シリーズコラム

【コラム】企業・地域の進化を進めるフューチャーセンターのあり方とは

求められるのは、空間、主体性溢れる人、場をいかす 方法論とおもてなしの心

近年、社会のさまざまな課題解決に取り組む「場」として、欧米発祥の「フューチャーセンター」が脚光を浴びている。フューチャーセンターとは、参加者の対話をイノベーションに結びつけ、未来の価値を生み出す場のことだという。はたして、フューチャーセンターとはどのようなものなのか、なぜいま、フューチャーセンターが注目されているのか、欧米の事例に詳しい櫻井亮さん、企業間フューチャーセンターを主宰する田口真司さんを招き、フューチャーセンターをひもといていただくとともに、海外の事例とともに、それぞれが実施されている先駆的な取り組みについて話を伺った。

フューチャーセンターとは何か?

― 素敵な空間、主体的な人、方法論、ホスピタリティが生み出す磁場― 最近、フューチャーセンターという言葉が脚光を浴びていますが、人によってそのとらえ方はまちまちのようです。そこでまずは、その定義をとらえ直して、今、日本社会が求めているフューチャーセンターとはどのようなものなのか、お話しいただければと思います。さっそくですが、自己紹介を兼ねて、お二人のご活動についてお聞かせください。

田口:私がフューチャーセンターに出会ったのは、数年前に、当時勤務していた会社で新規事業開発に携わっていたときのことです。ご存じのように、国内市場では、もうあらゆるものが飽和状態にありますし、今の時代は何が本当に求められているのか、見えづらくなっています。一方で、会社という組織が短期間で成果を出さなければならない時代にあって、ITに関する新商品やサービスを模索するのはなかなか難しい状況にあります。
そうしたなか、社内だけで考えていたのでは先が見えないと感じて、社外に出てさまざまな方とお話をする機会を増やしました。そこでたまたま、ヨーロッパ発の「フューチャーセンター」という、ステークホルダーやさまざまな立場の人が集まって、対話をし、複雑な社会の課題を解決するための場について学びました。
フューチャーセンターについての話を聞いたとき、自分の目指しているものはまさにこれじゃないかと、答えが見つかったような気がしました。というのも、さまざまな方とお話をするなかで、皆、同じような課題について悩んでいることに気づいていたからです。同じ課題を抱えているのなら、一緒に解決すれば効率的ですよね。まさにフューチャーセンターならそれができると直感しました。 ただ、フューチャーセンターを一言で説明するのは難しい。あえて言うなら、"それぞれの人にとっての新しい未来、素敵な未来を、主体性をもって皆でつくりあげていくこと"、というのが一つの答えになると思います。その場に行けば何かがもらえるとか、お金を払えば面倒をみてもらえる、という場ではなく、自らがつくりたい、自らが問いたいものを自ら持ち寄り、共通課題をもつ人や、自分とまったく違う立場にいる人と集まって、何かを生み出していく場なのだと思います。
とくにこの「主体性」というのが重要で、企業として、自分自身として、こういうものがつくりたいというものがないと、ただ集まってください、意見を聞かせてください、と言っても進む方向は見えません。自身のなかで、こっちに進みたいという思いがあってはじめて、大きな幹に育てていくことが可能なのだと思います。

櫻井:私は、デザイン領域のコンサルティングを手がけています。デザインというと、グラフィックデザインやウェブデザイン、プロダクトデザインなどを思い浮かべる方が多いと思いますが、私たちは、デザイン的な手法をサービスやビジネス、社会システムなどに適用して、昇華させたいという思いで取り組んでいます。
私がフューチャーセンターという言葉を初めて聞いたのは、3年前のことです。フューチャーセンターに近い概念は1970年代から議論をされていたと聞いていますが、96年に、スウェーデンの保険会社であるスカンディア社が設立したのが発祥だと言われています。以後、ヨーロッパを中心に企業のほか、オランダ政府、デンマーク政府などが続き、現在は数十ヵ所に開設されています。 面白いことに、90年代にヨーロッパでフューチャーセンターが勃興してきた時代と、現在の日本の状況はとても似ているんですね。90年代といえば、アメリカでシリコンバレーから次々と新しいイノベーションが生み出された時期と重なります。ヨーロッパはその危機感から、シリコンバレーを研究し、意図的にイノベーションを起こすような場をつくろうとしました。その流れで、オランダやデンマークには、イノベーションに関する省庁がつくられていて、国が先導しつつ、イノベーションに取り組んでいるのです。

