終盤に向けて盛り上がりを増してきた大丸有フードイノベーション(DFI)、その今年度最終となる第4回が、3月16日に開催されました。今年1年の活動を通して、インキュベーションセンターとしての機能、販路拡大やPRなどのコミュニケーション機能、生産者と消費者をつなぐ「場」の機能など、さまざまな機能、可能性が浮き彫りになり、日本の食と農にとっても重要な場となることを感じさせています。その意味で、第4回のテーマが「6次産業化」であったことは、象徴的と言えるかもしれません。
この日登壇した生産者は6者です。
【岐阜県多治見市】もみじかえで研究所(本間篤史氏)
【長野県東御市】秀果園(渡邉隆信氏)
【福岡県糸島市】糸島みるくぷらんと(那須貴彦氏)
【長野県大町市】やさい畑のとんとん(渡部啓二氏)
【山梨県山梨市】ピーチ専科ヤマシタ(中澤久美子氏)
【岐阜県各務原市】ファームタケアキ(竹山明彦氏)
一般参加者はいつも通り40名を超える人数が集まりました。評価委員は、いつものメンバーに加えて、6次産業化テーマということで特別参加の2名が出席しています。
上岡美保氏(東京農業大学国際食料情報学部食料環境経済学科准教授)
◎野口智弘氏(東京農業大学応用生物学部食品加工技術センター 教授)
安部憲昭氏(皇居外苑「楠公レストハウス」総料理長)
薄井麻衣子氏(株式会社ビー・ワイ・オー営業本部HMR事業部営業企画部リーダー)
◎有馬毅氏(株式会社ビー・ワイ・オー営業本部HMR事業部グロッサリーgroupマネジャー)
中村正明氏(6次産業化プランナー、東京農業大学客員研究員、関東学園大学教授、大丸有「食」「農」連携推進コーディネーター)
兼子恵子氏(フードプロデューサー)
※◎印は今回特別参加
※永島敏行氏(俳優、青空市場代表取締役)は欠席。
今回のテーマが6次産業化となったのには、背景があります。農林水産省で6次産業化推進を担当する食料産業局産業連携課・山本有沙子氏が、ある縁で大丸有フードイノベーションを知って参加したことがそもそものきっかけ。第2回開催時に一般参加者として大丸有フードイノベーションを見て、「これは面白い」と可能性を感じたと話しています。
「6次産業化は、農業関係者やバイヤーなど一部の人々の間では知られているが、一般の認知はあまり高くない。この大丸有フードイノベーションは、生産者と一般の方の距離が近く、コミュニケーションが濃密。ここで6次産業化をもっと一般の人に知らせることができるのではないかと考え、6次産業化のテーマを提案させてもらった」(山本氏)
また、食と農の問題をさまざまな人々の視線で解題・解決しようとするインキュベーション的な機能にも興味を持ったそうです。
「農林水産省の窓口から、6次産業化に積極的に取り組むみなさんの中でも、販路拡大や商品改良に強い課題意識を持つ方々にお声がけさせてもらった。実績はあるが、レベルはさまざま。そんな生産者のみなさんが大丸有フードイノベーションを通して、改善策や解決策を見出してほしい」(同)
山本氏からは、6次産業化では、グリーンツーリズム、農家民泊、カフェなども扱われているようになっていることを紹介。6次産業化の本質が「加工品を作る」ことではなく、農家・生産者が「儲ける」ことにあることを改めて確認し、「今日は意欲ある生産者のみなさんに集まってもらった。課題解決に向けて厳しい意見をいただけるとうれしい」と呼びかけました。
①「もゆるは もみじ茶」――もみじかえで研究所(岐阜県多治見市)
登壇した本間氏は水産大学出身。魚介類でメタボとポリフェノールの研究するうち、もみじも豊富なポリフェノールがあり、そのほかさまざまな付加価値を持つことに気付いたことから、一旦食品会社に就職したものの、諦めきれずにもみじを使った食品開発で起業した、というストーリーが語られました。
「もゆるは」はもみじ製品のブランドラインで、エキス、ドライリーフ、生鮮食用もみじなどの製品を揃えています。この日はもみじを使ったお茶「もみじ茶」を持参。ティーバッグとドライリーフのセットで、煮出したお茶に葉を浮かべて一服という趣向。お茶の見た目はもみじの色をそのまま写した紅色で、味は野草茶らしいちょっとしたアクはあるものの、日本人ならどこか秋を感じる豊かな風味にあふれています。
