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エコッツェリア協会は、アスリートのデュアルキャリア形成に取り組んでおり、その活動の一環でインターンシップとして現役アスリートの受け入れを行っています。
今回の対談相手は、そのインターン参加者であるカターレ富山のミッドフィルダー、佐々木一輝氏です。同時期からインターンを開始し、定期的に3×3Lab Futureに足を運んでいる府中アスレティックFCレディースの吉林千景氏と自身を比較し、「現地でいろんな体験をして、どんどん成長している様子が羨ましい」とこぼす佐々木氏。しかし話を聞けば、富山で着実に足場を固めている様子が伺えます。佐々木氏のこれまでのアスリートとしての活動とこれからの展望、そして3×3Lab Futureでのインターンとデュアルキャリアについて聞きました。
田口 この対談シリーズは、3×3Lab Futureに関係するキーパーソンの方々に、これまでのこと、現在のこと、未来のことを伺うものです。今日もまずは、佐々木さんのこれまでのアスリートキャリアからお聞きしたいです。最初にひとこと、自己紹介をお願いします。
佐々木 僕はどうも話すのが苦手でして...。田口さんがお相手なら話せるかな(笑)。現在30歳で、プロサッカーチーム、カターレ富山の選手として活動しています。
田口 サッカーは小学生から始めたんですよね。
佐々木 ええ、6歳からですね。サッカーをしている友達が周りに多かったことも影響しています。徳島市のはずれのほうで、サッカー少年団に入っていました。
田口 徳島といえば、高校野球が強いイメージがあります。
佐々木 そうですね。でも実は、サッカーも強いんですよ。県内で2つ強い高校があって、全国を競っていました。
田口 そうなんですね! サッカーを始めて、最初からプロを意識していたんですか?
佐々木 今でこそ徳島ヴォルティスがありますが、当時はプロを間近で見ることもなかったので、「なりたい」というよりは、「憧れ」でしたね。僕の通っていた中学校ではサッカー部がなかったので、外のクラブチームに所属しました。文武両道なクラブチームで、学校の成績をコーチに見せて、成績が悪いと説教されるようなチームでした。
その後高校は、全国大会への出場回数が県内一で、連続出場記録もあった徳島商業高校に進んで、2、3年生のときには全国大会に出場しました。
田口 そのあたりでプロを意識するようになったのでしょうか。
佐々木 それが、最後の選手権で完全燃焼してしまって(笑)、サッカーは辞めようと思っていたんです。普通に大学を受験して、サッカーは趣味でいいやと。でも、ある大学からスポーツ推薦のお話をいただいて、求めてくれるなら...と、サッカーで進学することになりました。
田口 大学のときには代表経験もあったんですよね。
佐々木 大学1年生のときに、U-18代表に選ばれました。当時、8対8のミニゲームで、始まった瞬間に裏に抜けてゴールを決めたことがあるんです。おそらく、そのプレーが結構インパクトが強かったんじゃないかと思います。そのくらいしか心当たりがない(笑)。
田口 ずっとフォワードだったんですか?
佐々木 高校まではずっとフォワードです。僕も好きだったし、結構点を獲れるほうだったので。
田口 日本人のフォワードは、なかなか自分で点を決めに行かないという話も聞きますが、その辺はどうでしょうか。
佐々木 やはりエゴの強い選手は前に行きますよ。ただ、前に出過ぎるようになると、王様みたいになってしまうこともあります。そうすると強くはなるんですが、チームとしてのバランスは悪くなる。周りも萎縮しちゃいますしね。
田口 このアスリートインターンシップにもご協力いただいているB-Bridgeの槙島さんのつながりで、プロ野球の選手とお話しする機会があるのですが、元野球選手の方が面白いことを話していました。小中学生くらいで体が大きくなると、それだけで周りから飛び抜けてしまうけど、そのために技術を磨く機会を失ってしまう。だから、それくらいの時期は少し小さいくらいが良くて、そのほうが技術や心を磨き、成長を続けることができると。トップとして残る選手にはそういう方が多いそうですね。
佐々木 そうですね、分かる気がします。
田口 その後、代表を経験して、プロやフル代表を目標にしたのでしょうか。
佐々木 実はそうはならなくて(笑)。U-18代表は高校3年生が中心ですが、その中に間違いなくプロになるなというすごい選手がいた。それを見た時に、自分との差に心がポキリと折れてしまったんです。
大学に入ると、4年生と明らかに体格も違う。フィジカルの面でもついていけないとなると、そこでも心が折れてしまいました。大学ではサッカー以外の楽しみも知るし、大学1、2年生のときはサッカーに情熱をあまり傾けられなくなっていたんです。スポーツ推薦で入学していなければ辞めていたと思います。
田口 逃げられない、ギリギリの状況を経験するのは大事なことだと思います。自分の意思ではどうにもならない、その枠の中で進むしかないというギリギリの状況。それで、大学3、4年生で情熱は戻ってきたんですか?
