Photo:Green Roof Consultancy
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世界の人口は急速に増え続けており、国連によると2050年までに96億人に到達します。人口増加に伴い、世界各地で都市化が進み、さまざまな問題が表面化してきています。例えば大気汚染やエネルギー消費量の増加といった環境問題、生活環境の悪化、住宅不足、渋滞などです。
国連人間居住計画(国連ハビタット)によると、2050年までに世界人口の約7割が都市生活を送ることになります。このような背景から、コンパクトながらも環境に優しく住みよい未来都市「スマートシティ」のあり方を模索することは、世界の重要課題の一つになっています。
現在、国内外でモデル都市の実証実験が始まっています。しかし、モデル都市の住民でないと、なかなか身近に感じられないかもしれません。そこで、ここでは身近な都市の課題を解決する世界の取り組みを、3つのテーマで取り上げます。事例を参考に、住民も地球も快適に過ごせるスマートシティとその都市生活を思い描いてみましょう。
イギリスの首都ロンドンは人口が密集する大都市でありながら、欧州で最も緑が多い都市です。公園などの公共スペースの緑化に積極的ですが、最近はビルの壁面緑化に注目が集まっています。
昨年8月には中心部ヴィクトリアに位置する高級ホテル「ルーベンス・アット・ザ・パレス (The Rubens at the Palace) 」が、ロンドンで最大面積の「緑の壁」をお披露目しました。デザインを担当したGreen Roof Consultancy社によると、都市の緑化は大気汚染の解消、蜂や蝶々、鳥といった野生動物の保護に役立つほか、この地域に頻発する都市型水害を防ぐ効果も期待できます。
壁面緑化は日本の都市部のオフィスやマンションでも、既に導入が始まっています。より手軽で効率的に水を循環させるシステムや、建物の室内に導入するための取り組みも進められています。
スペースの限られた都会のオフィスや家庭でも、もっと緑が溢れる都市生活が楽しめるようになりそうです。
駐車場がどこもかしこも満車でイライラ、町じゅうを徘徊......なんて経験はありませんか。燃料も時間も、もったいないですよね。
アイルランドの首都ダブリンで生まれたのが、周辺の駐車場の空き状況と駐車料金を教えてくれるモバイルアプリ「ParkYa」です。2011年にオープンデータを活用したスタートアップビジネスのコンテストで入賞した後、ダブリン市と連携して実用化されました。こうしたIT技術を活用した駐車の最適化は、「スマート駐車(smart parking)」と呼ばれています。
BBCによると、先月ロンドンのウエストミンスター区でも、「スマート駐車」の"試運転"がスタートしました。区によると、住民は従来、平均して15分間にわたり駐車スペースを探していたそう。ウエストミンスター区で成功すれば、ロンドン全域に拡大予定です。
「スマート駐車」で、二酸化炭素排出量の削減、そして住民のライフスタイルの改善の双方が期待できそうです。
都市の公園や路地のベンチなど屋外の公共スペースは、天候の良い日は住民の憩いの場です。しかし寒い季節や雨の日は、早足で通り過ぎるばかり。
これらのデッドスペースを春夏秋冬、快適な都市生活の場に変えようというのが、サンフランシスコをベースにする都市デザインを専門とする建築会社Amorphicaが提案する「アーバンパラソル」です。
このパラソルは太陽光発電で動き、暖房、排煙、LEDライトなどの機能が検討されています。住民が使う屋外の公共スペースへの設置を想定して開発されました。
カフェ文化が根付くパリでは、現在、カフェのテラス席にこのアーバンパラソルを導入する案が進められています。近年、パリではカフェの室内が全面禁煙となりました。テラス席は喫煙者で溢れ、客を逃さないようにと冬場は外にヒーターを置く店も出てきました。環境への負荷、そして歩行者の受動喫煙が社会問題になっているそうです。
アーバンパラソルの下なら、都市のカフェ文化も環境への配慮も諦める必要はありません。テラス席のほか、まだまだ都会の屋外のスペースを活用していけそうです。
いずれの事例も、身近な都市の課題に、生活者の視点とサステナブルな視点の両方から取り組んでいます。
「スマートシティ」とはどのような都市なのか、まだ模索が始まったばかりです。各都市が抱える課題も今ある資源も、それぞれ異なります。
こうした一つ一つの取り組みによって、世界の都市から、そして皆さんの周りから、スマートシティの輪郭が描かれていくのではないでしょうか。