イベント地球大学・レポート

【地球大学】農業分野の新ビジネス

2013年11月18日(月)開催

「地球大学と農林水産省の食と農林漁業の祭典」シンポジウムが11月18日(月)に開催されました。ファシリテーターに、竹村真一氏(京都造形芸術大学教授)、ゲストに、佐藤夏人氏(農林水産省 食料産業局産業連携課 総括補佐)、伊藤彰氏(日本サブウェイ株式会社)、藤田和芳氏(大地を守る会)、田中淳夫氏(銀座ミツバチプロジェクト)、井上友美氏(三菱地所 商業施設業務部 シェフズクラブ担当)を迎え、各ジャンルの視点から講演が展開されました。

イントロダクション〜竹村氏

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生産者よりの視点である藤田氏から、最前線で提供をしている伊藤氏、その都市をプロデュースする井上氏、田中氏、国の立場から佐藤氏。さまざまな角度から5人のパネラーにお話いただきます。

和食の世界無形文化遺産登録もほぼ内定となり、農林水産省は国内外で、日本の食と農のプレゼンスを高めていこうと6次産業化も提唱されています。なぜ今の時代に6次産業化なのか。はじめに佐藤さんからお話いただきます。

6次産業化の可能性〜佐藤氏

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6次産業化という考え方について。農林漁業者は、従来、2次3次産業の方に、原料となる農林水産物を供給する立場でしたが、それでは価格支配決定権が川下の2次3次産業の方にあり、農林漁業者の思う形になかなかならない。そうならないためには、農林水産物の魅力をよく知る農林水産者が、加工から販売まで、自ら行ったら良いのではないかという発想からです。

この6次産業化を提唱された今村奈良臣東大名誉教授のお話によれば、はじめは、1(次産業)+2(次産業)+3(次産業)で6次産業でしたが、この足し算だと1が無くなっても5が残ってしまう。ならば、1×2×3として、1が無くなれば、全体が0になり、産業が成り立たない方が良いと考え方を変えられたとのことです。

このように、6次産業化という考え方は昔からあるのですが、なぜ最近農林水産省が6次産業化を推進しているのか。元々の6次産業化のように農林漁業者が食品の加工、販売まで一人で全部やるという取組だけではなく、農林漁業者が食産業以外の分野の2次3次産業の方ともコラボレーションして、取り組みをしていけば、いろいろなところに新たな市場が創出できるのではないか、という考え方からです。

例えば、身体によい農産物で病気の予防など、これまでは、医薬品というものが担っていた市場を農産物を活用することで代替していくということも考えられます。このように、さまざまな分野でコラボレーションしながら、農業、食産業以外の新たな市場も取り込んでいこうというのが、近年の6次産業化です。そもそも、1次産業の農業生産のみだと10兆円規模の市場ですが、食品の加工、販売を含めた食産業全体で見れば、100兆円規模になります。国際的な食市場も今後大きくなると予想されています。さらに、1次産業と多様な2次3次産業がコラボレーションすることにより、先ほどお話しした医薬品分野など新たな需要を取り込んでいくことにより、6次産業化の市場は大きい可能性を秘めているとみています。

それでは、具体的に、国はどのように6次産業化を進めようとしているかということですが、まず、そのための法律をつくっています。農林漁業者に6次産業化の事業計画をつくっていただき、農林水産大臣が認定する仕組みです。法律で認定された取り組みは、補助事業などの各種支援策により支援していきます。
この事業計画をつくるに当たっては、農林漁業者に専門的なアドバイスを行うプランナーの派遣も行っています。現在約1,700の事業計画が大臣の認定を受けており、例えば、自らの生産した野菜をカットしたりピューレにするような加工、農林漁業者が首都圏のレストランと直接提携して販売する計画など様々な計画があります。林業では間伐材を材料にして加工販売したり、水産業では市場流通させられない規格外の魚を集めて、直接居酒屋チェーンにセット販売するなど、農業だけでなく、林業、水産業の分野でも6次産業化に取り組まれています。

