シリーズコラム

【コラム】アクティブシニアによる
社会課題の解決を生み出す「立教モデル」

インタビュー:坪野谷 雅之さん(立教大学セカンドステージ大学教員・サポートセンター副所長)

RSSCのみなさん。坪野谷先生は前列中央右、林さんは最後列右端(三菱総合研究所プラチナ社会研究会「セカンドキャリア分科会 第7回」プレゼン終了後の打ち上げにお邪魔しました)

2050年にはおよそ4人に1人が75歳以上となり、平均寿命も2050年には男性83.55歳、女性90.29歳に達すると推計されている(内閣府平成26年版高齢社会白書)。加速する高齢化社会にさまざまな課題が横たわる中、定年後の第二の人生を有意義にすごしていこうというアクティブシニアの存在が、社会課題解決の主体として注目を集めている。そのようなシニア層に向け、2008年から学びの場を提供している立教大学。そこで、立教セカンドステージ大学(Rikkyo Second Stage College:以下RSSC)の教員であり、RSSCサポートセンター副所長を務める坪野谷雅之さんと、同大学2年目の専攻科生でRSSCアクティブシニア活動倶楽部共同代表の林俊雄さんに、RSSCが果たす役割やアクティブシニアの活動について話を聞いた。

ただ学ぶだけでない、ユニークな生涯学習の場

-「立教セカンドステージ大学」とはどのような大学なのでしょう?

坪野谷:RSSCは50歳以上のシニア層を対象として、「学び直し」「再チャレンジ」「異世代共学」をキーワードに、第二の人生を広くコミュニティや社会との交流、社会に役立つ活動や社会貢献に充て、明るく楽しく生きがいをもって活躍することを目的とした新たな学びの場です。

-他の生涯学習との違いは、どういう点でしょうか? 

RSSCのサイト坪野谷:各大学のオープンカレッジなどは"アラカルト方式"だと思います。300、400の講座を用意して、好きなものを選択してくださいと。それらは講義を受けておしまいなわけですね。これに対して、RSSCはわかりやすく言うと"短大方式"。1年目は本科、2年目は専攻科となっています。授業は必修科目と選択科目とゼミがあり、一方通行でなく本格的に学べるというのが特徴の一つです。
入学に際しては、履歴書とともに「人生の振り返り」というテーマで2,500字のエッセイを提出してもらい、書類選考と教員2名による面接の結果を総合的に判定して選考されます。これは他の生涯学習では見られないものだと思います。

-受講生の方には、1年間通い続けて学ぶという意欲が求められますね

「シニアは人材の宝庫。シニアの活躍が日本の活性化には不可欠」と話す、坪野谷さん坪野谷:そうですね。ですから、面接では学ぶ意欲があるか、学んだことをどう生かそうと考えているのか、それから皆と一緒に学んでいく気持ちがあるかどうかを見ています。
本科ではゼミが必修となっていて、12,000字以上の修了論文を提出しなければなりませんので、ハードルは低くはありません。 また、RSSCの受講生は学部学生の授業である「全学共通カリキュラムの総合教育科目」約300の科目群の中から前期・後期で4科目が履修でき、若い学生とともに学べるというのも大きな特徴の一つです。これが異世代共学ですが、RSSCの受講生は熱心ですから、教室では前方の席に座り、後方の学生に私語があると注意したりするんです。受講生、学生とも互いにいい刺激になっていますし、教授など教える側にも受講生の真摯な姿勢は好感を持たれています。

-どのような方が受講されているのでしょう?

:会社員、公務員などの組織勤務経験者が約7割を占めています。その他、自営業者や専業主婦、そして在職中の人もいます。昨年度の本科生では最年少は51歳、最年長は75歳で、平均年齢は62歳でした。
セカンドステージという大学名のとおり、人生二毛作という視線で、現役時代の生き方や環境をそのまま生き続けるのでなく、いったん立ち止まって自分自身を見つめ直しリセットする、そして、「セカンドステージの生き方探し」をしたい、という人が多いですね。

坪野谷:定年退職後すぐの入学者は多くはありません。定年後1〜2年は他の生涯学習やカルチャーセンターなどの講座を受けていたけれども、それでは物足りないと。学んでおしまいでなく、学んだことについて誰かと意見を交換し合いたい、つながりたいという思いを持った人が多い。

「学びたければとことん学べるし、新しいことにチャレンジする場もある。そういう多様性がRSSCの魅力」と言う、林さん:RSSCの設立当初は学び直しや、セカンドステージに生かせる知識の修得に重点を置く人たちが多かったようですが、7年目に入った現在では、セカンドステージをどう生きていくのかを考える、一つの"人生の踊り場"としての意義がクローズアップされてきているように思います。そういう点で、RSSCは他にはないユニークな場所ではないでしょうか。
本科生100名のうち2割くらいは、純粋に学問的興味から学ぶことが大好きで通学している人たちがいて、修了後には他大学を含めて大学院に進学する人も結構います。けれども、多くの人はRSSCでのいろいろな刺激や気づきを得るチャンスに惹かれ、自分と同じような思いを持った仲間との出会いやネットワーク形成を求める人たちが増えてきていると実感しています。

坪野谷:学びを重視する人にとってもRSSCの本格的なプログラムは魅力でしょうし、受講生全体が非常に熱心です。前期の出席率は、例えば私の授業である「暮らしに役立つ経済と金融」では95%にも達しています。また、アメリカには「シニアになってできた友は真の友だ」という諺があるらしいですが、学んだことを実践する課外活動への取り組みなどを見ていて、その諺のとおりだと感じますね。

-受講生の皆さんには、どのような変化が見られますか?