「色、味、形、機能性の4つが揃っているのがもみじ。秋を感じる味として日本人にも楽しんでほしいが、同時にもみじはJapanese Mapleとして、海外からも認知されているので、インバウンド、お土産もの、海外市場なども視野に入れて展開したい」(本間氏)
今回はパッケージと商品構成について、さらに展開を広げるためにアドバイスを求めに来たと話しています。質疑応答では、評価委員から概ね高い評価。「食文化、日本文化の訴求力が高い。機能性よりこちらを前面に出すべき」(上岡氏)、「飲食業界・外食産業には非常に刺さるコンセプト。桜フレーバーなど春のアイテムは多いが秋はあまりない。認知が広がれば売れそう」(安部氏)、「手を挙げる店舗は多い感触。博物館など文化施設でのお土産にハマるのでは」(有馬氏)。
②完熟巨峰ストレートジュース――秀果園(長野県東御市)
"ぶどうの王様"と言われる巨峰。種無しのピオーネやナガノパープル、シャインマスカットなど新しい品種が台頭してきてはいるものの、その味、甘さについては依然として巨峰が"王"の座にあると言って良いでしょう。秀果園は、日本で一番古い現役巨峰の木を有しており、巨峰栽培のルーツのひとつだそう。ぶどう栽培は63年、渡邉氏で2代目となります。
この日DFIに持ち込んだのは「完熟巨峰ジュース」。「浅間の雫」ブランドで2種類のジュースを生産販売していますが、今回のものは初霜が降りるまで待って摘み取った完熟の巨峰だけで作る、完全無添加ストレートジュースです。もう1種類の「早摘み巨峰ジュース」には酸味があるのに比べ、こちらは腰のあるどっしりとした甘みと、それでいてしつこくない爽やかさが特徴です。試飲の際には会場のあちこちから思わずうなる声が上がったほど。
渡邉氏は、後継者不足からぶどう農家が減少していること、また、現在の担い手も高齢化しており、「夫婦でやっているが、どちら一方が病気で倒れたりしたら、もうできなくなってしまう」という状況にも危機感を抱いています。
「少ない働き手でも高い生産性を出せて、生食用ほど手をかけなくても済むのは、6次産業化しかない。これからのぶどう農家は、加工原料としての生産に生き残りの道を見出すしかないのではないか」(渡邉氏)
試飲したのは完熟ジュースのみでしたが、この日は巨峰のロゼ・スパークリングワイン、早摘みジュース、ワインビネガーなども持参しており、商品展開やパッケージについて意見を求めています。また、渡邉氏は「食べるスイーツ、作りにいく巨峰。オフィス街からそんなぶどうとの関わり方を生み出していくアイデアがほしい」等、大丸有とつながることで、グリーンツーリズム、体験農業などにも期待したいと話していました。
評価委員との質疑応答では肯定的・批判的な意見両方が出され、議論は白熱。基本的に「味は良い」が、「ストーリー、思いが伝わらなければ売るのは難しい」という意見で一致しており、ストーリーテリングとコミュニケーション、つまりはブランド化に一策が必要という認識が共有されていました。また、「濃くておいしいが、濃すぎて飲みにくいと思う人もいるだろう。飲み方の工夫を」(野口氏)という意見とともに「カクテル材料としてバーへ売り込むのはどうか」(上岡氏)、「価格のハードルはあるがデザート、お菓子の材料に使いたい」(安部氏)という意見も聞かれました。
③「伊都物語 のむヨーグルト プレーン」――糸島みるくぷらんと(福岡県糸島市)
糸島みるくぷらんとは、福岡県最西端に位置する糸島半島の酪農家30人が立ち上げた企業。今年で25年目を迎えます。「子どもたちに安心安全な牛乳を」という思いから、低温殺菌のノンホモ牛乳のみを生産。しかし、生乳以外にも活路を見出すために、15年前からヨーグルトの製造も開始。搾乳後乳酸菌を加えて6時間寝かして製造する手法のヨーグルトを発売、海外にも紹介され、人気を呼んでいます。
今回、DFIに持ち込んだのは「のむヨーグルト プレーン」。15年前から人気を集めているスタンダードのヨーグルト(のむ/たべる)は、果糖液糖が加えられており、甘さが強いもの。「もっと甘さを抑えたものを」というユーザーの声が多く寄せられたことから、2017年にオリゴ糖のみを添加した甘さ控えめの本製品を発売しました。
