丸の内熱供給株式会社の中水処理施設(撮影:蔦野裕)
丸の内熱供給株式会社の中水処理施設(撮影:蔦野裕)
巨大なオフィス街である大丸有の地下に"水を作る工場"がある、と聞いたらちょっと驚きますよね。日々、ビルから流れ出る雑排水を浄化して、もう一度使える水に戻す――そう、「中水」です。今回は、大手町の地下にある、まるで秘密基地のような巨大な中水処理施設を訪ねました。
その中水を作る巨大施設を運営しているのが、丸の内熱供給株式会社(以下、丸熱)です。丸熱は、大丸有一円の冷暖房を担っており、103施設(ビル95、地下道・地下鉄駅8)に冷暖房用熱源を供給しています。大丸有全体で5つのメインセンターがありますが、その最大のものが「大手町センター」。ここに中水処理施設が併設されています。
地上の入り口から降りること地下2階。最深部は25メートルの深さだそう。フロアに入るとムッとするような熱気が漂います。熱源供給のため、大部分がボイラーの熱、そして、もうひとつ中水処理施設が放つ熱です。
「ばっきブロアなどのポンプの熱もありますが、微生物が汚水を分解するときに出す熱が暑さの原因ですね」
そう説明してくれたのは、丸熱・大手町センターの安田明さん。施設に入ると、目の前に「ばっき槽」があり、ぶくぶくと泡立っています。汚水に空気を入れて、微生物に分解させる処理過程のひとつ。近くにいると、じっとりと汗ばむほどの暑さです。この湿気をたっぷりと含んだ重い暑さは、パンの発酵や酒蔵の空気を思い出させます。もしかすると、これは好気性微生物に特有のものなのかもしれません。
この中水処理施設では、毎日約250トンの雑排水から200トンもの中水が作られ、再利用されるためにビルに戻されています。そして、大丸有一円で行われる夏恒例の「打ち水」で使う水も、実はここで作られる中水なのです。
では続いて、中水がどんな過程で作られていくのか、その流れを見て行きましょう。
元になる雑排水は、主に食堂・厨房から出る水です。これがいったん地下4階の貯留槽に貯められ、その後計量タンクを通って地下3階のばっき槽に流れ込み、微生物によって汚れを分解されます。そこから沈殿槽で汚泥と水に分けられ、水は2つの濾過ポンプ槽へ。さらに細かいゴミ・不純物が取り除かれ、最後に消毒用の薬品を添加して完成です。この時点で、水は無臭、透明度も高くて、普通の水と変わらない見た目です。
「中水は、主にオフィスビルでトイレ用の水として再利用されます。打ち水で使う水は、口に入っても問題がないように、念のためにRO装置という浄化装置で処理したものを使っているんですよ」
ここで処理した中水を打ち水に使うことになったときは「なんていい取り組みだ」と思ったそう。「日ごろは冷房用熱源を作っているのに、少しも涼しい思いはできなくて、モグラみたいに仕事していますが(笑)、打ち水で使ってもらえればこんなにうれしいことはないですね。水道の水はタダで使い捨てしていると思っている人がいまだに多いのですが、大切に再利用されていることを打ち水を通して広く知ってもらいたい」と安田さん。
普通ならそのまま捨てられ、下水になってしまう水を再利用する中水。打ち水はエコな活動として注目を集めていますが、それを支える中水もとても環境に優しいものです。7月26日(金)から8月末まで、大丸有一円で打ち水イベントが開催されます。夏の夕方は、そんなことを考えながら、打ち水に参加してみてください。