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【レポート】人的資本経営の実現に向けて、社員エンゲージメントを高めるために必要なこと

2022年度人事部連絡会第1回 2022年8月26日(金)開催

8,17

2016年から定期的に開催している「人事部連絡会」は、大手町・丸の内・有楽町エリア(以下、大丸有エリア)の人事部ご担当者の支援・情報共有の場として、異業種交流による各社の取り組みやノウハウなどを共有することによって、大丸有エリアでの知の共有・新たな働き方を促進すると共に、このエリアの企業・就業者の満足度を向上させ、よりWell-Beingなエリアへ変革していくことを目的としています。

8月26日に開催された2022年度第1回のテーマは、「人的資本経営の実現に向け、社員エンゲージメントを高める為の取組とは」です。萩谷惟史氏(経済産業省経済産業政策局 産業人材課 総括補佐)、小池克典氏(株式会社LIFULL Living AnywhereCommons事業責任者)、小酒友毬氏(株式会社LIFULL LIFULL HOME'S事業本部)の御三方をゲストに迎え、人的資本経営等に関する経済産業省の取り組みへの知見を深めたのち、2拠点居住・副業・兼業実践者によるリアルトーク、井上成氏(三菱地所株式会社)を交えたクロストークが行われました。

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人的資本経営等に関する経済産業省の取り組み

人的資本経営等に関する経済産業省の取り組み

萩谷惟史氏(経済産業省経済産業政策局 産業人材課 総括補佐)

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最初に、萩谷惟史氏が登壇し、経済産業省の「未来人材ビジョン」について紹介しました。

◆未来人材ビジョン

経済産業省では、デジタル化や脱炭素化という大きな構造転換が起こる中、2030年、2050年の未来を見据え、産学官が目指すべき人材育成の大きな絵姿を検討するために、2021年12月に「未来人材会議」を設置し、今年5月31日に「未来人材ビジョン」を公表しました。未来人材ビジョンは、「未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策を示すビジョン」と位置づけられています。

「アメリカの労働市場を見ると、より明確な二極化が見て取れますが、近年は、日本においてもデジタル化という大きな波の中で、労働市場の両極化の兆候が確認されています。また、2030年時点での脱炭素シナリオと成り行きシナリオの差を見ると、ガスや石炭など、化石燃料関連産業の雇用は大きく減少し、その逆に太陽光や風力発電など、再生可能エネルギー関連産業の雇用の増加が予測されています。そうした中で、国内の4割以上の企業が、『技術革新により必要となるスキル』と『現在の従業員のスキル』とのギャップを認識しています。このギャップを埋めていくためには、国としても構造変化に伴うスキル変換のために、然るべき支援を図っていく必要があると考えています」

その一方、現状を見ると、「企業は人に投資せず、個人も学ばない」という事実がさまざまなデータによって裏付けられています。OJTを除く人材投資の国際比較(GDP比)によると、日本は欧米各国に比べて人材投資の水準が低く、右下がりに推移している状況です。さらに、社外学習・自己啓発を行っていない人の割合(パーソル総合研究所/APAC就業実態・成長意識調査〔2019年〕)は、ベトナムの2%に対し、日本は46%と極めて多く、インドネシア、インド、タイ、中国などにも機先を制されています。

「日本の人材競争力の低下が叫ばれる中、日本企業が感じる人材マネジメントの一番の課題は、『人事戦略が経営戦略に紐付いていない』ことです。また、投資家が中長期的な投資・財務戦略において、最も重視すべきだと考えているのが『人材投資』であるにも関わらず、企業側の認識との間にギャップが生じていることも事実です。さらに、日本企業の従業員エンゲージメントは、先進国のみならず、アジア諸国に比べても低く、アメリカ・カナダ34%、ラテンアメリカ24%、南アジア24%、東南アジア23%に対して、わずか5%となっています。日本において、『現在の勤務先で働き続けたい』と考える人は52%で、転職や起業の意向を持つ人も少ない状況です。この背景には、少なくとも日本国内のデータだけを見ますと、転職によって賃金増加には必ずしもつながらない傾向が強くあります。加えて、日本はアメリカやインド、中国に比べて課長・部長への昇進も遅く、日本企業の部長の年収は、タイよりも低いことが分かっています」

