In-Kind Donation Teamのメンバーと、プロボノ活動に取り組む面々。左から岩佐氏、細川氏、足立氏、久松氏
In-Kind Donation Teamのメンバーと、プロボノ活動に取り組む面々。左から岩佐氏、細川氏、足立氏、久松氏
日本では伝統的に「良いことは陰で行い、人に言うまでもない」とする「陰徳善事」の考え方が根強くありますが、そのようにあまり自分たちの社会貢献活動を詳らかにしない企業は今でも少なくありません。
今回ご紹介する「モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 伊藤 見富法律事務所(外国法共同事業事務所)」(以下、モリソン・フォースター)は、サンフランシスコに本拠地を置きながら、その点実に日本的で、CSR活動等の社会貢献活動の詳細な情報をあまり外に出してはいませんでした。ワールドワイドではプロボノに力を入れていますが、日本事務所ではどのような活動をしているのでしょうか。近年は、東日本大震災の復興支援に力を入れており、その活動は地道ながら独特の広がりを見せるなど特徴的な点があるようです。そんな活動に携わる所内の「In-Kind Donation Team」の面々からお話を伺いました。
In-Kind Donation Teamは、2011年東日本大震災の発災後、モリソン・フォースターとして援助、支援活動をスタートした中で「コアになって動くメンバーが必要ではないか」という意識の高まりとともに自発的に結成されたチームだそうです。
最初に取り組んだのは、被災地に必要な物資支援でした。「サンフランシスコの本部から、即座に寄付を募ってしかるべきところへ送るよう指示があったが、発災直後に必要なのはお金よりも物資。できるだけ多く集めて、一刻も早く現地に届けようという声が高まった」と説明するのはチームの主要メンバーの一人、久松香織氏。支援先を選ぶのも「一軒一軒電話して尋ねた」というように大変な苦労があったそうですが、フードバンクのセカンドハーベスト・ジャパンとつながりを持ち、物資支援が本格的にスタートしました。
また、並行して取り組んだのがボランティアへの積極的な参加です。「現地に行って手を動かす活動も必要なのではと感じ、2011年5月にボランティア活動を始めた」と話すのは同じくメンバーの足立裕子氏。21名でバスをチャーターし、亘理町でのボランティアに参加。その後も定期的にボランティアツアーを組み、現在も継続しています。2014年は4月に気仙沼唐桑町でワカメの水揚げ作業の手伝い、6月には南三陸町の夏の野菜収穫のボランティアを実施したそうです。
こうした活動をスタートし、継続していけるのは、同所が社会貢献活動に対して積極的であるという背景があります。「For the Public Goodという考え方がとても強い」と久松氏。「プロボノにも積極的で、本業を社会に生かそうという意識は誰もが持っている」そうです。
そして特筆すべきは、モリソン・フォースターが米国において1986年に独立したNPOとしてファウンデーション(The Morrison & Foerster Foundation)を設立して今年で30年になることです。これはアメリカに本拠地を置く法律事務所が有するファウンデーションの中で、最も古いものの1つとのこと。「法律事務所として独立したNPOをもつということは日本では珍しい。慈善団体の活動支援のための寄付を主としているが、災害時には必要な寄付を行えるファンドを用意している法律事務所は世界的に見てもそう多くはない。専任所員もいて、事務所を置く世界の都市を中心とした地域で甚大な被害の災害が起きても、すぐに所員に呼びかけてしかるべき先に寄付をする」とパートナーの細川兼嗣氏は話します。ファウンデーションでは設立以来これまでに、総額約48百万ドルを多くの非営利組織に寄付されたそうです。本業とは別に社会的義務を果たし、社会貢献しようとするマインドセットは、やはり欧米に出自を持つ企業で確立していることが多いようです。
こうした背景もあり、モリソン・フォースターでは復興支援活動に5年間の予算を付けています。「輸送費や通信費などの最低限の経費はどうしても必要。それもすべてボランティアでやるには限界もある。そこに予算を付けてもらうことで、逆に"無駄にしないように"というモチベーションアップにもなる」と久松氏は話しています。
このように、運営面も含めて体制が作られて活動を続けているわけですが、スタートアップの時点から、ユニークな広がりを見せている点にも注目したいところ。
そのひとつが「一石Many鳥プログラム」。ひとつの活動で、2羽の鳥ならぬたくさんの鳥=成果を出そうとする多角的なプロジェクトです。これは、「セカンドハーベスト・ジャパンを通じて、現地の声を直接聞くことができるようになったこと」、そして「たまたまご縁で茨城のごきげんファームとお付き合いが始まったこと」という二つの要素が噛みあってスタートしたものです。