また今年度からは、農林漁業者と2次3次産業の方とがメリットもデメリットも共有しながら、6次産業化に取り組む仕組みができないかということで、それぞれが出資し合弁会社をつくっていただき、そこに官民ファンドから出資支援することで、その合弁会社の自己資本を増強させ、事業拡大に取り組みやすくする支援を行っています。今年の9月には、このファンドを使った初の案件が出たところであり、今後もこのような1次産業と2次3次産業の連携による6次産業化の取組を推進していきます。

現在、農林水産業全体を抜本的に改善し、どうやって成長産業にしていくか、政府全体で議論しているところであり、今年度中には、その内容がとりまとめられます。

外食産業としての可能性 農家との連携したビジネス〜伊藤氏

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サブウェイは世界に店舗を持ち、アジア圏には1000店舗以上あります。今後、野菜の供給が大きな部分になってくると考えていますので、日本でそのモデルができないかと、取り組みを始めました。
2008年から野菜のサブウェイということで、世界でも日本は独自の路線を敷いています。いろいろな意味で出口を供給するというのは大事ではないかと考え、店舗数を増やしています。フレッシュ野菜として、ピーマン、オニオン、レタス、トマトを年間2,500t使っていますので、今後出口を増やすにつれ、供給源がさらに必要になってくる状態です。

我々のビジョンのひとつに、健康寿命を延ばす取り組みがあります。寿命は平均83歳、健康寿命は72歳と言われています。11年間健康でない時間を過ごすということになります。健康寿命を延ばし、病院にかからない健康な一生をまっとうしようとすると、それには食と運動が切っても切り離せない関係です。
野菜を軸にした取り組みは、野菜・おいしさ・体験の3つを磨き上げながら、人々の心と身体の健康に貢献していこうという考えのもと、キッズのサンドウィッチ教室なども開催し、健康寿命を延ばし、日本の農業活性化を目指しています。

顔の見える野菜とよく聞きますが、我々は語れる野菜をつくっていこうと考え、土づくりが命であるという考えに辿り着きました。
土づくりの技術は日本に多くありますが、個々の農家さんが持っていることが多いので、そこをどう繋げていくかが大事になります。我々は土作りを提案しながら、契約農家さんをつくっていくということを現在行っています。

よい土ができ、実際にできた野菜もよいかが、一番のポイントです。現在は通常の野菜より糖度があがり、硝酸態窒素が下がり、野菜の栄養度も増える効果が確認されています。我々も現地へ直接行き、定植をしたり収穫をしたり、取り組みをしながら野菜にも触れ、より大事なところを見ていくようにしています。

農家さんの安定供給への課題は、やはり自然災害です。我々の契約農家さんも、苗や畑に被害を受け、3ヶ月以上かけて行程をやり直さないといけない状態になりました。農家さんの育成には、これを加味しなければいけません。そこで最終的に考えているのが、植物工場です。露地物と植物工場を共生させながら、無駄をなくすための6次産業化を提唱させていただいています。このユニットをどうつくるかが、若い農家さんを育てていくには重要な課題と捉えています。

そして、6次産業化の工場も利用しながら、商品開発もしていかなければいけません。夏に出していたスープは、カット工場で残渣に回っていた、形が不揃いの野菜を使いつくっていました。こういった商品は、現地に行って商品開発をしないと生まれてきません。将来、ユニットになりアジアに繋がっていけば、サブウェイを使って農作物の宣伝や、農家育成に貢献できるのではと考えています。

生産者を盛り上げるために
 生産者と流通の新しい関係〜藤田氏

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38年前から大地を守る会をスタートしました。農薬や化学肥料を使わない安全な食べ物を生産者の方たちにつくってもらい、それを都市の消費者の玄関先まで宅配するというビジネスを展開しています。契約農家数は約2,500あり、およそ18万人の消費者へ提供しています。外食産業でも、日本の安全な食べ物を示したいという思いから、レストランも経営しています。

