シリーズコラム

【さんさん対談】"外"を知ろう――新世代の担い手へ

伊藤奎祐氏(KDDI株式会社 経営戦略本部経営企画部)×田口真司(3×3Lab Futureプロデューサー)

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3×3Lab Futureのテーマのひとつに「若者の育成」がある。2000年以降、ビジネスパーソンが企業の外へ出て新たな道を探したのがこの20年の動きであったとしたら、次のフェーズとして、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアで新世代の担い手育成に取り組むべき時が来ているのではないか。そんな思いから生まれたのが、2018年から始まった大学生対象のプログラム「丸の内サマーキャンプ」である。サマーキャンプは2019年から高校生版も併設し、以降名称も新たに「丸の内サマーカレッジ*¹」へと進化。コロナ禍で、他プログラム同様オンライン化が進んでいるものの、リアル開催にも増して若者を発奮させている。

今回のさんさん対談では、2018、19年のサマーキャンプに参加し、3×3Lab Futureでのさまざまな活動へ積極的に参加いただいている伊藤奎祐氏(KDDI)が、「その後」を田口と語り合う。この対談は、若者の成長ストーリーでもある。

*¹「丸の内サマーカレッジ(旧サマーキャンプ)」とは、大丸有エリアを舞台に、高校生・大学生が様々な社会人の講演を通してその生き方に触れることで、今後の未来のヒントを掴むきっかけを提供するプログラム。

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働き方改革の社内の浸透に取り組む

働き方改革の社内の浸透に取り組む

田口 伊藤くんは大学生のときに「サマーキャンプ」に参加してもらってからのお付き合いで、現在は就職して2年目ですよね。今日は、社会人になってからの変化や、3×3Lab Futureがどのように影響しているのか、そんなことを聞いてみたいと思います。

伊藤 対談にお呼びいただいて嬉しいです。僕は大学卒業後KDDIに入社して、現在は、経営戦略本部経営企画部という部署に所属しています。この部署の取り組みのひとつに、「KDDI新働き方宣言*²」の具現化があります。「新人事制度」「社内DX」「新働き方宣言」の3本柱を、いかに実現していくかということに挑戦しています。
また、僕は今、経営理念や施策の全社浸透活動を行っています。例えば、社長が全国にある支社の社員に向けて経営施策を発信するイベントの企画・運営をしています。

*²「KDDI新働き方宣言」とは、KDDIが新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけとしたニューノーマル (新常態) 時代において、社員一人ひとりが時間や場所にとらわれず成果を出す働き方を実現することを軸として策定した取り組み。

田口 学生時代にやりたいと思っていたことには近いんですか?

伊藤 新規事業開発、オープンイノベーションといったことに挑戦したい気持ちがあったのですが、今の業務は組織の中を知る良い機会だと思っています。

田口 「組織」か。会社組織について、なにか感じることはありましたか? 例えば学生のころは、部活動やサークルという場で活動することが多かったと思いますが、そういった組織との違いなどは感じていますか?

伊藤 僕は体育会系で、高校のときはラグビー、大学では部活ではアメリカンフットボールを、学外のクラブチームではラグビーをやっていました。なので、組織といえば"上下関係が厳しく、先輩が言うことは絶対"というような印象があったのですが、会社に入ってその印象は変わりました。上の考えを下まで浸透させることはなかなか難しいし、独自の考えを持っている社員もいます。

それは、新働き方宣言を社内に浸透させる活動でも感じることです。コロナ禍でも会社は増収している状況もあって、業務以外の別の取り組みを実施することに違和感がある方も少なからずいらっしゃいます。そこを納得して取り組んでもらえるように働きかけることが僕らの仕事ですね。

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田口 部活だったら、例えば「全国大会優勝」みたいに目標が共有化しやすいじゃないですか。会社の場合はそれが難しいと思うのですがいかがですか?

伊藤 そうですね。会社に入れば目的も共有化されていて、会社に対する忠誠心も自然に醸成されるものだと思っていました。

僕は今の部署になって、社長を含めボードメンバーがいるフロアで仕事をするようになりましたから、経営層の考えやビジョンを身近に聞くことができるんです。しかし、これは特殊なケースで、他の部署の方はなかなか経営層の考えを直接聞く機会も少ない。だからこそ自分事化することにハードルがあって、主体的になることが難しいのかもしれません。

田口 今の伊藤くんのポジションは、経営層から遠い部署のことも考えないといけないですよね。もし、さまざまな部署に経営層の思いを伊藤くんが届ける場面があったとして、しっかり自分の言葉で話すことはできそうでしょうか?