「実は同時にいちごの『博多あまおう』と合わせた『伊都物語 博多あまおうのむヨーグルト』を発売しており、こちらは大人気となっている。一方、こちらのプレーンタイプは、生乳の量に限りもあるため生産量も少なく、これまで手当もしてこなかった。これの販路、活路を見出したい」(那須氏)
これまでのところ、生産量も少なく、デイケア施設、病院などへの紹介に留まっていますが、機能性は高く味もけっして悪くはありません。販路を拡大したいものの「大手の機能性ヨーグルトに棚取りで負けて、販路が広がらない」のが現状のようです。確かに質疑応答でも「特徴がアピールしにくい」という声が評価委員から多く出されています。例えば機能性に絞り込み、高齢者にターゲティングするには「1本の量が多い」。「夜に飲むのが健康には一番いいんです。砂糖が入っていないから歯を磨いた後に飲んでも大丈夫、美容効果、整腸効果にも期待できるんです」と那須氏は言うものの、「夜のみに絞り込むならパッケージを変えるべきでは。これじゃ朝だ」「味が良いといっても継続するにはもう少し甘さが必要では」と侃々諤々。
これは、製品がダメだというわけではなく、期待できるがゆえ、歯がゆさを感じるがゆえの、次の一手をイメージした議論。逆に議論百出となったおかげで、この後の懇親会・交流会での議論がより深まったようでした。
④「信州の健康もぉっともっと」――やさい畑のとんとん(長野県大町市)
今回の登壇者中、目新しさではピカイチだったのがコレではなかったでしょうか。評価委員の安部氏が「生というだけでも珍しい」というこんにゃくをさらに研ぎ澄まし、野菜のジュレと食べるようにした「もぉっともっと」。登壇した渡部氏は神奈川出身で、長野県に移住して野菜作りを始めたのが10年前というのも驚きです。
渡部氏は「おいしい野菜を余すことなく食べてもらうためにどうしたら良いか」を考え詰めた結果こんにゃくにたどり着き、こんにゃく芋の栽培を開始。こんにゃく製造に必要な水酸化カルシウムは、完全ナチュラルなホタテの貝粉を使用しています。そこに野菜を練り込んで何種類も作り、最終的にたどり着いたのが「白ごま入り生芋こんにゃく」。「ギリギリまで延ばして、口の中で溶けるような食感を出そうとこだわった」と渡部氏が話すように、こんにゃくなのにこんにゃくのような固さがまるでなく、口の中でホロリと溶けていきます。例えようのない絶妙な食感ですが、強いて一番近い感触を挙げるとしたら大根餅。優しく淡い食感ですが、同時に食べごたえも失われない、そんな食感です。
ジュレは黒豆、人参、ビーツなどの野菜を米糀で発酵させたもので、完全無添加、ノンオイル。着色料は一切使用しておらず、野菜本来の色だけで鮮やかな色合いを出しています。「くるみ人参ジュレ」「みそビーツジュレ」「黒まめジュレ」の3種類を、こんにゃく3枚とパッケージングしました。
試食では感嘆の声が大きく上がりました。評価委員からも非常に好評で、「ターゲットが広く狙える。若い女性にも刺さる」(上岡氏)、「スーパーの人気商品になる可能性大」(有馬氏)という声が聞かれます。一方で安部氏からは「売り方に工夫を」とう意見も。「種類を揃えるのもいいが、シンプルにコレだ!という食べ方を出すほうが、消費者には分かりやすいかもしれない。また、生こんにゃくというだけでも相当珍しい。そこをきちんとアピールしたほうが良い」とアドバイスがありました。
⑤農家の贅沢ジェラート――ピーチ専科ヤマシタ(山梨県山梨市)
女性生産者のグループ、という珍しいケースでした。ピーチ専科ヤマシタは、登壇した中澤氏も含め3名が女性。桃をふんだんに使ったジェラートを製造しており、その4リットルパット(巨大!)の販路拡大の方策についてアドバイスを求めての登場でした。
もともと山梨市は果物の産地で、ピーチ専科ヤマシタは桃に特化した農業生産法人。傷などのために生食で販売できない"跳ね出し"の桃を活用するため、15年前からジャム、ジュースの製造を開始。製造した商品を直接販売するために10年前にはカフェ「ラ・ペスカ」をオープンしています。カフェでは、1.5個分の桃がどっさり入ったパフェ「ピーチジュエル」が人気で、昨今は「SNSの力も相まって大人気」だと話しています。
さらに、カフェで販売するために4年前からジェラートの製造にも着手。桃の品種ごとにジェラートを作り、カフェでは12種類を食べ比べができます。カフェでは持ち帰り用にカップ型のジェラートも販売していますが、大型パットで飲食店などにも販売したい考え。