大地を守る会は、どちらかというと日本の1次産業を守りたい、育てたいという気持ちで運動を続けてきました。TPPに参加し、関税が0になれば、海外から安い農産物が洪水のように入ってくるわけです。そのことが日本の農業に大きな影響を与えるということは事実です。国際競争力をつければよい、規模を拡大すればよいと一部の方は言いますが、それができる農家は全体の5%くらい。日本の食料自給率を支える大半の農家は、価格競争を迫られれば、立ち行かなくなってしまいます。TPP参加反対運動もしてきましたが、反対し続けるだけではなく、価格競争などにどう対応していくか、流れをつくりたいと思いました。
今年3月にコンビニエンスストアのローソンさんと業務提携・資本提携をしました。日本の農産物を消費者に届ける流れを、しっかりつくりたいという思いからです。単身世帯にも働きかけることができますし、日本の農産物を売ることが支持される世の中になってくれればと思います。

そして7月には中国の北京でも、大地を守る会のビジネスモデルを展開しはじめました。中国の農家がつくった有機農産物を、中国の消費者の玄関先まで届けるビジネスです。3年前から準備していましたが、問題ばかりです。畑が豪雨で丸ごと流される、配達中に停めていたトラックから野菜がすべて盗まれるなど、多くの問題を抱え悪戦苦闘しながら、立ち上がりのところをつくっています。

なぜそうまでして中国なのか。それは、人口が世界の約5分の1を占めており、中国の農業が変われば世界の農業も変わるのではと考えているからです。そして環境問題についても、意識が変わっていってくれるよう働きかけたい。生産者と消費者との信頼という形で繋がっていくことができれば、国際的な関係についても希望が持てるかもしれないと思い、中国でがんばっています。

先日、上海で中国の有機農業グループの方たちの交流大会があり、基調講演をさせていただきました。3年前、有機農業は広まらないだろうと思い、始めましたが、中国全土から多くの方が集まりました。
また、北京ではポータルサイトの会社で、講演・対談の機会をいただきました。そこでは起業したい若い方たちが集まられていました。彼らの観点は、ソーシャルビジネスです。政府の力を借りずに自分たちの力で、環境問題、農業問題を変える流れを、どのようにつくったのかという質問が多くありました。
中国の学生に講義をした際も、民衆の中で問題解決をしようという動きが、どのように出てきたのか。社会的企業、ソーシャルビジネスの概要なども聞かれました。運動で政府を動かすことはできないが、ビジネスという形ではできる。日本で起きている環境問題や社会的課題を、ビジネスの手法で解決する流れを学びたいと話してくれました。
少しでも力になれるよう、これからもがんばっていきたいと思います。

地域活性化と6次産業 生産地と消費地を結ぶ〜田中氏

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8年前からNPOとしてスタートし、4年前には農業生産法人銀座ミツバチをつくりました。今年は厳しい夏でしたが、それでも収穫量が1tを越える結果となり、国内生産料の0.04%ほど獲れました。それだけ銀座の周辺に環境が有ったという事です。

採れたハチミツは銀座の技で様々な商品にして頂き、街の中で販売させていただいています。こうした活動は、海外の方にも知っていただけるようになり、今年の3月28日ミツバチの日には、フランスの高級宝飾店「ショーメ」などにも協賛頂くようになりました。フランスでもミツバチが減少しているそうで、ミツバチを守ろうということでの協賛です。ミツバチは環境指標生物ですから、ミツバチを通してその地域環境が良くわかります。今、パリやニューヨークなど様々な都市でもミツバチを飼う活動が広がってきました。

また、ハチミツを採るだけでなく、中央区内の保育園や幼稚園の子どもたちに出前授業もしています。小さな生き物から命を学ぶ授業です。地方へも行くたびに、こうした環境教育をしていて、今年は1000人近くの子供たちに命の大切さを伝えております。

こうして毎週、職業・世代を越えて銀座のビルの屋上で作業をしてきましたが、オリンピックが決まり、銀座ではさまざまな開発が動き出しています。大きな開発は必ず屋上緑化をしなければいけないのですが、一部では手入れがされていない都会の耕作放棄地になっています。この場所を活かすために、地域の方々と様々なものを植え、収穫をすることで都市農村交流が進み始めました。

私達の取り組みは、ミツバチを通して銀座の街の中だけでなく、全国の里山ともつながり、多くの方々の思いを共有しながら、新しい社会の有るべき姿を考えていく実践の場ともなってきました。

