8,9,11
ビジネスパーソンの学び場、丸の内プラチナ大学で人気を集める「逆参勤交代コース」が今年も開講しました。逆参勤交代とは、魅力と課題のある市をテーマに地方での期間限定型リモートワークを通じて、働き方改革と地方創生の同時実現を目指す構想です。今年度、5つの市で実施される2泊3日のフィールドワーク「トライアル逆参勤交代」では、受講生それぞれの視点でその地域ならでは魅力や課題を発見し、最終日に各市長に対して地域活性化につながるビジネスプランの発表を行います。今回訪れたのは、全47都道府県「幸福度」ランキングで5回連続日本一に選ばれた福井県の県都、福井市。11月25日(金)~27日(日)に同市で開催されたフィールドワークの模様をダイジェストでお届けします。
<1日目>
福井駅→オリエンテーション→福井市総合ボランティアセンター→新栄商店街→クマゴローカフェ→懇親会
<2日目>
足羽川河川敷→まちなかバスツアー→sumu→CRAFT BRIDGE→Luff Fukui Work & Studio→懇親会
<3日目>
Luff Fukui Work & Studio(課題解決プラン提案)→ハピリン、プリズム福井(お土産購入)→福井駅解散
福井駅に到着した受講生たちを温かく迎えてくださった福井市役所の方々
フィールドワーク1日目の正午、福井駅には、本コースの講師を務める松田智生氏(丸の内プラチナ大学副学長/高知大学 客員教授/三菱総合研究所主席研究員)をはじめ、11名の受講生が集合しました。今回は、不動産、電気通信、ヘルスケアなど、さまざまな分野で活躍する都心のビジネスパーソンと共に、現役の大学生1名が参加。オリエンテーションの会場となったのは、福井駅前の複合施設「ハピリン」内の食事処「福福茶屋」です。一行はソースヒレカツや越前そばなど、福井の郷土料理を楽しみながら、自己紹介を行いました。その後、同施設内にある福井市総合ボランティアセンターに移動し、岩崎一友氏(福井市商工労働部 商工振興課 副主幹)、岩崎正夫氏(まちづくり福井株式会社 代表取締役社長)、小津誠一氏(有限会社E.N.N.代表)、高野翔氏(福井県立大学 地域経済研究所准教授)ら4名の福井市のキーパーソンが登壇し、福井市の概要、2024年春の北陸新幹線開業に向けて進められるまちづくりやリノベーションの現状などについて解説しました。
「住みよさランキング2022」で全国総合2位に輝いた福井市は、越前がに、ソースカツ丼など食や地酒の魅力もさることながら、「日本さくらの名所100選」にも選ばれた足羽川の桜並木、日本のポンペイの異名を持つ一乗谷朝倉氏遺跡など観光の魅力にもあふれたまちです。現状、東京から福井市へ行くには、金沢で新幹線から特急列車に乗り換える必要がありますが、2024年春の北陸新幹線開業後は、乗車時間が35分短縮され、東京から2時間50分でアクセス可能になります。経済波及効果は約309億円、入込客数は78.5万人と推計されており、まちのさらなる活性化に大きな期待が寄せられています。
福井のソウルフードと言えば、越前そばとソースカツ丼。今回のフィールドワークでは「あみだそば」の越前そばと、ソースカツ丼の元祖「ヨーロッパ軒」のソースカツ丼を堪能しました
「福井市では観光誘客、交流人口の拡大をめざして、首都圏・北陸新幹線沿線自治体における市の認知度とイメージの向上を図るため、『福いいネ!』というイメージロゴを制作しました。『いまの時代、自分からアピールしなきゃ!』というキャッチフレーズには、福井市のさまざまな魅力を"福"とし、自分からどんどん"いいね"とアピールしていこうという想いが込められています」(岩崎一友氏)
福井市のイメージロゴ「福いいネ!」(福井市公式ホームページより)
市街地では、福井県内で最も高い超高層ビルの建設が進められるなど、2024年の新幹線開業に向けて大規模な再開発事業が行われています。そのような状況の中、福井商工会議所、福井県、福井市の協働・連携のもとに「県都にぎわい創生協議会」が設立されました。この協議会では、2040年を目標に、北陸新幹線開業に向けた観光コンテンツの魅力向上対策や県都の将来像について議論を重ねられており、この度、県都の将来像を構想する「県都グランドデザイン」を策定しました。