「個人向け販売も伸びてきたし、少しずつレストランやホテルでも使ってもらえるようになってきた。2リットルパットの販売も検討している。この販路をどうやって広げたらいいのか、アドバイスをいただきたい」(中澤氏)
ジェラートは「無香料、無着色。約50%が桃でできており、濃厚なのが特徴」と自慢の逸品。試食には「嶺鳳」という品種を使ったものが登場しました。味は一言で言えばまさに「濃厚」。会場からは「桃をそのまま食べているみたいだ」といささか大げさにすぎる感想が聞かれるほど。しかし試食してみると、的を射た表現であることを、その美味しさとともに痛感することになるのでした。
質疑応答では味や販売形態についての議論もありましたが、安部氏からの指摘がすべてを物語っています。それは「品質管理」。「大手ほど、品質管理にうるさくなる。例えばHACCPを取得するなど、わかりやすく、信用性の高い品管を導入するのが一番効果的では」というアドバイスに、「痛いところを突かれた」とヤマシタのメンバーは納得の表情を見せていました。
⑥「八つの野サイモナカジェラート」――ファームタケアキ(岐阜県各務原市)
ファームタケアキの竹山明彦氏は、50歳を過ぎてから農業を始めました。生食が可能な糖度の高いトウモロコシを生産していますが、糖度が高いため、虫の食害に悩まされる。「そのまま出荷できないB級品が出ること、野菜だけでは苦しいことから、6次産業化に取り組み始めた」とこれまでの経緯を話しています。
最初はトウモロコシのジュース、そしてアイス。いずれも好評価でしたが、ジュースは生産量が追いつかないため断念。アイスは贈答用では売れるが、小売販売では伸び悩む。そこで考案したのが今回のモナカでした。
近くの酪農家の搾りたて牛乳で作るジェラートに、竹山氏自慢の野菜を練り込む。トウモロコシ、人参、枝豆、ムラサキ芋、カボチャ、ほうれん草、黒豆、落花生の8種類。8種類の野菜、八つのサイ、というダジャレで命名したそうです。
「コンセプトは『本物志向』。野菜もジェラートも本物で勝負する。パッケージもかわいくし、各務原市の特徴を出すシールなども考案した。先月から販売を開始したばかりで、試作を重ねてこの形にしたが、味、パッケージ含め、みなさんのご意見を聞いてブラッシュアップしたい」(竹山氏)
8種類のモナカをすべて試食することはできないため、参加者はそれぞれ1、2種類ずつをいただきました。評価委員の有馬氏は「市販のモナカとは対極。モナカなのか野菜なのか分からなくなる、非常に新しい食感でとってもおいしい」と高評価。ちなみに有馬氏からは落花生味を「こんなのは食べたことがない」とも。
評価委員の間では、パッケージが話題となりました。ビニール製の内袋はあるが、特徴を出すためにデザインした外袋が紙製、というのがどうにも気になる様子。「小売で冷凍庫に入れた後、ぐにゃぐにゃになるのでは」、「売り方の検証は大丈夫か」という声が上がります。これについては「本格的な市販はこれから。最終的な試験はこれからなので、夏に向けてどうなるか、検証したい」と竹山氏。
また味がいいだけに、小売されたときに、溶けてモナカがシナシナになるなど、品質が下がるのが気になると発言しているのが、野口氏。これについて竹山氏は「オーブンで30秒ほど焼くことでパリッとした食感が戻るので推奨している」と回答。「それはそれで試してみたい」という声が会場からも上がりました。
6者のプレゼンを終えて、会場では前回同様に生産者がテーブルを回っていくスタイルで懇親会・交流会を行いました。生産者、参加者ともに、ここまでのセッションで非常に温まっていたこともあり、意見交換も盛り上がっています。秀果園の渡邉氏は、試飲したジュース以外に、巨峰を使ったロゼ・スパークリング(地元で有名なワイン生産者が醸造している)やビネガー、その他のジュースを持参し、さらに試飲してもらっていました。ピーチ専科ヤマシタのメンバーは、全員が同じテーブルに加わり大所帯。全員ともにノートを片手に熱心に聞き入る姿が印象的でした。
生産者側が「参考になった」、「得るものがあった」と感想を述べている一方、一般参加者のほうも「とても勉強になった」と話しています。ある参加者は、「6次産業化の課題が売りたい、販路を広げたいだけだと思っていたが、実際には売れすぎても困るという現象があることにも驚いた」と話しています。