1990年代以降、日本型雇用システムの変革が模索されてきましたが、働き手と組織はこの30年でどう変化したのでしょうか。これについて、萩谷氏は次のように話します。

「日本型雇用システムは、高度経済成長期に日本経済が立ち上がっていく中で作られてきたと言われています。終身雇用、年功序列、企業内労働組合という三種の神器が維持・強化されていく中、個人のマインドという観点でも、会社主導の人事異動でステップアップを図ることを選択する方が非常に多くいました。安定成長期は、経済全体として見ると停滞の傾向にあったものの、企業内で成果報酬制度が導入されたり、あるいはグローバル化の中で、海外の子会社等との人事制度の関連性を整理するなど、新しい取り組みも行われました。近年は、残業規制や同一労働同一賃金の導入など、働き方改革における大きな変化がありました。このようにさまざまな変革を図ってきたわけですが、個人のマインドは付いてきているのか、従業員サイドとの調整含め、企業内での改革がどこまで徹底できているのかといったことについては、不断に考えていく必要があると思います」

未来人材ビジョンでは、『人的資本経営により、働き手と組織の関係は、「閉鎖的」関係から「選び、選ばれる」関係へと変化していくべき』と提示しています。人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のことです。この実現には、「経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するか」と「情報をどう可視化し、投資家に伝えていくか」の両輪での取り組みが必要であるとされています。

「従来の人事制度においては、入口が新卒一括採用で一本化され、その企業内でキャリアアップを図り、定年が出口となるようなパスの中で、同質的なカルチャーが形成されてきました。しかし、実態が変化している今、今後は入口を多様化すると同時に、出口も多様化していかなければならないと思います。多様性は企業価値を向上させ、イノベーションを起こすという観点で非常に重要であり、その多様性を担保するために、出入りを自由にしておくこともまた必要不可欠であると考えています」

日本では、大学生後期に進路を決める学生の割合が高く、アメリカ21%、ドイツ19.1%に比べて66%となっています。「従来、日本の労働市場では、新卒一括採用が若年層に対するセーフティーネット的な役割を持っていましたが、近年、大企業の採用手法は、新卒一括採用だけでなく、中途採用、通年採用、職種別採用、ジョブ型採用など、多様化や複線化が進みつつあります。その中で、企業側、学生側双方のマインドが変わっていけば、社内カルチャーの変革といった変化が起きてくるのではないかと思っています」

「デジタル化や脱炭素化といったメガトレンドは、必要とされる能力やスキルを変え、職種や産業の労働需要を大きく増減させる可能性があります。こうした中、未来を支える人材を育成・確保していくためには、雇用・労働から教育まで、社会システム全体の見直しが必要だと考えています。具体的に言うと、旧来の日本型雇用システムからの転換、好きなことに夢中になれる教育への転換です。未来人材ビジョンでは、人を大切にする企業経営を実現し、労働移動が円滑に行われる社会を叶えるためのさまざまな具体策を提示しています。企業や経営のあり方を見直すためにも、ぜひ参考にしていただければ幸いです」

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◆人的資本経営

次に、萩谷氏が取り上げたのは「持続的な企業価値の向上に向けた人的資本経営」です。

「人的資本経営における2本の柱は、経営戦略と連動した人材戦略の実践と人的資本の情報開示です。経営戦略と連動した人材戦略をどのように実践し、企業価値の向上につなげればいいのかについては、経済産業省の『人材版伊藤レポート2.0』で19社の実践事例集と共に提示しております。ただし、企業によって、事業内容や置かれた環境はさまざまであり、これが人的資本経営だという明確なものがあるわけではありません。今回のレポートの狙いは、『3つの視点・5つの共通要素』という枠組みに基づいて、実行に移すべきであると考えられる取り組みや重要性、有効となる工夫を示すことです。すべてを実践する必要はなく、アイデアの引き出しとしてご活用いただければと思います。また、国内外でさまざまな基準ができている中、どのように人的資本の情報を可視化し、投資家に伝えていけばいいのかについては、人的資本可視化指針が内閣官房のホームページ上にも掲載されていますので、ぜひご参照ください」