具体的な事例をご紹介しましょう。デンマークにあるイノベーションラボというフューチャーセンターには、イノベーションを起こすことに特化して、アイディアを広げるためのさまざまな工夫が空間にちりばめられています。特徴的なのは、彼らはプロトタイピングを重視するアプローチをとっていることで、何かアイディアを思いついたら、まず形にして実験してみます。そのための工房も併設しています。 オランダの国税庁にある「シップヤード」は、税に関する議論をするためのフューチャーセンターです。おじいちゃん、おばあちゃんの世代から孫や曾孫の世代まで、どのようにして税金を使っていくのか、マクロなスケールで税について考えたり、子どもたちに税金の大切さを教えるにはどうしたらよいのかを議論する場として機能しています。面白いのは、空間に禅の心を取り入れている点で、暖炉に向かって内省できるような、落ち着けるスペースもあります。
また、デジタル情報によりインスパイアされるような空間づくりをして、いわゆるフロー状態のような状況を喚起することで、アイディアの創出やイノベーションに結びつけ、治水や交通の問題を解決しようという、異色の取り組みをしているフューチャーセンターもあります。銀行などのビジネスセクターでもフューチャーセンターを開設しています。
野中郁次郎先生や紺野登先生もおっしゃっているように、フューチャーセンターに必要なのは、「空間」、「人」、「方法論」です。そして、「ホスピタリティ」があること。これらが一体となって磁場として働いていることがフューチャーセンターだという。と言われても、まだよくわかりませんよね(笑)。
※野中郁次郎:経営学者。一橋大学名誉教授
※紺野登:KIRO株式会社代表、多摩大学大学院教授(知識経営論)
ただ、私が3年やってなんとなくわかってきたのは、今まで述べたような要素がすべて詰まった素敵なスペースが必要だということ。残念ながら、素敵なスペースはあるけれど、魅力的な人がいない、とか、人はいるが方法論がない、おもてなしの感覚もないといった状況で、まだ満足のいくものがないというのが現在の日本の状況です。必要な要素のバランスが取れた場をつくっていくことが求められているのだと思います。
たとえ、素敵な空間と魅力的な人がそろっていても、方法論をもって議論をしないと、単なる飲み会やゴルフの延長と同じで、「ワイガヤ」で終わってしまう。それではイノベーションは起こすことはできません。フューチャーセンターにおいて、テーマと目的、そして仕掛けを設計できるファシリテーターやディレクターの存在が不可欠なんですね。
とくに私自身が強く感じているのは、日本のイノベーティブなスペースはきれいすぎる、ということです。ヨーロッパのフューチャーセンターは、もっと猥雑でグチャグチャとしていて、さまざまなものが「こすれ合う」ことでイノベーションが生まれているように感じます。 たとえば、任天堂の「Wii」を企画・開発した玉城真一郎さんは、あの独自のコントローラーをつくるのに100個くらい試作してみたという。はんだごてを片手に、実際に試作しながら皆で議論したと聞いています。まさに、そういうことがフューチャーセンターに求められる姿ではないでしょうか。つまり、対話をし、その場でプロトタイプとして形にして、こすれ合う場というのが、フューチャーセンターに欠かせない要素だと思います。

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国内外のフューチャーセンターの成果 ―

国内外のフューチャーセンターの成果 ―

税金の使い途から自社ブランティングまで、多種多様な取り組み

― 次に、どういった課題を、どのような取り組みによって解決してきたのか、フューチャーセンターにおける成果についてお聞かせください。

櫻井:先ほどの海外の事例で面白いのが、オランダ国税局のシップヤードです。ここは、もともとある伯爵が住んでいた城を改装した建物なのですが、設立当初、国民はおろか職員たちにも猛反対されたという経緯があります。それこそ、税金の無駄遣いだ、と。ただ国税局としては、当時、深刻な悩みを抱えていて、それを解決したいと考えていました。というのは、そこには約3万人もの人が働いているのですが、隣の部署や課で何をしているのか、お互いにまったくわからないという、没コミュニケーションの状況にあったからです。最近の日本企業の光景に似ていますね。一体全体、国民の血税が本当にきちんと使われているのか、どうやったらもっと税金を有効に活用できるのか、検証する必要がありました。
そうしたなか、このシップヤードでは、いくつかの面白い取り組みがなされました。たとえば、脱税を防ぐにはどうしたらいいのかというテーマで、政治家、官僚などを交えて議論したのです。それだけでなく、その対話の場に、かつて巨額の脱税をしたことがある元・脱税王を招き入れ、なぜ、脱税をする気になるのか、どう脱税するのか、などを丁重に聞き取り、対話を行いました。これらの議論の結果、脱税者を厳しく取り締まるよりもむしろ、そもそも脱税させないような仕組みづくりをすることが重要である、ということに皆の意見が集約されました。
また、納税という負のイメージが強い行為に対して、一体どのようにその大切さを子どもに伝えることができるのか、を議論したというものがあります。フューチャーセンターでの対話の末に税の大切さを教えるためのボードゲームを試作し、実際につくりました。税金というのは搾取されるものではなく、将来に向けた貯金である、ということを理解してもらうための取り組みです。このゲームは、その後、政策提言され、実際に小中学校に導入されたそうです。
そのほかにも、没コミュニケーションを解消するための"鉄板"のソリューションとして、「火星に行こう」というワークショップを開催しています。実はこれ、何をしているのかわからない隣の部署の同僚と仲良くなるためだけの軽めのワークショップで、そうした集まりをほぼ毎日のようにやりつつ、ときにはボードメンバーを集めた重要な会議を開催したり、政治家を交えて対話をしたりしている。その稼働率は9割を超えていると言います。
当初、省庁内部からも反対されていたシップヤードですが、3年ほどで認知されるようになり、すでに10年続いています。その秘訣は、この施設が必要かどうか、参加してみて生産性や創造性が上がったかどうか、皆にアンケートを取り続けてきたことにあるという。そのアンケートでの評価がベースになって、存続しているのです。
一方、日本で私自身が関わった事例としては、2年ほど前、「創造的な社会をつくるためにどんなまちづくりをすればいいのか」というテーマで議論したことがあります。私のようにIT業界にいると、まちづくりの上流から関わるということはほとんどないんですね。すでにグランドデザインができあがった段階で、先方から、導入したいITについてのRFP(Request For Proposal=提案依頼書)が出てくるのが常です。でもそうなると、私たちが発揮できるクリエイティビティというのはほとんどありません。上流から関わることができれば、ひょっとするともっと面白いアイディアが生まれるのではないか、という思いから実施しました。
このときのポイントは、ITやシステムという言葉を一切使わずに議論したことにあります。そして最終的に、今ここで私たちが思い描いた未来は、どうやったらITで実現できるのかということを考えた。今読み返しても、今後のまちづくりに寄与できる、面白い内容がさまざまに盛り込まれていると思います。

