3×3Lab Futureコミュニティゾーンの天井輻射パネルをバックに。トヨックスの岩田さん
3×3Lab Futureコミュニティゾーンの天井輻射パネルをバックに。トヨックスの岩田さん
3×3Lab Futureが開設してもうじき1年を迎えようとしています。
オープンプラットフォーム、コワーキングスペース等さまざまな顔を持つ3×3Lab Futureですが、ハード面では、"次世代オフィス"として天井輻射空調や、天井照射型の環境照明など、さまざまな機能が実装されていることをご存知でしょうか。今回は、そんなハード面にスポットを当て、"次世代オフィス"や働く場の未来を考えます。
登場していただくのは、天井輻射空調を担当する株式会社トヨックス 環境空間事業部市場開発部課長の岩田博樹氏です。
「輻射空調」とは熱が高い所から低い所へ移動する特性を利用した新しい空調方式です。
「冷たい風、温かい風を送るという空調ではありません。天井の輻射パネルに、夏なら冷たい水、冬なら温かいお湯を通して空調するというもの。私たちがよく例えるのが、夏はトンネルの中のひんやりした感じ。冬は日だまりの中のぽかぽかした感じ。すごく自然な温度感を保つことができるんです」と岩田さん。
送風に頼らないので、吹き出し口近くの寒い・暑いという状況もなく、冷えすぎ、暑すぎという環境にもなりにくいという特徴があります。また、高い省エネ性も大きな特徴です。
「一般的な冷暖房では、冷房は7~10度、暖房は40~50度前後の熱源を利用するのでそれだけコストも高くなりますが、一般的な輻射空調では夏は16~18度、冬は34度の水を使用する為、熱源の高効率運転が可能になり省エネが可能になります。また、条件により太陽光や地熱、井水などの自然エネルギーを熱源として使用することも可能になります」
もともと、トヨックスは家庭用・工業用ホースの製造販売を手掛ける企業でしたが、約20年前から環境配慮型の事業にシフト。当時欧州の環境先進企業を視察したトヨックス宮村会長(現)が、そこで普及していた輻射空調に着目し、製造販売を手掛けるようになりました。
「輻射空調はドイツ、スイスが先進国なんです。もともと暖房に温水パイプを利用してきたので親和性もあるのでしょう。冷房は輻射空調、暖房は今も温水パイプというオフィスも少なくありませんし、空調の"風"を嫌う傾向にあります。対してアメリカでは風がないと冷暖房が効いてないと思うようで、あえてスピーカーで送風音を出しているなんて事例もあるそうです。日本人は少し風を感じるくらいが心地よく、わざと微気流をつけるケースもあります。一言に輻射空調といっても国や文化、好みにあわせて調整されています」
これまでに、新丸ビルのエコッツェリアのオフィス、茅場町グリーンビルディングに輻射空間は導入され、省エネ効果が確認されています。茅場町グリーンビルディングでは空調により60%の省エネ効果があり、ビル全体でも50%以上の省エネ効果が確認されています。
「省エネルギーであることはオフィス空調としては大切ですが、輻射空調の場合は温度ムラがなく、風のドラフトがない為、体表面の温度を必要以上に下げないことで体温を維持できることや、空気の再循環をなくすことで衛生的な空気環境が実現できる点と言った"快適・健康"であることも企業にとっては輻射空間導入のポイントではないかと考えています。茅場町グリーンビルディングの入居者アンケートでは、快適になったことで、働く人の生産性が向上したという声が全体の40%という結果もあるほどです」
日本では環境性能というと「省エネ」だけが取り上げられがちですが、世界的にはむしろ環境性能の良いビルが、働く人の生産性を向上させることに注目が集まっており、効果測定や定量評価の動きが進んでいます。
「私たちも『ウェルネス』『健康経営』をキーワードにして輻射空調の普及促進に努めています。省エネというだけではなく、企業全体の生産性が上がる、健康度もアップする。これからの健康経営指向の経営環境にはそういった視点も求められるのではないでしょうか」
実は、輻射空調はWELL-Building Standard(働く人の健康や幸せを考えたワークプレイスを推進する動きに対する基準)取得のための改善項目に組み込まれたそう。ますます世界的にも輻射空調の普及に拍車がかかりそうです。
「日本ではまだまだですが、これから導入企業が増えていって欲しいですね。私たちもどんどん情報発信して、省エネだけではない、さまざまな効果をきちんと伝えていきたいと思います。その意味で、3×3Lab Futureはとても良い実例になっています。空調を含むハード面でのオフィス設計はもちろんのこと、コミュニティスペースとして、新しい働き方を提案するソフト面でも学ぶことが多いです」
最後に、これからのオフィスのあり方、働き方の変化について聞きました。
「ひとつは、これまでのオフィスの意味が変わるだろうと思います。パソコンで行う書類仕事はどこでもできるようになるので、オフィスは、意見交換したりアイデアを出し合うようなクリエイティブな場になっていくのではないかと思います。欧米のオフィスの様子を見ていると強くそう感じますね。3×3Lab Futureもその流れにあるものではないでしょうか。
もうひとつは、ダイバーシティに対応していくことです。日本では女性の活躍推進、クリエイティブ人材として外国人の登用を進めていますし、今後は高齢者の方の勤務も増えるかもしれません。そんな中で、いろんな人が集まり快適に過ごせるように"カフェ化"するのではないかなと思っています。私達は、そんないろいろな人がいてストレスがない空調をつくる、そんなお手伝いをしていきたいと考えています」
今後、トヨックスでは輻射コンポーネントのコストダウン、性能アップなどの改善を進めるとともに、効果検証やそのレポートの発信などにも努めていくそうです。3×3Lab Futureコミュニティゾーンの上部にある輻射空調パネルは乃村工藝社の鈴木恵千代氏デザインによる特注ですが、「同じものを販売して欲しいという声も多い」そうで、要望があれば特注生産も検討するとか。みなさん、3×3Lab Futureにお越しの際は、快適なスペースをつくる輻射空調にも注目してみてください。