この連絡会が行われた前日の8月25日、一橋大学CFO教育研究センター長・伊藤邦雄氏をはじめとする計7名が発起人となり、「人的資本経営コンソーシアム」が設立されました。「現在、320社の企業様に賛同いただいております。このコンソーシアムでは、人的資本経営の先進事例の共有、企業間協力に向けた議論、効果的な情報開示の検討を行い、今後さらに発展していきたいと考えています」と萩谷氏は話しました。

◆兼業・副業について

人材版伊藤レポート2.0では、社員エンゲージメントを高める取り組みとして兼業・副業についても紹介されています。『パーソル総合研究所/第2回 副業の実態・意識に関する定量調査(2021年)』を基に経済産業省がまとめたグラフによると、「現在、副業を全面的に容認している」あるいは「条件付きで容認している」と回答した企業の割合は55%でした。副業を禁止している理由としては、「自社の事業に専念をしてもらいたい」「疲労による業務効率の低下が懸念される」などが挙がりました。

「このレポートでは、既存の業務にとらわれず、副業・兼業をはじめとする多様な働き方については、社員の希望に応じて認めていくことが、エンゲージメントの向上につながると提示されています。副業・兼業等を認めることで、社員が自社の職務に専念できなくなることを懸念する声もありますが、副業・兼業による知識・経験等の蓄積や、社員のエンゲージメント向上は、自社にとって中長期的に有益なものになると考えられています。この取り組みを進める上で有効な工夫としては、社内グループ内での副業・兼業を試行、副業・兼業を認める範囲の見直し、副業・兼業とリスキル・学び直しの連動の3つを挙げています」

最後に、萩谷氏は、未来人材ビジョンの実践事例集から、副業・兼業に取り組んでいる2社の事例を紹介しました。1社目は、株式会社LIXILです。同社では、グローバルでの事業成長・イノベーションを実現する多様な人材を開発し、リーダーの育成を目指して活動を推進。従業員からのニーズを受け、社外での副業を可能とする制度を導入し、業務時間の20%を社内での副業に充てる制度を試行するなど、社員の主体的なキャリア形成を促進するための取組が進められています。また、もう1社のロート製薬株式会社では、会社と社員がお互いに自律的に成長し、社会のWell-beingを共に実現する人財マネジメントを進めていくという観点で、エンゲージメントを定量的に把握しながら、全社横断の異動を大規模に実現し、社員の挑戦を支える社外複業・社内兼務・起業支援、キャリア自律に向けた学びのプラットフォームの構築などが行われています。

「副業・兼業に関する捉え方は各社各様ですが、社員エンゲージメントと働きがいを高めるという観点では非常に重要だと思います。ぜひ前向きにご検討いただければと思います」と萩谷氏は述べ、プレゼンテーションを締めくくりました。

2拠点居住・副業・兼業実践者のリアルトーク

小池克典氏(株式会社LIFULL Living AnywhereCommons事業責任者)
小酒友毬氏(株式会社LIFULL LIFULL HOME'S事業本部)

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続いて、小池克典氏が登壇し、株式会社LIFULL(以下、ライフル)が展開するコリビングサービス「Living AnywhereCommons(以下、LAC)」について紹介しました。コリビングとは、働く環境と寝泊まりする環境が併設されたコワーキングスペース付きシェアレジデンスのことで、場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約に縛られることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方「Living Anywhere」を共に実践することを目的としたコミュニティです。現在、北海道八雲町から沖縄県うるま市まで、全国41ヶ所に拠点があり、月額定額でどこでも何度でも、全国の拠点を利用することができます。

「LACでは、そこに集まる人々や地域の方々との交流を通じて、理想のLiving Anywhere を実現するためのアイデアや技術を共創したり、新しいプロジェクトが生まれたり、刺激に満ちた環境に身を置くことができます。コロナ前は、デジタルノマドと言われるようなフリーランスの方が中心でしたが、コロナ後は、企業にお勤めのテレワーカーの方が増加しており、運営開始から3周年を迎えた今年も、昨年同月対比平均160%の伸び率を達成しています。利用者は、20代・30代の方が約7割で首都圏の居住者が中心でしたが、この4月には20代が30代を追い抜いて最多層となり、居住地も地方に分散する傾向にあります。また、採用強化や新規事業開発の側面でLACを活用したいという企業様からのお問い合わせも増えています。新しい働き方や暮らし方を実践する場として注目いただいている中、直近では50拠点まで拡大する予定です」

