ミュージックセキュリティーズは、一口1〜3万円と少額から始められるマイクロ投資事業を展開しているファンド運営会社である。扱うのは、音楽、食、地場産業、セキュリテ被災地支援、途上国支援などさまざまだ。インターネットを通じて、着実に投資家を増やし、現在、会員数は約7万人にのぼる。社会に浸透しつつあるマイクロ投資の意義について、ミュージックセキュリティーズの創業者であり、代表取締役の小松真実さんにお話をうかがった。
―現在、何本くらいのファンドを運用されているのですか?
現在は205本になります。社名にありますように、音楽ファンドからスタートしましたが、現在、音楽ファンドは60本ほどで、今ではそれ以外の分野のファンドのほうが多くなりました。レストランや酒蔵の純米酒など食に関するファンドや被災地応援ファンド、開発途上国の支援を行うファンド、Jリーグチーム、今治タオル、岡山のジーンズ、神戸の靴など、地場産業を応援するファンドなどさまざまです。現在は20社ほどの地銀さん、信用金庫さん、信用組合さんなど地域の金融機関と提携していて、そこからの紹介や自治体、商工会議所からお話をいただくことも多くなりました。
―これまでなら、地銀が融資を行ってきたような案件もあるわけですよね?
そうですね。ただ、融資の場合は財務状況に応じて借入れできる資金が決まってしまいますし、すぐに毎月の返済も生じます。一方、マイクロ投資の場合は、何か新しいことにチャレンジしよう、現状をよくしようという思いに対して共感する人からの投資ということで、融資の枠とはまったく別に資金を調達することが可能になります。この資金を元手に会社の業績を伸ばすことができれば、銀行からの借入れの枠も広げることができ、さらに事業を拡大することができるというわけです。
―ファンドとして成立するためにはどのような条件が必要なのでしょうか?
やはり、財務状況や事業計画の確かさが重要です。もっとも当社の場合は、銀行のように毎月返済できるかどうかという視点での審査ではなく、その事業が事業計画どおりに売上げを伸ばすことができるかに重きを置いています。そのため、これまでの実績や取引先の反応などを実際に現地に足を運んで聞き取りを行うなどの手間をかけながら総合的に判断しています。一番重要なのは、経営者の思いで、思いが強ければ強いほど、投資家の心に響き、結果として必要な資金を集めることができると考えています。
―現在、投資家は何人くらいいらっしゃるのですか?
約7万人です。13年かけて徐々に増えてきました。インターネットなどをとおして、少しずつ口コミで広がってきたという感じです。また、リピーターが多いのも特徴です。もちろん、非常に高利率となった商品もありましたが、事業計画どおりいかなくてマイナスになってしまう商品もあります。そこで重要なのが事業ストーリーの共有です。投資家の皆さんに事業の進捗状況を知っていただくため、HP上で事業プロセスを開示するようにしています。また、東京21cクラブ※の場で投資家の方々に説明し、ご意見を頂戴して、事業主にフィードバックすることもあります。
※ 東京21cクラブ:ベンチャー経営者、専門家、投資家や大学教授、メディア関係者等、約560人で構成されており、年間900件以上のビジネスマッチングや各種セミナー、イベントを開催。
―どういった人たちが投資をされているのでしょう?
年齢層としては30〜40歳代がメインですが、最近では60代以上の方も増えています。もともとその商品や事業のファンだったという方が投資をされるケースが多いようです。 また最近、注目を集めているのが太陽光発電事業など、再生可能エネルギーに関するファンドです。自治体の方からのご相談も増えていますし、ファンドとしても人気があります。地域参加型で、自分たちの地域の特色を生かした事業に対するニーズは確実に増えています。
―産業構造も集中型から分散型へと変わりつつあるように、エネルギーも分散化されつつあるということなのでしょうね。
そうだと思います。仕事柄、さまざまな地域を訪れる機会が多いのですが、最近とみに、それぞれの地域には力があると感じています。都会に頼らなくても、その地域ならではの戦える武器をちゃんと持っている。そうした地域の取り組みを、マイクロ投資のような新しい資本のしくみが後押しをしている事例も少しずつ実現してきました。これまでにはなかったいい動きが出てきていることを、肌で感じています。
―都会には何でもあるように見えますが、地域に根ざしたものは少ないですからね...。
ええ、その分、資本の供給者になっていただき、自分の分身であるお金を興味のある分野や地域に託していただければと思います。そうやって3年後、5年後、できあがった商品をもらうのもよし、その地域に旅行に行ってみるのもよし、新しい故郷づくりに自分の資金を役立てるもよし。それこそが、都会人ならではの地域との関わり方の一つの姿と言えるのではないでしょうか。
―投資家特典として、商品をもらうこともできるのですか?