佐々木 はい。大学3年生のときに、今所属しているカターレ富山の練習に参加する機会があったのですが、そこで初めてプロの凄さを目の当たりにしました。その練習で、自分のプレーがそれなりに通用すると感じられたことも自信となり、初めてプロになりたいと意識するようになりました。多分、そこでまったく通用していなかったら、プロになろうとは思わなかったでしょうね。その成功体験があったから、もう1度サッカーをちゃんとやろうと思えるようになったと思います。
田口 その後、どのような経緯で徳島ヴォルティスに入ったのですか。
佐々木 関西大学リーグに徳島ヴォルティスのスカウトの方が見に来ていて、そこでお声がけいただいたのがきっかけです。
田口 チームメンバーの入れ替えはどんな感じなんですか? 毎年、それ程大勢は入団しないですよね。
佐々木 だいたい選手は30人くらいで、契約満了や移籍などで、毎年10人ほど抜けていきます。新規はそれを補う程度の人数。僕の世代は、大卒で4人入団しました。J1だと、あまり入れ替わりはないかもしれませんが、J2、3はそれくらいの規模感で入れ替わっていますね。育成期間として、若手選手がJ1からJ2のチームに入ることもあります。
田口 それから、徳島ヴォルティスに4年、カターレ富山に移籍して現在に至る、と......。
佐々木 今年で5年目ですね。
田口 ちょっと目先を変えて、地域のことをお聞きしたいのですが、市民の皆さんのサッカーへの期待や応援はどう感じていますか。
佐々木 サポーターの方々の応援は、結構チームの成績を左右すると思います。徳島ヴォルティスは、J1に上がっている間はたくさんの方が応援に来てくださいますが、J2に落ちると半分くらいになってしまいます。これは富山も同じですね。
田口 ビッグチームと試合すると、きっとまた雰囲気も違いますよね。
佐々木 浦和レッズと試合したときは、観客の声援が圧倒的で、自分の声もチームの声も聞こえない。自分のプレーで数万人の観客の一喜一憂が変わる。いい経験をさせてもらったと感じています。
田口 ビッグチームを目指そうという気持ちもありましたか?
佐々木 最初に入ったチームが出身地である徳島ということで、すごく地元で大事にしていただいたんです。だから、他のチームに行こうという気にならなかったんですよね。でも1年目は、いい意味でもう少し厳しいチームに入るべきだったかなと今となっては思います。
田口 カターレ富山はいかがですか。
佐々木 やはり雰囲気は違いますね。徳島では、大事にされる分、掛けられる期待も大きく、プレッシャーが結構あったんです。頑張らなくちゃと。富山に来てからは、少し楽な気持ちにはなったかもしれませんね。
田口 その後、2020年の夏からインターンに参加してもらっていますが、そのきっかけについて教えてください。
佐々木 最大の理由はB-Bridgeの槙島くんですね。大学のサッカー部の後輩で、彼がアメリカに行っている間も何かと連絡をくれて、仲が良かったんです。
また、引退していく選手を見ていると、辞めた後にみんな行き詰まっているんですよね。スッと次のキャリアに移れる人はまずいない。そういった選手たちの姿を見たことをきっかけに、今のうちに何か行動したいと思うようになりました。不安をどうにかして緩めたいという思いがあって、そんな話を槙島くんとしていたら、インターンをやってみないかと声をかけてもらいました。
田口 本当なら、私たちも富山にお邪魔したいし、佐々木さんにも3×3Lab Futureにもっと来ていただく機会を作りたいのですが、コロナ禍でそれもままならない状況で。オンラインイベントへの参加や、いろいろな人とお話する中で、何か参考になっていることはありますか?