田口:我々がやっている企業間フューチャーセンターは始動しだしたばかりで、具体的に商品になったとか、何か形になった事例というのはまだありません。ただ、その前段での動きとして、社会的なテーマについて中立的な立場から活発な議論を重ねているところです。
たとえば、これまでに、就職活動や女性の働き方、金融の在り方といったテーマで対話を進めてきました。ボランティアもそうですが、フューチャーセンターのような取り組みというのは、いくら社会に役立つ活動をしていても、なかなか経済に結びつかないですね。ところが、よく考えてみると、そもそも経済そのものがよくわからない。そのよくわからない部分、たとえば経済とは何か、経済を使って何を追求しようとしているか等を深堀りして、皆で考えることによって、世の中のしくみを変えていけたらと取り組んでいるところです。
一方で、社会的な問題だけを扱い、中立的な立場での活動に限ってしまうと、せっかくの成果をそれぞれの現場に持ち帰ることができなくなってしまいます。そこで、ときには特定の企業に特化したテーマで議論することもあります。たとえば、ある企業のCSR活動をやっている部署が主催して、他社の人や他部署の人も巻き込んで、その企業のCSRとブランディングについて対話したことがありました。企業のブランドという肝の部分を、あえてオープンな場で議論するという、ユニークな試みです。するとやはり、思いがけない気づきがたくさん出てきた。他社の方からさまざまな意見をもらうことで、自社の人たちがブランディングを考え直すきっかけを得ることができたと好評でした。家族の対話でもそうですが、家族だけでいるときよりも、他人が入ることで話が弾むことがありますよね。フューチャーセンターにおいても、さまざまな方が加わることで、化学反応が起こりやすくなる、というのは大きな発見でした。私たちが取り組んでいるのは企業間フューチャーセンターですから、本来は社外の方同士を結びつけようという目的があるのですが、副次的効果として、社内の他の部門の方がつながったというのは成果の一つでしょうね。

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フューチャーセンターが社会システムを変える ―

フューチャーセンターが社会システムを変える ―

対話が笑顔を生み、信頼を醸成する

― これから取り組んでみたいテーマとしては、どのようなものがありますか?

田口:さきほど、櫻井さんがおっしゃったように、IT業界のしくみや関わりを変えてみたい、という思いがあります。IT企業側が何かサービスを提供する場合、さきほどのRFPによって事前にお題が決まっていることがほとんどなんですね。RFPに100くらいの項目が列挙されていて、自分たちは何ができて何かできないかを○×で回答し、さらに特徴をコメントで補足をするわけですが、結局、○の多さで選考されてしまう。100の項目のうち、20項目についてはできないけれど、RFP以外にプラスアルファの20項目についてはできる、と言ったところで、やはり80点でしかない。一方で、プラスアルファはないけれど、90項目できると答えた企業が採用されるという具合です。そういう現状のしくみを、フューチャーセンターで変えていけたらいいですね。

櫻井:私自身も、RFPを超える仕事をしたという思いはすごくあります。最近は、ITのシステムを発注する側がもはやPFPの中身がわからないという状況に陥っていますから。システムを発注する人は、事業部の中のユーザーの要件がわからないし、ユーザー部門の人はエンドユーザーのことがわからない......そうなるともう、「わからないの3乗」くらいの内容のRFPが出てくることがある。我々としては、クライアントが何をやろうとしているのか、必死に行間を読みとるしかありません。発注側も困っている状況だと思うので、こうした状況を皆で改善できたらと思っています。それこそ、企業間フューチャーセンターで取り組むべきテーマと言えそうですね。

田口:まさにそうですね。「お水をください」と言われたときに、飲用なのか散水用の水なのかによって、提供する水が変わってくると思うのですが、「いや、そんなことはどうでもいいから、とにかく水をもってこい」という社会というのは、やはりおかしいですよね。想像力の欠如というか、それ以上考えるのをやめてしまっているのが現状です。でも本当は、子どもの問いのように、「なぜ?なぜ?」と問い続けることで、本質が見えてくることがあるのではないでしょうか。