利用者からは、「さまざまな年代・業種・職種の方たちと交流できることで、自分の知らない世界・価値観を得られ、考え方がポジティブになる」「人生の新たな刺激になったり、地元の課題や思いを知ったり、仕事のアイデアを得られる」など、景色やリラックスが目的ではない、人との交流や未知の発見に重きを置いた声が多く挙がっています。実際、LACでの出会いを通じて副業のきっかけが生まれたり、その地方に移住した方など、さまざまな化学反応が生まれているそうです。

「ライフルの社内でも議論を重ねた末、自分らしい働き方を実現できる環境を提供することで優秀な人材を確保し、生産性の向上と事業成長の加速を目指すべく、新しい働き方を実践しています。基本的には、週1回のオフィス勤務を推奨していますが、申請すればフルリモートも可能となっています。職種の制約は一切なく、LAC拠点での勤務を在宅勤務として承認しています。また、新しい勤務ルールによるコスト改善を踏まえて、正社員の給与を10%増額し、従業員に還元しています。LACを利用する若手社員が増えている状況で、社外のさまざまな人と交流し、知見を深めることで副業や協業のきっかけを見つけるなど、人がおのずと育っていく好循環が生まれています」

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小酒友毬氏は、そんな新しい働き方、暮らし方を実践している新卒社員の一人です。大学4年生の時にLACを利用してノマドライフをスタートさせ、現在は、15拠点のLACを巡った中で最も心地よさを感じたLAC伊豆下田で、自分らしく暮らしながら働いています。小酒氏のリアルに迫るべく、小池氏との質疑応答が行われました。

小池氏:伊豆下田を拠点に働くことを決断できた背景にはどんな思いがありましたか?

小酒氏:最初は不安もありましたが、LACで出会った方たちや事業部の方に相談した際、背中を押していただきました。東京で暮らしながら新卒社員でリモートワークとなると、自室にこもって一人でパソコンに向かうことが日常になると思いますが、LACで暮らしながら働いていると、面白い人たちがどんどん集まってきます。色んな人との出会いを通じて、自分自身を活用していきたいという思いがありました。伊豆下田を選んだ理由は、独り占めしたくなるような素晴らしい景色に惚れ込んでしまったからです。成長したい気持ちと、ここに住み続けたいという思いが合わさりました。

小池氏:ご家族や同期の反応はどうでしたか?

小酒氏:家族からは、「本当に大丈夫なの? どうなっても知らないからね」と言われました(笑)。入社式の時にはすでに伊豆下田に住んでいたので、同期には事後報告だったのですが、驚かれましたね。ただ、否定する人は一人もいなかったです。

小池氏:自分らしい働き方を選択して11ヶ月になりますが、いかがですか?

小酒氏:LACでは、フリーランスの映像クリエイターやカメラマン、DJ、あるいはマーケターや会社経営者など、ありとあらゆる職種の方との出会いがあります。起業する人やフリーランスとして働く人と言うと、まずはどこかの会社で経験を積んでから独立しているんだろうなという漠然としたイメージがありましたが、会社に属さずフリーランスになった人や、会社で働く中でふと独立したくなり、物は試しだと思って起業してみた人などがいて、「こんな働き方や生き方ってあり得るんだ!」と驚くと同時に、視野が広がるきっかけをたくさんいただいています。

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小池氏:LACは学生の利用者も非常に多いですが、その方たちに共通しているのは就職活動の時期に利用されていることです。このまま就職していいのかと疑問に思い、休学して自主的に何かを学んでいる人も少なくありません。小酒さんは、学生時代の自分に言ってあげたいことはありますか?

小酒氏:私は就職活動を終えてからLACを利用し始めたのですが、就職活動をスタートする前から利用していれば、色んな方たちと交流する中で、自分が進みたい道をより明確に早い段階で描くことができただろうなと思います。

小池氏:周りの同世代の人たちは、働き方についてどう捉えていますか?

小酒氏:リモートワークをしている人は増えていますが、どれだけリモートワークが普及しても、東京で暮らし働く風潮はあまり変わっていないように思います。兼業・副業に関しては、私の同期でも新卒入社した当初から始めた人が多くいます。その意味では、会社以外の活動の場やきっかけを自分で見つけている人は増えていると感じます。

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小池氏:もし会社から、「リモートワークも兼業・副業も容認しません」と言われたらどうしますか?