被災地で聞こえてきた声とは、仮設住宅へ移ってから出てきた新たな問題です。それは「特にお年を召した方などが買い物が大変で、満足な食べ物、特に新鮮な野菜を手に入れられないことが多い」というものでした。ごきげんファームは、NPOつくばアグリチャレンジが行う無農薬野菜の栽培と通販を行う取り組みで、障害者雇用にも努めています。
さらに、そこに放射能汚染の問題で仕事を失った漁業関係者の方にお願いして、茨城の野菜を冷蔵トラックで被災地に届けようと思い立ったのがそもそものきっかけだったそう。このアイデアは、漁業の再開等もあり成立しませんでしたが、ごきげんファームの野菜通販を支援で購入し、被災地の希望するご家庭にお届けするスキームとして、「一石Many鳥プログラム」の活動はスタートしました。
「所内でプレゼンしたところ大きな賛同があって、プログラムを組んで実施した。セカンドハーベスト・ジャパンを通じて、仮設住宅に避難されている60家族に毎月1回、野菜を送るようになった」
支援先は、シングルマザー/ファザーのご家庭、震災などによる就労困難者、年金生活者など生活基盤が確立しにくいご家庭。「直接現地の声を聞くことで、新聞では報道されない、さまざまな実情、苦労を知った」と久松氏が語るように、今もなお、岩手宮城では、"順調な復興""復興から地方創生へ"という明るい話題の影に、苦境を誰にも訴えることもできずに、苦しんでいる人々が大勢いるのです。
この活動を続けるうちに支援先のご家庭からお礼の手紙をいただくなど、団体を越えたつながりが生まれ、支援家族との交流会を行うまでになったそう。2014年11月には2回目となる「秋の集い」を石巻で開催、47家族と交流を深めました。こうした顔の見えるつながりが、支援継続のモチベーションにつながっているのかもしれません。
また、ごきげんファームとも、丸の内の事務所内で野菜を販売する「ごきげんマルシェ」を開催してもらうなど、新たな交流も生まれているそうです。
このように活動が活動を、団体が団体を引き寄せるように集まり広がっていく活動の例はほかにもあります。
セカンドハーベスト・ジャパンを通じて紹介されたNPO法人ふうどばんく東北AGAINが、入学試験に備える被災地学生のために食糧支援を行う活動「フードドライブ」へ参加。さらにその活動を通じて、NPO法人キッズドアが行う子どもたちへの学習支援活動へ寄付を行うなど、網の目のように活動と団体のネットワークが広がっています。
そこでもうひとつご紹介したいのが、「日本イスラエイド・サポート・プログラム(JISP)」です。この団体は、災害等によるトラウマケア等の心のケアの支援を行なうために、イスラエルの国際支援団体「IsraAID」のメンバーが中心となって設立した日本法人で、実は「ご縁をいただいて、日本法人の設立・登記手続きは、モリソン・フォースターが行った」と話すのは、チーム内でJISPのサポートを行っている岩佐友紀子氏です。「2011年5月にIsraAIDの方が寄付金のご相談にいらしたことがご縁で、"被災地の方の、心のケアをする"という趣旨にも賛同できたため、イベントのお手伝いなどをするようになった」。JISPの設立・登記手続きをプロボノ活動の一環として受けたというのは、まさに本業を生かした社会貢献活動とも言えるかもしれません。
このJISPとの取り組みは、東北の復興支援から、2015年のネパール地震を経て新たなフェーズに移ろうとしています。12月24日~29日までの6日間、東北沿岸部の高校生5名とネパールで被災した高校生5名が東北に集まり、被災地から新たな未来を築くリーダーを育成する「未来創造プロジェクト Youth Leader Training 2015」が開催されました。これは「被災体験の共有、防災教育、相互理解、復興への歩み」の学び合いの場を提供し、社会に寄与するリーダーシップを育成することを目的にしたものです。単発のイベントではなく、中長期で取り組む予定で、引き続き寄付などの支援を募集しており、モリソン・フォースターも支援活動や運営のお手伝いをしているそうです。
ある評論家はネット上のソーシャルネットワークを「納豆のように広がる」と評しましたが、大切なのは、そのようにひとつの活動に付随して広がっていく次の活動の契機を見逃さず、糸を切らさずに広げていくことなのでしょう。
また、一方で気になるのは所内でのモチベーション維持の方法です。震災から5年経ってもなお所内の意欲が高い理由を尋ねると、「支援のやり方を選択できるメニューを揃えたこと」と久松氏。小さな支援から、大きな支援まで、金額はもちろん活動の範囲も含め、さまざまなメニューを所員に提供したことで、無理なく継続することができたそう。また、「現地から寄せられる生の声、メディアでは紹介されない情報を知ることができたことも大きなモチベーションとなった」と繰り返します。そのほか足立氏は「アメリカからの研修生を受け入れる際に、被災地の現状を見せるといった活動も継続する契機になっている」とも話しています。例えば地方創生では「地域の外」の力が大きいという話がありますが、復興支援活動でも"外からの視点"が重要なのかもしれません。モリソン・フォースターの活動は、継続的な支援やCSR活動に取り組みたい企業にとって、学ぶべき点が多いのではないでしょうか。