櫻井:それから、対話というのは笑顔を生むものなんですね。エコッツェリアでワークショップをやらせていただいていつも思うのですが、皆さん、気がつくと笑顔になっている。お互いにコミュニケーションをするなかで、素敵な笑顔がたくさん生まれるのです。ワークショップが始まる前と後では、距離間や緊密度が全然違っていて、回を重ねるごとにコミュニティへの信頼感が増していくように思います。やはりオフラインで、直接、顔を合わせるということは、とても重要なんですね。

田口:当たり前のことですが、フューチャーセンターにおいて信頼感は欠かせません。他社の方とコミュニケーションをするときに、ビジネスの場面では、自社に不利益が起こったら困るからと秘密保持契約を結んだりしてガードを固めますよね。我々もずっとそう教えられてきたわけですが、本来、人との関わりというのはそういうものではないはず。自分が信頼するから信頼関係が生まれるのであって、そういう関係性の中では、それほどひどいことは起こらないように思います。フューチャーセンターでは、目の前のことというよりも、もう少し先のフェイズの未来について語るので、皆が同じ方向を向くことができる、というのもビジネス上の関係とは違う点です。こっちが私の領土、あちらがあなたの領土というような関係性で融合することは難しいけれど、未来についての事柄なら、ステークホルダー同士でも多くの共通項を見つけることができるはず。皆がひとつの方向性に向かうことで、解決できる問題というのは、それこそ数多く存在しているように思います。

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日本におけるフューチャーセンターの課題 ―

日本におけるフューチャーセンターの課題 ―

現場に学び、日本独自の道を模索する

― 日本ではようやく去年あたりから、フューチャーセンターの活動が活発化してきたと思うのですが、その現状についてはどのように感じられていますか?

田口:正直、私たちの活動もそうなのですが、現状は、単なる対話で終わってしまうことが多いですね。アイディアはいろいろと出るのですが、次にどうしようというアクションプランにまで結びつかない。空間があって、対話をして、自身の考えを深める、というのが第一歩ではありますが、次のステップにつなげていくことが、今後の課題だと感じています。今日、櫻井さんからヨーロッパの事例をいろいろとお聞きしましたが、日本ならではのやり方があるのではないかな、と思うのです。その辺り、櫻井さんはどうお考えですか?

櫻井:その解決策の一つとして、徹底的に現場を見ることなんじゃないかと。今の日本の企業の問題は、現場の人間が持つインサイト、つまり洞察や気づきを生かせていないことにあると思うのです。たとえば、銀行システムを手がけているIT企業の社員が、実際にATMの前で困っているおばあちゃんを見に行っていない、彼女の痛みを理解していない、という現状があります。ですから、何が問題なのか、何を改善したらいいのかがわからないのだと思います。
私は以前、ITサービス産業におけるデザイン型人材を育てるために、さまざまなイノベーターを観察する機会を持ち、京都にある梁山泊という料亭の橋本さんという大将の仕事を見に行ったことがあります。ITシステムの仕事と料亭の仕事は、一見、まったく無関係のように思いますよね? ところが、この料亭のご主人のメニューの作り方がじつにクリエイティブで、私たちの仕事に関する重要な示唆が沢山含まれているということに気づいたのです。彼らの仕事から、自分たちの仕事にフィードバックできるような大きなヒントをもらうことができました。
あるいは、歌をつくっているミュージシャンにも共通項を見いだすことができた。カケラバンクというあるミュージシャンは、思いついたときに、歌の断片を書きためておいて200ほども用意していました、それらのモジュールをコンセプトが決まった後で一気に組み合わせて歌をつくっていたのですが、これって、私たちがITシステムでやっているモジュールベースでのプログラミングのアプローチと概念が同じなんですね。しかし、ITシステムでは涙を流さない顧客が、彼らの曲では泣いている。どこが同じで、どこが違うのでしょうか?
彼らの現場にお邪魔して、観て、お話を伺うまでは、ある天才達が稲妻のように振り下ろされてきた閃きで今までに観たこともないような料理や素晴らしい曲がある日突然でき上がるのだと思っていました。しかし、実際は我々と同じように、日々小さな気づきの積み重ねを、チーム作業で実施している。しかも感性と理論の間をとてもバランスよく行ったり来たりしている。まさに、「じわじわ」とマイクロイノベーションを重ねて大きな成果を生み出しているのだと認識したのです。
デザイン型人材を業界内に作ろうと思えばその匂いのする現場に行って直接観てみる。聞いてみる。そういうことをすることで一見、無関係に思えるものに共通項を見出したり、我々が「はず」「つもり」で無意識に持ってしまっているバイアスを崩していく。実際にそうやって現場をいろいろと見に行くことで、自分たちも形にしてやってみようというきかっけになるのではないでしょうか。

田口:それって、主観や直感を生かすってことですよね。現代社会では、客観が求められるけれど、じつは客観というのは無責任なんですね。一方で、主観は責任が伴うし、行動や考えも生まれる。だから、自分の目線で入り込んでいかないと、単なる対話で終わってしまうのだということに、今、櫻井さんのお話をお聞きしていて気づかされました。

