JA全中、農林中金、三菱地所、そしてエコッツェリア協会。この4社が提携して発足した「JA大丸有をつくろう!構想」は、食と農の分野で新しい価値創造を目指すもの。先ごろはそのプロジェクト第1弾として「大手町マルシェ×JAまるしぇ~みんなで耕す大手町畑~」(6月22日)を開催し、大手町エリアのワーカー向けに日本各地の旬をPRしながら、マルシェの運営にワーカーが参画するなど、農と食の未来を取り組みながら肌で感じる活動を展開しました。
第1弾は消費者と生産者の関係性や市場に焦点を当てたものでしたが、7月14日に開催されたプロジェクト第2弾、「大丸有フードイノベーション」プロジェクトは、より生産者/生産物にフィーチャーした企画と言えるでしょう。全国からぜひ参加したいと手を挙げた8人の生産者が、大丸有で活躍するシェフ、教授、バイヤー、プロデューサーを相手に産物やつくり方、こだわりをアピール。大丸有エリアの専門家の厳しい目で、産物の印象、品質のみならず、パッケージングも含めマーケティングまで検証し評価するというもの。「良い物を作る」のは当たり前、これからの時代は、その先のバリューチェーンや支援者との関係をどう構築するかが鍵となります。大丸有フードイノベーションはその"一歩先"へリーチしようとするものとも言えるかもしれません。
この日登場した生産者は佐京園(静岡県)、安藤勇一農園(秋田県)、増田農園(千葉県)、大澤農園(千葉県)、脳家(沖縄県)、丸石沼田商店(青森県)、小坂農園(東京都)、JA仙台(宮城県)の8者(発表順)です。
評価委員として席についたのは、上岡美保氏(東京農業大学国際食料情報学部食料環境経済学科准教授)、安倍憲昭氏(皇居外苑「楠公レストハウス」総料理長)、永島敏行氏(俳優、青空市場代表取締役)、薄井麻衣子氏(株式会社ビー・ワイ・オー営業本部HMR事業部営業企画部リーダー)、中村正明氏(6次産業化プランナー、東京農業大学客員研究員、関東学園大学教授、大丸有「食」「農」連携推進コーディネーター)、兼子恵子氏(フードプロデューサー)の6氏です。
この日のセッションは2部構成で行われました。第1部は、上述の評価委員に向けたプレゼンテーション等の評価会。第2部は一般参加者対象の試食交流会。第2部も単なる試食ではなく、生産者からの発表や、交流・アンケートによるフィードバックも行っています。
さて第1部は--。プロ同士の真剣勝負となりました。作り手は自信やプライドを以てプレゼンテーションを行い、専門家は厳しく評価、意見を述べる。丁々発止のやり取りが交わされます。以下、発表順に自信の産物の特徴を見ていきましょう。
①緑茶――【佐京園】(静岡県)
江戸時代から続く老舗の茶農家。歴史は300年を数え、現在は若き13代目・佐京裕一郎氏が活躍する。生産から製茶まで一貫して自社で行う。「その年の新芽しか使わない」というこだわりが、確かなファンを掴み、人気となっている。一般流通には乗せず、マルシェでの直販、オンラインでのみの扱いとなる。プレゼンでは水出しの茶を振る舞った。ほのかな甘味、しっかりとしたまろみが特徴。(丸の内「行幸マルシェ」でも定期的に出店)
②じゅんさい――【安藤勇一農園】(秋田県)
貴重な国産じゅんさいを生産する秋田県三種町。安藤勇一農園はJGAP(食の安全や環境保全に取り組む農場・生産者の認証)を取得、安全かつ高品質なじゅんさいの生産に努めている。2016年に三種町がじゅんさいを販売するNPO「ぷるるん」を立ち上げ。生じゅんさいのパックなどを製品化し販売している。安藤氏はNPOの会長を務め、じゅんさいの販売、ブランディング、レシピ等、多角的にその可能性を模索している。
③いちじく――【増田農園】(千葉県)
どの家の庭先にもいちじくの木があり、子どものおやつに食べていた、という伝統と歴史のある香取市。増田信司氏が営む増田農園では、夏取り(ザ・キング、ビオレドーフィン)、秋取り(桝井ドーフィン、蓬莱柿[ほうらいし])を生産しブランド化に向けて取り組んでいる。この日の試食では夏果のザ・キングとビオレドーフィンを提供。皮ごと食べられ、さわやかな甘さがある。いちじくのイメージがガラリと変わるおいしさ。
④アスパラガス――【大澤農園】(千葉県)
四街道市・鹿放ヶ丘に戦後入植した開拓団の2代目、大澤敏弥氏。大澤農園は土作りからこだわり、特徴のある作物を多品種、少量生産している。アスパラの株は通常保って7年と言われるが14年以上保たせているという。時期的に"夏秋取り"と呼ばれるアスパラを試食に提供。柔らかく、甘みのある味わいだ。「基本に忠実」がモットー。直売を基本としており、アスパラは飲食店6店に卸している。icoba四街道一丁目(四街道市)の運営にも関わる。
⑤パイナップル――【脳家】(沖縄県)