伊藤 自分の言葉で伝えることで人に動いてもらうには、まだまだ経験を積んでいかなければならないと感じています。自分自身が、自信を持って伝えられるようになる必要がありますね。

田口 自分の言葉で、というのは、今伊藤くん自身がどのくらい考えを咀嚼できているかという質問の裏返しでもあるんですよね。もし自分に響いていれば、現場に行って話しても共感してもらうことができるんじゃないかな。主体的に取り組める人とそうでない人がいるといったことに気付けたことはとても良いことだと思うので、もう少し伊藤くんの個性を出したり、外のことを知るようにするときっと意見に深みが出るのではないかという感想を持ちました。その部分は、3×3Lab Futureでの活動で培われた力があると思うので、今後に期待しています。

「新しいことをやりたい」からサマーキャンプに参加、そして3×3Lab Futureへ

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田口 では、過去のことを聞きたいと思うのですが、どんな学生時代を過ごしましたか?

伊藤 高校時代の生活は、大きく分けると3つの動きがありました。ひとつはラグビー部。もうひとつが大学受験に向けた勉強。それから通学。この3つで構成されていました。

田口 通学もポイント?

伊藤 神奈川から東京の高校に通っていたので、片道1時間40分もかかるんです。その時間を、いかに体力を削らずに過ごすかということが大事なポイントでした。あの制服の高校はこの駅で降りるから席が空くとか、長く同じ電車に乗っているとそういう動向が分かるようになるんですよね(笑)。

ラグビーは都大会ではシード校に入るレベルで、ポジションはフォワード。大学に入ってからは、アメフト部に入りました。

田口 ラグビーとアメフトの両方をやってみて、違うところと共通しているところはどんな部分がありましたか?

伊藤 共通しているのはフィジカルが問われる点ですね。決定的に違うのは、仕事の例でいうと、アメフトはジョブ型で、ラグビーはメンバーシップ型。アメフトは、守備、攻撃、走る、キックするというようにポジションが専門化していて、他のボジションの細かいプレーのことは実はよく分からないことも多いんです。一方でラグビーはサッカーやバスケットボールに近くて、ベーシックな技術はある程度全員持ったうえでポジションが分かれていて、15人全員が皆の行動を理解して動くという違いがありますね。

田口 以前スポーツ関係の方が、ラグビー出身の人のほうが会社組織には馴染みやすい傾向にあるとおっしゃっていて、そういったポジションのことが関係しているのかもしれませんね。

伊藤 そうですね。ラグビーは助け合う思想も強いし、組織的な活動には向いているかもしれません。アメフトは、良くも悪くも自分のことを徹底的にやる。誰かのミスもあまり気にせず、割り切りがあるような気がしますね。

田口 ジョブ型・メンバーシップ型という例えが分かりやすくていいですね。どちらが良い悪いではないですが、両方取り組むことができたのは伊藤くんにとって良い経験だったのではないでしょうか。

ここからは我々とのつながりのお話ですが、まずサマーキャンプに参加しようと思ったきっかけは何でしたか?

伊藤 当時、就職活動がうまくいっていなくて落ち込んでいて。そんなときにサマーキャンプの開催案内を偶然見つけて、やったことのないことに挑戦してみようと思って飛び込んでみました。

田口 飛び込んでみての感想はどうでしたか?

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伊藤 非常に優秀な参加者の方々が多いことに驚いて、ワークショップなどで他の学生とお話しすることでそれがよく分かりました。講師では、山口豪志さん(事業戦略家)、桝本博之さん(B-Bridge International, Inc.)のお話が印象に残っています。すばらしい行動力をお持ちなところが、当時の僕には衝撃的でした。

田口 その後も、3×3Lab Futureにはよく来てくれていましたが、それはなぜですか?