櫻井:面白いことに、スタンフォードやシリコンバレーがやっているアメリカ的なアプローチと、ヨーロッパ的なアプローチは違うんですね。スタンフォードだと、100人いたら、100人が勝手に主観で動いて、そこから出てきたものの中から選ぶという、早くて強いものが勝ちのイメージ。一方のヨーロッパは、もう少し成熟していて、それぞれの主張は強いけれど、バランスがとれていて、そうした場を意図的につくり出しているように感じます。
欧米に対する日本は、察する能力が強いがゆえに、これを言ったら場の空気が壊れるよなぁと、遠慮してしまうところに一つの問題がある。こうした現状を変えていくには、欧米とは違う、日本なりの議論の仕方というのがあるように思います。

― 確かに、多くの人がその場にやってきたお客さんで終わってしまう現状がありますよね。フューチャーセンターはつくってみたけれど、主体的に動く道場主がいないというか......。お二人は主体的に動くにあたって、何かきっかけがおありになったのですか?

田口:私の場合は明確にあります。ワールドカフェの対話イベントに出ていた際に、いろんな意見が出て、それを記録にとりますよね。ところが、その場が終わると、その場限りで、せっかくの記録の紙をさっさと捨てていってしまうんですね。私にとってはそれがアイディアの宝庫に思えて、この宝を生かせる場をつくりたいなと思ったのがきっかけです。

櫻井:私の場合は、1社目の会社で、アメリカへ研修に行った際、ちょっと手が届きそうなヒーロー的な存在に出会ったことです。その研修のファシリテーターがすごく輝いていたんですよ。ファシリテーターは4人いたのですが、メインファシリテータに同じグループの彼らが質問を飛ばして、議論を吹っかけて、そのうち参加者を巻き込んでその場全体が発火する様子を見て、日本の座学研修とはまったく違うということを肌で感じたのです。自分もそういう存在になってみたいと憧れたのがきっかけです。
いずれにしても、まずは社内でそういったファシリテーター候補を見つけるのが重要でしょう。ポイントはマイクをとるのが好きな人(笑)。打ち上げや忘年会を仕切りたがる人、人と人をつなぐことに喜びを見出すような人、そういう人は、フューチャーセンターのファシリテーターに実に向いていると思います。
ところで、田口さんが外に目を向けられた背景には、企業の中で働いてらして、窮屈感みたいなものがあったのでしょうか?

田口:そうですね。比較的自由度の高い職場にいたものの、社会全体として年々、窮屈になってきている、という感覚がありました。経済成長が止まったということもあるでしょうし、個人成果主義の弊害というか、隣の人を差し置いてでも四半期ごとに結果を出さなければならないという状況の中で、窮屈感とか閉塞感のようなものをすごく感じていました。

櫻井:それで、企業間フューチャーセンターを立ち上げて、組織の枠を壊そうとされているんですね。やはり、個人や個社で考えていたときとは違いがあるのですか?

田口:ありますね。フューチャーセンターに集まる人というのは、自分の意識を持っている人たちなので、ものすごくエネルギッシュなんですよ。また、ここは未来をつくる場なので、何をやってもいい、という面白さがある。自分が考えたものを実践して、形にしていくことができるのです。ある商品をつくらなければならない、とか、マニュアルに沿って動かなければならないといった、一般企業の枠がないので、非常に動きやすいと感じています。
もっとも、枠がないことで、逆に難しさも感じているところです。

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提供者と利用者を結びつけるフューチャーセンターの役割 ―

提供者と利用者を結びつけるフューチャーセンターの役割 ―

求められるのは企業人の「右脳的」なアプローチ

― 前段のお話を伺っていて、フューチャーセンターに合致したテーマ設定として、以下の3つが考えられると感じました。1つ目は、社内の問題。現状は成果主義や独立採算制にとらわれるあまり、同じ会社なのにそれぞれがバラバラにサービスを提供していることがある。そうした課題解決に社内フューチャーセンターが役立ちそうです。
2つ目は、既存の製品やサービスを見つめ直す場としてのフューチャーセンター。研究開発からマーケティング、営業、サプライヤーまで含めたバリューチェーンを見直す、よりよい価値を提供する際にもフューチャーセンターは機能できると思います。
3つ目は、消費者や地域社会など、提供者対需要者の関係性を、ともに考え直す場としてのフューチャーセンターです。 そのあたり、どのようにお考えでしょうか?

