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2021年7月9日、「人事部連絡会」2021年度第1回が開催されました。同会は、大手町・丸の内・有楽町エリア(以下、「大丸有エリア」)の人事部ご担当者の支援・情報共有の場として、2016年より定期的に開催しています。異業種交流による各社の取り組みやノウハウなどを共有することによって、大丸有エリアでの知の共有・新たな働き方を促進すると共に、大丸有エリアの企業・就業者の満足度を向上させ、よりWell-Beingなエリアへ変革していくことを目的としています。
今回のテーマは、昨年12月に開催された2020年度第2回に引き続き「副業」です。副業を実践中の社員の方をお招きして、副業のメリットや導入後の効果と課題などについて本音を語っていただきました。また、本会のファシリテーターを務める複業研究家の西村創一朗氏(株式会社HARES代表取締役)による「2021年度版 副業・複業の最新トレンド」、三菱地所が実施した「副業と幸福度に関する実態調査」の結果なども共有されました。その様子を前・後編に分けてお届けします。
三菱地所(株)担当より、同社が実施した「副業と幸福度に関する実態調査」の結果報告が行われました。本調査は「副業の有無×幸福度」の関係についての諸仮説を検証し、その関係性を探索的に把握することを目的としています。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授が提唱する「幸福の4因子」に基づく設問を用いて、東京23区内で勤務する20~69歳の有職者約1,200名を対象に行われました。
1つ目の設問では、属性の情報(企業規模や年収等)及び、人生満足度尺度・幸福の4因子(やってみよう因子・ありがとう因子・なんとかなる因子・あなたらしく因子)に関して7段階で回答してもらい、副業している人、副業していない人が、「どれくらい幸福な状態にあるか」ということを確認しました。その他、副業をしている主な目的や副業実施期間をはじめ、「副業を始めた後に、より感じるようになった幸福の4因子はどれか」「本業への満足度」等の計15問で実施されました。
副業の有無と人生満足度尺度・幸福の4因子との関係によると、副業している層の方が、副業していない層よりも人生満足度尺度・幸福の4因子全てにおいて高いという結果が出ました。
副業の目的別に見ると、「自分の能力を活かすため」「人や社会の役に立つため」「人脈を増やすため」に副業している人は幸福度が高く、「収入確保のため」「転職準備のため」に副業している人の幸福度は、副業していない層と同程度でした。また、副業をしている人の74%は副業を始めたことで「人生満足度尺度や幸福の4因子にポジティブな変化があった」と回答した一方、収入確保のために副業している人は「あてはまるものがない」と回答した割合が37%と比較的高い傾向が見られました。
副業を実践することで本業がおろそかになると危惧し、副業を禁止する企業も多い中、この調査結果では、副業による負の影響は見られず、むしろ副業している層の方が、本業への働きがいを感じている割合が、若干高い傾向にあることが分かっています。なお、現在の職場への満足度については、副業の有無による差異は、ほとんど見られませんでした。
加えて、本調査結果に対する前野教授の主要コメントから、以下の3つを紹介しました。
◆副業をしたから幸福度が向上したのか、幸福度の高い層が副業をしているのか、という因果については、今回は分からないものの、副業を促進することは、従業員の幸福度向上のために有効であろうと推測することはできる。
◆今後は、副業を推奨する場合、単に収入を増やすためではなく、能力を生かして社会で役に立ち、人脈を増やすことを重視するような啓発を行い、「自分の能力を活かすため」「人や社会の役に立つため」「キャリアアップのため」「人脈を増やすため」の副業を推奨していくことが重要であると考えられる。
◆興味深かった点は、幸福度と副業には関係が見られたのに対し、幸福度と職場満足度の相関は低く、副業と職場満足度の相関も低かったことである。