「県都グランドデザインには、まちで活動する人たちをどれだけ増やしていくか、その人たちの中からどうやって新しい価値を生み出し広げていくかという、人と人がつながり集まる場所に焦点を当てたまちづくりの構想が描かれています。それを実現するべく進めていく中で、地元の目線だけでなく、外からの視点を取り入れていくことも大事だと思っております。今回のトライアル逆参勤交代では、皆様から色々と学ばせていただけたら幸いに存じます」(岩崎正夫氏)
県都グランドデザインのリーディングプロジェクトとして、今年7月にスタートしたのが「ふくまち大学」です。"まちの学長"を務める高野翔氏は次のように話しました。
「この大学は開かれた学びの場として、子どもからご高齢の方まで、誰でも来られる市民大学を作ろうというアイデアから生まれました。教育(Education)の語源であるエデュカーレ(ラテン語)に立ち返り、詰め込むではなく、好きなことやできることを引き出す学びを志向しており、3歳~100歳まで楽しめるフィンランド発祥のスポーツ、モルックを楽しむ『まちのモルック部』や夜の中央公園で映画を楽しむ『まちの文化学部 野外映画学科』など、まちの楽しみ方を広げるべく、まちなかを舞台としたさまざまな場づくりが始まっています」(高野翔氏)
再開発事業が進む一方、福井市ではリノベーションも活発に行われてきました。2018年度にスタートした当初から、福井市独自のリノベーションまちづくり事業「DiscoveRe-Fukui」の企画運営を担う小津誠一氏は、受講生にこう語りかけました。
「再開発事業の進む市街地だけでなく、今なお昭和の趣が色濃く残る町並みもご覧いただき、どうすれば再開発とリノベーションがうまく共存できるかを考える3日間にしていただければ幸いです。『福井らしさって何ですか?』と聞いて、答えられる地元の人はほとんどいません。まちの"らしさ"は、実は外から来られた人が素朴に感じることが的を得ている場合が多いです。皆様からヒントをいただけたら嬉しく思います」(小津誠一氏)
次に向かったのは、第1回リノベーションスクール福井から誕生した「クマゴローカフェ」。群馬県出身の店主・牛久保星子氏は、ふらりと一人で訪れた福井で出会った地酒「花垣」の美味しさとコミュニティトラベルガイド「福井人」を読んだことがきっかけで、7年前から福井市で暮らし働いています。
「当初は、県内の別の市で地域おこし協力隊として活動していましたが、リノベーションスクール福井に参加した時に、元々ろばた焼き屋だったというこの物件に出会いました。前のオーナーさんの名前がクマゴローだったので、そのまま名前を継承してリノベーションし、2016年3月にクマゴローカフェとして開業しました。リノベーションスクールで一緒のチームになったメンバーと会社を作って、ビル1棟を管理しています」
上:クマゴローカフェの外観
左下:ビル3階にあるダンスフロア「桃源郷」 右下:牛久保星子氏
ビルの2階は住居、3階はレンタルスペースとしてリノベーションし、子供たちの遊び場や落語会などのイベント施設として活用しています。受講生から「移住の心得は?」と聞かれると、「初めて福井市に来た時、女性が一人で飲みに行ける場所がなかったので作りたいなと思い、試しに3年ほど住んでみようという気楽な気持ちで来ました。お酒もごはんも美味しく、人とのつながりが自然とできていく中、結婚して子どもが生まれたこともあって、気づいたら7年経っていたという感じです。この界隈はかつて人通りも少なかったそうですが、私たちがこのビルに入居したことで、少しずつ若い方が増えてきたのを実感しています」
続いて、一行は福井駅から徒歩3分ほどの距離にあるアーケード商店街「新栄商店街」を散策しました。小津氏の言う通り、昭和時代にタイムスリップしたようなレトロ感あふれる路地や看板などがそこかしこに残っている一方、世界的に活躍する福井出身のアーティスト・長坂真護氏の前衛的なアートギャラリーやボクサーパンツ専門店などもあり、新旧が織り混ざったユニークな雰囲気が特徴的です。
1日目の懇親会では、越前がにのフルコースと福井の地酒「黒龍」が振る舞われ、福井市の方々と逆参勤交代メンバーが交流を深める機会となりました。
