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【レポート】女性社員の健康課題への対応のために企業に求められることとは

2023年度人事部連絡会第1回(2023年6月12日開催)  

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「人事部連絡会」は、大丸有エリアの企業の人事系ご担当者の方々が寄り合い、各社の課題や取り組み、人事業務にまつわるノウハウを共有することで、新しい働き方をはじめ、働きやすい街を促進し、大丸有エリア企業の満足度の向上と共に、ウェルビーイングなエリアへと変革していくことを目指す会です。

8年目を迎えた今年度のテーマは「メンタルヘルス」です。第1回目では、丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄氏をゲストにお招きし、「働く女性のヘルスケア~女性がイキイキと働くために~」と題し、女性の心身に影響をもたらすホルモンバランスの変化が現代の女性が働く上で抱える心身の問題についてご紹介いただき、それらに企業の人事担当者はどのように向き合っていくべきかのヒントを得る時間となりました。

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女性の健康課題への対応は企業にとっての「成長戦略」

女性の健康課題への対応は企業にとっての「成長戦略」

image_event_230612.002.jpeg丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄氏

「この100年間で女性の身体は大きく変わっています」という言葉とともにセミナーをスタートした宋氏。その変化は、人類の出産年齢が徐々に遅くなっていることが関係しています。日本の場合、1975年の平均初産年齢は25.7歳でしたが、2011年には30.1歳と初めて30代に突入し、2015年時点で30.7歳にまで達しました。初産年齢の高まりは、女性の生理の回数を飛躍的に増やすことへとつながりました。

「昔は栄養状態が悪かったこともあって初経年齢は15~16歳ぐらいでした。その後結婚し10代後半から20代前半にかけて初産を迎え、40代頃までに6~7人ほどの子どもを産んでいました。妊娠中と授乳中の期間を合わせると、人によっては一回の出産につき2年近く生理がなくなりますから、昔の女性が一生のうちに迎える生理は50回ほどだったと考えられます。一方現代では、女性の半分ほどは小学生の間に初経を迎えますが、初産は30歳頃で合計特殊出生率も1.3人ほどです。昔よりも生理が来ない期間が短くなり、ざっくりとした計算で生涯450回ほどの生理を迎えるようになっています」(宋氏、以下同)

生理期間中は何らかの痛みや吐き気といった体調不良が生じやすく、人によっては仕事を欠勤しなければならないケースもあります。生理中だけでなく排卵後にもむくみや便秘、頭痛、イライラ、集中力の欠如など、徐々に心身の不調が出てきます。リラックス期から生じるこのような不調は「PMS(月経前症候群)」と呼ばれ、最近ではこの症状の緩和のために婦人科を受診する人も増えているようです。

「生理に伴って起こる症状による社会の経済的損失は、労働損失と通院費用とOTC費用を合わせて年間7000億円近くに上ると推計されています。もしかすると"女性を雇うだけでそれだけの損失がある"という印象を持つ方もいるかもしれませんが、それは逆です。それだけのパフォーマンス低下がありながらも現在の生産性を出してくれているのです。ですから、女性が抱える健康課題に対して企業が手当てをしていくことは、福利厚生の域を超えた成長戦略でもあると言えます」

image_event_230612.003.jpeg月経随伴症状に伴う経済負担は年間で7000億円近くになる分、いかに改善していくかが企業の成長につながると宋氏は指摘しました

宋氏は、生理による体調不良に企業が対応する重要性に触れる一方で、個人としてもコントロールしていくことができるとも話します。基本的な対策としては、基礎体温や生理周期を記録し、どのタイミングでどのような体調不良が起こるかを把握すること、日々の食事や睡眠時間といった生活習慣の見直しが挙げられます。さらに、医師の診療を受けた上で薬の処方を受けることも効果的と言えます。

「ピルはもともと避妊のために作られた薬ですが、生理痛や過多月経の軽減に加え、子宮内膜症の治療や予防、卵巣がんや子宮体がんの予防にも効果を発揮しますし、ニキビや多毛の改善効果もあるので、美容面でもメリットがあります。その反面、飲み始めに吐き気や頭痛を発症する人も1割未満いますし、副作用として血栓症のリスクがあるピルもあります。それでも、低用量ピルなどは10年前と比べて服用している人が増えてきていますし、エビデンスのある治療は多数の選択肢があることは知っていただきたいと思っています」

健康課題に悩む女性社員とのコミュニケーションのポイントは「お互い様」

女性の健康課題は生理にまつわるものだけではありません。特に近年注目を集めているのが、閉経を迎える40代後半~50代前半頃にかけて心身に変化が生じる更年期障害です。更年期はエストロゲンという、感情の安定、丸みを帯びた身体作り、皮膚のハリや弾力、妊娠の準備などに作用する女性ホルモンの分泌の減少によって起こるもので、早発症状としてはのぼせや発汗、不眠、抑うつ、イライラなど、PMSと見分けがつきにくい症状が起こります。さらに遅発症状としては高脂血症、動脈硬化性疾患、骨粗鬆症、認知機能低下といった症状を引き起こすリスクもあります。当然、これらを放置すると重大な健康被害を引き起こす可能性がありますが、更年期もまた、定期的な健康状態の把握や生活習慣の改善、そして医師の診察を受けた上で、エストロゲンを補充する薬や漢方薬などを服用することで対処が可能なものでもあり、「シンプルな病態で起こる分、そこまで怖いものではない」と宋氏は指摘します。

