大坂ひかりの森のイメージ画
大坂ひかりの森のイメージ画
大丸有の拠点、オフィスを持つ企業のCSR、社会貢献活動をピックアップしてご紹介するシリーズの第4回は、信託業務で環境課題と日本の経済発展を下支えしようという三菱UFJ信託銀行をレポートします。
社是社訓にCSVの理念は含まれているとはよく言われますが、同社は企業理念として社会発展を目指すことを強く意識しています。そこから生まれたのは、中長期の安定した運用を求める年金基金のような機関投資家を視野に入れた、再生可能エネルギーファンドです。その内容と今後の可能性についてお聞きしました。
この取り組みは今年3月に、将来の「再生可能エネルギーファンド」設定を目標として初めて開始したものです。「日本の金融機関の間では例のない取り組み」と説明するのはフロンティア戦略企画部インフラビジネス室の伊東敬氏。年金基金など中長期での安定した資産運用を求める機関投資家向けの金融商材が必要になっていましたが、銀行の一般的な金融商品では短期に限られるなど制約も多いことから、近年信託銀行に金融インフラとしての機能が期待されるようになっていたことが背景にあります。
政府もこうした動きを後押しする中、2年ほど前から信託銀行としての手法を模索する中で、環境課題に貢献する再生可能エネルギーに着目したそう。「再生可能エネルギーは、長期に渡って運用される社会インフラである点、環境にも良い、固定価格買い取り制度がありリスクは限定的という3点の理由で選んだ」と伊東氏。
「再生可能エネルギー事業者向けファンドを、機関投資家向け商品として提供する」といっても、現時点ではファンド組成に向けた投資案件のラインアップを拡充している段階。3月からこれまでに2つの再生可能エネルギー事業へ出資していますが、「機関投資家向けにリリースするまでに5~10件は揃えたい」と話しており、2016年度内の実現を目指します。
金融商品としての細かな説明は同社リリース※をご覧いただくとして、ここで特記すべきは三菱UFJ信託銀行が、"自腹を切って"この取り組みに臨んでいる点でしょう。機関投資家向けに商材を揃えるために、投資先となる再生可能エネルギー事業を集めるとともに、先行して投資も行わなければ成立しません。そのため「(投資先を)厳選して、まずは自社でリスクを取ってエクイティ投資を行った」と伊東氏。「これまで銀行は、事業者へは"ローン"という形で貢献する一方で、商社やメーカーなどがエクイティ出資をしてきたが、銀行法上の論点を整理して、信託銀行でもエクイティ出資できるようアレンジした」と、制度上の問題を超えるなど、大変な苦労をしてまで自腹を切っての出資。なぜそこまでするのでしょうか。
「それが信託銀行の役目だからです。役員もその認識で強く進めています」
信託銀行は、その本質として「社会発展のため通常の銀行ではできないことに取り組む」「世代を超えた資産継承を実現する」「長いスパンで適正な配分を行い、経済に貢献する」という社会的使命を持っていると伊東氏は説明しています。
一方では年金基金等の機関投資家向けの安定した商品を用意し、長期的な資産運用を実現する。また、その他方では「リスクをとってでも普及しなければならない」再生可能エネルギーにテコを入れ、社会全体の底上げを目指すという、まさに三方良しの取り組み。それを、自社でリスクを負ってスタートしている点、なんとも男気にあふれているというべきではないでしょうか。
現時点で成立している案件は、宮崎県のメガソーラーと「大阪ひかりの森」の2件。今後、さらに案件を増やしていきますが、「太陽光に限らず、バイオマス、水力、地熱にも力を入れていきたい」。リスク分散のためにも事業者の数、種類は多いほうが良いそうです。
事業者選定は、技術的なエンジニアリングレポート、不動産鑑定評価、気候地理など発電条件の分析などに基づきますが、「中長期的に社会貢献する資質、資産であるか」をもっとも重要視しており、技術的なものはもとより、「事業者の姿勢」も含むそう。
こうした環境に配慮した事業などへの投資を「ESG投資」と呼びます。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)に配慮した企業を選別して投資することを指しますが、三菱UFJ信託銀行のこの取り組みはまさにESG投資そのもの。「世界、特に欧州では意識が高く、ESG投資が盛んですが、日本ではまだまだ少ない」のが現状です。日本企業が、海外のESG投資の拡大を受けて海外で事業展開する例も非常に多く、「忸怩たる思い」と伊東氏。「事業者の間ではESG投資が盛り上がっているのに、残念ながら日本国内の投資家の間では、ESG投資が中長期的な利益につながることが認知されていない」。
ESG投資が拡大することで、社会は大きく変わると言われています。欧州の再生可能エネルギーへの投資の4割が機関投資家によるものですが、日本でもそのほんの数パーセントが再生可能エネルギーに振り向けられるだけで、エネルギー自給率が大幅に増加することが期待されています。
ESG投資拡大のためには「啓蒙活動しかない」と伊東氏。しかし、その一方で今後5、6年で大きく変わると期待もしているそう。「5年前に比べれば、規制も緩和され、認知も広まっている。この動きが加速すれば、投資家の意識改革も進むだろうし、東京オリンピックまでに流れは変わるのでは」。
信託銀行とは「社会の黒子」と伊東氏は言います。表舞台にはあまり出てきませんが、金融インフラという社会の公器たる役割を果たすもの。しかし「だからこそできることもある」。
黒子である分、企業グループのカラーが色濃く出ることがないために、よくある企業間の商慣習にとらわれることなく、非常にニュートラルな立場で仕事ができるのが信託銀行の特徴のひとつだと伊東氏は言います。「三菱の看板で、(大阪ひかりの森で)他の金融グループとも一緒に仕事ができるなんて信託銀行ならでは。なかなかないことなので、とても楽しく仕事をさせてもらっています(笑)」。
社会的使命を担っているという自負、そしてフラットでニュートラルな立場で仕事ができること。それが三菱UFJ信託銀行の強みであり、社会に貢献できている理由であるのかもしれません。
そんな信託銀行の社会性を詳らかにする「信託博物館」が、三菱UFJ信託銀行に隣接する日本工業倶楽部会館の一階に、2015年10月に開館したそうです。信託の歴史や、小説・映画の中に登場する信託の知識なども紹介されており、意外なほど面白い博物館です。アガサ・クリスティ、エラリー・クィーンのような20世紀初頭の推理小説に結構信託が出ていると知ったらちょっと面白いのでは。機会があったらぜひお立ち寄りを。