イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】新しいエネルギーシステムを創り上げていくために。DER活用の課題と未来

第1回DER&グリッドセミナー「DER活用の課題は何か?」2024年6月13日(木)開催

再生可能エネルギーや蓄電池、EVなどの「DER(分散型エネルギー資源)」は、カーボンニュートラルの実現に向けて積極活用が不可欠と言われています。しかし、DERの活用や課題については、議論の場が不足しているのも現状です。「DER&グリッドセミナー」は、DER活用に向けた課題に関する最新の知見を共有しながら、各事業者が率直な意見交換を行い、適切な方向性を見出す一助とするために、一般財団法人電力中央研究所(以下、電中研)の発案により実現した議論の場です。6月13日に開催された第1回のテーマは、「DER活用の課題は何か?」。2名の講師と電中研の研究者4名が、DERの活用による課題、電力グリッド(電力の送配電網)の安定化や最適化に向けた技術開発の動向などについて紹介したのち、登壇者によるパネルディスカッションが行われました。

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カーボンニュートラルの実現にはDERの積極活用が不可欠

カーボンニュートラルの実現にはDERの積極活用が不可欠

image_event_20240613.002.jpeg電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門研究部門長の堤富士雄氏

冒頭、電中研の堤 富士雄氏が登壇し、開会の挨拶を行いました。

「今、日本のエネルギー需給は、大きな変革期を迎えています。太陽光発電や蓄電池に加え、EVをはじめとするDERの導入が進むなか、未来のエネルギーシステムが誕生しつつあると感じています。その一方、DERがさまざまな課題を我々に突きつけていることも事実です。この新しいエネルギーシステムを適切に運用し、安定的なエネルギー供給を実現するためには、関係者の皆さまとの議論と協力が不可欠であると我々は考えています。今日、この場を議論の出発点として、忌憚のないご意見をお聞かせいただけますと幸いです」(堤氏)

講演1 セミナーの全体概要とDER活用の必要性

image_event_20240613.003.jpeg電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 副部門長の上村敏氏

続いて、電中研の上村敏氏が登壇し、本セミナーの概要とDER活用の必要性について説明しました。カーボンニュートラルの実現、電力システム改革、レジリエンス向上といった社会からの要請が高まるなか、「安定した電力供給」と「DERを活用したビジネス」に関わるすべての関係者が、情報共有を行うことこそが、DER活用の未来を拓くカギになると話します。

「近年、需要家やアグリゲーター、系統運用者などにとってDERの重要性は増し、積極的に活用することが必要になっています。その一方で、DERの無秩序な活用は、他のプレーヤーの事業や安定した電力供給、ひいては、国がめざすカーボンニュートラルの実現を阻害することになりかねません。すべてのプレーヤーがお互いの状況を理解した上で事業を進め、国はこれを円滑に進められるような制度や市場を設計すべきであると我々は考えています。カーボンニュートラルをはじめとする共通の目標を達成するために、本セミナーをご活用いただければ幸いです」(上村氏)

基調講演1 DER活用の状況と制度などの課題

image_event_20240613.004.jpegエネルギーリソースアグリゲーション事業協会(ERA)会長の川口公一氏

次に登壇したのは、DERを活用した事業の健全な発展をめざすべく、2023年10月に設立されたエネルギーリソースアグリゲーション事業協会の川口公一氏。日本でのDER活用の状況、直近のDER市場や制度の動向、DER活用拡大に向けた課題について説明しました。

「東日本大震災以降、FIT制度の開始に伴い、太陽光を中心とする再生可能エネルギーや需要ひっ迫時のDR(ディマンドリスポンス、電力の消費側で電力使用量を制御する方法のこと)リソースの活用が拡大しました。足元では、DRの調整力としての活用や系統用蓄電池の急拡大など、DERの活用が進んでいます。一方、市場の動向に目をやると、2024年4月から全商品の募集が開始した需給調整市場では、応札量が非常に少ない状況が続いています。特に東京と中部の未達率が突出している一方、北海道では300円超、東北では200円の高値落札が頻発しています。現在の応札不足、高値落札への対策としては、調達募集量の見直しが行われている状況です」(川口氏)

DER活用の拡大に向けた課題として、川口氏はDRリソース運用にかかわる課題を挙げました。

「アグリゲーターは、リソースの提供者やリソースを束ねるリソースアグリゲータなどと契約し、多様な市場で取引しています。ただし、市場参入要件が厳しく、容量市場での活用が大部分を占めています。特に実効性テストは、実施タイミングの予見性がなく、DRリソースの提供者にとっては厳しい要件となっています。例えば、この週のいずれかのタイミングでテストを行うと通知するなど、実際の発動イメージに合わせることも解決策のひとつと言えます。需給調整市場では、市場参入のための事前審査の要件が、過剰な水準であることも課題です。受電点での指令への追従が必要であり、DRリソースの参入が進まない状況です」(川口氏)

再生可能エネルギーの抑制回避については、経済産業省と資源エネルギー庁が新たにまとめた「出力制御対策パッケージ」のもと、低圧と特高・高圧の双方における需要面での対策を講じるべく、議論が進んでいるとのことです。

