イベント地域プロジェクト・レポート

【レポート】大企業が取り組む地方創生のアクションプラン

10月30日開催「宮崎県小林市・えびの市・高原町の地方創生のアイデア磨き上げ」

「新しい」地方創生、次なるステップ

10月5日に3×3Laboで開催されたアイデアソンイベント「あなたのアイデアで宮崎の魅力を伝えていこう ―東京と地方を編むアイデアソン」。これは"地方創生"の文脈の中で、地方自治体と東京、あるいは都市部の大企業がどう絡むことができるのかを占う試金石のひとつともいうべきイベントでしたが、これ受けて開催されたのが、ハッカソンイベント「宮崎県小林市・えびの市・高原町の地方創生のアイデア磨き上げ」です(10月30日にNTTデータのイノベーションセンター「INFORIUM《インフォリウム》」で開催)。宮崎からの参加者と、東京の大企業で勤務する、いわば水と油のような参加者たちが、反発するどころかまじりあって新しい液体になるかのように、アイデアソンで出たアイデアを集約・具体化するためのワークショップを行いました。

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「吉田の4象限」「吉田の4項目+1」

「吉田の4象限」「吉田の4項目+1」

このハッカソンは、宮崎県西諸県郡の2市1町(小林市、えびの市、高原町)とNTTデータおよび三菱地所が提携し、行っているもので、アイデアからプロジェクトを起こし、ビジネス創出までを目指すものです。地方創生のムーブメントの中で、地方課題解決をビジネス化する「CSV」であり、複数の企業が関わる「オープンイノベーション」の現場とも言えるでしょう。司会を務めたNTTデータの神田氏は冒頭で「3×3Labo、インフォリウムという異なった性格を持つ施設間連携であり、新しいビジネス創出を目指したい」と話しています。今予定されているだけでも2016年3月まで継続する中長期の取り組みです。

吉田の4象限前回のアイデアソンでは111個のアイデアが出されました。前半は、前回もプレゼンターを務めたNTTデータ・吉田氏が内容を振り返るとともに、今回のワークショップのフレームワークを提示しましたが、そこで改めて地方創生における4象限、①「魅せる=情報発信」、②「ウェブコミュニケーション=相互会話と認識」、③「体験と感動」、④「伝える(継承)=体験の口コミ」を解説。それによると、111個のアイデアは、主に①と③に集中していたそう。「多分、①と③は考えやすく得意とする人も多かったのだろう。しかし、②と④も埋めて、4象限がぐるぐると回るようにしなければならない」と吉田氏。回すエンジンになるのが「ストーリー」と呼ばれるものになるのです。

そして、プロジェクト創発の前提条件として、①「情報が発信されていること」、②「都会と地方がウェブコミュニケーションでつながること」 ③「市民、地元企業、生産者が参加し、幸せになること」、④「リアルとバーチャルの両方があること」――という4項目とともに、プラス1として「都市と地方がともにビジネス化し永続的に活動できること」の5項目を提示しました。

これは、地方創生をビジネス化する企業共通のフレームワークと言えるでしょう。ちなみに前述の4象限を「吉田の4象限」、このフレームワークを「吉田の4項目+1」と呼ぶそうです。

「吉田の4項目+1」

高度に設計されたワークショップ

吉田氏のプレゼンを受けて、同じくNTTデータの角谷氏によるファシリテーションで、各テーブルでのワークショップを行いました。角谷氏は同社のオープンイノベーション推進部で、オープンイノベーションプラットフォーム「豊洲の港から」(2014~)のマネージメントなども担当しています。

ワークは3時間半に及ぶ長いものでしたが、非常によく設計されていました。

印象としては、デザインシンキングとフューチャーセッションの中間のスタイル。前者の切れ味と後者のリニアなヒューマニティがうまく入りまじり、地に足を付けつつも、高く飛ぼうとする志向性がよく出ていたように思います。もちろん、両者の欠点も孕むために、その分生みの苦しみもなくもない。しかし、この苦しみがなければ、地方と都市は結びつかない、そうも思えるものでした。

具体的には、各テーブル6名が3名ずつの2チームに分かれ、テーマを選定。テーマは、1チームが必ず「民泊しばり」で、もう1つはフリー。111個のアイデアは24項目に整理され、そこからテーマを選び議論を広げていきます。(※1チームが民泊しばりなのは、同地域が農家民泊に力を入れているため)

テーマは必ず吉田の4象限のどこかに含まれるもので、例えば「都会と地方が友達になる」というテーマは②「ウェブコミュニケーション=相互会話と認識」に当てはまります。各チームでは、ファーストステップでその象限内で何をすべきかを議論しますが、次のステップでは、それを実行するために、その他の象限で何をすべきかもまた議論するのです。