小酒氏:おそらく辞めるのではないかと思います。会社の中だけで働くとなると、接する人は社内の人だけに限られますし、考え方の幅も狭まってしまう気がします。また、働く場所が1ヶ所に限定されると自宅と会社の行き来になるでしょうし、それがいつしか当たり前になると刺激がなくなるだけでなく、生活の面白さも半減するように思います。同期をはじめ、ライフルで働く同世代の人なら、きっと同じ意見を持つ人が多いと思います。実際、兼業や副業などを通じて、自分をもっと高めたい、スキルを磨きたいと思っている人が多いので、それを禁止されるとかなり厳しいのではないかと。

小池氏:非常に正直な意見だと思います。人的資本経営という経営側の視点はもちろんありますが、働く人の視点では、自分が置かれた状況に合わせて幸せに暮らし、自分らしく働くための手段としてリモートワークや兼業・副業があるわけですよね。人それぞれに異なる状況を考慮せず、会社の都合に合わせるとなると、柔軟な働き方を求める人たちは去ってしまうでしょうね。新卒入社するタイミングで、地方からリモート出勤する人はいなかったと思うのですが、当初会社の反応はどうでしたか?

小酒氏:「前例がなく、LAC伊豆下田を住所として認めることがすぐには難しいので、まずは認められる場所に住所を置きながら、伊豆下田でリモートワークをする形で住んでみるのはどうですか?」とご提案いただきました。人事の方やLAC事業部の方に相談させていただいた時に、前向きなアドバイスをいただけてとてもありがたかったです。

小池氏:今のコメントに、自分らしい働き方を形にするためのヒントが詰まっていると思いました。皆様の会社にも小酒さんのように、「こんな働き方を実践してみたい」と思っている社員は必ずいらっしゃると思います。そういった現場の声を寛大に受け入れるマインドやスタンスが重要ですし、前例のないことをどうすればうまくできるかという視点を持てると、よりエンゲージメントの高い働き方を実装できるのではないかと思います。

クロストーク

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本会の後半では、登壇者の御三方、井上成氏(三菱地所株式会社)によるクロストークが行われました。

井上:未来人材ビジョンについて、小池さんはどう思われましたか?

小池氏:事前にニュースなどで拝見した際、真っ先に危機感を感じましたが、今日、萩谷さんのご説明を聞いて納得感を得られたと同時に、自身も事業を遂行する立場として陽転思考したいと思うきっかけになりました。

井上:LACを利用した2拠点居住を容認する会社でなかったら、辞めるかもしれないと小酒さんは回答されていましたが、やはり2拠点居住や副業・兼業といった制度があることによって、自社に対するエンゲージメントが高まっているのでしょうか?

小酒:会社での出会いは、仕事で関わる人に限定されるところがあると思いますが、LACでは出会う人の幅は限定されないので、色んな職種の人たちとお話する中で新しい視点が得られたり、自分が求めていた知識やスキルをすでに持っている人がいたり、悩み事に対してアドバイスをいただくこともあります。刺激も受けますし、自分の学びになって、それらを会社の仕事に活かせることは多くあります。その意味では、エンゲージメントはあると思います。

ここで参加者の方から、萩谷さんにコメント・質問がありました。

参加者①:労働法制における雇用制限や労働時間管理の大幅緩和が必要だと考えています。労働者の意識改革を行わなければ、欧米に先を越されている国々は追いつくことができません。スキルアップに対する企業や個人への助成、税制優遇など、これまで以上に格差が生まれると思いますが、最低限のセーフティーネットの見直しなど、整備されるべき制度はまだ多い印象があります。

萩谷:特に兼業・副業に関しては、労働時間管理や社会保険制度など、課題が多いという声が挙がっていると伺っていますが、健康確保をどうするのかといったことも含めて非常に難しい問題だと思っています。中長期的には、企業に所属するか、つまり雇用と自営業の区別や働く場所などの境界がどんどん溶けていった時に、労働時間管理について一から議論する必要性も増すと個人的には思っています。事例が増えていけば、よりフラットな議論をしやすいような環境になっていくと思いますし、そうなった備えて時に、我々ができることについても考えていきたいと思っています。

参加者②:私共の会社では、副業自体は許可していますが、一部のスキル人材に限定されているのが実情です。これを打開するために二重雇用の解禁を検討していますが、通算の労働時間の問題や社会保険の二事業所への届け出など煩雑な作業が多いため、グループ会社からの反発が強いです。厚生労働省の副業ガイドによる管理モデルを含めて、より企業が安心・安全に副業を推進するための法改正やガイドの改定の予定はありますか?

