まちづくりを進めるなかで、その主体となる地域コミュニティの存在は不可欠だ。しかしいまや、ライフスタイルの変化や情報技術の発達などにより、コミュニティの姿は大きく変容しつつある。地域にしばられることなく、多様化する現代的コミュニティは、どのようにして創出されるのか。また、その役割とあり方について、コミュニティ・デザインを実践的に手がけてきた小泉秀樹さんに話を聞く。
―まずは、現代的コミュニティの特徴と役割について、お聞かせください
コミュニティ論については、すでに100年以上にわたる議論があり、そのなかで、従来は、ヨーロッパにおける農村コミュニティのように、特定の地域に住んで相互扶助を行う共同体のことを、コミュニティと呼んできた歴史があります。一方で、企業やサークルのように、ある機能や目的を持った集団はコミュニティとは区別して、アソシエーションと呼んできました。
ところが最近では、ICTの発展やNPOといった新しい活動組織が生まれたことで、コミュニティと呼ばれる組織も多様になりつつあります。1990年代以降、インターネットの普及とともにメーリングリストを活用した「コミュニティ」が増えていき、阪神淡路大震災の際には復興支援やまちづくりにおいて大きな役割を担うことになりました。そして今では、アトピーの子どもをもつ母親たちのネットワークも「コミュニティ」と呼びますし、SNSのなかで同じ問題意識をもつ人びとの集まりも「コミュニティ」と呼ばれるようになりました。企業や自治体も、それ単体ではアソシエーションであっても、複数集まれば「コミュニティ」と呼ばれることもあります。つまり、従来からコミュニティとされてきた自治会のような組織だけでなく、特定の地域に縛られることなく、同じ関心をもち、共助する人たちの集まりもコミュニティに含まれるようになった。それらを総称して「現代的コミュニティ」と呼んでいるわけです。
私自身が関わっているまちづくりで活動している「コミュニティ」も、自治体や自治会だけではなく、それが地域に根ざしていたとしても、より広がりをもって活動する組織を含んだものとなっています。こうした新しいタイプの「コミュニティ」がまちづくりで果たしている役割の一つは、埋もれていた地域の資源を発掘するなど、新しい価値の発見や創造で、それを既存の「コミュニティ」に伝え、共有するように働きかけることで、協働的な活動を展開することです。さらに最近では、まちづくりの主体となったり、ソーシャル・ビジネスを展開したり、「コミュニティ」が社会を動かす役割を担うところまで成長しつつある、と言えるでしょう。
―そのような現代的コミュニティを意図的に生み出し、デザインすることは可能なのでしょうか?
そうした試みを、すでに十数年前から行ってきました。人為的に多様な組織が連携協働する現代的コミュニティを創出し、それを地域や社会の課題解決の手段や担い手として育み、さまざまな取り組みにチャレンジする、そうした現代的コミュニティ・デザインを1990年代後半から行ってきたのです。こうして創出されたコミュニティは、地域の価値を高めるだけでなく、マーケティングやビジネスにおいても、期待される存在となっています。
また、企業、例えば住宅メーカーなども、家を売っておしまいではなく、地域コミュニティを育てることで、地域全体の付加価値を上げ、結果として商品価値を高めることにつなげることができるでしょう。最近では、企業がSNSを活用して、新たなコミュニティを形成するといった事例も多く見られるようになってきました。
―そのようにしてコミュニティをデザインする際に、何が重要なのでしょうか?
たとえば、私が十数年前からまちづくりに関わってきた埼玉県深谷市では、市民参加によって市のマスタープランづくりを行ってきました。その際、同じ関心をもった人同士をグルーピングし、ワークショップによるグループワークを実施しています。そうすることで、関連するナレッジを相互に提供し、学習することができる。サポートする側も、その人たちが欲する情報を戦略的に提供することが可能になる、というわけです。
一方で、さまざまな立場の人をカップリングすることも重要です。「農あるまちづくり」であれば、関心のある市民から農業者や生産者、自治体の農業振興課の職員など、立場の違う人たちでグループを構成します。この人たちはマスタープランの策定に関わるだけでなく、実際のまちづくりのプレーヤーとして機能していく。さらにそこからスピンアウトして、実践的な活動が生まれ、新たなコミュニティへと育つこともあります。これがすなわち、コミュニティ・デザインの一つの手法です。マスタープラン策定の中にグループワークを盛り込む意味は、まさにそこにあります。
正直言うと、当初、こうした考え方はまったく理解されませんでした。少し前までは住民参加と言っても、せいぜい専門家がつくったプランを住民に説明して、意見交換をする程度で終わっていました。しかし、まちづくりにおいてより重要なのは、プランをつくることよりも、実際にそれを動かしていく実行力のあるコミュニティをつくりあげていくことなんです。
―その際、グループワークを円滑に進めるようなファシリテーターの存在が必要なのでしょうか?