櫻井:今おっしゃったことのなかでは、3つ目の消費者や地域社会との関わりというのが、今一番ホットな取り組みでしょうね。
先般、『ワイアード』誌の編集長のクリス・アンダーソン氏が『MAKERS』という本を出版しましたけれど、その中で、アンダーソン氏は、将来、消費者一人ひとりが生産者になる可能性を指摘しています。消費者が生産に関わることで、今後20年くらいの間に、サービス業や製造業が、劇的に変わる可能性が出てきたという。つまり、これからの提供者は、消費者や地域社会を巻き込まざるを得ない状況になっていくのだと思います。
もう一つ、これからのモノづくりやサービスは、右脳をより活用していくスタイルに変わりつつあるということ。従来、ビジネスというのは、それこそMBAスタイルで、左脳による論理的なスタイルの追求、スキルの高度化という視点で進められてきましたが、もはや左脳で勝負していたのでは限界が見えてきた。これからは右脳的な手法を上手く活用し、進み方も方法も、ゴールもわからない五里霧中の中を、直感とひらめきに頼りながら航海に出なければならない時代に来ているのだと思います。
そして、私自身、イノベーティブだと言われる企業をたくさん見てきたなかで感じるのは、今の時代に成功している企業は、航海に似たアプローチをとっているな、ということ。そうしたなかでフューチャーセンターは大いに機能できるだろうと思います。 
ちなみに、田口さんたちがやろうとしていることは、本当に先が見えない中での、五里霧中での取り組みなのかな、と考えています。五里霧中の中で方向を見定めるためには、いろんな人がライトを照らしてくれたほうがいいですよね。しかも、ライトの照らし方は、100人いれば100通りあるほうがいい。そこで、ワールドカフェのような手法を使って、たくさんの人たちに声をかけ、さまざまな立場の人たちに意見を出し合ってもらうという手法をとっていますね。もっともこうした方法では、結論が出るかどうかはわかりませんが、議論をし続けることに意味があるのだと思います。
一方、私がやろうとしているのは、人を選んで船に乗せ、どうやったらこの船が新しい大陸や宝を見つけられるのか、その人たちとともに模索する試みと言えます。企業サイドに立つと、やはりどうしても、ある時間軸の中で結果を出さなければなりませんし、ゴールを見据えた議論が必要ですからね。ただし、同じ思考の営業マンばかり10人集めたところで、船は動かない。女子高生がターゲットなら、たとえば実際に彼女たちをつれてきて議論をすることが必要で、議論をしては前に進み、また考えて舵を切るということを繰り返していくアプローチです。そういう取り組みにも、フューチャーセンターが役立てられると思います。

田口:さきほどお話にありましたように、右脳的なアプローチというのは、これまでの会社生活ではあまり使ってこなかった部分ですよね。左脳的なアプローチは、折り畳む感覚で、意見を集約するのにはいいけれど、何か新しいものを生み出すのには向いていない。一方で、右脳的な発想というのは、芸術や音楽もそうですが、何がいいとか悪いとか、点数をつけるなどという発想とは違う次元にあるものだと思います。経済活動に結びつけるとなると、どうしても左脳的なところに落とし込む必要はありますが、スタート地点から左脳的なアプローチをしていたのでは、次なる価値は何も生まれないのでしょう。
もっとも、私たちがやろうとしていることは、右脳的すぎるのかもしれない(笑)。方向もゴールも何も見えないなかから手探りで始めていて、このままでは散らかしっぱなしになってしまう可能性がある。それではヒントはたくさん見えても、やはり何も生み出せません。我々の取り組みを、現状の左脳的なアプローチといかにつないでいくか、ということが今後の課題だと思っています。
いずれにしても、先ほどあったように、バリューチェーンの見直しや、消費者や利用者との関係をつなぐなかで、これからフューチャーセンターが担う役割というのは今後、大きくなっていくことは間違いないでしょう。
よく、日本は小さなユーザーのマーケットを対象にして、情報を囲い込みながら開発を行って、結果的にガラパゴス化してしまったなどと言われていますけれど、今の時代、情報を囲い込むことなどほとんど不可能です。それなら、むしろ情報を出し続けて、出すことで得られる情報を役立てたほうがいい。そのサイクルを築いた会社こそが、真に独自性のあるモノやサービスをつくることができるのだと思います。
たとえば、私たちがやっている企業間フューチャーセンターにしても、当初は、集まったみんなで「フューチャーセンターって何だろう」という感じで、わからないなかでやってきたわけですが、だんだんに身体にしみついてきたというか、仲間同士で共有できるものが生まれてきているように思います。当然、オープンな中でやっているけれど、オープンにすればするほど、あそこは何か違うことをやっているな、と周囲から認知される、ある種の差別化ができているように感じるようになりました。

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新しい価値の源泉を、ともに生み出すしくみ ―

新しい価値の源泉を、ともに生み出すしくみ ―

管理と効率化の反省から見えてきた課題

田口:今、私自身が非常に危機感を覚えているのは、新聞等でも連日のように報じられているように、研究開発、すなわちR&Dがどんどん減らされている日本の現状についてです。 
従来のR&Dの善し悪しはともかくとして、今、多くの企業が、短期思考になっていて、価値の源泉を生み出すところを諦め、効率化という名の下に、川下にばかり人を集めて、業績を上げようと躍起になっています。確かに、グローバル化が進む中で、長期的な視野に立って価値を創造する部分にコストをかけ続けていくのは難しいのかもしれません。しかし、その先にある未来を考えると、非常に危ういと言わざるを得ません。
だからこそこれからは、共通の課題や社会のOSと呼ばれるような共通基盤の開発については、各社が一緒になって取り組めばいいと思うんですよね。もはや、ある部門だけとか、一社だけが抱え込んで研究開発をやるには、コストに見合わない。3社集まれば、コストは3分の1で済むわけですから。このように、新しい価値の源泉の在り方、新しい企業の在り方を皆で考え直すときに来ているのではないでしょうか。
もちろん、企業同士ですから、ゴールまですべてを一緒というわけにはいきません。でも、10のうち3〜4くらいまでのベースの部分は一緒につくる、と。どこから切り替えて、別々にやるのか、という課題はありますけれど。