はい。パフォーマンスに関係なく、投資家の方に投資家特典として商品を提供するということもやっていますし、現物による分配も行っています。たとえば、お米のファンドの場合、お金よりも現物でもらいたいという投資家の方が多く、その場合はどちらかを選んでいただいています。現物を楽しみにしていらっしゃる投資家の方も多いんですよ。
―従来は、リターンがあるから投資をするという流れだったのが、何か応援をしたいというギブの精神から始まって、それが結果としてお金になって返ってくるという、逆の流れが生まれているということですね。
確かに、日本人の投資に対する感覚が変化してきているように感じます。マイクロ投資のような新しい手法により、気軽に地域や事業を応援できるようになりました。投資は寄付とは違い、あくまでもお金を託すということです。ですから託された経営者のなかには、「お金と同時に責任を受け取って、恩返しをしたいという思いで、今まで以上にがんばることができる。投資は、いい意味でのプレッシャーになる」とおっしゃる方もいます。1,000人の投資家がいれば、自身の事業に対して1,000人の目が注がれているということですから。被災地支援の場合も、投資をした方が自分の資金がちゃんと生かされているのか、現地に行き経営者と会って話をしたい、というニーズがとても高いのです。実際に当社でも、旅行代理店と組んで、投資家応援団による被災地応援ツアーを実施したりもしています。
いずれにしても大事なのは、情報共有であり、透明性を高めることにあります。世の中をよくしたい、地域を応援したいという思いで託されたお金なので、当社には売上げを還元することと同時に、そのプロセスと結果をちゃんとお伝えする義務があると思っています。
―今後ますます、マイクロ投資を活用したいという事業が増えていくように思うのですが、どういった事業がマイクロ投資に向いているのでしょうか?
一つは時間がかかる事業ですね。たとえば、北海道のワイナリーの事業規模拡大のためのファンドを扱ったことがありますが、これなどはマイクロ投資によく合致した好例だと思います。と言うのも、葡萄の樹を植え収穫し、ワインとして出荷するまでには少なくとも5〜6年はかかってしまいます。もし銀行で3,500万円もの資金を調達していたら、翌月から何十万円もの返済を迫られることになって大変です。マイクロ投資の場合投資家への還元は、事業が軌道に乗ってからですから、事業家はその間の返済に悩むことなく事業に専念できます。この案件も3週間ほどで資金を集めることができました。
最近では、紹介してくださる地銀や信金の方も、マイクロ投資に合いそうな案件を選んで持ってきてくださるようになりました。ちなみに当社では、月間16本の新規ファンドをつくれる体制を整えています。
―本当に着々と事業をやってこられていて、ブレがないですね。
13年間、これだけやってきましたからね(笑)。逆にほかのことはできません。これからも、事業家と投資家のマッチングにより、従来のしくみでは実現できなかったような優れた事業を世に送り出していけたらと思っています。そのことで日本を元気にしていけたらいいですね。
最後になりますが、当社では"good music marunouchi"という、丸の内発の音楽アーティストによるファンドも運用しています。ちょうどいま、女性シンガーのRAY Yamadaというアーティストを売り出し中です。まだファンドにはなっていませんが、丸の内で定期的にライブをやっていますので、ぜひ大丸有で働く皆さんに足を運んでいただき、応援していただければと思っています。
―アーティストや地域の事業主、そして御社の今後の活動についても、ぜひ、応援させていただきます。本日はどうもありがとうございました。
2000年12月ミュージックセキュリティーズを創業し、『もっと自由な音楽を。』をモットーに、こだわりを持ったインディペンデントなアーティストの活動の支援をする仕組みとして音楽ファンド事業と音楽事業を開始する。06年より音楽以外のファンドの組成を開始し、現在は純米酒の酒蔵、農林水産業、アパレル、Jリーグチーム、再生可能エネルギー、地域伝統産業等200本超のファンドを組成する。11年「セキュリテ被災地応援ファンド」、13年「セキュリテエナジー」、「ソダッテ阪神沿線」プロジェクトを開始した。同年、初の地域子会社である大阪セキュリティーズ株式会社を設立。