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東京の都市農業のイノベーションを加速することを目的に、全4回で開催された2019年度の「東京ファーマーズイノベーション」。最終回となった2月17日は「加工品」をテーマに開催されました。
第1部の講師を務めたのは、本シリーズ企画を通してアドバイザーを務めた「日本の御馳走 えん」の有馬毅氏です。えんでは、マネージャーとして自ら店頭に立ち、生産者とともに加工品の商品開発、マーケティング、販路拡大等に携わっています。本企画のコーディネーター、司会の中村正明氏は有馬氏を評していわく「都市ニーズの状況をもっとも良く知る人物」。講演では大消費地のニーズを読み解き、加工品の目指すべき方向を語りました。
第2部の生産者プレゼンテーションには、食用の花を生産・販売する「あみちゃんファーム」の網野信一氏、小笠原諸島の島レモンで作るレモネードを製造・販売する「FRUITBAT LEMONADE」の渡辺裕子氏、奥多摩を流れる秋川水系のニジマスやヤマメのスモークを製造する「めるか檜原」の大野聡氏の3氏が登場。また、飛び入り参加として、本場・江戸川区で江戸東京野菜の小松菜を通年で栽培する「小島農園」の小島啓達氏、「神楽坂地蔵屋」で国産米使用・無添加の煎餅を製造販売する和の合株式会社の半谷馨氏の合計5氏が登壇しました。
有馬氏がマネージャーを務める「日本の御馳走 えん」は、「日本全国の美味しいを集めた和のコンセプトストア」をうたっており、選りすぐりの全国の加工品、食品を常時900点揃えている、いわば和の食に特化したセレクトショップ。その最大の特徴は、生産者と一緒にマーケティング、商品開発、販路開拓などに取り組んでいる点です。
「言ってみれば、まだ世に出る前の仕上がっていない製品を、生産者や加工事業者の方が持ってきて、店頭で試験的に販売しているというもの。大事なのは、店頭でエンドユーザーの生の声を聞いて、商品作りに活かしていくということです」
店頭での販売とともに試食も行います。有馬氏はもちろん、生産者も自ら店頭に立って客に勧めることも。「私も含めておじさんばかりが店頭に並ぶので絵面的には良くないのだけど(笑)」と有馬氏は言いますが、生産者の声を聞けるのはマルシェ的な楽しみもあって、消費者にとっても貴重な体験となるのでしょう。
えんを訪れる客層は感度の高いアーリーアダプターや、良い商品を買いたいという層。えんで扱う商品は、その特質上、価格は比較的高めで、生産量は少なくなります。そのため大手小売店では扱いにくく、「えんだけで販売している」という商品も少なくありません。必然的に、ユーザーもそうした商品を目的に来る人が多くなるのです。そして、近年の客層の傾向としては、「無添加、健康志向」が顕著になっていると有馬氏。
「昔は『こういうの面白いよね』という商品を扱っていれば売れましたが、健康や楽しさ美味しさをキーワードに、素材や続けられることを重視する傾向にシフトしてきたように見受けられます。『無添加』を重視する人が増えているのがその最たる例で、添加物を含むものは賞味期限間近で30%引きにしても売れないのです。ネットで知識を得ることができる時代だからこそ、専門的な添加物にも詳しく、良いものは値段を気にせず買うお客様が増えています」
この傾向を一言でいえば「日常使いの上質」と有馬氏。添加物レス、毎日使える・リピートしたいもの、美味しくて、楽しくて健活に使えるといった特徴のあるもので、有馬氏はそのキーワードとして、
「ちょい足し」
「古くて新しいもの」
「続けやすいもの」
「用途・機能のわかりやすさ」
「ヘルシーなもの」
「食べる理由・メリットのあるもの」
の6点を挙げて傾向を詳しく解説しました。
「ちょい足し」は文字通り、日頃の食事に「ちょっと足す」ような製品を指します。スパイシーなもの、味をちょっと変えるようなもの、栄養をプラスする、トッピング的な感覚のもの。例えば柚子やレモンを使った調味料などがあります。大袋ではなく少量で使い切りが早いものが好まれている傾向も。そして、「古くて新しい」とは、甘酒、柿酢のような、昔から日本にあったものが健康面で再評価され、パッケージも現代的なものにアップデートされている例。例えば甘酒なら「のむ玄米」というように分かりやすくキャッチーにしたものの売れ行きがいいそうです。
