地域コミュニティで参加したロンドン五輪ボランティア(Community Games)
地域コミュニティで参加したロンドン五輪ボランティア(Community Games)
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を6年後に控え、スポーツ施設、交通網、外国人観光客向けの宿泊施設といったインフラの整備や、日本文化の見直しといった、ハードとソフトの両面に変化が現れ始めています。
「オリンピックレガシー(遺産)」という言葉を聞いたことがありますか。近年、国際オリンピック委員会(IOC)が最も力を入れているテーマの一つで、オリンピック開催を契機として開催都市と開催国にもたらされる長期的・持続的な正の効果のことを指します。具体的には、IOCはオリンピックレガシーの分野として、スポーツ、社会、環境、都市、経済の5分野を挙げています。
この半世紀ぶりにやってくる世界的な祭典を一過性のイベントに終わらせないためにも、オリンピックレガシーは重要な概念です。2012年に開催されたロンドン五輪では、開催以前から、このレガシーが目標に掲げられました。行政はもとより、イギリス全土においてオリンピックに刺激を受けたより良い暮らしや町づくりのための草の根の活動が生まれました。それらは今も暮らしに根付き、継続されています。
今回はこのようなイギリスで見られた市民や地域から生まれ、育まれてきたオリンピックレガシーの事例を、3つのテーマ別に集めてみました。「オリンピックなんて自分には関係ない」と思っていた方も、東京五輪を良い暮らしや町づくりの契機にしてみませんか。
ロンドン五輪開催の中心地となった「イーストエンド」と呼ばれる東部ロンドンは、19世紀ごろから移民が多いエリアで、高い犯罪率、工場の汚染問題といった数多の都市問題を抱えてきました。ロンドン五輪ではオリンピックを契機にした東ロンドンの再生が目標に掲げられ、土壌の洗浄から再建築、新たな雇用の産出と、この地域の大々的な再開発が行われました。
一方で、東ロンドンは家賃や物価が比較的安いため、新鋭アーティストが集まる文化的なエリアとしても知られてきました。地域に注目の集まる今、こうしたリソースを活用しようと2008年に有志メンバーによって始まったのが、「Create London」です。「Create London」は、東ロンドンが孕む社会問題を、アートや音楽で越えて地域コミュニティを結束し、ヨーロッパNo.1の文化的な地域にするための非営利団体です。
Create Londonは寄付金や助成金のみで運営され、地域の廃墟ビルをアーティストの貸しスタジオに修復するプロジェクト、地元アーティストから地域の若者に文化やクリエイティブ産業で働くスキルの提供、地元アーティストと地域事業の橋渡しといった活動を行っています。
オリンピックを契機にハード面の整備という負の遺産の修復作業の下、正の遺産を育もうというポジティブなパワーが内側から生まれ、地域全体を巻き込んでいきました。
オリンピックを契機にした新しいビジネスアイデアが浮かんでも、個人や一団体ではできることは限られています。こうしたニーズから生まれたのが、オリンピックビジネスのためのマッチングサイト「CompeteFor」です。
「CompeteFor」は、ロンドンのビジネスネットワーク団体「The London Business Network」が立ち上げた、オリンピック関連ビジネス立ち上げの無料マッチングサイトです。2012年にオリンピックに向けたロンドン市内のサプライチェーンのマッチングサイトとして登場して以来、建設工事、マーケティング、デザインなどあらゆるコラボレーションのニーズを取り込み、これまでに1万6千以上のビジネスがここから生まれました。
アイデアを繋げる仕組みとしては、他にも学生向けの「Podium」があります。「Podium」はオリンピックを契機に自分たちでもイベントを立ち上げたい学生らのための、学生団体と施設のマッチングサービスとして2007年に開設されました。学校や学生たちのコミュニティとしても育ったPodiumは、2012年のロンドン五輪開催時には、2万人の学生ボランティアのニーズと人員をつなげるメディアとしても機能しました。
オリンピックを機に、多様なコラボレーションの可能性に気付いたという声も聞かれ、「CompeteFor」と「Podium」は、いずれもオリンピック閉会後も引き続き運営されています。
オリンピックのニュースを見ていると、新たなスポーツを始めたい、あるいは昔やっていたスポーツを再開したくなる人も多いのではないでしょうか。ロンドン五輪開催を機に、地域で「ミニオリンピック」を開催しようと始まったのが「Community Games」です。
2010年にイングランドのウェストミッドランド州から始まったこの取り組みは、地域住民の健康と体力づくり、そして地域の団結力を高めるベストプラクティスとして注目を集め、次第にイギリス全土に広がっていきました。その背景には、イギリス政府と、2007年に立ち上がったロンドン五輪に向け地域活性化を支援する同国の非営利団体「Legacy Trust UK」による助成も大きいといいます。
Community Gamesのウェブサイトでは、イベントの計画や運営について、スポーツメーカーなどの企業、非営利団体、住民ら、地域の多様な担い手にベストプラクティスを共有してきました。参加した地域のボランティアスタッフの数も顕著で、「ボランティアを通して自分に自信がついた」「ご近所さんとの結束が強まった」「新しいことに挑戦するパワーをもらった」といった声が寄せられています。
ロンドン五輪のオリンピックレガシーを調査したロンドン市による報告書「Inspired by 2012: The legacy from the London 2012 Olympic and Paralympic Games」では、オリンピック前後で市民のボランティア意欲の向上、10万人の新規ボランティア産出(2013年)といったコミュニティの強化や、運動(週1回)する人が増加したという、市民の暮らしと心に長期的・継続的な効果があったことが報告されています。
今回ご紹介した事例は、すべて現在も続いているプロジェクトです。「オリンピックなんて自分には関係ない」と思っていた方も、東京五輪をあなたの日々の暮らしや地域をより良くするきっかけと捉えて、今日から何か始めてみませんか。