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【レポート】地方創生と金融のこれから(1)

BFL地方創生セッション vol.1 「地方創生×オープンイノベーション シンポジウム」2017年7月13日(木)開催 前編

「大丸有の街も随分と様相が変わってきた」。7月13日のイベントの冒頭で挨拶に立ったエコッツェリア協会の田口真司氏がそう話したのは、大手町・丸の内・有楽町エリアに3×3Lab Futureをはじめ、共創・オープンイノベーションを掲げた施設が多く立ち現れてきていることを指したもの。重厚長大企業の牙城とも言える大手町・丸の内エリアがオープンイノベーションのフィールドになるとは、まさに隔世の感があるといったところ。「いろいろな人が交流する場が整いつつある」と田口氏が指摘するように、さまざまな施設が設立され活動に勤しんでいますが、この度、3×3Lab Futureと提携するNTTデータが運営する新たな施設「BeSTA FinTech Lab」が大手町に開設されることになりました。

この日のイベントは、このBeSTA FinTech Labのオープニングを記念するもので、なおかつ、初めて3×3Lab Futureとの共催イベントとして開催されました。テーマは「地方創生×オープンイノベーション」。大丸有の大企業と地方をリンクさせ、新しい地方-都市の関係の構築を目指す3×3Lab Futureと、地方銀行のネットワークとともに新しい金融サービスを起こし、地方を盛り上げていきたいBeSTA FinTech Lab。その目指すところは同じでも、活動するレイヤーは異なる両者が、施設間で連携し、共創を目指したときに、どのようなアクションが生まれるのか。その最初のトライアルとも言えるでしょう。

地方創生とイノベーションをテーマに、午前の部は地方創生にまつわる有識者を招いての講演。丸の内プラチナ大学でもおなじみの"ミスターCCRC"こと松田智生氏(三菱総合研究所)、まちてん実行委員町を務めるなど、地方創生とCSRを語るうえでこの人は欠かせない"行動派CSR役員"の笹谷秀光氏(伊藤園)がたっぷりと地方創生について語ります。そして、開設されたBeSTA FinTech Labを代表して、運営するNTTデータから、松原久善氏が登場してラボの解説。昼食を挟んでの午後からは、元地方創生大臣で、地方創生の第一線で活躍し続ける石破茂衆議院議員の講演とともに、すべてのゲストによるパネルディスカッション。刺激的で豪華なシンポジウムとなりました。
※このシンポジウムの様子を、前後編でお届けします。
<後編はこちら

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BeSTA FinTech Labとは

BeSTA FinTech Labとは

BeSTA FinTech Labとは、NTTデータが提供する金融システム「BeSTA」を採用している地銀を対象にしたオープンイノベーションのための施設です。FinTechの拡大とともに、地銀が新たな事業ドメインの開発の必要に迫られる中、課題を共有し、さまざまな知見を綜合することで、新しい技術やサービス、ビジネスを創発することを目的に開設されました。

システムインテグレーターとして世界的にも名高い一方、同時に顧客のペインに応えるため、オープンイノベーションに向けたソリューションの開発にも取り組んできたNTTデータ。これまでも地銀とともに、新規ビジネス開発などに取り組んできた実績があり、BeSTA FinTech Labはその集大成のひとつとも言えるでしょう。

田口氏は「3×3Lab Futureは多様なテーマを扱うプラットフォーム。ここから生まれるプロジェクトやビジネスをBeSTA FinTech Labへ入れていくという、施設間連携の新しい取り組みができれば」と話しており、3×3Lab Futureとは違い、FinTech、地方創生、金融へと対象を絞り込んだこれからの活動に期待が掛けられています。

四方一両得の日本版CCRC――松田智生氏

このBeSTA FinTech Labの開設を記念して、地方創生の第一線で活躍するトップランナーのお話を伺い、これからのBeSTA FinTech Labがどのような活動に取り組むべきなのかを考えようというのが今回の主旨。そのトップを切って登場したのがミスターCCRCの松田氏です。

CCRCとは、Continuing Care Retirement Communityの略で、高齢者が集住し持続的なケアを受けられるコミュニティのこと。アメリカで生まれ、一定の効果を上げていますが、松田氏は、アメリカとは異なる「日本版CCRC」を提唱しており、「日本が直面する大きなピンチをチャンスに変え解決するもの」であるとしています。

松田氏日本が直面するピンチとは、ざっくりと突き詰めると「55兆円の歳入に対して50兆円になりなんとする介護・医療費」の問題です。
「26%を超える高齢化率、現役時代にも匹敵する10万時間という引退後の生活といった課題はあるが、日本が直面する本当の課題とはこの50/55兆円という問題」(松田氏)

日本版CCRCは、高齢者の集住を促すことから「現代の姥捨て山」、「移住先の自治体の医療介護費を増大させるもの」、「東京の介護破綻の問題を地方に押し付ける」といったさまざまな誤解を受けていますが、地域に新たな産業と雇用を生み出し、多世代参加型のまちづくりを促進するもの。「介護にならないことで儲ける逆転の発想」と松田氏が言うように、移住する高齢者の健康寿命を延伸し、医療介護費用を上回る経済効果がもたらされます。アメリカでは約3兆円規模の市場を形成し、日本でも230以上の自治体が推進する地方創生の主要施策のひとつとなっています。