各チームは1名のリーダーと2名のメンバー。メンバーはテーブルワークの合間で何度か別チームのリーダーのところで説明を受けて議論します。リーダーはアウトプットすることでアイデアを整理できるし、別の視点からの意見を聞いてブラッシュアップすることができるでしょう。当事者に寄り添うことは地に足のついた地方創生を行うためには欠かせませんが、ともすれば当事者同様、広い視野を失いかねない危険性もあります。適宜別チームの視点を入れることで、視野狭窄に陥るのを避けているようにも見えました。

ビジネススキームを構築するために

各チームは模造紙を4つに区切り4象限とし、要素を記入していく。左上から時計回りに①→④。写真では象限②のアイデアを中心にしている。

さらにこのワークを紐解くと、この作業はユーザー(カスタマー)の「ジャーニーマップ」を構築するためのものでもあるそうです。ジャーニーマップとは「顧客行動の可視化」とも呼ばれるマーケティングの手法のひとつで、近年さまざまな業界で取り入れられているもの。

メインのアイデアが、例えば象限③における「農家民泊」にまつわるものだとして、それをうまく回すためにその他の象限①情報発信、②顧客との会話、④感動の共有をどう行うのか。それぞれの象限で、どのような心理変化・行動を喚起するかというユーザー側の変遷とともに、提供する側が行うべきことも列挙していきます。

宮崎と東京をハックする

3時間半に及ぶワークの後は、全チームがショートピッチ方式でプレゼンテーションを行いました(内容概略は図参照)。

「ストーリーが明確だった」(角谷氏)と評を受けたもののひとつにチームB-1の「釣りする農家民泊」がありました。農家民泊のターゲットを釣り愛好家に絞り込み、竹から和竿を作る1年間、ユーザーをウェブコミュニケーションと農家民泊に誘引するスキーム。ターゲットが明確なためにやるべき作業も見えやすく、内容が具体的でした。

D-2チームのふるさと納税ならぬ「ふるさと納アイデア」も秀逸。東京でさまざまな取材をしていると、「地方の応援をしたい」と潜在的・顕在的に感じ考えている人が実に多いことに気付きます。そこをうまく吸い上げる仕組みが作れれば可能性は大きいでしょう。B-2チームの「オンリーワン食体験」は、都市生活者がウェブを通じて農畜産物を指定し育成の様子を見守り時には宮崎へ赴いてチェックするというアイデアですが、それを東京のレストランへ出荷するスキームを作るなど、ビジネスとしての可能性が非常に高いと感じさせるものでした。

このほかにも多くの秀逸なアイデアが多数見られた一方で、市場ニーズの視点、ビジネス的な展開力に欠けているものもあったように思います。これは地方への理解、地元愛が深すぎると陥りやすいパターンと言えるかもしれません。

各チームの内容の概略

次回はビジネスコンペ?

INFORIUMから見える豊洲の港

プレゼンの後、総括として吉田氏は「西諸県に行ったことがない人が多数の中、よくぞここまでアイデアが出せた。ビジネス化に向けて非常に可能性を感じた。スモールビジネスでも良いので、何かひとつでも形にしていきたい」と高い評価をし、ビジネス創発に向けたさらなるアイデアを出すよう呼びかけました。

角谷氏も今回のワークの成果を、「ストーリーが弱いチームもあった」としつつも「予想以上にすべての象限の考察ができていた」と高く評価しています。次回はイベント仕立てではなく、ジャーニーマップ、サービスブループリントは内部で作成し、ビジネス化に向けたステップへと移る予定とのこと。今回出た11のアイデアはすべて検討の俎上に乗り、優先順位を決めてプロトタイピング(サービス、プロダクトの試作または試作イメージの製作)へと進めていきます。

地方創生×オープンイノベーション

角谷氏によると、NTTデータはプラットフォーム「豊洲の港から」でオープンイノベーション創出に取り組んでいますが、三菱地所のような他企業および地方と組んでプロジェクト化するのは初の試みだそうです。このプロジェクトがスタートした当初、筆者はNTTデータが強力に自社事業へと紐付けようとしているのではとも思いましたが、「NTTデータはITの企業だが、ITはツールのひとつに過ぎず、結果として必ずしも使われなくても良い」と角谷氏。「"紙をどう切りたいのか"ということが重要であって、それに適した道具を選ぶことが大切。NTTデータが持っているものがナイフだからと言って、"持っているもの至上主義"でナイフを推すようなことはしない」。

自社利益を優先せず、薄利・ロングテールがオープンイノベーションの成功の秘訣のひとつでしょう。今、多くの企業、団体がオープンイノベーションに取り組んでおり、徐々に成果が出始めていますが、そこに地方創生を明確に組み込んだ事例としては、このプロジェクトが初めてのように思います。ぜひ新しい形の地方創生の形として先鞭をつけてくれれば、そう願ってやみません。


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「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。

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