伊藤 まず、純粋に居心地が良かったんですよね。週に3日は来ていたと思います。普段会わない人に出会えるし、本当にさまざまな業界の方がいらっしゃって面白い。世の中をどう良くしていくかを真剣に考えていて、損得勘定抜きで動く方々ばかりだと思います。

田口 イベントのお手伝いもよくしてくれていましたよね。サマーキャンプがなくても、いつか3×3Lab Futureには来ていたかもしれないですね。

伊藤 きっとそうだと思います。とても大切なご縁です。

組織の"中"と"外"でのつながりを持ち続ける大切さ

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田口 実は今日お話を聞いていて、すごく言葉を選んでいるなと思ったんです。もちろん大人として大事な点ではあるのですが、学生を経て企業人になったという言い方もできるし、自分らしさをなかなか発揮できていないとも言える。

ここで少しアドバイスチックなことを伝えると、以前のように「外」へ出てほしいと思います。今、会社組織の経営層に近いところで仕事ができるというのは、すごい財産になる。同時に、外での多様なつながりも絶やさないようにすると、いつか点と点が線になる瞬間があるのではないかと思うんです。組織の中と外の両方で強いつながりを持てる人は少ないと思うので、大事にしてほしいですね。

伊藤 まさに、3×3Lab Futureで出会った人たちとのつながりは僕の財産になっていますし、これからはそれを次のアクションに結びつけていきたいと思います。

田口 最後に、これからの「社会貢献」のことを聞いてみたいと思うのですが、学生時代は「つなぐ存在になりたい」と言っていましたよね。その辺りは何か変化がありますか?

伊藤 その思いは今も変わっていません。3×3Lab Futureに集まっている方々は積極的に外へ出ていくし、どんどん人ともつながっていくじゃないですか。僕もそういった動きは止めないようにしていきたいと思いますし、会社内でも人とのつながりを大事に動けるようになりたいと考えています。

田口 3×3Lab Futureのような集まりは、フラット型のコミュニティ。それを同じように会社組織で実現していくにはハードルがあるかもしれませんが、そこを変えていくには、大きくいうと2つやり方があると思います。ひとつは外部の力を使うこと、もうひとつは内部で行動変容させて理解してもらうことですね。

伊藤 実は僕、「ONE JAPAN」という大企業の若手・中堅社員を中心としたコミュニティの、イベント運営のお手伝いもしているんです。ONE JAPANは、日本を変えるには大企業が変わるしかないという考えから、若手有志が集まって結成した団体です。メンバーはパラレルキャリアでNPO活動をしたりしているのですが、そういう人たちの考えに触れると、もっと社内にイントレプレナーシップを持った人が増えるといいのではないかと思うようになりました。組織の基盤安定に努める人も必要ですし、会社全体がアグレッシブになる必要はないと思うのですが、積極的に働きかける若者がいてもいいのではないかなと感じています。

田口 伊藤くん自身はどちらになりたいですか? 守るほうか変革者か。

伊藤 性格的には保守的で、変革を好むタイプではないんです。でも、サマーキャンプでつながったB-Bridgeの桝本さんとのご縁からシリコンバレーに行って、GoogleやAppleのような企業を見ると、日本にはそういった変革を起こすサービス、企業が少ないのは残念だなと感じました。少なくとも、僕の子どもたちの世代が今の水準を保って生活していくためには、日本にも新しい産業を起こす必要があると思います。そう考えると、自分も変革する人間になっていく必要があるのではないかと思っています。

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田口 なるほど。大きな企業に入ってプロジェクトを任されて、試行錯誤の日々が続いていると思います。そこで活動を広げる力を磨いて、ときには外にも目を向けながら躍進してほしいですね。我々はずっと伊藤くんの仲間なので、今後も気軽に3×3Lab Futureに寄ってもらえるとうれしく思います。

伊藤 そうですね。3×3Lab Futureの方々に刺激をいただきながら、僕自身も与えられる存在になってきたいと思います。ぜひ、また立ち寄らせてください。

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伊藤奎祐(いとう・けいすけ)

神奈川県出身。上智大学卒。高校時代はラグビー、大学時代はアメリカンフットボール部に所属。2018年、19年の「丸の内サマーキャンプ」に参加後、個人会員資格を得て、3×3Lab Futureのイベントやコミュニティに参加するようになる。イベントに参加するだけでなく運営側の手伝いなども行いながら、さまざまな人とのネットワークを構築。その後、大手町にあるInspired.Lab に入居する株式会社アドライトでインターンシップを行う。2020年KDDI株式会社に入社。現在は経営戦略本部経営企画部で、経営理念や施策の全社浸透活動に取り組んでいる。

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