そのポイントを松田氏は「組み合わせ型政策・ビジネス」であるとしています。
「単に高齢者の移住を促すだけではなく、それに伴うヘルスケア、ITビジネスの創出や、交通などのインフラの改善なども進められる。さまざまな領域を組み合わせて取り組む必要があるもの」(松田氏)
このような複合的な取り組みは、そこに関わる市民、公共、産業、学校の4者すべてが得をする「四方一両得」のスキームであるとも指摘しています。

アメリカではさまざまなタイプのCCRCが設立されており、医療機関と連携したCCRC、ITビジネス、特にビッグデータによるデータサイエンスに取り組む企業と連携したCCRC、高齢者に学びを提供する大学連携型のCCRCなどで大きな実績を上げています。しかし、アメリカ型のCCRCは、新たに施設を建設する「ゲーティッド・コミュニティ」(閉鎖型)で、居住者は高齢者が大半を占めるのが特徴。松田氏は日本の利点を活かした日本版CCRCを推進すべきと話します。それは「街まるごと地域に開かれたコミュニティ」で、「多世代」が居留・交流し、可能な限りストック(空き家や利用されていない集合住宅、施設等)を活用するものであるべきだとしています。その例として松田氏は「シェア金沢」(石川県金沢市)や、「スマートコミュニティ稲毛」(千葉県千葉市)、オークフィールド八幡平(岩手県八幡平市)などを示し、日本版CCRCの在り方を示唆しました。

そして、今回のテーマであるBeSTA FinTech Labにも関わりのあるトピックスとして、「オカネの安心」についても言及。日本版CCRCには「カラダの安心」=健康支援、介護支援、「ココロの安心」=生きがい、つながりとともに、生活コストや介護時の費用といった「オカネの安心」も必須です。松田氏は、バブル期には7~8%だった金利が、今や0.02%で「かつては2倍にするのに10年だったものが、今では3600年もかかる」ような状態で、つまり「圧倒的に今の高齢者はお金の不安が大きい」ことを指摘し、ここで地銀の果たすべき役割があるのではないかと提言しています。その一例が松本信用金庫(本店:長野県松本市)で、「健康診断を受けたら金利が10倍」となるサービスが、わずか7カ月で12億円を集めたエピソードを紹介。

その一方で、「地域金融機関は地方で担うべき役割を放棄している面もあるのでは」とも指摘します。それは、地域で集めたお金を海外へ投融資しているような現状への警鐘であり「地域の金融機関はもっと地元の産業に有志すべきではないだろうか」と松田氏は述べています。日本版CCRCはこの数年で一気に人口に膾炙し、推進を望む自治体も急増しています。今ここに必要なのは、関わる事業体、志ある人、そして資金です。松田氏は、不動産向けのREITを援用した「ヘルスケアREIT」の可能性なども取り上げ、金融機関の新たな取り組み、商品開発などへの期待も語りました。

企業の「社会的対応力」を――笹谷秀光氏

続いて登壇した笹谷氏は、世界規模で起きている大きな社会変化の中で、地域づくり、まちづくりにも新たなエンパワーメントが必要であること、そして、その中で企業がどのような役割を果たし得るのか、包括的・総合的に示唆しました

まず笹谷氏は、シェアサイクルについて、本場・パリの「velib」や千代田区の「ちよくる」の取り組みを枕に、富山市のまちづくりの様子をレポート。シェアサイクルはもちろん、LRT(次世代交通システム。Light Rail Transit)を軸にしたコンパクトシティ化など、ハード面の整備から始まり、高齢者の移動を活性化させ、消費の拡大とともに高齢者の健康寿命を延伸させる施策、孫と出かけると公共機関の料金が無料になる「ジージもターダ」などソフト面の取り組みも紹介。笹谷氏はこうした取り組みのポイントを「センス・オブ・プレイス」「シビックプライド」の2つであると指摘します。センス・オブ・プレイスとは、「その場所を特別なものと感じさせる何か」のことで、地域のアイデンティティと、シビックプライドを醸成します。シビックプライドとはその名の通り、住む街への愛着や誇りのこと。これがなければ地方創生はうまく行かないと笹谷氏。

笹谷氏そしてその活動を支えるのが「産官学金労言」、マルチプレイヤーによるプラットフォームです。産業界、行政、教育機関、金融、労働(労働者、労組)、。そしてメディアです。笹谷氏は「産業界や行政が"良いこと"に取り組んでも、金融が入らなければ持続しない」と指摘します。これは、地銀の投融資はもちろんですが、ニューヨークのシェアサイクルではシティバンクがスポンサーについているように、さまざまな関わり方ができることも示唆しています。笹谷氏は「問題が複雑に複合化している今、複合的に取り組まなければ解決は難しい」と話します。