基調講演2 EVとグリッドエッジEMSへの期待

image_event_20240613.005.jpeg大阪大学大学院工学研究科モビリティシステム共同研究講座 特任教授の太田豊氏

続いて、太田豊氏が登壇しました。「EVの普及期においては、EVコンシェルジュの役割を果たすビジネスが重要になる」と話し、こう続けました。

「EV転換に向けたアプローチを進めていく上で、ペインの解消が欠かせません。EVコンシェルジュの役割は、EV転換に伴う心配事への対応を行うことです。EVコンシェルジュやツールを定着させながら、自動車業界と電力業界のデータ連携による充電インフラを戦略的に拡充させることにより、両方の業界のデータを融合したプラットフォームを構築することができます。それと同時に、スマートシティのイメージを数値化することで、『eモビリティを核としたスマートシティ』の展開、ひいては、『自動運転とシェアリングによるモビリティ変革』が可能になると考えています」(太田氏)

ここで言うプラットフォームとは、EV、充電インフラ、電力システムを統合させたプラットフォームを指しています。

「統合プラットフォームの要となるのは、自動車会社、充電サービス、電力会社です。自動車、充電インフラ、グリッドの利用に関わる時空間情報を連携させれば、自動車会社は、利便性の高い移動と暮らしやグリッドエッジEMSをユーザーに提供することが可能になります。電力会社は手頃な価格で、再生可能エネルギーを用いた充電をユーザーに提供できるようになります。実際、アメリカなどでは、こうした統合プラットフォームの構築や自動車と電力分野の時空間データやアセット情報を連携させる取り組みが進んでいます。グリッドエッジEMSをアクティベートできるのかといった懸念はありますが、日本でもついに、EVグリッドワーキンググループが立ち上がりました。今後、国としてのEV普及に向けた取り組みは進んでいくと思われます。また、EV成熟期のイメージを描いておくことも重要です。移動と暮らしの快適性、環境性、柔軟性、強靭性に優れたスマートシティは、都心型や郊外型のみならず、営農型などにも生かされていくでしょう」(太田氏)

講演4 DER活用による電力系統への影響と課題

image_event_20240613.006.jpeg電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門研究推進マネージャー八太啓行氏

次に、電中研の八太啓行氏が登壇し、DER活用による電力系統への影響と課題について説明しました。

「将来の電力ネットワークにおいては、多様なDERの連系拡大が想定されており、系統側の各種対策に加え、需要側のDER活用が期待されています。DERを活用すると、デマンドレスポンスによる電力系統の負荷平準化や電圧変動の緩和といった効果が得られますが、使い方によっては、一斉充電に起因するピークが発生するおそれがあります。また、需給バランスの維持など、系統全体の課題に対処することにより、送配電線の混雑緩和や電圧の適正化といったローカルな課題に悪影響を及ぼす場合があります。その逆に、ローカルな課題への対処により、系統全体の課題に支障をきたすことも懸念されています」(八太氏)

EVの充電シフトの事例として、八太氏は、2020年度から2022年度まで、国の補助事業として行われた「ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」を取り上げました。

「これは、電力市場価格などに連動したダイナミックプライシングによって、EV充電のシフトを促し、再エネを有効活用するための実証事業でした。配電系統のシミュレーションを行った結果、EVの充電が昼間にシフトすると、逆潮流のピーク値が抑制されると共に、配電線潮流の一日の変動幅が抑制されることなどが分かりました。一方で、実証結果の中には、市場価格によるEV充電シフトがPV発電の時間帯と一致しないケースも確認しました」(八太氏)

EVのDR利用に向けた課題としては、「蓄電池として利用可能な蓄電残存容量」や「車両の位置情報や充電器への接続状態」の把握をはじめ、走行に必要な蓄電残存容量の確保、多数台のEVを束ねるアグリゲーション技術や通信技術などを挙げました。

「EV以外に、定置型蓄電池や給湯機といったDR利用も考えられますし、複数の機器を組み合わせ、DERリソースとして活用していくことも期待されます。DERを本格的に活用していくためには、先にご紹介したような課題に対して、事前に対策を講じておく必要があるといえます」(八太氏)

講演5 国内のVPPポテンシャル評価と市場の課題

image_event_20240613.007.jpeg電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門研究推進マネージャーの坂東茂氏

続いて、電中研の坂東茂氏が登壇し、大型負荷のDR・VPP(仮想発電所)リソースのポテンシャル評価について説明しました。

「産業用需要家を中心とした需要セクター向けに実施したアンケート調査(2015年)では、予備力型DRに対応可能な生産プロセス・機器としては、電気炉、誘導炉、焼成炉が最も多くあがりました。また2021年、ERAB検討会の事業所向けに実施したアンケートでは、DRポテンシャルを持つリソースとしては、発電機が大半を占めました。生産プロセス負荷のDRに着目すると、電気炉や電解設備などが有望なDRリソースであることが分かっています」(坂東氏)