6次産業化には構造的なジレンマがあると指摘するのは、特別参加評価委員の東京農大・野口氏。持続的に利益を出し続けるには、一定の生産量と定期的な商品改革・新商品開発が必要となりますが、一生産者でそれを実行し、持続させるのは難しい。また、高付加価値型・少量生産でも利益を出し続けるのは経済学的にも難しさがあるうえ、売れすぎても困るという問題も発生しやすいと指摘しています。
「おそらく6次産業化には、最適な生産基盤、環境などの条件、モデルがあるのではないか。例えば一定の人口があり、地域で消費されたうえで観光地のお土産としても売れるというような、最適な生産と消費のバランスが取れる形だ。一般に言われる『加工』による6次産業化は、どこでやっても成功するわけではないので、何によって稼ぐのか、生産者は6次産業化を通してもう一度考え直す必要があるかもしれない」(野口氏)
では今後、どのようにアプローチしていけば良いのでしょうか。そのヒントは、安部氏のコメントに隠されていたかもしれません。安部氏はこの日登場した加工品を見て、「料理と同じだと感じた」と話しています。
「どこで売るのか、いくらにするのか。素材とどう向き合い、どういう形にしてお客さまに届けるのか。どのバランスが崩れても売れないものになるのは、6次産業化も料理も同じだと感じた」(安部氏)
6次産業化も料理も根源は一緒――であるならば、成功の秘訣はどこにあるのか。「作り手が楽しむことじゃないですか」と安部氏は言う。
「面白い!おいしい!と思うこと、楽しい!と思うこと。それが作るものの自信にもつながるし、売る時のアピールポイントも明確に見えてくると思う。少なくとも私はそうやってメニューを考えて料理しているし、6次産業化でも、それがバイヤーに刺さるんじゃないかな」(同)
「加工しなければならないから」「6次産業化を進めなければならないから」という義務感でやったとしたら、やりやすい、作りやすいジャムやジュースになって似たような製品であふれかえってしまう。マーケティングでは、プロダクトアウトからマーケットインへと流れましたが、デザインシンキングをベースに再びプロダクトアウトの流れへと変わりつつあるように、農業の世界ももう一度プロダクトアウト的な発想をベースに生産・加工に取り組み、マーケットとの相性を探っていくと良いのかもしれません。今回は6次産業化の製品や取り組む生産者を通し、農業を俯瞰的に捉え返す良い機会になったとも言えるでしょう。
今年度の最終回を終えて、コーディネートを務めた中村氏は「4者連携の強みを活かして、非常に良い実績が残せた」と手応えを感じているようです。大丸有のオフィスワーカーのネットワーク、JA・農中の全国ネットワークがつながり、絡み合い、「より濃いネットワーク、関係値ができた」と中村氏。エコッツェリア協会が主宰するネットワーク、コミュニティには「丸の内朝大学」「丸の内プラチナ大学」などがありますが、よりビジネス色の強い、インキュベーションセンター、ソーシャルビジネス創発のコミュニティになったのではないかと分析しています。
そして、来年度も大丸有フードイノベーションは継続していきたい考え。
「今年度の実績をベースに活動を積み上げたい。旬がある生鮮品は2年目が鍵になるので、まずは今年度出てくれた生鮮の生産者へのフォローの展開。6次産業化でも議論された、農家民泊やグリーンツーリズムなどの展開。モノからコトを生み出すことも視野に入れ、3年で事業化するようなスピード感で進めていきたい」(中村氏)
中村氏が考えるのは、がんばる全国の生産者を東京から応援し、つないでいくこと。「孤軍奮闘している農家のみなさんと一緒にがんばる仕組みを作って、全国に広げていきたい」と中村氏。そのための力が、この4者連携にはあると期待しています。来年度の大丸有フードイノベーションがさらに発展し、力を得るためには、これを読む読者のみなさんの力も必要です。ぜひ来年度の大丸有フードイノベーションへご参加ください。
大丸有エリアにおいて、日本各地の生産者とエリア就業者・飲食店舗等が連携して、「食」「農」をテーマにしたコミュニティ形成を行います。地方創生を「食」「農」に注目して日本各地を継続的に応援し、これらを通じて新たな価値創造につながる仕組み・活動づくりに取り組みます。