※写真はイメージです(IT Training, From The Ground Up photo by Alan[flickr])
先進国で高齢化が急速に進んでいます。65歳以上の人口が23%超という、世界一の高齢化国である日本はもちろん、イタリア、ドイツ、スウェーデン、スペイン、フランス、イギリスといった先進国も、同じく高齢化社会の諸問題を抱えています。
これまで欧州ではリタイア後はのんびり余生を過ごすことが理想とされてきましたが、進む高齢化を背景に、日本と同様にリタイアという考え方そのものを変えることや、長年の経験や技能を活かして働きたい、生きがいの充実をはかりたい、いくらかの収入を得たい、社会の役に立ちたいといった思いを持った、健康で働く意欲の旺盛な高年齢者であるアクティブなシニア人材のさらなる活用が期待されています。
そのためには、本人たちの意志のみに頼るのではなく、その想いを実現できる場作りや支援、社会の仕組みが必要です。今回は、シニア人材のさらなる活躍のために行われた先進国の事例を3つご紹介します。
"The Age Unlimited"は、2010年から18カ月にわたりイギリスで実験的に行われた、50代から60代の社会起業家を育成するためのプロジェクトです。主催はロンドンに拠点を置く、個人、組織および社会のためのイノベーションを促進するチャリティ団体の「Nesta」です。
Nestaは社会人経験を持つ50代から60代の一般人を対象に、高齢化社会の諸問題を解決するアイデアを公募し、実業化のための金銭と実践的なマネジメントのサポートを行いました。例えば、このプロジェクトを通して生まれた事例の一つが、50代以上の人がゲームを通してパソコンに親しみ、パソコン操作への自信を育むためのゲームクラブ「Third Age Computer Fun」です。パソコンの基本操作を教える教室などは既にあるでしょうが、ゲームクラブとして気軽に挑戦でき、心理的な壁を越えられる場づくりという視点は、パソコン操作への不安を理解している同世代発ならではのアイデアでした。
このゲームクラブで苦手意識を克服した人たちは、コミュニケーションやショッピングなど、さらにやってみたかったことにも挑戦するようになっていきました。この兆候は、ニットを編む、ガーデニングをする、といった、社会とは切り離されて趣味に没頭するような、これまでのイギリスの典型的なリタイア生活とは異なる、新しいリタイア生活のあり方につながる可能性も期待されています。
日本に続いて、ドイツは世界第二位の高齢化率です。2012年、バイエルンを本拠地とするドイツの自動車メーカーのBMW本社では、2017年までに社内の労働者の平均年齢が8歳上がることが予想されていました。そこで、この事態に備えて、ある工場のラインで平均年齢を現在よりも8歳上げ、50代以上の労働者を含む平均年齢47歳のチームをつくり、未来にどのような問題が起こりうるかを観察する"Today for Tomorrow(ドイツ語ではHeute für Morgen)"というプロジェクトを行いました。
すると、短い休憩を複数回取ると生産性が上がることや、眼精疲労の緩和やエラーを減らすために新しい拡大レンズを導入した方が良いことなど、70の発見がありました。これらの改善案を導入することにより、このシニアチームの生産性は、プロジェクトの開始から一年後には、若い労働者のグループと同様のレベルに上がりました。
シニア労働者が増えることが避けられない国の状況を踏まえ、近い将来に向けて、会社が明日からできることを行ったのです。この70の変化は、生産性を上げるために、現在は他のラインにも導入されています。
フルタイムで忙しく働いてきた人が、リタイア直後から第二の人生を送ることは難しく、ギャップに戸惑ったり、あるいは方向性を見つけられずに悩んだりすることがあります。イギリスではこうした人たちを対象に、退職後に自分らしく有意義な再就職やNPOへの転身など、新しいライフスタイル探しを支援するために生まれたのが、チャリティ団体の「アフターワーククラブ(The After Work Club)」です。
アフターワーククラブは、フルタイムで働いてきた男性を対象に、退職後の新たな働き方や社会貢献のさまざまなストーリーを集め、会員に提供しています。定期会合では、退職後に起業した人、全く違う職種で活躍する人、経験を生かして福祉団体に従事する人や、同じ悩みを抱える仲間と交流や議論ができます。
例えば、フィットネス業界から転身し、若者の正規雇用のための基金を立ち上げたフレッドさん、有名広告代理店の重役からビジネスの講演家に転身したドレークさんのプロフィール、どのような準備をしたのか、といった多様な事例が紹介されています。
シニア人材がよりアクティブにその知識と能力を発揮できるような場や環境、そして機会を、企業、地域、第三セクターから整えていきたいですね。
高齢化社会の課題解決のための世界の事例を集める「Living map of ageing innovators」では、現在、今回の記事でご紹介した3件を含めた、計130件の事例が紹介されています。中には、富士通が試作中のGPS付き次世代の杖(スマートステッキ)の「Walking stick」など、日本発の事例も見られます。「add example」から登録をすることができるので、こうしたところから、大丸有発のアイデアも世界に発信してみてはいかがでしょうか。