「続けやすいもの」とは日常的に取り入れやすいもの。例えばご飯や味噌汁などに合わせやすいもので、「派手な味でなく、しみじみ美味いもの」。有馬氏が例として挙げたのは、玄米を使ったふりかけといった素朴でシンプルなものでした。「用途・機能のわかりやすさ」とは、ネーミングやパッケージ、ポップなどの販売方法にも関わるもので、食品特性が分かりやすいこと。また、いつもテーブルに置いておけるような使いやすさも重要だとしています。「ヘルシーなもの」は、ますます女性からのニーズが高まっているものでデトックス、薬膳、漢方などの視点、カロリーや栄養成分の表示、比較などが分かりやすく示されているものが、購買動機に繋がりやすいと話しています。
そして、「食べる理由・メリットのあるもの」とは、「なぜ食べると良いのか」「どうしてこの商品を作ったか」といった効能や目的が明示されているようなケース。「1日にどれくらい摂取すると良いか」の目安などがあるとさらに良いとしています。例えば、えごま油だったら、「3gでアジ3匹分のオメガ3脂肪酸が摂れる」といったような表示の仕方です。
これらの商品特性すべてを兼ね備えていなければならないわけではありませんが、コンセプトメイク、商品設計、パッケージ、ネーミング、販売方法すべての段階で意識する必要があると言えるでしょう。有馬氏は、こうした商品開発を進めるコツとして、古くからあり、「日本人の遺伝子」に入っているものを現代的な文脈に合わせていく手法が良いのではないかと話しています。
「甘酒、ふりかけ、雑穀、漬物、発酵文化といった、日本人なら誰もが知っていて、その良さも理解しているものを扱うこと。それを、例えば女子が好むヘルシーなものにするように、今の時代に合うカタチにする。やっぱりどんなに良いものでも、古いままではなかなか売れないと思います。日本人の遺伝子に組み込まれているようなものを、リブレイクさせるという視点が有効ではないでしょうか」
また、その際には「そう来たか!」と思わせるような「組み合わせの妙」を考えるのも有効だとアドバイス。例えば、らっきょうをラー油と組み合わせた「じゃことらっきょうの生ラー油」、カニ味噌で作ったバーニャカウダなどがそれに当たります。
そして「買い物はエンターテインメント」という視点を持つことも重要だと指摘。買い物をする消費者にとって、買うという行為はワクワクする楽しみであり、「買ってみたい」と思わせるものでなければ売れないものなのです。
「これはある生産者の方に言われて、なるほどそうかと思った言葉でした。だから生産者の方は消費者の方を『喜ばせたい』と思う。買って楽しいもの、嬉しいものは売れるし、逆に売れないのだとしたら、それにはちゃんと理由があるはずです」
そのためには、生産者も販売店や問屋に任せずに、自分で作った商品は自分で売るのだという気概を持って、リサーチ、販売すること。そして、「自分たちを知る」「市場のトレンドを見る」「エンドユーザーの声を直接聴く」「商品化に活かす」ということを現場で繰り返し、日々アップデートしていくことが重要だとしています。有馬氏も、ほぼ毎日えんの店頭に立ち、自ら試食の提供やレジ打ちをしながらお客様の生の声に触れることを欠かしません。また、忙しい合間を縫って、競合店や各県のアンテナショップの視察、生産者訪問のほか、食品以外のファッションやブランドショップの視察なども行っているそうです。
「この正のループを絶えず繰り返し、日々アップデートすること。商品は世の中に出た時点で古くなるという認識を持つことが大切です。『売る』ことばかりを考えずに、常に新しい、ワクワクして楽しいものを作り出すこと。私達も、そういう生産者、加工事業者の方と一緒に取り組みをしていきたいと思っています」
2020年は、産官学連携、生産者・加工事業者・販売店・消費者・大学と提携して、生産・加工・販売まで、情報発信も含めて一気通貫の開発、東京の生産物に焦点を当てたイベントなど、新たな取り組みを展開していく予定だと話し、講演を締めくくりました。
第2部前半の生産者プレゼンでは、飛び入りも含め5社が登壇し、商品の紹介や生産・製造の状況の解説を行いました。
あみちゃんファーム(立川市)――網野信一氏
日本では100軒程度しかいないと言われる「エディブルフラワー=食用花」の生産者。16棟のハウスを含め50アールの畑でエディブルフラワー、切り花のほか、低カリウム野菜の生産も始めているそうです。
網野氏は、東京都農林水産振興財団での勤務を経て5年前に就農。東京にはエディブルフラワーの生産者が少ない一方で、大消費地の東京に近い立地に商機があると見て、本格的な生産を始め、現在では日本エディブルフラワー協会認定農家として、メディアからの注目度も高くなっています。