2日目は、足羽川の河川敷散策からスタート。春には約600本の桜の木が花を咲かせる2.2kmにも及ぶ河原では、バーベキューやキャンプ、カヌー体験教室、そり遊びなども行われています。一行は、戦国時代の武将・柴田勝家を主祭神とする柴田神社で、ガイドの井上満枝氏と合流し、勝家の妻・お市の方の娘を祀る三姉妹神社や越前松平家の繁栄の舞台となった名城・福井城址を徒歩で巡りました。その後、バスで標高116.8mの足羽山へ向かい、愛宕坂から福井の景色を展望し、産業開発興隆・商売繁盛などのご利益があるといわれる継体天皇を祀る足羽神社を参拝しました。
左上:ガイドの井上満枝氏。右上:かつての福井城・本丸に建つ福井県庁。
左下:柴田勝家と妻・お市の方を祀る柴田神社。右下:県と福井市が明治初期の古写真をもとに復元した御廊下橋。
昼食後、一行は3つのリノベーション物件を視察しました。まず向かったのは、ガレリア元町商店街の「su_mu」。1階はカフェリビング、2階はレンタルスペースになっており、アート展示、演劇の稽古場などとして貸し出しているほか、夕方以降はシェアキッチンとしても活用されています。
上:su_muの外観。
左下:加藤氏の話に耳を傾ける受講生たち。右下:加藤幹夫氏。
加藤幹夫氏(福井駅前商店街振興組合理事長/福井駅前五商店街連合活性化協議会 会長)は、次のように話しました。
「現在、シェアキッチンは、火曜から木曜がラーメン屋、金曜から日曜はスナックとして営業しており、地元の若手の人たちが活躍しています。それぞれ固定客も増えていて、スナックを開いている女性は、来年この近辺で自分のお店をオープンする予定です。2024年の北陸新幹線開業に向けて、商店街では新しい商品やサービスを開発しようとする動きがあり、恐竜まんじゅうなどユニークな商品が生まれつつあります」(加藤幹夫氏)
左上:CRAFT BRIDGEの外観。右上:3階のラウンジ。
左下:高岡勇治氏(株式会社ピンタイ)右下:Luff Fukui Work & Studioのスタジオスペース。
続くリノベーション物件は、「CRAFT BRIDGE」と「Luff Fukui Work & Studio」(以下、Luff)。CRAFT BRIDGEは、かつて福井の花街といわれた浜町の一角にある築50年を超える古ビルをリノベーションしたコワーキングスペースで、2階、3階、屋上にレンタルスペースを備えています。一方、Luffは、福井市最大の繁華街・片町にあった旧縫製学校をリノベーションした「新しい働き方」をサポートするシェアオフィスで、3階にはスタジオスペースとラウンジを構えています。これら2つの施設の運営を手掛ける高岡勇治氏(株式会社ピンタイ)は、こう話しました。
「徒歩約10分の距離内に相互利用できる2つの施設を作りました。CRAFT BRIDGEはウェブデザイナーから県議員まで、業種や年齢もさまざまな方々にご利用いただいています。今年5月にオープンしたLuffには14区画がありますが、すでに12区画が埋まっており、いい場所になりつつあります。私たちのような民間事業者で、ルーフトップテラスや会議室、ギャラリーなどを備えたフルスペックの施設を運営するケースは、福井市では稀少だと思います」(高岡勇治氏)
2日目の最後は、福井市の高校生4人との意見交換が行われました。彼らは、福井市初の取り組みとして、2022年10月30日に開催された、高校生がつくる史上最高のフェス「アオハルプロジェクト」に参加したメンバーたちです。学生が楽しめるまちなかづくりを目的に、「どんな企画があったらまちなかが楽しくなるか」を学生たち自身が考え、企画から運営までを主体的に手掛けたイベントは、オタクカフェやダンスパフォーマンス、老舗和菓子店・村中甘泉堂とのコラボ限定スイーツなど、大人も仰天の本格的な企画が満載。当日は多くの人で賑わいをみせ、大盛況のうちに幕を閉じたのだそうです。
「半年間という限られた時間で、勉強と部活を両立しながらイベントの準備に取り組む中、大変なこともたくさんありましたが、皆さんに支えられやり遂げることができました」「当初、大人の方の前でプレゼンするのは緊張しましたが、計画力を身につけることができて成長を感じました」と高校生たちはイベントを終えた感想を語ってくれました。「関係人口として、私たちに何か貢献できることはありますか?」と講師の松田氏が尋ねると、「頼れる大人がいると嬉しい」「相談役になってもらえたら心強い」という声が挙がりました。