三菱地所の調査結果から、マクロ的に見ても、副業はメリットがあると考えられます。以降の登壇者からは、実際に副業を実践している方、実践している社員を抱える人事部が感じている実体験としてのメリットが語られました。
次に登壇したのは、株式会社HARES代表取締役、複業研究家の西村創一朗氏。自らもパラレルキャリアを実践しながら、大手上場企業を中心に、のべ十数社の副業解禁のコンサルティングを行い、1500人以上の個人の副業・複業の支援に取り組んでいます。
西村氏は、ここ1年の副業解禁の流れをはじめ、「副業採用」の拡大や「複業」を人材開発に活用する企業など、副業・複業の最新トレンドについて説明しました。西村氏によると、副業・兼業を認める企業は約半数に達しており、わずか5年で約3倍に増えていると言います。その勢いは業界を問わず、加速する傾向にあり、2020年だけでも、キリンホールディングス、全日本空輸、JTB、第一生命保険などの大手企業が、続々と副業解禁を公表しました。また、リクルートが実施した2021年度中途採用計画の調査結果では、新たに開始したい取り組みとして、「副業・兼業容認を含めた人事制度改革」と回答した企業が、18.6%と最多だったことが分かっています。
「首都圏のみならず、地方の兼業・副業の解禁も進んでいます。地方の副業解禁は首都圏に比べて4〜5年ほど遅れていますが、それでも2017年と比較すると、北海道をはじめ、名古屋や九州など、その他の地域においても、副業を認める企業が倍増する傾向にあります。また、この1年のトレンドとして特筆すべきは、副業解禁に加えて、社外のプロ人材、デジタル人材の副業採用が広がっていることです。代表的な取り組みとしては、ヤフー、ユニリーバ・ジャパンなどが挙げられますが、コロナをきっかけにリモートワークが浸透したことから、専門人材の不足に悩む地方自治体でも、首都圏の専門人材を副業採用する流れが広がっています」
西村氏の話は、働く人たちの興味・関心に移ります。今年5月にWWDJAPANが実施した"働き方"アンケート調査では、87%が「副業したい」と回答。また、リクルートが実施した兼業・副業に関する動向調査では、大都市圏で働く人が地方企業の業務を副業として担う「ふるさと副業」に「興味がある」と回答した人が約76%に上りました。
「引き続き、副業への興味・関心が高まる中、ふるさと副業・兼業がとりわけ注目を集めています。旅行で訪れたことなどをきっかけに、気に入った地域に貢献したいと思っていても、これまでなら現地に行かなければなりませんでした。しかし今では、オンラインで打ち合わせをしながら、必要な時だけ地方に行くという関わり方ができます。ふるさと副業への興味・関心においても、やはりリモートワークの普及が後押ししているところがあります」
次に、兼業・副業に期待する効果について説明しました。
「今後、兼業・副業したいと考えている人に、その目的を聞くと、『副収入を得たい』という回答が最も多く挙がった一方、副収入のみを目的とした副業は長続きしないことが分かっています。『キャリア開発につなげたい』『本業だけでは得られないつながりや知識を得て、それを本業により活かしていきたい』という風に、副収入以外のことも目的に捉えている人は、副業が長続きする、かつ本業にも還元できて、モチベーションが高まっていることが分かっています。これは、先ほど三菱地所(株)から紹介された『副業と幸福度に関する実態調査』の結果と、非常に一致するところがあると思っています」
「今後は、単に副収入を得るだけの副業ではなく、副収入を得つつも、自己成長などを目的としたマルチな副業をより推奨していき、スキルアップし、キャリア開発につなげていく。これを企業として意識していくことが重要です。言い換えれば、企業、個人の双方にとってWin-Winな副業制度を進めていくためには、副業を容認する前に、社員一人ひとりにお金以外の目的をしっかり定義してもらうことが、重要なポイントだと思います。野放しに副業解禁するのではなく、副業(複業)を戦略的に活用することによって、自立型人材の育成をめざしてみてはいかがでしょうか?」と提起されました。
続く後半では、副業実践社員の方に登壇いただき、本業へのメリットや影響について事例をもとに語っていただきました。
レポート後編ではその模様についてお届けします。