「普通の花と比べて何が違うの?とよく聞かれますが、一言で言えば農薬。うちでは植物体としての毒がないものを、農薬をまったく使わずに育てています。実は野菜と違って、エディブルフラワーにはまだ農薬などの指標がありません。自分で調べて、野菜とまったく同じように食べられる安心安全なものを出荷しています。最近では、花にはアントシアニンやポリフェノールなどの栄養素が豊富なことにも注目されるようになっています」
園芸店でも見られるような、ごく一般的な花から、サイネリア、プリムラなど珍しい花まで、年間20~30品種を栽培。出荷時には、単品ではなくその時々の花を詰め合わせたパックにすることで商品価値を高めるといった工夫も。新宿の「夜のケーキ屋さん」で扱われているのが有名なほか、都内のカフェ、飲食店、パティシェなどで使用されているそうです。
低カリウム野菜は、予備軍を含めると全国で80万人いると言われる透析が必要な腎臓病患者向けの製品。p>
「低カリウム野菜を専門で栽培する農家は全国でも13軒、都内ではまだゼロ。必要量の3割も供給できていないと言われているので、そうした患者さん向けの出荷に取り組んでいます」
FRUITE LEMONADE(渋谷区)――渡辺裕子氏
映像制作会社からスピンアウトしたレモネードの製造・販売を手掛ける会社。「レモネードの時代が来るらしい」というスタッフの言葉をきっかけにレモネードの試作を始め、小笠原の「島レモン(菊池レモン)」にたどり着いたという変わったいきさつがあります。
島レモンとは、戦前にサイパンなど北マリアナ諸島に出稼ぎに出た島民が、八丈島に持ち帰ったマイヤーレモン(オレンジとの交雑種)が起源。小笠原諸島には、レモンを持ち帰った人物の娘が嫁入りした際に伝えられたというもので、八丈島では黄色く熟したものを食べるフルーツレモンとして出荷していますが、小笠原では緑のまま食べるそうです。皮が薄く、ワタも少ないことから、皮ごとシロップを抽出してもエグみがなく、酸味も押さえられた爽やかな味になるのが特徴です。
「いろいろなレモンを試す中で島レモンにたどり着いたものの、小笠原で生産する農家は少なく、収量も少ないために、市場にはほとんど出ないレモン。収穫期には我々も小笠原に渡って収穫を手伝うようにしています。本物のレモネード体験をコンセプトに、シロップ、レモネードなどのドリンクの製造、廃棄物のアップサイクル、レモネード体験、収穫体験など、ユーザーに体験を提供することを目指しています」
研究と試行錯誤のうえ、シロップは果汁を絞るのではなく、3~5mm程度の厚さに皮ごとカットしたレモンの輪切りを、北海道産のてんさい糖の氷砂糖に10日間漬けて抽出するフリーランという手法を取っています。より接地面積が大きくなるように、氷砂糖は細かく砕いたものを使うというこだわりぶり。ワックスや防腐剤を使わない小笠原の島レモンだからできるやり方で、また、てんさい糖が「ピュアに素材の味を引き出す力を持っていた」「この出会いがあったから、このシロップを作ることができたのだと思います」と渡辺氏は話しています。
アップサイクルの取り組みとして、フリーランでシロップを抽出したあとのレモンの皮を使った石鹸の開発、体験の提供として、レモンからシロップを抽出するキットを開発しており、2020年中の販売を目指しているそうです。
めるか檜原(西多摩郡檜原村)――大野聡氏
都心から2時間、山梨県と接する奥多摩の檜原村で川魚の燻製の商品化に取り組んでいる大野氏。めるか檜原自体は、地域のミニスーパー、塵芥処理場の運営など檜原村を支え、活性化させることを目的とした第三セクターの企業で、「神戸国際マス釣場」の運営も行うようになったことから、今回の燻製の商品化に取り組むことになったそうです。
「神戸国際マス釣場は、村を流れる北秋川の支流の神戸川(かのとがわ)にある管理釣り場で、釣りやバーベキューを楽しむ施設。毎年ゴールデンウィークから夏にかけて大勢で賑わいますが、水がきれいで、そこで釣れるヤマメやイワナなどの川魚が全然臭くない、川魚が苦手だったという人でも食べられるようになったという声を聞くことが多かったことから、お土産用に川魚の燻製を作ることになりました」
そこで、管理釣り場の主な釣魚であるニジマス、ヤマメ、そして本流の秋川で穫れる鮎の三種の燻製を製造。鮎は「全国清流めぐり利き鮎会」で2回準グランプリを獲得している折り紙付きの品質。現在は試作段階で、今後、テストマーケティングを繰り返し、味はもちろんのこと、パッケージやネーミング、キャッチコピーなどをブラッシュアップしていくところだそうです。