萩谷:直接的には厚生労働省の所管する制度ですので、私の個人的な考えとしてお聞きいただければと思いますが、一般論として、国の制度については、制度が変わらないから会社として議論ができない、あるいは、実態がまだ付いてきていないので制度改正の機運が醸成されないという「鶏が先か、卵が先か」の状況があるという印象です。特に労働法制に関しては、労働者のマインドの変化も考慮するべき重要なファクターだと思います。
よりたくさんの実例が出てくると、社会課題として捉え、議論を進めていくフェーズにも入っていくと思います。我々としては、具体的に起きている課題や困りごとについて、個別にお伺いできる機会があれば大変ありがたいと思っています。

続いて、小池さんへの質問が届きました。

参加者③:ラボや工場を抱える企業では、さまざまな職能・職種の方が働いています。兼業・副業やリモートワークを導入した場合、社内的な不公平感がどうしても否めないのですが、どうやって乗り越えたらいいでしょうか?

小池氏:働き方改革など、何か新しいことをやろうとした時、不公平という言葉が必ず出てきますが、そこを議論していると、おそらく優秀な若い人材はいなくなってしまうと思います。重要なのは、一律という概念をいかになくすかということだと思います。ちなみに私たちは、"出る杭がちゃんと出てもいい状態"を作るために実証実験を行ったり、その人の能力やスキルを活かせる出島を作ったりしてきましたが、それらは効果的な方法だと思います。

井上:ある意味、期間限定で実験的にやってみることの積み重ねの中で解を見つけていく、社内の合意を取っていくような感じですよね。全社員一律といった人事制度のあり方自体が、やはり厳しくなってきているのでしょうか?

小池氏:実際、難しいと思います。だからこそ、生産性などの面で諸外国との差が生まれている部分はかなり大きいのではないかと。大企業病という言葉があるように、大企業だからこそ出来ることがたくさんあったのが、逆に、全社員一律とすることが弱みに転じた結果かもしれません。

井上:全社員に対して一律的な施策を打つ人事制度のあり方自体に、ジレンマがあると思うのですが、これについては、未来人材ビジョンや人材版伊藤レポート2.0の中で取り上げられているでしょうか?

萩谷氏:実は、未来人材ビジョンの最後に、現場の人材については十分に議論ができなかったということを記しています。全社員一律は難しいというのはその通りだと思いますが、一方で、現場の人材を蔑ろにしていいということではないですし、そういった方々のエンゲージメントも考えていかなければいけないと思います。

井上:今日のお話を聞いて、「自分らしく働いてもらいたい」という会社の姿勢や、自律性を積極的に後押しするような文化や風土に対してエンゲージメントは高まるのではないかと思いました。言い換えれば、その人の持つポテンシャルを最大限に伸ばしていこうとする会社は、選ばれる会社になるでしょうし、その一つの方法として2拠点居住や兼業・副業があるのだと思いました。

小酒氏:私は入社してまだ4ヶ月なので、今の暮らし方や働き方を通じて会社にどう貢献できているのか、エンゲージメントが高まったのかということは把握できていないのですが、これからも身を持って実践していきますので、その成果や課題を周りの方と共有しながら何らかの形で自ら発信していきたいと思います。

小池氏:新しい働き方については、「出る杭を寛容に受け止める」ことから始めるだけでも、エンゲージメントの向上につながっていくのではないかと思います。もちろん、そこには議論があるでしょうし、100点の現実解が得られないかもしれませんが、結果を焦るよりは、寛容なカルチャーを作っていくことで未来人材ビジョンの実現にもつながっていくと思います。

萩谷氏:我々は今後も、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性を示しながら、実務に落とし込んでいくためのさまざまな具体策を見出すことに尽力してまいります。本日のような場を通じて、有用な情報を皆様と共有できたら幸いです。

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