このような地方創生のムーブメントは、より大きく見ると「国際都市東京」、「五輪レガシー」の創出ともに「日本創生」のひとつであると笹谷氏は見ています。 「相次ぐ世界文化遺産登録、クールジャパン、インバウンド、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピック。この流れを地方創生、新しい東京、五輪レガシーへと落とし込んで、3つ揃って日本創生だ、それが今の政府が考えていること」(笹谷氏)

そして、この大きな流れの「羅針盤」になるのが2015年に国連で発表されたSDGs(Sustainable Development Goals。持続可能な開発目標)であるとしています。笹谷氏は「SDGsは世界をひとつの繋がった世界として捉えており、共通の視点で課題を考えることができるようになった」とし、あらゆる活動をSDGsと対応させて検討することを薦めています。

そして、「このような変化の中で、じゃあ企業はどう生きたら良いか」と質問を投げかけ、その答えをこれまでとは違う「CSR」に求めようとしています。それは、「企業の社会的責任」ではなく、「企業の社会対応力」であると笹谷氏。
「Responsibilityとは、"責任"ではなく、Response(反応・対応)するAbility(能力)のことだ。社会価値と経済価値を同時に生む、社会への対応力を身につけることが、今の企業に求められていることではないか」(笹谷氏)
これは笹谷氏が好んで使う、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方良し」や、マイケル・ポーターが提唱する「CSV(Creating Shared Value)」にも通じるもの。そして氏は、良いことは隠れてやることを好む日本人の気質「陰徳善事」を、「昔はそれでも良かったが、これからの時代はそれだけじゃ駄目」とし、良いことをしたらきちんと発信する「発信型三方良し」の重要性を説き、それこそが「オープンイノベーション」の真髄ではないか、と語り締めくくりました。

BeSTA FinTech Labの狙い――松原久善氏

午前の部、最後の登壇者はNTTデータの松原氏です。松原氏は、BeSTA FinTech Lab設立の背景と今後の活動への意気込みを語りました。

BeSTAは地方銀行向けの勘定系システム・ソフトウェアで、全国で39の地銀が導入しています。かねてそうした地銀から、次世代の新しい金融サービスの在り方や、人材開発などについてNTTデータに相談が寄せられており、BeSTA FinTech Labは、そうした地銀から寄せられるさまざまな要望に応えるために設立されました。

松原氏は昨今「異業種と組んで新しいサービスを提供する"前に出る銀行"と、バンカーズバンクのように表に出ることはないが金融機関にサービスを提供する"後ろに下がる銀行"の2つに分かれる」と言われているが、「地銀は、そのどちらでもない、地域の中心として新しい役割を担うことができるのではないか」と期待を語ります。

松原氏それは地銀が持つ地域の商流、金流、物流のデータに加え、「知流」とも言うべきさまざまな知見が、地方産業の活性化に役立つのではないかという希望です。「これからの時代、地銀に求められるのは、従来のお金を回す役割ばかりなく、地銀が持つ情報や技術を、地方の産業育成や地方創生に役立てることではないか」と松原氏。

そのような文脈で今一番取り沙汰されるのがFinTechです。松原氏は「欧米のFinTechは、ベンチャーが銀行の市場を侵食するイメージだが、銀行とベンチャーが手を組んで新しい活動をスタートさせるのが日本でのFinTechのスタイルになりつつあるようだ」と分析。また、松原氏は「FinTechを活用すれば、銀行がフロントに立ち、いろいろなものと掛け合わせて新しいものを提供できるようになる」とも見ています。

BeSTA FinTech Labの具体的な活動は、「BeSTAにおける地銀のコミュニティを生かし、イノベーターと交わり、議論する場としたい」と松原氏。これからの時代は「異業種とのコラボレーションをどれくらい考えられるかが肝になる」ため、異業種連携にも取り組みたいとも話しています。3×3Lab Futureとの協業は「最初から一緒にやろう、お世話になろうということだけは決めていた」とも話しており、3×3Lab Futureの持つさまざまなノウハウ、ゲートウェイに期待を寄せています。

基本的には地銀側からの課題や相談をベースに、ラボで課題解決に取り組むスタイルが理想とされ、昨年は京都銀行からの相談で、NTTデータのオープンイノベーション事業創発室とともに新しい金融サービス創発のアイデアワークを長期に渡って展開。また、福岡市では西日本シティ銀行と一緒にビーコンを使った実証実験を行った事を紹介し、「銀行ではトライ&エラーを繰り返すカルチャーがないが、ラボでならアジャイル開発的に行う場を提供することもできる」と、さまざまな対応の仕方があることを紹介しています。

その一方で「課題が落ちてくるのを待つだけではなく、こちらからも提案」する用意もあるとも。プレゼンの最後では、Labから地銀に提案しようと準備している新しい金融サービスの"さわり"を少しだけ、ムービーで紹介しました。

一人ひとりが講演会の主役を務められるくらいのステータスとボリュームを持った3氏が一挙にトークするという贅沢な午前中の部。心地よい疲労感とともに知的熱狂に包まれた会場では、トーク終了後に隣の席同士で意見・感想を語り合う簡単なワークを行い、午前の部の終了となりました。(後編へ続く

午前の部の最後に行われたワークの様子。右上の写真は、グラフィックファシリテーターが作成したグラフィック


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