10月18日から24日までの1週間、丸の内仲通りが「歩行者天国」になりました。ちょうど東京都舛添知事の「丸の内をシャンゼリゼに」との発言が重なったこともあり、新聞やテレビのニュースでも取り上げられ、話題になりました。実はこの取り組み、大丸有が一丸となって進めるモデル事業のひとつであったことはご存知でしょうか。街のにぎわいを創出する取り組みであるとともに、大丸有全体を使う"都心型MICE"(MICE=マイス。Meeting[企業会議]、Incentive Travel[研修旅行]、Convention[国際会議]、Exhibition/Event[展示会・イベント])の可能性を探るモデル事業です。
実施しているその"見た目"は、人々がくつろぐ歩行者天国ののんびりとした風景ではありましたが、その実、街全体を巻き込む非常に大掛かりなプロジェクトのため、関わる人や事業者も多く、さまざまな困難があったのではないでしょうか。また、この実施にいたる"文脈"を紐解くと、その発端は20年以上もさかのぼります。今回は、そんな丸の内仲通りの歩行者天国化の裏側をのぞいてみたいと思います。
また、ランチタイムには、ミュージシャンが登場する「街角に音楽を」コンサートを開催。CAFE SALVADORの前では、夕刻からジャズ演奏などを交えたパーティ空間の創出という取り組みも行われました。
。
都心型MICEの取り組みとして、東京国際フォーラムで開催された国際法曹協会(International Bar Association。IBA)の年次総会のスケジュールにも合わせています(IBA総会は19~24日)。IBA参加者は世界中から5000人余り。会期中は、会場やIBAオフィシャルホテルに丸の内エリアのクーポン付英語版リーフレットを置いて、この参加者の誘引を図りました。
実施に当たったのは、大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)、千代田区、大丸有まちづくり協議会、東京国際フォーラム、三菱地所の5団体からなる「丸の内仲通り空間活用モデル事業2014実行委員会」でした。実施に当たって、もっとも影響が大きいと考えられる該当区域のビル入居者には、早い段階からビル管理会社を通じて案内を送り、実施に備えたそうです。
公の道路を使った長期イベントとなると、やはりいろいろと実施に当たって困難があったのではないでしょうか。それを、実行委員会事務局長(大丸有エリアマネジメント協会[リガーレ]事務局長)の中村修和さんにうかがいました。
「確かに仲通りは千代田区の区道で、区、そして所轄警察署との調整が必要になります。しかし、前例がない、法・条例上に規約のないがために、どう処理するべきかというテクニカルな問題があったのみで、仰るような『困難』はなかったと言ってよいでしょう」
「テクニカルな」というのは、どのような法律、条例に準拠すればいいのか、どのような作文をすればよいのかという、きわめて現実的な処理の問題であり、実施するに「否」を唱えるものではないということです。これは、丸の内ならではの特性と言えるかもしれません。というのも、公共空間利用、まちづくりについて、長く行政と議論を重ねてきた実績があるからです。
「20年近く前から、東京都、千代田区、JR東日本、大丸有まちづくり協議会の四者で『まちづくり懇談会』を開いているんです。今ある大丸有の姿は、ここで論じられ、策定されたガイドラインに則って作られてきたもの。また、昭和40年代にはじまり現在も続く『ランチョンプロムナード』(12-13時の間歩行者天国にする取り組み)、2004~5年にはオープンカフェの実証実験を行うなど、ヒューマンスケールな賑わいを創出する取り組みの実績があるからこそ、今回のモデル事業に発展したと言えるでしょう」
仲通りの路面店などからは、開催前のお知らせ段階から搬入などの物流上の問題や、営業上の影響を懸念する声が上がる――かと思いきや、開催前に寄せられたのは「実施に当たってスムーズに進めるための質問だけ」だったそうです。官民一体、街全体で、街のバリューを上げようとする意思統一がされているのが大丸有の特徴かもしれません。
気になるのは、実施してみての反応、成果です。期待されたなんらかの結果は出ているのでしょうか。実施にあたって、仲通りに面したオフィス、店舗はもとより、来街者まで含めたアンケートを実施しており、その結果は分析含め年内には明らかになるそうですが、現時点で分かっていることは。
「例えば屋外客席を拡大した飲食店に関して言うと、売り上げが増えた減ったを議論するのは非常に難しい。というのも、そもそも厨房能力が店内客席に拠っているため、屋外客席を増やしたところで大幅な収益増が期待できるものでもないからです。また、天候に大きく左右されるもので、残念なことに今回の期間中、半分以上が悪天候だったため、正確な評価が難しいというところもあります」
では、都心型MICEを目指した、IBAからの誘客はどうだったのでしょうか。
「正確な数値はこれからですが、『印象値で外国人客は数割増し』という声が聞かれています。しかし、正直に言うと、開催期間中の情報発信だけでは不十分だった感が否めない。そもそも国際会議に出席する方は、ほとんどが多忙でスケジュールも過密、その日に行くお店をリーフレットを見て決めるということ自体あまりしない。その辺の行動予測が不十分であったことも原因のひとつでしょう」
公共空間や街全体を活用した都心型MICEのモデルとしてアメリカ・オースティンの音楽とITの祭典『South by SouthWest(SXSW)』があるそうです。日本のMICEはベイエリアで開催されることが多いのですが、そのほとんどが単独拠点で行われる「ワンルーフ」型。SXSWのように、大きなエリアで複数拠点にまたがり、街に人がにじみ出るように広がっていくのが都心型MICEの理想形です。今後、SXSWをモチーフにエリアの特色を活かしたMICEが開催できるよう、さらに取り組みを改善していくそうです。
初めてのモデル事業、成果がどのように評価されるかはこれからではありますが、これ1回こっきりで終わるものではありません。
「街のにぎわいというのは定量的に評価できるものではないので、主張するのは難しいかもしれません。これはもう、実績を積み重ねて見せていくしかないと思っています。今回、集客用のイベントは何もしていないにも関わらず、これだけの人が通りに出てくつろいでくれたことには、私たちもとても驚いています。こうした街の雰囲気を『いいね!』と感じてくれる人を少しずつでも増やしていきたいですね。人が集まり、街を歩く姿というのは、街の活力のプレゼンテーションだと思うんです。今年10月には東京都の『東京ビジネスイベンツ先進エリア』に指定されたこともあり、2016年のリオ・オリンピック後から始まる各種文化イベント、2017年の東京駅前広場の整備などをマイルストーンに、いろいろな取り組みをしていきたい」
また、都心型MICEやまちのにぎわい創出に向けて、街側がどのようなメニューを揃えればよいのか、管理進行を簡略化する方法を模索する勉強会も行っていくそうです。
このモデル事業は、「官民一体のまちづくり」という文脈はもちろんのこと、道路や公共施設などの「公的空間」の高機能化やリ・デザインといった、大きな文脈にも関与していくものでしょう。2020年に向けた東京全体を巻き込む大規模なアクションの一部としても、今後も注目していきたいと思います。