「檜原村のきれいな水、高い品質の鮎、檜原村特産の山桜のチップなど、檜原村としてのこだわりを前面に出した商品にしていきたい。今回このイベントに参加したのも、消費者の声をダイレクトに聞くため。ぜひいろいろなご意見をいただいて、商品に反映させていきたいと思います」
小島農園(江戸川区)――小島啓達氏
小松菜発祥の地・江戸川区で小松菜を周年栽培する農家。2019年9月の台風15号でハウスが被害を受けたため、今回の参加が危ぶまれていましたが、図らずも暖冬のためにハウス被害にも関わらず順調に成長して出荷もできるようになったため、急遽参加が決定しました。
小島氏は就農14年目で、栽培・販売の手法で意見に違いがあったことから、親とは別に生産しているそうです。小島氏が頭を悩ましているのは、小松菜の本場として取るべき方向性。生産量日本一は他県のうえ、船橋ブランドの小松菜など近隣でも江戸川のお株を奪う生産地が増加している中で、どんな打ち出し方をしていけば良いのか?という問題です。
「自分としては、知名度も低下し、生産量でも他の地域に負けていることから、量よりも質を上げることにこだわりたい。そのための方策としてコツコツと周年で提供することにこだわり、出荷先も、学校給食、大田市場に絞るようにしています。親とは栽培方法や出荷先で意見が異なるために、お互いまったく無干渉。正直言うと、使う肥料、水やりひとつとっても、親がどんなやり方をしているかまったく知りません(笑)」
今後の展望については、小松菜以外の江戸東京野菜も検討はしているものの、周年で栽培することが難しいことから、基本的には小松菜を中心に「コツコツやること」を第一に進めていきたいとしています。
和の合(神楽坂地蔵屋)――半谷馨氏
東京・神楽坂で、「地蔵屋」の屋号を掲げて煎餅を製造販売している会社。特徴は、煎餅では非常に珍しい「国産米使用」「無添加」です。
「きっかけは知人の煎餅工場を見学したことでした。一般的に煎餅は、等級の低い米を粉にして使い、化学調味料も大量に添加するのが当たり前なんです。それまで化学調味料に対してそれほど意識はしていなかったのですが、一斗缶でドボドボと入れている様に衝撃を受けて、安心して食べられる煎餅を作りたいと思うようになり、10年前から原料にこだわった煎餅づくりを始めるようになりました」
地蔵屋の煎餅はコシヒカリの一等米を使い、杵と臼でつき、天日干ししたうえ紀州備長炭で焼き上げています。もちろん無添加。また、現在は東京の米、東京の醤油を使った"純東京産"の煎餅の製造販売にも取り組んでいます。
「東京という巨大なプラットフォームで売っているもののほとんどが地方産。東京のお土産なのに、地方で作ったものを売っているのもなんだかおかしいのでは?と思ったことから、東京産にこだわった煎餅に取り組んでいます」
とはいえ、無添加などさまざまなこだわりが強くなると価格は高くなり、生産量も限られ売上の上限も決まってしまいます。そこで経営を安定させるため、添加物フリーのこだわりのアイテムとともに、添加物もある程度は使用して生産量を確保できるアイテムを揃える「二段構え」にして売上を確保する体制を整えているそうです。
第2部後半は、試食および生産者との交流会を行いました。これまでの本企画に登場した農産物とは違う加工品の出展は、参加者にとっても新鮮な体験となったようでした。登壇した生産者・加工業者のみなさんは、今回の登壇と交流について、どのような感想を持ったのでしょうか。
網野氏「まず、交流でいろいろな人と会話ができたことが良かったかなと思います。エディブルフラワーは、実は市場も確立していないこともあって、ターゲットが決まっているようで決まっていると言えないところがあるんです。浅く広く行くか、深く狭く行くかを考える材料をもらえたと思う。また、エディブルフラワーを知っている人もまだまだ多くはない。少しでもPRできる場が持てたことも良かったです」
渡辺氏「たくさんの方に試飲していただけたので、アンケートにどんな感想を書いてくださったのか、それが一番気になります。今回はテストマーケティング的な意味合いで参加しましたが、アンケートによる振り返りで、さまざまな気付きも得られたらと期待しています。また、アップサイクルについて、先生方からご意見をいただけたのも励みになりました。自分たちからこういうイベントに参加することはあまりないのですが、お声がけいただいて良かった。良い経験になりました」