2022年、資源エネルギー庁内に設立された 「次世代の分散型電力システムに関する検討会」や2023年4月、同庁内で結成された「EVグリッドワーキンググループ」の動向に目を向けると、「DR・VPP活用に関する国の議論は、高圧リソースの活用から、低圧リソースの活用、ならびに市場・系統との統合へと進んでいると言えます」と坂東氏は話しました。

image_event_20240613.008.jpeg電力中央研究所社会経済研究所研究推進マネージャーの西尾健一郎氏

最後に、電中研の西尾健一郎氏が登壇し、「VPPの課題と対策」について解説しました。2023年に米国エネルギー省が公表したレポート「Pathways to Commercial Liftoff」を取り上げ、次のように話しました。

「このレポートは、複数のクリーンエネルギー技術の商業化に関するシリーズの一つで、政府や規制当局、電気事業者、アグリゲーターなど、さまざまなステークホルダーの対話の促進を目的に作成されたものです。レポート内で指摘されているVPPの課題は、①DERの採用拡大、②VPP登録の簡素化、③VPP運用の標準化、④電気事業者の計画やインセンティブへの統合、⑤電力市場への統合の5つでした」(西尾氏)

これら5つの課題に対し、日本が講じるべき対策や解決策として、西尾氏が挙げたのは主に次の5点です。

・課題① DERの採用拡大
ヒートポンプ給湯機を含むDERの普及率がまだ低く、初期費用も高い場合が多いため、補助などの支援策を通じて、物自体を増やしていく必要がある。

・課題② VPP登録の簡素化
VPPリソースの獲得コストが高くなりがちなので、オプトアウト(自由退出)可能なデフォルト設定やネットワーク接続機能などの活用が、解決策になり得る。

・課題③ VPP運用の標準化
VPPを水平展開していくために、予測や管理の方法を標準化していく必要がある。

・課題④ 電気事業者の計画やインセンティブへの統合
VPPのメリットを電気事業者の計画にどのように盛り込むかを検討すると共に、料金やキャンペーンなどのインセンティブにも工夫が求められる。

・課題⑤ 電力市場への統合
VPPを電力市場に組み込むための制度詳細の検討や、システム構築などの技術的支援が必要。

パネルディスカッション

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後半は、川口氏と太田氏、電中研の上村氏、坂東氏をパネリストに迎えたパネルディスカッションが行われました。モデレーターは、電中研の八太氏が務めました。
※ここでは、ディスカッションのハイライトをご紹介します。

八太氏:今後、最も活用が期待されるDERは何だと思いますか。

川口氏:種類によって活用方法はまったく違うと思います。逆に言えば、どんなDERでもすべて活用できると思います。ヨーロッパと違って、日本は配電線が地上にあるので、工事などのコストはかなり抑えられると思います。自動化も飛躍的に進んでいるので、切り替えも比較的簡単にできると思いますが、ある意味、それがネックになっている側面もあるのではないかとも思います。

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太田氏:せっかくなので、逆の観点からお話すると、DERは期待できないと思います。DERはデマンドレスポンスなので副業で行うものであり、本業があってこそのDERであると私は考えています。電化することで、電気料金を抑えられることが重要であり、そこに対して付加価値を生み出すのがDERです。DERの市場は、金融証券の市場と同じで、ボラティリティが非常に高い世界です。そこに、ディスパッチャブルなコントロールシステムを作るのかどうかが、今後のDER活用を左右することになると思います。

上村氏:一度設置したら場所を移せない発電所などとは違って、EVには場所を移動できるというメリットがあります。EVを最大限活用すれば、本業がそのまま付加価値になり、本業と付加価値の創出を同時に実現できる可能性があるかもしれません。

八太氏:プラットフォームの構築は、DER活用における一つの解決策になり得るのでしょうか。

太田氏:エネルギーサービスが、その他のサービスと大きく違う点は、ユニバーサルであり、クリティカルであることだと思います。通信もクリティカルですが、それを動かしているのは電力です。そんなクリティカルなサービスにおいて、自動車や充電インフラ、グリッドの利用に関わる時空間情報を連携させて統合プラットフォームを構築するというのが、講演でお伝えした内容ですが、誰がどのようにやるのかという、ビジネス上のスキームに大きな課題があります。それは、5年、10年考えても、未だに解決策に至らないのが現状です。

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川口氏:民間だけでやるにはいろんな意味でハードルが高いです。情報のセキュリティなども含めて検討する必要があると思います。

坂東氏:プラットフォーム上でどんな情報を統合し、見せていくのかというところに難しさがあると思います。DERと一口に言っても、用途はそれぞれ違いますし、需要家からすれば、天候の情報や需要の状況などを知りたいと思うでしょう。今後、さまざまなプラットフォームが出てくると思いますが、電力会社側の運用における複雑さは残っていく気がしますし、そこが一番大きな課題ではないかとも思います。

その後に続いた懇親会では、電力事業者に限らず幅広い業界からの参加者たちの意見交換が闊達に行われ、今後の電気事業の発展につながっていく光景が広がっていました。
第2回「DER&グリッドセミナー」は、今年9月に開催予定です。今後の展開に、乞うご期待ください。

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