女性の健康に関して気をつけるべきものは他にもあります。女性特有のがんです。この中には、子宮頸がんのように原因がはっきりしているため早期発見とワクチンによる予防が確立しているがんがある一方、比較的発見しづらい子宮体がんや、年々日本人女性の罹患数が増えている乳がんのような病気もあるため、宋氏は早期発見のためにも定期的に健康診断を受けることの重要性を強く訴えました。

宋氏が説明してきたように、女性ホルモンによる体調の変化や、女性特有の病気は多くありますが、日本医療政策機構の調査ではヘルスリテラシーが高い人ほど仕事のパフォーマンスが高いというデータや、定期的に婦人科・産婦人科を受診していることが明らかになっています。

「もちろん男性も様々な健康課題や加齢による体調の変化が生じますが、女性の場合はキャリア形成の過程や重大なライフイベントが重なるタイミングで心身の変化に振り回されることが多くなります。様々な健康課題を抱えながらも自分らしく働いてキャリアを積み重ねていくためには、ヘルスリテラシーを身に付けたり、適切なアドバイスを与えてくれる存在が周囲にいる必要があると思っています」

「よく『体調不良で悩んでいる女性社員とどのようにコミュニケーションを取ればいいか』と聞かれますが、万人受けする声がけの仕方はないと思っていますし、場合によってはセクハラと紙一重になってしまうケースもあります。そのため、男性管理職の方には『女性特有の健康課題があることを知っていただくだけでも充分です』ということと、『女性に限らず、誰がどのような問題を抱えて仕事をしているかはわからないので、"お互い様"を意識して優しく接してください』といったことを伝えています。また、会社としては、日中に病院に行くために外出を許可するなど、社員が医療機関を受診しやすいシステムをつくるのはアリだと言えるでしょう」

社員の健康増進を重視する健康経営の考え方が浸透してきている昨今においては、女性の健康課題に対応していくための制度やシステムを用意している企業も増えてきています。例えば生理休暇の取得推進、医療機関を受診するためのフレキシブル勤務の導入、ヘルスリテラシーを高めるためのセミナー、ヘルスケアについてのメンター制度、健康課題に直面した先輩社員との座談会を通した経験シェア、外部の医療職による健康相談サービス、基礎体温管理アプリの導入、オンラインピル処方サービスなど、様々な角度からの対策が施されてもいます。こうした事例を紹介した上で、宋氏は「不調を軽減して生産性を上げるには、最終的には婦人科を受診してエビデンスがあり保険が効く治療を受けていただくのが一番だと思います」と話し、講演を締めくくりました。

今後ますます重要度を増す「医療機関と企業の連携強化」

image_event_230612.004.jpegこの日はオフラインオンライン合わせて70社以上が参加し、ディスカッションも活発に行われていました

宋氏の講演を終えると、参加者同士のディスカッションを経て質疑応答へと移ります。ある参加者からは「生理休暇の取得を推進するためのポイント」に関する質問がなされます。これに対して宋氏は次のように回答しました。

「実際のところ生理休暇の取得状況は低く、日本全体では1%ほどしか取得できていないという調査もあります。これは女性向けの休暇だからこそ取りにくいという声もよく聞きます。一方で生理休暇には日数の制限がないことも多く、特定の人が取得し続けてモラルハザードが起こり、他の人がさらに取りにくくなってしまうということもあるようです。例えば『リフレッシュ休暇』のように、女性だけに限定しない誰もが取得しやすい名称にしたり、連続で取得する人がいたら病院に行くことを勧めたりするなどの対応が必要かなと思います。また、制度より風土が大事だと思っていますので、人事担当者が率先して取ってみるのもいいのではないでしょうか」

別の参加者からの「男性の管理職が女性の健康課題を理解するために何から始めるべきか」という質問に対しては、「セミナーなどを通じてヘルスリテラシーを高めること」がポイントとして挙げられました。

「日本では長らく性教育が不十分でしたが、その世代の方々が現在管理職に就いているケースも多いと思います。そうした方は今日のようなセミナーを通して意識を高めることも大事ですし、これをきっかけにヘルスケアに関する興味を継続的に持ってもらえるといいのかなと思います」

女性特有の健康問題という観点では、不妊治療をしている社員とのコミュニケーション方法や休暇制度をどうすべきか、という相談も寄せられます。例えば女性特有のがんの場合、検査や手術、抗がん剤投与の日程が見えやすいので職場との調整がしやすいですが、不妊治療の場合は生理が来るタイミングに左右されるため予定が立てにくい問題があります。このように働きながらの不妊治療は困難である点が不妊治療の妨げのひとつになってしまっていることに触れた上で、宋氏は医療機関と企業が連携することが重要だと指摘しました。

「例えば会社の近隣の病院と連携し、社員の方が行きやすい時間に受診できる仕組みがあるといいでしょう。また不妊治療は待ち時間が長い傾向にあるのですが、その間にテレワークで仕事を進める方も増えています。テレワークを推進するだけでも不妊治療はしやすくなると思います。このように医療機関と企業が協力体制を築き、社員の方が受診しやすい仕組みを作っていきたいと考えています」

女性の健康を主題としたこの日のセッションでしたが、男性の人事担当者の参加も見られ、それだけこのテーマに対する企業の関心が高いことを伺わせました。この日宋氏が口にしたように、「女性の健康課題への対応は成長戦略」という意識が広まれば、より多くの企業が環境改善に取り組んでいくことになるのでしょう。

次回の人事部連絡会は「睡眠とメンタルの関係」をテーマに開催する予定です。今後も、社員の健康問題改善を考える大丸有エリアの人事系ご担当者の皆様との情報交換を続けていきます。

image_event_230612.005.jpeg男性参加者からも質問がなされ、企業として女性の健康課題への関心や理解を深める姿勢が示されていました

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