佐々木 今までサッカー中心で生きてきたので、さまざまな業界の方とお話することで視野がすごく広がっているなと感じています。多少なりとも人前で話せるようになったのも、このインターンのおかげです。
田口 イベントなどに参加してもらっていると、目の配り方や気の使い方が、他の人とは違う、さすがアスリートだなと思うことがあります。人前で話してもらうのも、勇気を振り絞ってのことかもしれませんが、続けていればだんだん慣れていきますし、そういう経験から得たものをどんどん発信して、他のアスリートにも伝えていただけたらと期待しています。 一方で、もっとこうしたい、など気になっている点はありますか?
佐々木 視野が広がって、ビジネスなどの新しい世界があることは分かった反面、まだそこに自分が上手く入り込めていない気がしています。その原因が自分にあるのか、オンラインでのコミュニケーションの難しさなのか...。同時期にインターンを始めた(吉林)千景ちゃんを見ていると、場慣れしているというか、そこに馴染んで成長しているのを感じるんです。そういう点では悔しさを感じています。
田口 吉林さんには、定期的に3×3Lab Futureに来てもらって、ミーティングなどにも参加してもらっているので、経験している内容は違うかもしれません。コロナの影響は引き続きありますが、この先、お二人とは何かプロジェクトを一緒にやりたいと考えています。
佐々木 ぜひご一緒させてください。早く3×3Lab Futureにも行きたいです!
田口 せっかくのご縁なので、このつながりを大事にしていきたいですね。槙島さんから佐々木さんにつながったように、私も人間関係がつながって今に至っていますから、一つひとつを大事にしていきたい。 アスリートのデュアルキャリアは、やればやるほど難しい問題があるのも見えてきました。現役時代はプレーヤーとして一直線に突っ走る必要がある。その一方で、どこかで引退も考えないといけない。いつ、どのようにバランスを取るのか。アスリートの皆さんと一緒に考えて取り組んでいきたいと思います。
佐々木 チームの選手も、僕がインターンをやっていることに興味を持っています。「どんなことをやっているの?」と聞いてきますし、何をやっているかは分からなくても「すごい」と感じているようです。こういう選手が多いのだから、県内の企業でもインターンの機会を見つけられるのではないかと、知り合いを通じて話を聞いているところです。今は自分ひとりの活動ですが、タイミングを見て、クラブで取り組める活動にできたらいいな。それを目標に、また1年動いていきたいと思います。
田口 いいですね。Jリーガーは憧れのかっこいい存在ですから、現役中も、引退してからも輝き続ける場があると良いなと思います。では、最後にアスリートの皆さんにメッセージをお願いします。
佐々木 競技者は、いつかは現役を辞めなくてはならない時が来ます。競技によって違いがあって、現役時代に別の活動をする時間を取れない選手もいるかもしれません。でもサッカーのように、多少でも時間を作ることのできる人は、その時間を有効に使うべきだと思いますし、すべては自分次第です。僕自身もまだまだですが、しっかりと取り組んで行きたいと思います。
田口 時間を有効に使うのも難しいですよね。佐々木さんはどのように取り組んでいますか。
佐々木 僕の場合は、このインターンが有償という形なのが大きいと思います。お金をいただく以上、責任がある。無償のインターンだったら、気持ちが全然違っていたと思います。
田口 分かります。有償だからこそある意味逃げられない枠があるというか、そういった環境下であることによって成長する側面もありますよね。時間の使い方は誰にとっても難しい問題ですが、このインターンは限られた時間との向き合い方を考える活動にもなるかもしれませんね。今日はありがとうございました!
――同席していた吉林氏は、佐々木氏の話を聞いて、改めて「アスリートのデュアルキャリア」の難しさを「アスリートと言っても一人ひとり異なるし、デュアルキャリアはアスリートの問題であると同時に人としての問題でもある」と指摘し、今後も掘り下げていきたいと話していました。アスリートもエクストリームユーザー(プロフェッショナル層)のひとつの典型であり、そのデュアルキャリアの形成から、他の職業にも通じる何かが見えてくるかもしれません。今後のお二人の活動に期待です。