大野氏「今回は最初からいろいろなご意見をいただきたいと思っていたので、試食の場で忌憚のないご意見をいただけたのがなによりの成果。檜原村の活性化のための事業に取り組んでいるのですが、中から見ているのでは分からない点、良い意見をいただけたと思います。商品の方向性を検討する段階ですので、参考になってよかったです」
小島氏「暖冬のおかげで、なんとか参加することができてよかったなというのが率直な感想。畑にいるだけでは会えない方々が来るというので、いろいろな現状を学ぶことができるかなと期待してきました。消費者の意見ももちろんですが、他の生産者の方、加工事業者の方のお話は刺激になりました。今後の販路開拓に悩むところがありましたが、いろいろと考えるきっかけになったと思います」
半谷氏「いろいろな業種業態のビジネスマンがいる面白い場だったと思います。ただ、どういう人たちが集まり、どういう情報やメッセージをお話しすれば良かったのか、この点は終わってみると悩ましい問題だったと感じました。事業を始めて10年、この1年でビジネスを大きくしていきたいタイミングだったので、販路拡大なのか、ビジネスパートナーを探すのか、絞ることができればよかったですね」
コーディネーター、司会の中村氏は、今回のTFIを振り返り、次のように話しています。
「6次産業化や農産物の加工は、農林水産省も取り組む課題ですが、『農商工連携』というアプローチが多いのが現実で、特に都市部でその傾向が強いと感じていました。その中で、今回は地域生産者とつながりながら、付加価値を高める加工に取り組んでいる、良い事例を見ることができたと思います。また、6次産業化で共通する悩みである販売戦略という点でも、加工事業者がうまくリードする連携のあり方を紹介することができたのではないでしょうか」
このように成果を認める一方で、改めて「東京ブランドの欠如」が浮き彫りになったとも。
「これまでの農産物も今回の加工品も、都市農業ならではのものが作られていることは分かりましたが、その一方で、東京のものだから買おう、という感覚がまだ生まれていない。つまり『東京ブランド』がない。それが改めてもったいないことだなと思います。特に6次産業化アイテムは小ロットで作られることが多く、ブランディングが追いついていない事例が東京に限らず全国に散見され、これからの大きな問題になると考えています。生産者、加工事業者、小売・飲食店という1~3次産業の事業者すべてで、互いに補完しながら価値を高めていくブランディングの流れが必要になってくるでしょう」
この問題は、これからの東京ファーマーズイノベーションの取り組みにおいて課題となるかもしれません。中村氏は今年度の企画を振り返って「都市農業の魅力の発掘」と「出会い」を作ることができたと話し、それが来年度への布石になったとしています。
「魅力的な生産者を発掘して、都市のビジネスマンに紹介することができたことが今年度の一つの成果。また、農業でイノベーションを起こしたい人と生産者・加工事業者が出会うことができたことも大きな成果です。こうした人達がつながり、どんどんネットワークを広げていくことで、次のステージに上がっていくことができると思います。
2020年度は、具体的なテストマーケティングや生産現場を訪問するというリアルな次の関係性を築いていく、実践的な発展を主眼にしていきたいと考えていますが、それは単純に販路を開拓する、売上を伸ばす、という問題ではありません。なぜなら、農業におけるイノベーションは、『商品』の磨き上げと、消費者側の『人』の磨き上げが両輪になっていなければならないからです。事業パートナー、消費者としての『人』の意識が変わらなければ、日本の農業が変わることはできません。だからこそ、2020年度は大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアからその一歩を踏み出したい。それがひいては大丸有のエリアブランディングにもつながるのではないでしょうか」
都市と地方が新しい関係を持つことが求められる今、同様に、生産者と消費者の間にも新しい関係性が必要です。とかく農業、特に6次産業化では生産者にばかり議論が集中しがちですが、求められる変化の本質は、実は都市側・消費者側にある。中村氏が指摘するのはこの点です。今後、東京ファーマーズイノベーションでどのような活動が行われ、メッセージが発信されるのか。期待がかかります。
大丸有エリアにおいて、日本各地の生産者とエリア就業者・飲食店舗等が連携して、「食」「農」をテーマにしたコミュニティ形成を行います。地方創生を「食」「農」に注目して日本各地を継続的に応援し、これらを通じて新たな価値創造につながる仕組み・活動づくりに取り組みます。