非常に困難なパイナップルの無農薬栽培に取り組んでいる本村修氏。農業経験のないまま8年前に石垣島に移住、生産3年目となる今年ようやく出荷にこぎつけた。伝統的な「島パイン」(ハワイ種)で、力強い甘みと酸味が特徴。2日も経つと味が落ちるため、基本的には、東京で買うのは難しい。生産数はまだ少ないが、妊婦さんのネットワークなどで口コミで広まり、購入希望者が着実に増えている。
⑥焼きちくわ――【丸石沼田商店】(青森県)
石臼を使う昔ながらの製法で製造する焼きちくわ。5代目・沼田祐寛氏が発表した。保存料、合成保存料等は使わず、魚の持つ自然な味を最大限まで引き出そうとしている。原料には「FA」「特」などの最高級グレードのスケソウダラを使用。通を唸らせる伝統の味、若い人でも入りやすい風味で、幅広い層にリーチする。都内のフレンチと、焼きちくわを使ったメニュー開発にも取り組む。
⑦ジンジャーシロップ――【小坂農園】(東京都)
国分寺で生産を営む東京農大出身の小坂良夫氏。2014年に江戸東京野菜に認定された谷中生姜をたっぷり、贅沢に使用したシロップ。年間1000本しか生産しておらず非常に貴重な一品。使用しているのは生姜のほかにはレモンとグラニュー糖のみで、混じりけのない甘さ、すっきりとした口当たり。ジュースで飲んで一服の涼を取る、カクテルでお酒として楽しむ、ホットで体を温めるなど、さまざまな利用ができる。インバウンドを含め外国人市場を意識しており、パッケージデザインにもこだわった。2020年の東京オリンピックに向けて、東京産商品としてもアピールに取り組んでいる。
⑧【JA仙台】(宮城県)仙大豆
JA仙台の小賀坂行成氏が発表。日本有数の産地でありながらも知られることの少ない宮城の大豆を広めるため、3.11の大震災をきっかけにスタートした「仙大豆プロジェクト」からローンチした「ソイチップス」。ノンフライで低糖質、タンパク質と食物繊維が豊富で女性に嬉しいスナックに仕上がっている。大手コンビニチェーンの一部業態で取り扱われるなど市場プレゼンスは一定以上ある。味付けには「ポタジエ」(東京・中目黒)のオーナーパティシエ柿沢安耶氏が協力している。シンプルな味と作りで汎用性の高さを感じさせた。
各プレゼンテーションに対して、評価委員との質疑応答、意見交換を行っています。評価委員からの質問は主に、生産のうえでのポイントや産物の品質について、また、流通、マーケティングに関しての意見、アドバイスも多く聞かれました。
第2部の一般参加者向けの試食会と交流会では、大丸有エリアのオフィスワーカーを中心にさまざまな方々にお集まりいただき、なかなか目にすることのない8種類の産物を試食いただきました。試食の合間には8者のみなさんからプレゼンテーションもあり、味わいながら理解を深めてもらいました。また、試食の後はフリーディスカッションとなり、出展者が消費者の生の声を聞く機会にもなりました。
この大丸有フードイノベーションは、専門家と一般参加者による評価会ではありますが、ロングテールな関係づくりに向けて工夫している点が多々あります。
まず、大丸有の「食」分野の幅広いキーパーソンが集っている点が大きな特徴です。毎週金曜日に行幸通り地下ギャラリーで開催される「青空市場」、丸の内シェフズクラブ、つながる丸の内、大手町マルシェ等々、食の取り組みは多いので、そのキーパーソンが新しい視点で活動します。2009年以降、さまざまな食の課題に取り組んできた大丸有の活動が、より連携していき、日本各地との関係を強めていく契機となりそうです。
今回、この「大丸有フードイノベーション」プロジェクト全体のプロデュースに関わり、を手がけ、評価委員としても参加している中村正明氏によると、生産者へフィードバックする評価は、本イベントでの評価アンケートだけではなく、独自の評価シートを使い、出展者が流通や販路開拓に役立つものにする予定です。また、"ラストワンマイル"ともいうべき流通の最後のリーチであるテストマーケティングも行う予定で、「もう一歩踏み込んだつなぎ役」の役目を果たしたい、と語ります。
評価委員を務めた上岡氏は、大丸有でこうした取り組みを行うことを高く評価しています。ひとつは生産者に欠けがちな発信、マーケティングに役立つという点。PRイベントとしてのバリューとともに、生産者の意識改革の役目も果たすでしょう。また、上岡氏は日本の農業がインバウンドでプレゼンスを高めるためには飲食店をゲートウェイにすることを薦めており、その意味で大丸有の飲食店に直接リーチできる本イベントは非常に意義深い、と話しています。
4者協定による取り組みが、一体この先どんな"イノベーション"を生むことになるのか。プロジェクトの進捗は、大丸有フードイノベーションの特設サイトでも明らかにされていきます。今後の活動にご期待ください。