櫻井:私も田口さんの意見に賛成です。管理と効率性の中で、かつて輝いていた企業戦士たちが、次々にリストラ、転職の憂き目に遭っている現状を目の当たりにして、思うところがいろいろあります。ご存じのように、もともと管理と効率性を押し進めたのは、欧米なんですね。日本はそれにならった。ところが実際に欧米の現地を視察してみると、いま、彼らはそのことを猛烈に反省している。次の道を模索し始めている彼らの姿を目の当たりにして、我々も変わらなければ、という思いを強くしています。
そうしたなかで、私がやってみたいのが、あえて競合だとされる人たちを集め、同じテーマで議論をするという試みです。しかも、アウトプットを求めない、という活動をしてみたい。通常、我々はディスカバリー→デザイン→デリバリーという3段階で仕事をしていて、通常は、デリバリーが完了するところまでを含めた契約をしています。それを、あえてディスカバリーだけで契約できないか、と。成果物は出るかもしれないし、出ないかもしれない。わからないけれど、未来を切り拓く可能性はある。1社では無理でも、20社くらいで集まることができれば、こうした試みも可能ではないでしょうか。
そもそも、これまでの課題解決のやり方というのは、見えている氷山の一角しか扱っていなかったんですね。ところが、実際には、本当の課題は水面下に無数にある。たとえば、コップはただ水が飲めればいいだけなのですが、それでは差別化できないので、美味しく飲めるとか、デザインがいいとか、飲みやすいとか、持ちやすいとか、そういうことを考えます。でもそれは機能、つまり"水面上"の課題です。我々が外から見ていたのでは分からないような、水を飲む"経験"をいかにハッピーにするか、というまさに心理やコミュニケーション等"水面下"の問題を取り扱っていかなければならない。それには時間とコストがかかるのでまずは皆でそれを発見するということが求められていのだと思うのです。そのハッピーな経験を生み出すためには、目の前の課題にとらわれることなく、より深く潜っていくアプローチこそが重要なのではないでしょうか。ぜひ、チャレンジしてみたいですね。

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環境を変えて、立ち止まることの意味 ―

環境を変えて、立ち止まることの意味 ―

エコッツェリアと大丸有の役割を考える

― ここまでお話をお聞きしてきて、皆さん、それぞれに問題意識をもつこができたと思うのですが、さりとて、これを持ち帰って、職場で具体的にどうアクションを起こせばいいのか、迷うところかと思います。
方向性としては、田口さんのようにワールドカフェやワークショップの手法により、とにかく多種多様な人に関わっていただくやり方もあれば、櫻井さんのように方向性を決めて、プロトタイピングなやり方で進めていく手もある。そのために、まずはどんなことをしていったらいいのでしょうか。また、大丸有というビジネス集積エリアにどんなことを期待されているのか、お聞かせください。

櫻井:まずは、営業会議や企画会議で、爆弾を投下してみてください(笑)。会議の席で、こんなことは絶対に言っちゃダメだ、ということをあえて言ってみるのです。と言っても、いきなりやるとリスキーなので、場所をカフェに移したり、皆にネクタイを外してもらったり、いつもの文脈を外したなかでやるといいでしょう。会議机を外すだけでも、創造性がぐっと増します。あるいは、「今日は部長さんの発言禁止です」と言って、評価・評論的コメントを排して○×だけで示してもらうとか。議論の中に、そういったゲーミフィケーションの要素を取り入れることで、当たり前や常識を崩していく。それができるようになると、少しずつ組織が柔らかくなっていくように思います。

田口:私が大丸有地区に期待しているのは、何といってもやはり発信力と求心力ですね。 ほとんどの日本の企業は、外圧に弱いですよね。あの企業がやっているから、うちでもやろうとなる。新規事業と提案すると、上司に、「それは、どこかに事例はあるのかね?」と言われることもよくあります。どこかでやっていたら、もはや新しくないのですけどね(笑)。それを逆手にとって、あそこでもやっているんだから、うちでもやりましょう、というように仕掛けることができるじゃないかと。最初に3社くらいがやり始めると、世の中が動き出すように、発信力のある大丸有から、中立的な立場のエコッツェリアが先導しつつ、仕掛けていってもらえたらな、と思います。エコッツェリアはさまざまな活動をされていて求心力もあるし、この空間をうまく活用できるのではないかと思います。

櫻井:エコッツェリアに、つねに住人がいる感じだとさらに面白いですよね。バーのマスターみたいな(笑)。そもそも、イノベーションが生まれるようなスペースには、必ず主(ぬし)がいるんですね。その人に聞けば、その場のことは何でもわかる、というようなハブ的な存在がいることが重要かと。
それから、クリエイティブな空間だなと思うところには、必ずといってキッチンがある。簡易キッチンで、コーヒーやシリアルが置いてある程度でもかまわないのですが、そういう場所がハブになって、人が集まって、コミュニケーションが生まれ、アイディアの創発につながっているように思います。そういう意味で、エコッツェリアもイベントのときだけでなく、つねに人がモヤモヤと動いているような場所になれば、もっと魅力的になるのではないでしょうか。

