©三浦興一
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今年も世界で最もエキサイティングなクラシック音楽祭がやってきます。しかも10回目の記念開催。そう、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン『熱狂の日』音楽祭2014 10回記念 祝祭の日」です。
毎年とても魅力的なテーマでクラシックファンを魅了し、その裾野を広げてきた一大イベント。フランス・ナント発祥のラ・フォル・ジュルネが2005年に東京で始まって以来、爆発的な人気を呼び、一時は来場者が100万人を突破。東京会場のほか、金沢、新潟、びわ湖の3会場でも開催されるようになりました。その経済波及効果は全体で80億円とも100億円とも言われます。
3月15日からはチケットの一般発売も始まりました。今回はその記念すべき10回目の見どころを振り返りながら、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンが、大丸有のまちづくりにどんな影響を与えてきたのか、今後どのように作用するのかを、考えてみたいと思います。
今回、お話をうかがったのは東京国際フォーラムの企画事業部長の三小田(さんこだ)弘樹さん。2005年の初回からラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(以下LFJ)の運営に携わり、今年から統括プロデューサーとして全体運営を取り仕切っています。チケットの一般発売も始まり情報はたくさん出ていますが、三小田さんがお勧めする「みどころ・聴きどころ」はどんなところでしょうか。
「今年は10回記念に加え、日本におけるフランス文化ネットワークの先駆けとなる日仏会館が設立されて90年となり、日仏文化協力90周年の年です。LFJは90周年記念プログラムのひとつとなっています。今までの9回に登場した作曲家たちがそれぞれ友達や先生を連れてきて、パーティをするという趣向で開催します。豪華な巨匠たちが揃い、そのいいところをつまみ食いできるのが今回の一番の特徴です」
いわば「ベストアルバム」のようなもので、ボリュームたっぷり、味わいどころいっぱいというところです。しかし、それだけで終わらないのがLFJです。「巨匠たちのラインアップに加え、普段聞けない珍しい曲が選ばれており、芸術監督ルネ・マルタンの持ち味が出ています」と三小田さん。有名な曲だけでなく、こうした珍しい曲も演奏されるのが、まさにLFJならでは。ベストアルバムの贅沢さとともに、幕の内弁当のような「よりどりみどり」の楽しさにあふれているのが今回の特徴といえそうです。
また、昨年から始まった「参加型イベントにも期待してほしい」と三小田さん。昨年、東京国際フォーラム地上広場で5月2日の夕刻「熱狂のプレナイト」で実施したフラッシュモブ「みんなでボレロ」が大好評。今年はどんな参加型イベントになるか、詳細はまだヒミツですが、あっと驚くような企画になることは間違いありません。今後の情報をしっかりチェックしましょう。
そして、もうひとつ、三小田さんがお勧めしているのが今年3月にオープンする「よみうり大手町ホール」です。「シューボックス型で、木材を多用したクラシックにぴったりのホール。ここで聞くクラシックは一味違うと思います」。また、大手町のホールが本会場に加わったことで「名実ともに大丸有でのイベントになった」と三小田さん。これで有楽町のよみうりホールから、大手町のよみうり大手町ホールまで大丸有全体をカバーする大規模なコンサートになります。昨年は本会場のほかにエリア内で10カ所以上のエリアコンサート会場がありましたが、今年は何カ所になるか。「大丸有全体をぶらぶらと歩いて、クラシック音楽を楽しんでいただければ」。会期中は無料で乗れるシャトルバス「丸の内シャトル」が増便されるので、離れた会場間の移動も楽々です。
街全体を巻き込む一大イベントのLFJ。三小田さんによると、発祥の地・ナントもLFJでまちづくりに成功したそうです。
「ナントは工業地域で造船業が盛んな街でしたが、今世紀に入ってからは衰退し、歴史はあるが魅力に欠ける街だったそうです。しかし、LFJのおかげで人が集まるようになり、今やフランスで住みたい街のナンバーワンになっています」
東京国際フォーラムがLFJ実施の検討に入ったのは2003年でした。当時は施設の運営が財団法人東京国際交流財団から株式会社東京国際フォーラムに譲渡されたばかり。「自社企画事業がほとんどなく、リスクを負うイベントには手を出さなかった」のだそうです。しかし「かつて大丸有はオフィス街・金融街で、土日になると誰もいない街でした。人は文化に集まるもので、それは楽しいものでなくてはなりません。2003年ころにそのような議論が社内で持ち上がっていたところにLFJを知って、社内で大きな議論が沸きあがりました」。
文化がまちをつくり、人を集め、やがては経済を生む。文化はまちづくりの基本です。「大丸有まちづくり協議会の福澤会長が『まちの品格は文化で決まる』と仰いましたが、大丸有は渋谷とも、上野とも違う文化を創らなければなりませんでした。料金・格式、敷居の高いクラシックを"民主化"し、多くの人に親しんでもらおうというLFJは、大丸有のブランドともぴったり合うように思われました」と三小田さんは言います。当時の社長はかの鳥海巖氏(故人)。「最後は『自分で直接見て決める』と仰って、10人ほどのチームを組んで渡仏し、2004年のLFJを直接視察して東京国際フォーラムで開催することを決められました」。
2004年に決定し、翌年の2005年に第1回を開催。なんとも恐ろしいスピードと実行力です。この勢いがあってこそ、LFJは人気のイベントに急成長したのかもしれません。
上質なクラシック音楽を、誰もが気楽に聴ける街。格式ばらずに、さりとてくだけすぎず、程よい上品さの中でクラシック音楽を楽しめるのがLFJの良いところであり、それは大丸有のイメージそのものでもあります。そんなLFJと大丸有を楽しむポイントはどこでしょうか。
「まずは先ほども申し上げたように、街をぶらぶらと回遊していただけければと思います」と三小田さん。「会場は街中のいたるところにあり、新しいビルでも開催されます。有名なところでは、昨年できたばかりのOOTEMORIも会場になります。街の変遷を音楽とともに肌で感じてください」。
また、LFJは街と人を育てるイベントでもあると三小田さんは言います。「街には文化の担い手が必要です。クラシックを身近に感じていただくことで、未来のクラシックファンが育つように意識してプログラムを組んでいます。また、アウトリーチ活動も積極的に取り組んでおり、ゲネプロ(本番前の通しリハ)に区内の小・中学生を招待したり、千代田区内の大学ともコラボレーションを展開しています」。
文化が人を育て、まちをつくる。そのロジックが見えてくると、LFJの楽しみ方も一味違ったものになるのではないでしょうか。もちろん、純粋にクラシックを楽しみに行くのもよし。初夏の大丸有の散歩ついでに楽しむのもよし。とにかく、その場に行って空気を感じることから、きっとあなたの「文化」が始まり「街」が生まれるはずです。