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【レポート】高校生/大学生・大学院生が大丸有に集い、未来を描く Day3

「丸の内サマーカレッジ2022」2022年8月10日〜12日開催

4,8,11

丸の内サマーカレッジ2022もいよいよ最終日。午前はゲストの講演を通して自分たちの未来像を考え、午後は各々のグループに分かれてビジネスプランを作り上げ、プレゼンテーションを行います。すべてのプログラムを終えた学生のみなさんはどのような思いを持つのでしょうか。

<3日目のプログラム>
・講演5「自分らしくチャレンジし続ける力」
 …上岡美保氏(東京農業大学国際食料情報学部教授)
 …石川貴志氏(一般社団法人Work Design Lab 代表理事)
・ワークショップ2 発表準備
・ワークショップ3 発表

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講演5「自分らしくチャレンジし続ける力」…上岡美保氏

講演5「自分らしくチャレンジし続ける力」…上岡美保氏

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東京農業大学の副学長であり、「食と農」の博物館館長にも就任した上岡氏は埼玉県川口市で生まれ、両親の仕事の都合で広島・愛媛・香川と引っ越し、幼少期から食に関わる環境で過ごします。東京農業大学へ進学し、学部、大学院と農業経済学を専攻。現在は同大学で食料経済学を専門とし、食生活変化の解析、食育・食農教育等に関する調査・研究を行っています。また、農林水産省食料・農業・農村政策審議会委員、食育推進会議委員、内閣官房教育未来創造会議構成員を務めるなど、その活躍の場は多岐にわたります。

サマーカレッジでは、開催前に「将来どんな自分になりたいか」というアンケートを実施しており、その回答を見た上岡氏は、社会のことを自分事として捉えながら真剣に考える学生のコメントに感嘆したと伝えた上で、30歳の自分を想像しましょうと語りかけました。

「みなさんは、30歳のときにどんな働き方をしていたいですか? バリバリ働きたい、起業したい、結婚して家庭を持ちたいなど、先のイメージを持ってキャリアを描いてみてもらえたらと思います。また、性別問わず互いに自立して支え合うことのできる仲間との出会いを大切にしてください。私も振り返ると良い先生、仲間に恵まれたと感じます」

人生は悩み、もがき、感動の連続だと話し、どんなに成功している人でも最初から今の姿が見えているわけではないと話す上岡氏。

研究職として大学教員の道を進んだ自身のキャリアを振り返り、「運と実力」も大切だと話しました。大学教員となるには、博士の学位が必要なため、大学院に進学するか、就職した後に論文博士となる必要があります。上岡氏自身も院生時代には目指す方向について悩んだとのこと。当時、日本の食生活の変化について国から出される統計データを利用して解析を行う中で、この研究を何に活かしていけるのだろうかと考えを巡らせていたそうです。

「『次世代の食生活がどうなるのか』を考えたことがきっかけに、道が開けていきました。コーホートに着目して、世代ごとにどのような食生活を送っているかを分析した結果、若い人の食生活に急激な洋風化・多国籍化の傾向が見られました。ここから、今後の日本の食文化と農林漁業や伝統産業にも影響が出るのではと考え、次世代に向けた食育や食農教育による解決方法を探すようになり、現在のキャリアに繋がっています」

また、これまでのキャリアを振り返りながら、家族の支えが大事なポイントだと語ります。上岡氏自身は、29歳で結婚・30歳で里帰り出産をし、産後8週と1ヵ月の有休をとって復職。保育園探しに奔走しながら、自身の母・夫の母と3名体制で子育てをしました。役職者となった現在も活動の場が広がる中、家族で家事を分担しています。日本の大学はまだまだ男性中心の社会。男性も女性も、それぞれが持つ良さを活かして活動することができればと話しました。

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続いて、食と農の文化の可能性に移ります。
農林水産業の可能性はまだまだ未知数です。食料自給率をはじめ解決しなければならない問題が多くあり、一方で可能性は無限大だと上岡氏は考えています。生産者と消費者をwin-winの関係にするための構築や、人材育成など、取り組みたいことは山積みです。

「自給率を上げるには、食品ロスを減らしつつ、国産国消や地産地消を通し国内農業を応援する仕組みをつくることです。また、農村基本法などの法改正が必要ですが、基本計画から関わり変えていきたいと考えています。また、農業を維持することで、食だけではなく地球全体や文化コミュニティにも影響が波及していきます」

