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【レポート】障害者雇用が生み出す価値は、企業発展の力になる

2024年度人事部連絡会第1回 2024年9月17日(火)開催

8,10

大丸有エリアの人事担当者の支援や、人事領域に関する最新情報を共有し、新しい働き方の模索を行い、大丸有をよりウェルビーイングな地域へと変えていくことを目指す「人事部連絡会」。2024年度の第1回目のテーマは「障害者雇用」です。社会的にも重要度が高まっているこのキーワードについて、有識者の講演や参加者同士のワークショップを通して、その意義や価値について考えていきました。

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過去に見ないほど重要度と難易度が高まる障害者雇用

過去に見ないほど重要度と難易度が高まる障害者雇用

image_event_240917.002.jpeg株式会社スタートラインの吉田瑛史氏

この日ゲスト講師にお迎えしたのは、障害者雇用支援サービスを展開する株式会社スタートラインの吉田瑛史氏(障害者雇用エバンジェリスト)です。これまで500社5,000人以上の障害者雇用に携わってきた吉田氏は、「なぜ障害者を雇用するのか?」と題し、障害者を雇用することで企業や社会に与える影響や、障害者雇用を通じて価値を創出する上でのポイントなどを解説していきました。

今回、障害者雇用をテーマとして取り上げたのは、2026年度から企業の法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられることが関係しています。「たった0.2%なら大した影響はない」と感じる方もいるかもしれませんが、現時点でも法定雇用率を遵守している企業は日本全国で約半分ほどにしか過ぎない状況であり、その達成には短期間での雇用純増が必要なため、決して簡単なこととは言えません。

「半分の企業が雇用率未達成、さらに過去に類を見ないほど短期間での雇用率引き上げ、そして一連の動きを見据えてのハローワークの雇用率未達成企業に対しての指導など、様々な状況が相まって、2023年度の障害者求人は26万3,217人、就職件数は11万756件と、それぞれ過去最多を記録しています。そしてその主な採用対象者は精神障害者や発達障害者であり、うつ病、パニック障害、てんかん、統合失調症、注意欠陥多動性障害、自閉スペクトラム症など、多様な障害者が就職しています。障害者雇用はまさに、採用競争が激化しながら、採用対象も変化しているという、過去に見ないほど重要度と難易度が高まっているのです」(吉田氏、以下同)

障害者雇用を成功に導くために、企業・個人・社会に必要な要素

image_event_240917.003.jpegこの日は吉田氏の講演の合間にグループごとのディスカッションを挟む形で進行。
参加者は皆高い熱意を持って意見を交わしていた。

続けて、障害者雇用を推進する意義を、吉田氏はある事例Kさんを紹介しながら、その価値について解説をしていきます。

Kさんは、スキルも経験もまったくない中で、事務職として入社します。通常であれば、そのような状態で入社しても業務がうまくいかず、嫌気が差してしまってもおかしくありません。しかし実際には、仕事を楽しみ、着実に成長を遂げていったそうです。その一つの要因はKさんの上司にあります。その上司は、Kさんが仕事の全体像を理解しやすくするため、一つひとつの業務の背景や目的を丁寧に説明したり、Kさんからの相談に対しても、どのような事象や気持ちの変化があって相談するに至ったかを汲み取った上で対応してくれたりと、非常に丁寧なフォローアップをしてくれました。そんな上司のもとで前向きに仕事に取り組み、できることを一つひとつ増やしていった結果、Kさんは現在では12名の障害者雇用のメンバーを束ねるリーダー職に就いているといいます。立派な戦力として成長し、ついにはマネジメント人材として会社を支えるに至ったことに対して、吉田氏は「障害者雇用の理想的な形の一つ」と評しました。

「この事例は、企業の2つの存在意義を体現している事例です。2つの存在意義とは、1つ目に『経営発展=より良いサービスでより良い社会を創造すること』2つ目に『社会性/公益性の実現』です。経営発展に関しては、Kさんの成長と共にチームが拡大し、そして経営発展に寄与している状態と言えます。そしてその経営発展により、顧客へより良いサービス、価値を提供できるようになったと考えられます。つまり、この事例を通じて同社は社会の中での存在意義を示し、公益性を獲得したと言えるでしょう。
これまで多くの会社を見てきましたが、障害者雇用は「数=雇用率」を目的にすると失敗しやすくなります。障害者雇用でどのような価値を生み出し、社会に提供していけるかを目的にしないと、必ずどこかで歯車が狂い出してしまうというのが私の結論です」

障害者雇用を通じて価値を生み出すには、企業、個人、社会それぞれに必要な要素があります。企業には、障害者を受容し、調整する姿勢です。障害者の能力や個性と向き合い、受け入れ、その上で、障害の種類も程度も異なる一人ひとりに合わせてやり方や仕組みを調整することが求められるのです。「そんな余裕ないよ」と思われるかもしれませんが、一人ひとりの能力を発揮・成長させてチームの成果を上げること、それは「マネジメント」そのものだと思います。
また、一方でKさんのように仕事を通じて成長するためには、本人に「協力する」姿勢と「言える」姿勢が求められます。前者は、文字通り意欲的に周囲に協力し、自分のやるべきことをやろうとする姿勢のことです。後者は、雇用の現場では"あるある"を言い換えた言葉だと吉田氏は説明します。