生産者と都市をつなぐ仕掛け
 都市における食のあり方〜井上氏

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三菱地所が、食育活動を始めて5年が経ちました。なぜ食育活動なのかと多くの方が疑問を持つと思われますが、「まちづくりを通して社会に貢献していく」ということが、私たちの基本使命としてあります。その中で、三菱地所は商業施設の開発や街づくりを通じ、多くの飲食店を誘致してきました。丸の内から「食」の分野で貢献していけることを、テナントのみなさまと共にやって行こうという考えがこの活動の土台にあります。

丸の内の再開発が進み、現在は第2ステージに入りました。オフィス単一の機能だけではなく、商業施設も増えてきており、今では400店以上の飲食店がここ丸の内に出店いただいています。

就業者を23万人抱える丸の内商業施設の特徴として、高い飲食比率が挙げられます。就業者の旺盛な飲食需要はもちろん接待のニーズや、多くの方々がこのエリアに目的をもって足を運んでいただく重要な役割として飲食を捉えています。その来街者ニーズ、また飲食店のニーズをとらえながら、CSVという観点に立ち、誕生したのが「食育丸の内プロジェクト」です。

2008年に設立し、大人の食育を基軸にしています。この推進役として、「丸の内シェフズクラブ」を組織しました。服部幸應氏を会長に、和食、フレンチ、イタリアン、アジアという4つのジャンルのシェフにお集りいただきました。
食の一大消費地丸の内として、生きた食育の実践を目指しており、食べるイベントを中心に開催しています。地域メニューフェアなどは、さまざまな商業施設で行われていますが、その先にある「つくり方」「文化」に繋げていければと実施してきました。
イベントで繋がった生産者さんとレストランの取引がその後も続くかというと、残念ながら数%です。そこで、シェフズクラブのシェフが現地を訪れ、その地域のやる気のあるシェフたちと、食材の選び方からプレゼンテーションまで共に考え、オリジナルメニュー開発を目指します。地域のシェフに地元の食材の良さを、東京側の目で魅力を伝えながら、地域の地産地消のお手伝いも進めています。食育活動を通じ、首都圏へのPPも大切ですが、何よりまず地元の方に地域の魅力を再発見いただくことが大切だと感じています。

企業連携ではクックパッドさんと連携をしました。広く食事を作ることに興味を持っていただこうということで、シェフと一般の方がパートナーを組み、楽しくなるようなレシピを提供しました。

我々は食品メーカーのように商品を持っていませんので、場・ノウハウ・ネットワークの3つのものを提供することで、食に関する貢献ができるのではないかと思っています。
このような活動を通じて、丸の内を食文化のプラットホームとして成長させ、より魅力のある街にしていきたいと考えています。

まとめ〜竹村氏

5人の方のお話は、別々にじっくりとお話いただきたい内容の濃さでした。しかし5人一緒にお話しいただいたことで、見えてきたものがあるような気がします。
6次産業という言葉はよく聞きますしわかりやすい。しかし数字に見えない、それ以上の価値を生み出すムーブメントなのではないのかと、私は思えてきました。

第一に、食は人をよくする、人という価値をつくる。未来の地球人をつくっていくものです。
第二に、環境をよくする、環境の価値をつくっていく。土づくりもそうですし、都市の環境もよくしています。5人の方にプレゼンテーションいただいた事例は、環境価値を、農村と地方を繋ぐ形でつくっています。
第三に社会価値。ソーシャルビジネスと呼ぶか呼ばないかに関わらず、人間関係を、生産者と消費者を繋ぎます。銀座で言えばクラブのママさん、教育施設、商業施設、ビル管理の方々が、ミツバチを介して繋がる。新しい、街の人間関係が創造されている。ですから社会価値を創造しているわけです。

6次産業化というのは、市場規模拡大もありますが、「人という価値をつくる、環境価値をつくる、社会価値をつくる」大きな価値創造の貢献なのではないかと感じました。新しい日本が見えてくる、そういうモデルを世界に広めていけたら、ジャパンバリューが世界のOSになっていくのではないかと思います。

地球大学アドバンス

「食」を中心としたテーマで新たな社会をデザイン

科学研究の最前線を交えながら、地球環境のさまざまな問題や解決策についてトータルに学び、21世紀の新たな地球観を提示するシンポジウムです。「食」を中心としたテーマで新たな社会デザインを目指します。

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