお大切な友人であり、仕事のパートナーとして交流しているそうです。
「乾杯の音頭だけは、中国語で言えるようにしています。お酒の席では、"何のために乾杯するか"が、かなり重要視されているので、例えば"私たちの成功のために乾杯!"のフレーズを覚えておき、成功の部分を"仕事"や"幸せ"に置き換えると便利です。 発音は気にしなくても大丈夫。盛り上がると思います」(杉山氏)
氏によると、「発音が違うと、丁寧に教えてくれるのも中国人の特徴のひとつ」。流暢に話せなくても、仲良くなりたいという意思表示のひとつとして、相手の言語で話しかけることが上手く付き合うポイントのようです。また、お酒の席と同様に、「食事」も円滑な関係を築くために欠かせません。
「中国人にとって、一緒に食卓を囲んで話し合うことは非常に重要。打ち合わせは、ランチやディナーを交えて行うことをお勧めします。電話やメールのやりとりでは進まなかった案件が、食事をすると急に進展することが多々あります」と話す杉山氏は、打ち合わせが重なって、1日に5食を食べることも少なくないのだそう。普段から、胃腸を鍛えておく必要があるかもしれません。
イヤなことがあった時はいつもより寛容にかまえて「鈍感力」で乗り切る、帰国後のお礼メールに"返信ナシ"は当たり前と心得るなど、経験者だからこそ語れる秘訣が満載でしたが、とりわけ参加者に力を込めて伝えていたのが、7つ目の秘訣「中国に行かなきゃ始まらない」です。
「中国とビジネスをしているのに、現地に行ったことがないという方も多く、驚くことがあります。本質的にメールではダメ、電話でも微妙で、相手と直接顔を合わせることに重きを置くのが中国人であり、会えたときからが本当のスタートです。それに、中国を好きにならないと、ビジネスするのはなかなか難しいと思います。中国と仕事をするなら、観光で良いので、ぜひ行ってみることをお勧めします。その経験がビジネスに必ず役立つことを私が約束します」(杉山氏)
「中国とビジネスしていると、3回に1回は嫌な思いをする」と杉山氏。そんなときに味方になってくれるのは、長年親交を深めてきた中国の友人たちなのだそう。
「私に代わって戦ってくれることもしばしばです。一度信頼関係を結ぶと、家族のように接してくれる仲間たちの素晴らしさ。そこにどっぷり浸かっている私は、心地良くてたまりません。困った時、すぐに電話できる中国人の友達が一人でもいると、理想的ですね。必ず助けてくれますから」(杉山氏)
コンファレンス終了後は、中国料理を囲んで懇親会が行われました。杉山氏が差し入れしてくださった青島ビールは数量限定のため、早いものがち。中国らしいおもてなしに参加者は嬉々として、さまざまな話に花を咲かせていました。
これまで語られることのなかった「日本人が知らない中国ビジネス×文化」。三者三様の知見や考察が余すことなく披露された今回のコンファレンスは、参加者が一歩中国への理解を深めるきっかけとなったに違いありません。