― なるほど、大きなヒントをいただきました。エコッツェリアをさらに、人々がフラッと立ち寄れるような開かれた場にしていきたいですね。その中で、皆が課題を持ち寄り、人をつなぎ、また人がやってくるといった循環を生み出していけたら、フューチャーセンターとしての役割を担うことができるわけですね。

田口:現代人って忙しいじゃないですか。忙しいことで自分を許してしまっているというか。で、忙しさにかまけていると、気づいたら1年間あっという間に過ぎてしまっている。ところが、ちょっと立ち止まってみると、自分のやっていることが全然意味がないことだったり、もっと他にやれることがあったり、気づきがあると思うんですよね。そうしたなかで、私自身は、フューチャーセンターに出会ってから1年が長くなったように感じているのです。対話の場で話す機会が増えて、当然、1時間も話せば疲れるし、頭も使う。その反動として、結果的に、独りの時間をつくるようになって、それこそ禅じゃないですけど、立ち止まってゆっくり考える時間をもつようになった。そうやって内省して見つめ直すことにより別の方法を見出すことができたり、新たな発見があったり。そういう場というのが重要なんだと思います。
サードプレイスとも言われますが、家庭と職場以外の場所をつくり、環境を変えるというのはとても重要なことです。エコッツェリアは、そういう役割を果たせる可能性を持っていると思います。

櫻井:コンサートに行ったときなどもそうですが、対話が深まってくると、ある瞬間、えも言われぬ一体感に包まれることがありますよね。自分の無意識にアドレスしているような感覚とでもいうのでしょうか。そういう時間を共有することで、皆が変わっていくきっかけになるということもあるように思います。

― 最後に、今後この大丸有エリアのフューチャーセンターができたとして、どんなことをやってみたいですか?

田口:企業というのは利益を生み出すためにあるわけですが、その利益は本来、社会貢献の量だと思うんですね。社会に貢献した対価として得たものが利益だと。ところが現代社会は社会貢献以上のお金を得ようとしてきたことで歪みが出てきたのではないでしょうか。そうしたことから、今一度、企業の原点に立ち返って、どう社会に貢献していくのか、考えてみたいですね。現状は企業中心ではあるけれど、今後はお年寄りや子ども、外国人なんかも巻き込んで、多様性の中で社会貢献できる場を生み出していきたい、と思います。

櫻井:私のイメージとしては、大きな船に全員が乗って漕ぎ出すのではなく、小さな船でそれぞれがいきいきできるような方向性を探ってみたいですね。つまり100社あれば、100個のプロトタイプができて、やってみると。先ほどのバーのマスターのような存在もそれぞれに育ち、それぞれの船で漕ぎ出すことで、全体としていきいきとした地域にできたら嬉しいですね。

― 本日は、長時間にわたり、さまざまなご提案をいただきまして、誠にありがとうございました。

編集部から
今回の田口さんと櫻井さんの対談は、フューチャーセンター方式というべきか、聴講者ありの形式で行われた。会場からも質問が飛び交い、誌面に収めきれないほど、議論が盛り上がった。こうした一つひとつの取り組みが、参加する人たちの意識を少しずつ変え、社会システムを変革していくことにつながるのだろう。その白熱した場に居合わせて、こうした誌面づくりも変革のときを迎えているのだと実感。

櫻井 亮(さくらい・りょう)

日本ヒューレッド・パッカードにてコンサルティング、マーケティング、経営企画の事業に携わり6年間従事。
経営コンサルティング会社出向、ベンチャーインキュベーション、投資育成会社を経て、2007年よりNTTデータ経営研究所。マネージャー兼デザイン・コンサルティングチームのチームリーダーとして、顧客などの問題解決に従事してきたが、ここ数年社会問題の解決に関する意識が高まる。2009年、野村総合研究所との共同プロジェクトにおいて、両社トップ直下で行う特別チームでの「ITと新社会デザインフォーラム」に深く関与。
3.11の後、次の日本のために若者へバトンを託す企画を仕掛け、8月「日本を創り継ぐプロジェクト」を発足、実施。2013年2月に第二回「日本を創り継ぐプロジェクト」を成功させ、現在も、若者と次の日本を模索するための活動に邁進中。
著作に、『RFPでシステム構築を成功に導く本― ITベンダーの賢い 選び方見切り方』(広川敬祐 編著,櫻井亮,服部克彦,松尾重義 著)、がある他、経験デザインやデザイン思考での寄稿がある。

田口 真司(たぐち・しんじ)

通信ネットワーク系SE、新規ビジネス開拓などの仕事をする傍ら、2010年3月にワールドカフェによる対話イベントを開始。さまざまな企業で働く人や学生、NPO、主婦などあらゆる属性の人たちを集め、毎回テーマを変えたイベントを主催。2011年12月には、社外の仲間7名とともに「企業間フューチャーセンター有限責任事業組合(LLP)」を立ち上げた。特定の会社や個人の利益を追い求めるのではなく、未来の社会について語り合い、新たな価値創造に向けた活動を行っている。2013年2月よりエコッツェリア協会勤務。


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