また上岡氏は、人材育成の面からも、食農教育の必要性を発信・発展させたいという思いを持っています。生産者に儲けがあり、消費者にとっても健康に良く、環境を守れるような社会を目指し、一人ひとりの多様な幸せと社会全体の豊かさを実現したいと語ります。さらにはグローバル視点を取り入れるなど、今後の展開も広がります。

人を育てるやりがい、様々な人との出会い、役職者として実現可能なことが増える楽しさなど、仕事には面白さもたくさんあると話す上岡氏。最近、東京農業大学では「ガストロノミー(美食)」として、オホーツクの小麦畑を見ながらフルコースを食べるイベントを行いました。地域の中では日常に感じることも、他の人から見たら面白い点なども伝えて実践していきたいと話します。

最後に上岡氏は、「地球上の全ての人がグリーンを大切に、そしてWell-Beingな社会を実現するためのイノベーションを起こしてほしい」と伝えます。一番面白い・楽しいと感じることをしながら、老若男女誰しもが生涯活躍できるような社会になればという希望を述べ、「学生のみなさんには、できるだけ様々な経験・失敗をしながら、素敵な仲間に出会い楽しい人生を送ってほしい」とエールを送りました。

講演5「自分らしくチャレンジし続ける力」…石川貴志氏

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石川氏は、一般社団法人Work Design Labの代表理事として、「働き方をリデザインする」をテーマに、対話の場づくり、企業・行政・団体などと連携したプロジェクトを全国各地で推進し、首都圏複業ワーカーと地方企業をつなぐ様々な取り組みを実践。また、総務省の地域力創造アドバイザー、情報経営イノベーション専門職大学の客員教授としても活躍しています。

Work Design Labのメンバーは現在180人ほど。全員が本業を持ちながら携わっており、メンバーは経営者や会社員、弁護士、税理士と様々な業界の方が参画しています。多くのプロジェクトが動く中で、「一人でやるよりも、みんなで活動した方が多様な視点が集まると実感している」と話します。

今回の講演テーマは「自分らしくチャレンジし続ける力」。石川氏は、まず「自分らしさ」は関係性の中で見えてくる、と伝えます。自分らしさは自分が持っているものですが、自分自身の輪郭に気づくのは他者との会話からです。石川氏も、Work Design Labのメンバーとの会話の中で「石川さんらしいですね」と声をかけられることをきっかけに、自身の特徴に気づくという経験があったと話します。ただし、関係性に引っ張られすぎると人と比較をしてしまうので、あくまでも自分にとっての心地良さを見つけることも大切。"自分のコンパス"を大事にしてほしいと伝えます。そして、チャレンジすることで自分らしさが分かり、自分らしさをさらに探求するにはチャレンジし続けることが大切だと語りました。

自身も探求し続けていると話す石川氏。変化を楽しみながら、人生を自分の好きなように生きてほしいと学生たちに語りかけます。

「まずは好きに生きること。人生100年時代ととらえると、今20歳前後のみなさんには約80年の時間があります。このサマーカレッジで、私も含めていろいろな講師の話を聞かれたと思いますが、ひとつの意見として参考にしながら自分の好きなように生きてほしいと思います」

また、周りでイキイキとしている人を観察するとやりたいことをやっている人が多い、と話す石川氏。ここでのやりたいこととは、遊びにも近く、ゴール設定がされていなくてもモチベーションが下がらない状態でいられること。例えば数学の勉強を"受験"というゴール設定ありきではなく、数学が好きで学び続けるといったように、結果にとらわれず好きだという状態を大事にできる活動をぜひ見つけてほしいと学生たちに声をかけます。さらには、やりたいことと、お金や時間のバランスは人それぞれなので、自分なりのバランスを見つけることがポイントだと語りました。

「チャレンジし続ける力」は、まだ自分の中ではっきりしていないものを「創造する力」。物事を懸命に考え、自分の気持ちに変化が起こる。一見、外からは何も変わっていないように見えても、考える前と後で自分の内面には大きな変化があります。そのような変化に恐れを感じることもあるかもしれません。それに対して怖くないと自分に言い聞かせるのではなく、「自分は何に恐れているのか」を理解することが重要だと石川氏は話します。そうすることで創造の入り口に立つことができ、自己変容につながっていく。