坪野谷:RSSCでは真の市民として求められる教養の修得はもちろん、修得した教養を生かして社会貢献やNPO等の活動に取り組むなど、第二の人生を自らの手でデザインし、再チャレンジを行うことによって生きがいを見つけられた方がたくさんいますね。また、現役時代には仕事中心で、ないがしろにされがちだった家族との関係の再構築にもつながっていると思います。

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受講生の社会活動を支援する仕組み

受講生の社会活動を支援する仕組み

-サポートセンターというのも大きな特徴ですね

豊島区との連携で実現した、「区民ひろば シニア変身講座」。利用者が70代中心の区民ひろばに、50~60代を呼び込み、区民ひろばの活性化とまちづくりに貢献する。受講生たちはコーディネーターとしての経験を次の機会に生かす坪野谷:RSSCは、シニアに学びの場を一方的に提供して、それでよしとしているわけではありません。RSSCと受講生、修了生が協働して、社会活動を支援することを目指しています。それを推し進める仕組みとして、2009年4月にサポートセンターが設置されたわけです。受講生の豊富な知識・経験・ノウハウを生かして社会と交流を図り、社会に貢献していくためのプラットフォームと言えるものです。
現在、サポートセンターには10の研究会が登録され、さまざまな活動を展開しています。研究会では学びたいことや活動したいことを自ら企画・運営し、社会に出て実践するなど、学んだことを社会に役立てる取り組みが行われています。

:私たちアクティブシニアが、セカンドステージを設計する際に共通項として持っている思いの一つに、地元のコミュニティ活動に関わりたいというものがあります。RSSCでソーシャルビジネスなどを学び、それを生かして地元でNPO組織を立ち上げたり、地元自治体に働きかけて公共支援活動に参画したり、社会的な課題解決に関わって行きたいという思いです。
そのような思いを実現するために、個からチームの動きにつなげて社会への発信力を高めていくことに力を入れています。同じような思いを持って集まってきている仲間が、皆で一緒にやろうよ、そして外部の先行組織と連携して、上手く成果を上げていこうよ、という感じで、ここ2年くらい取り組み方が大分変わりつつありますね。

日本中にアクティブシニアを送り出すために連携を広める

-RSSCはこれからどのような活動を展開していくつもりなのでしょう?

三菱総合研究所プラチナ社会研究会と共同で開催した「セカンドキャリア分科会 第7回」では、RSSCのメンバーがプレゼンテーションを行った(3*3 LABOにて)坪野谷:定年退職後には、およそ7万時間という現役時代と同等の長い時間があります。それを楽しく明るく有意義にすごさなければならない。そのために何があるかと言うと、林さんの話にあったとおり、社会と交流し、社会の課題解決に関与すること。それで生きがいを感じることができればシニアは幸せになり、元気に活動することで医療費等の社会コストが減り、コミュニティの活性化など社会貢献もかなって、一挙三得にも四得にもなるわけです。
ですから、このような社会の実現に向けて、さらに多くの組織・団体と連携・協働を生み出していきたいと考えています。
それと同時に、私たちはRSSCのこの生涯学習のしくみを「立教モデル」と言っているんですけれども、この「立教モデル」を全国に広めて、日本中でアクティブシニアをもっともっと社会に送り出し、さまざまな分野で社会貢献を果たしていってもらえるように努めていきたいですね。

:立教大学がRSSCの定員を200名、300名と増やしていけるかと言うと、現役学生との共通のキャンパスで学ぶということを考えれば、それは非常に難しい。ですから、この生涯学習の仕組みを、他大学にも拡がっていくよう、さらに進化させていくことが、これからは大切になると思います。

坪野谷:高齢化社会の到来に対して、大学として社会的責任をどう果たすのかということでRSSCをつくったわけですから、真にアクティブシニアの生涯学習のニーズ、社会の要請に沿った学びの方向付けと環境作りに最大限注力していかなければならない。現在の本科生100名、専攻科生50名という規模、10名程度のゼミの構成というのは、講義レベルの維持・向上のためにも、また、受講生間の距離感も、先生との距離感も、理想的というかちょうどいいバランスなんですね。これらはアンケート調査で本科生の94%が「入学して良かった」との感想を述べている大きな要因でもあるんです。

:アクティブシニアが社会的戦力として、日本社会の課題解決のために積極的に前線に出ていくような動きを作っていきたいのですが、それに参加したいという動きをつくっていきたいけれども、坪野谷先生の話のとおり、それを実現していくには立教大学RSSCだけでは勿論難しい。RSSCのこれからの活動状況や成果を外部に積極的に発信して、横の連携を広めていければと思っています。

坪野谷 雅之(つぼのや・まさゆき)
立教セカンドステージ大学教員・サポートセンター副所長

1965年立教大学経済学部卒業。金融機関で42年間の勤務を経て、立教大学総長補佐としてRSSCの設立に携わり、2008年4月の開校とともに教員を務める。専門は「国際経済と金融」「生きがい創造論」。

林 俊雄(はやし・としお)
立教セカンドステージ大学専攻科在学・サポートセンター「アクティブシニア活動倶楽部」共同代表

1977年早稲田大学理工学部卒業。情報関連企業で33年勤務、起業等を経て、2013年RSSC本科入学。

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