2日目の懇親会は、この日出会ったキーパーソンを交えてクマゴローカフェで行われました。松田氏によると、「測ってみたら、今日は1万2千歩も歩いていました。これほど歩いたフィールドワークは逆参勤交代史上初だと思います」。お酒もすすんで、そろそろ疲れが出る頃かと思いきや、エネルギッシュな受講生たちは、同ビル内にある「バーこうみんかん」で開かれた二次会にも参加し、夜更けまで福井の人々との交流を満喫しました。
最終日の3日目、受講生たちはLuffに集合し、課題解決プランのまとめに取り掛かりました。アイデアをまとめるにあたって、松田氏は心に留めて欲しいポイントとして、以下の2点を挙げました。
●「あなた(福井市)主語」ではなく、私が主体的に何が出来るかの「私主語」で考えること
●(1)What(何をするのか)、(2)Why(なぜするのか)、(3)Who(自分は何を担うのか=私主語)、(4)Whom(誰を対象にするのか)、(5)How(どのように実現するのか)を網羅すること
課題解決プランを発表する受講生たち
ランチ休憩を挟んで、いよいよ課題解決プランの発表です。聴講側は、福井市副市長・西行茂氏をはじめ、福井市役所やまちづくりに携わる方々など約15名が参加しました。
今回提案されたプランのタイトルは以下の通りです。
(1)福ってる? 福いいね!まちなかCooking Studio まちなか先生発掘プロジェクト
(2)「ほやでぇ、福井の山で育った木で福井のみんなでぇえもっしぇぇカニカニヤタイをつくるプロジェクトやざ」
(3)アオハル参勤交代@江戸プロジェクト
~北陸新幹線を使って、1ヶ月だけ「お試し東京留学」~
(4)資産をつなぐプロジェクト
(5)福井伝統工芸アイドルグループ「さくらいと」にリノベーションをアピールしてもらうプロジェクト
(6)ふくまち大学 上智校を作る
〜福井の日常とウェルビーイングをまなぶゼミ?〜
(7)福井駅からの「福井の魅力をつなぐ」プロジェクト
~歩いて発見できる、福井の魅力~
(8)福井にきてみねま。行かんまいけ!行きまっし!「帰省プラス福井」プロジェクト
(9)みらいインキュベーションクラブプロジェクト
(10)福いいねを語る、ホームステイプロジェクト
(11)福いいね!ブラッシュアッププロジェクト
~首都圏人材をはじめとする関係者との壁打ちの場づくり~
福井市副市長・西行茂氏
全てのプレゼンテーションを終えたあと、西行副市長は受講生に向けてこう話しました。
「さまざまな角度から素晴らしいご提案をいただき、本当にありがとうございました。目から鱗のアイデアやこれで良かったんだと再確認できたこともあり、大変興味深く拝聴しました。高校生や大学生をターゲットにしたアイデアが多くありましたが、福井市役所でもこれからのキーワードは若者であると捉えており、3年ほど前から、市の若い職員が自分のアイデアを市長に直接語り、採用された場合、自らが主体となってプロジェクトを進めていく取り組みを始めています。まちなかの高校生をはじめ、若者たちの声に直接耳を傾け、それを世の中に届けていくことが、県外の方にも福井の良さを知っていただけるきっかけの一つになると思っています」
逆参勤交代の講師を務める松田智生氏
以下、講師の松田智生氏のコメントをもって、今回のフィールドワークは締めくくられました。
「人口減少の一途を辿る日本において、地方と都市、あるいは地方同士で人材の争奪戦を行うことは不毛であり、これからは人材の共有と循環が重要であるとして逆参勤交代を提唱しています。今回のフィールドワークを一過性のイベントとして終わらせるのではなく継続すること、今日のアイディアをさらに進化させること、そして福井市と他の地域との広域連携で拡大すること、つまり『続ける、深める、広める』ことです。今回の貴重なご縁を機に、来年度も共に手を携えて進めていけたら嬉しく思います」(松田智生氏)
回を追うごとに、進化を続ける逆参勤交代。今回も、自分が興味を持ったまちの課題を解決するために、「私がこのまちに対してできることは何か」を真摯に考え、それぞれの強みを活かしたユニークなプランが発表されました。それらのアイデアがどのように具現化されていくのか、今後の展開に乞うご期待ください。
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。