「創造する力」は、周りの人と連携する際にも大事なポイントとなります。自分と異なる意見を持つ人と対話する際、相手の意見も受け入れて自分自身を進化させていく。すなわち「健全な自己否定」を繰り返しながら、創造力を働かせて向き合うことが大切だと語りました。

また、夢を描きチャレンジするために欠かせないのが"人との出会い"。何より、周りの人に巻き込まれる力が重要です。他者の価値観に触れることで、自分自身の枠が外れ、実際に動くと経験値が積み上がります。石川氏も、知人の活動を目にする中で自身の既存の枠組みが外れた経験があると事例を話します。

東松寛文氏は、平日に広告代理店で勤務しながら週末を使って世界中を旅する"リーマントラベラー"。働きながら世界一周なんてできないだろうと思う人が多い中、「やってみたらできる」を体現している方です。また、"世界一明るい視覚障がい者"というキャッチコピーを持つ成澤俊輔氏は、網膜色素変性症という視覚を徐々に失う難病を抱え、現在は光のみを感じている状態。さまざまな社会課題に直面した自身の経験をもとに、就労困難者の「強み」に焦点をあてた働きやすい環境づくりを行っています。石川氏は彼らとの出会いを通して、限界を突破し価値観を広げていくことについて大きな気づきがあったといいます。様々な人の価値観に出会うことで自分の中の枠組みを素直に見つめ直し、考える機会を持ってほしいと伝えました。

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いま、コロナ禍でリモートでの働き方の可能性が広がっています。これまでは就職して退職まで働くといった、「教育」「仕事」「引退」の3ステージが主流でしたが、今後はマルチステージに変わっていくのではないかと石川氏は語ります。

Work Design Labには、さまざまな業界で活躍されている方が参画されています。専門性の異なる人が一緒にプロジェクトを行うことで学びの機会が生まれます。一企業において専門領域外の学びを得るためには部署異動するなどハードルがあると思いますが、この活動を通して幅広い経験ができることも強みです。

また、Work Design Labではこれまで地域と連携した多数の実績を活かし、「Work Design School」をスタート。これは地域全体を学校(キャンパス)に見立て、参加者が地域課題を教材として学び、実践するプロジェクトです。地域にとっては課題解決の一歩となるだけでなく、このプロジェクトをきっかけとした関係人口の増加、さらには担い手育成につながる可能性を秘めています。全国各地で移住・定住を推進する事業が立ち上がる中、他地域との差別化を図っていくためには「関係性を継続化するプロジェクトづくりが大切」だと石川氏は語りました。

そして話題は「これからの働き方」へと移ります。コロナにより在宅勤務となり、仕事と家庭の切り分けが難しくなっている人も少なくありません。しかし石川氏は、これからは目的ごとに時間が分断されるのではなく、目的をベースに時間が共有される働き方になるのではないかと話します。

例えば、「ワーケーション」(ワーク×バケーションの造語)という言葉が広まってきていますが、海外では家族を出張に連れて行くケースが多くあります。石川氏自身も関わる地域に家族を連れて足を運ぶことが多いといい、自身の活動にうまく家族を巻き込んでいくことで互いの理解が進み、一緒に過ごす時間の在り方が変わったと話します。また、子どもにとっても、他の地域の環境や同世代の過ごし方に触れることで視野が広がるなど、新たな関係性による気づきや発見も魅力のようです。

石川氏は「家族は経営チーム」だと表現し、パートナーシップをサッカーに例え、夫婦で互いにイキイキと活動するためにフォワードやディフェンスの役割をどう連携していくかを大事にしていると語りました。また、子どもが生まれたことで、100年先の課題解決の必要性について「自分の子どもやその先の子ども達のことと捉え、身近に感じるようになった」といいます。

自身の環境や気持ちの変化を例に、進化を恐れずに活動することが大事だと話す石川氏。「変化の大きい時代ですが、1歩目を踏み出すことで次が見えてきます。まずは不安と恐れを受け入れ、自分らしさを模索しながらチャレンジしてみましょう」とエールを送りました。

ワークショップ「発表」

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午後は、各グループでワークシートをもとにビジネスプランをまとめ、発表に向けたワークショップを実施。夕方には13組のプレゼンテーションが行われました。