「障害の有無にかかわらず、何らかのことに悩んでいても、自分から言えないことがよくあります。仕事をしていると、わからないことが出てきたり、困ったことが発生したり、誰かが嫌になったりすることがありますが、ここが言えるかどうかはとても重要です。私の経験では、言える姿勢がある方は課題に対しても向き合い、周囲と協力して解決することができ、定着率も高い傾向にあります。逆に、高いスキルを持っていても上手く言うことができないと、自身も周囲も疲弊するばかりになってしまいます」

そして社会には、法令や制度を整理・推進する姿勢が求められます。吉田氏が説明したように、法定雇用率を達成することだけを目的とする障害者雇用は成功しづらいです。しかし現実的には、数を追う仕組みがないと企業は動きません。そのため、無理に数ばかりを追い求めることはしないまでも、平等性や公平性を持ちながら、企業を動かす制度設計が重要になるのです。また吉田氏は、ベストプラクティスを探るための情報発信も社会に求められるとも付け加えました。

企業が障害者雇用に取り組むべき真の理由

障害者雇用を成功に導くポイントは明確ではあるものの、冒頭でも触れたように、実際に世の中で法定雇用率を達成している企業は半分に過ぎません。その理由はどんなところにあるのでしょうか。吉田氏が参加者に問うてみると、「余裕がない、マネジメントが難しいなどの理由で、日本企業には育てる心が足りていないのではないか」といった声や、「利益を追求する株式会社という形態上、合理性を考えれば障害者雇用にリソースを費やすならば、未達で納付金(常用雇用労働者数100人超の事業主は、不足1人分あたり月額5万円を納付する)を収めた方が、主力事業に人員を割けるし、財務的にも合理性があるからではないか」という意見が出されました。

これを受けて吉田氏は、「確かに短期的な合理性だけを考えれば納付金を払う方が安く済みますし、実際にそういった考えを持って障害者雇用に取り組まない姿勢の企業も存在します」としながらも、「経済的合理性を優先する企業は、そう考えてしまうのも致し方ないと思います。しかしその考え方は、非常に短期的な視点であり、本質的な視点を持ち合わせていないと考えます。それは、中長期的かつ本質的な視点で見ると、障害者雇用は経営発展に寄与するからです。それは世界的にも様々な場所や場面で証明されています」と持論を述べました。

「障害の有無に関係なく、成果を出せる組織は経営発展に寄与します。その成果を出す組織には、(1)想定外を見つけようとする姿勢、(2)思い込みを捨ててありのままを見ようとする姿勢、(3)失敗が起きても組織改善につなげようとする姿勢、という3つの必要条件が存在します。それと同時に、ミスや失敗が起こった際には隠さずに共有して許容できる文化、すなわち心理的安全性も重要です」

経営発展に寄与する組織の条件を理解した上で障害者雇用の現場を見てみると、組織を正常に運営していくためには、自ずと3つの必要条件を満たす必要が出てくるのです。

「障害者雇用では、物事の考え方や業務のやり方、勤怠、人間関係など、様々な場面で想定外のことがよく起こります。こうした想定外の問題の原因を探っていくと、思い込みに起因していることもよくあります。このような中で組織を動かしていくためには、日頃から想定外を見つけようとし、思い込みが発生していないか目を配り、やり方や仕組みでメンバーの能力を最大化できないか試みることが必要です。こうした環境で働いていけばマネジメント力が身につきますし、組織も改善しながら成長できるので、結果的に経営発展に寄与する組織になっていくのです」

障害者雇用を推進し、採用した障害者がポテンシャルを発揮できる環境を構築していくことが、ひいてはその他の社員や組織全体の成長を促すためのモデルケースになり得るものだと言えるのでしょう。

吉田氏の講演のあとには、障害や難病を抱える就労困難者に特化したDXプラットフォーム「NEXT HERO」を運営するVALT JAPAN株式会社の小野貴也氏(代表取締役CEO)が登壇し、自社の事業の特徴や、今後の展望について紹介がありました。

image_event_240917.004.jpegVALT JAPAN株式会社の小野貴也氏

こうして、この日の人事部連絡会は幕を閉じました。

講演の中で度々触れられたように、障害者雇用は今後ますます重要性を増していくものの、まだまだ経営層の理解が不足している分野でもあります。現場の担当者は頑張っていても企業として対応できないということも少なくないとも言われています。それだけに、この日会場に集った参加者たちは、積極的にディスカッションを行い、意見や情報を交換し合っている様子でした。

人事部連絡会では、今後も人事担当者の皆様の業務を支援することを目指し、様々なテーマで開催していく予定です。自社や大丸有エリアの企業、そこで働く方々がさらに発展していくためにも、今後の回にもぜひご参加ください。

image_event_240917.005.jpeg講演終了後には名刺交換の時間も。ネットワークが作れることも、人事部連絡会の特徴のひとつ

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