はい。能動的にコミュニティを形成していくためには、そこに集まった人びとのニーズを理解し、寄り添いながら、必要なリソースを提供していくという役回りのコーディネイターやファシリテーターの存在は不可欠です。彼らにはそれなりの専門性とファシリテーターとしての手腕が求められることになります。
―グループワークはどのようにして行うのでしょうか?
まずは、相互に情報をやり取りし、共通の課題や到達すべき目標像を掲げ、ビジョンを共有していく必要があります。次に、実際にどう課題解決に取り組むのか、対話を重ねていく。そこでさらに互いにリソースを提供しあうと、イノベーションが生まれます。共有することで、「あぁ、こういうやり方があったのか」という、発見へと結びつくんです。
ただし、イノベーションを引き起すためには、いくつかの条件がある。一つは、その対話の場のデザインです。皆がポジティブに自由に意見を言い出せるような雰囲気でなければなりません。また、前提条件に縛られることなく、批判するのではなく、可能性を探求する方向で対話を進めていくことが求められます。また、イノベーションを生み出すような空間デザインも必要です。当然、対話は1回きりではすみませんから、回を重ねるごとに段階的にプロセスを踏むような、トータルなプロセスとコミュニケーションのデザインも必要になります。
―グループワークには、何人くらいが最適ですか?
ワークショップ自体は、多いときには何百名におよぶこともありますが、一つのグループは10名以下が望ましいですね。社会心理学などでも、一人ひとりの発言を促すのに最適な人数はそのくらいだと言われています。一方で、少なすぎるのも問題です。2人ではイノベーションを引き起すことは難しいので、6名程度がいい。違う考えやナレッジをもっていたり、スタンスの違う人たちが集まることで、意見の対立が起きるということが、じつは重要なんです。対立点を解決することは、まさにイノベーションそのもので、そうした過程を経ることでまちづくりやコミュニティ活動の公共性が高まるわけです。
次のステップとして、議論の内容を外に対して情報発信し、オープン化することで、新たなリソースを取り入れていけるかどうかが、さらなる発展の鍵を握っています。グループに外から新たなプレーヤーが加わる、あるいはグループからスピンアウトして新たなコミュニティが生まれる、そうしたダイナミズムがさらなるイノベーションを生み出すからです。これがいわゆる、「オープン・プロセス」と呼ばれる手法です。
―大丸有でも、テーマ型のコミュニティである朝大学などの取り組みが多数あります。お話では同種の人だけの集まりでは、イノベーションは生まれにくい、ということですね
ええ、やはりイノベーティブであるためには、違う分野の人、違う関心をもつ人との交流が不可欠なんですね。
そのために、活動内容をテキストや画像、動画などでよりリアルに伝えることができるSNS等の活用が有効でしょうね。対面でのやりとりはもちろん必要不可欠ですが、SNS等も併せて活用すると、情報共有をより速く密にすることができるし、深化の速度も格段に早まります。さらに、外に対する情報発信もでき、新しいプレーヤーを呼び込むことができる。そうすることで、持続可能なコミュニティが創出できるのではないかと思います。当然、辞める人もいるわけですからね。持続可能なコミュニティ創出のためには、新陳代謝は不可欠なのです。
―そのほかに、コミュニティを持続させていくために、どんなアイディアあるでしょうか?
似たような関心をもつコミュニティ同士で交流を図り、コミュニティの裾野を広げる、というのも有効だと思います。サラリーマンばかりのコミュニティであれば、アカデミアのコミュニティと交流・連携してみるとか、別の地域のコミュニティと交流するというのも手です。
もう一つ、より実践的な試みとして、NPOを立ち上げたり、ソーシャル・ビジネス的なことをやってみるというのもいいでしょう。ボランタリー的な活動をしている人たちにリソースを与え、事業化への手助けをすることで、課題解決の新しい担い手をつくり出すことができれば、社会全体にとっても非常に有用ではないでしょうか。
さらに、コミュニティの人たちが実際に顔を合わせられるような物理的な「居場所」があれば、なおいいですね。起業するにしろ、他のコミュニティと交流するにしろ、やはり自分たちで管理・占有できる場があるというのは大きいと思います。
空間ということで言えば、行幸通りの地下のような公共的なオープンスペースを、市民団体などのコミュニティの活動や表現の場として開放することで、賑わいや付加価値の創出につなげるといったこともできると思います。空間をめぐるコミュニティ・デザインというのも、今後の大きな課題でしょう。
―本日はコミュニティ・デザインの実践的な取り組みとして、さまざまなヒントをいただくことができました。ありがとうございました
1964年、東京生まれ。1988年東京理科大学工学部建築学科卒業。1993年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。東京理科大学理工学部建築学科助手、東京大学工学部都市工学科講師・助教授・准教授を経て現職。専門は、コミュニティ・デザイン、恊働のまちづくり、市民主体のまちづくりなど。共著に『東日本大震災 復興まちづくり最前線』(学芸出版社)、『まちづくり百科事典』(丸善)、『持続可能性を求めて』(日本経済評論社)、『スマートグロース』など多数。