今回は、三重大学大学院工学研究科建築学専攻准教授の近藤早映氏と株式会社リワイヤードの仙石太郎氏に講評をいただきます。

3日間、議論に議論を重ねた学生たち。自分たちが何をしたいかを振り返ったうえで、それぞれの思いを共有し合って発表に臨みました。
以下は、発表されたビジネスプランのテーマ一覧です。

「大丸有エリアで大人が通える学校を開校」
「アイデアをもつ若者と大人のマッチング」
「愛着circulation~フリーマーケットで地域を繋げる」
「1718市町村総元気化計画」
「日本各地の観光地を訪れる幸福ツアー」
「笑顔がわき出るトリガーカレッジ」
「No Happiness No Live(高齢者/子ども/ハンディキャップを『共感』をキーワードに解決する)」
「日本のシリコンバレーをゴールに、人が集まる星空掲示板」
「ゆるいつながりづくり」
「社会のための法の早期教育」
「女性移住による地域の活性化」
「地域の誇り生成カード」
「つなぐギョーザFES」

グループごとに、なぜこの取り組みを行うのか、どんな結果を期待するのかを自分たちの言葉で伝えました。

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学生たちの発表後、近藤氏、仙石氏からそれぞれ感想をお伝えいただきました。

「とてもバラエティに富んだ発表ばかりだと感じました。また、『私は』という主体性も感じられて素晴らしいことだと思います。コロナ禍で行動規制があり、学生生活においても大変なことがあったと思うのですが、このサマーカレッジでオフラインの機会を得てみなさんのアイデアに直接触れることができて嬉しいです。これからも継続性を意識し、どんどん仲間を増やしていってください。私も応援していますし、地域に関することなど将来的にご一緒できたら良いですね」(近藤氏)

「みなさんが知恵を出し合うことで、思いも寄らないつながりがたくさん生まれるものだと感じました。昔は会社事、自分事、社会事が一直線に並んでいましたが、今の会社は社会事と利益の間で悩んでいる。そんな時代の中で社会に出ると、これからギャップを感じることもあるでしょう。でも状況を見極め、どのように行動するかは自分自身です。今回のプログラムように自分は何に心を動かされるか、本当の自分に向き合ってたくさん書き出してみると良いと思います」(仙石氏)

短い時間のなかでコミュニケーションを取り、頭を使って常に考え続けた3日間は楽しさもありながらプレッシャーも感じる時間。発表が終わり、ほっととした様子も見受けられました。

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この日は、初日の講演を担当した法政大学教授の長岡氏も会場に駆けつけました。

「みなさんが3日間頑張った様子がしっかりと表れた発表だったと思います。講師の話を聞いて、こうなりたいという理想が生まれた方もいましたね。サマーカレッジは、インプット型の学びではなく、プロアクティブに動きながら考えることを大事にしたプログラムです。そのために私は初日に、受動的ではなく能動的に、自分の損得ではなくクオリティを高めるために没頭することで学べるとお伝えしました」

長岡氏は、おすすめの本として『キリン解剖記』(ナツメ社刊、郡司芽久著)と『つながるカレー コミュニケーションを「味わう」場所をつくる』(フィルムアート社刊、加藤文俊/木村健世/木村亜維子著)、『働くことの人類学 仕事と自由をめぐる8つの対話』(黒鳥社刊、松村圭一郎/コクヨ野外学習センター著)を紹介し、好きなことに没頭・邁進することの大切さや働き方について学んでほしいと伝えました。

「自分のやったことが他の人や世の中のためになっているかどうか。自分が学んだかではなく、社会に貢献できるかを考えていってほしいと思います」

最後に、エコッツェリア協会の田口からも3日間を締めるコメントがありました。

「3日間一緒に付いてきてくれてありがとうございました。これが出会いのきっかけだと思っています。今回のサマーカレッジでは、昨年参加した学生たちがみなさんのサポートに入ってくれていました。年齢も性別も経験も関係ない様々な活動を、私たちは今後も行っていきますので、ぜひみなさんと幅広く一緒に活動できればと思います」

同じ場所に集まり、初めて出会う人や自分自身との対話を繰り返した学生たち。それぞれの胸の中に残るものがあったのではないでしょうか。3日間にわたるサマーカレッジは盛況のうちに幕を閉じましたが、今回の場は未来のための新たなステージです。学生たちのこれからの活躍に期待がふくらみます。

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