Photo by green futures magazine
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「公園や駅、通勤路の雰囲気がなんとなく明るくなって気持ちがいい」。そう不思議に思ったら、ペンキが塗り直されていた、という経験はありませんか。
公共スペースの色やデザインは、普段は風景の一部のようですが、まちの印象をつくり、私たちの日常に彩りを添えてくれます。
こうした公共スペースを塗り直したり、アートを添えたりすることで、まちの活性や住民の健康を促進するための事例が生まれています。今回は、こうした公共スペースのアートとまちづくりについて、海外の事例と課題を見ながら、私たちのまちと生活を彩る方法を探ってみましょう
清潔で、よく手入れされている空間は誰でも気持ち良く過ごせるものです。色が剥がれたり汚れたりしているものは、塗り直したいところですが、そのためにはペンキなどの資源が必要です。
家のガレージなどに、余ったペンキがありませんか。「引っ越してきたときに買ったものがあったかも」「昔、日曜大工を始めたときに買ったけれど、忙しくて最近は手を付けられていない」など、残ったままにしていた、という人も多いのではないでしょうか。
ここに目を付けたのが、イギリスの「Community RePaint」です。「Community RePaint」は、家や会社に余っている、あるいは廃棄される予定だった使用可能なペンキを集め、地域の必要な人に届けるチャリティ活動です。壁や家具を塗り直したいご近所さんにプレゼントしたり、あるいは公共の建物や壁に、アーティストに絵を描いてもらうときに活用したりしています。
この活動は、1992年に環境保全コンサルタンティングを行うNPO「Resource Futures」によって始まり、翌年よりペンキメーカーの「Dulux」がCSRの一貫として資金のサポートをしています。「Community RePaint」によると、DIY文化の根付くイギリス全土では、年間3億リットル以上のペンキが売れています。しかし、その六分の一にあたる5000万リットルは、未使用のまま家やガレージに保管されるか、あるいは捨てられていると推定されます。その量は、実にオリンピック規模のプール20個を満たせるほどの量にあたります。
2013年には「Community RePaint」は約41万リットルの放置・廃棄ペンキを救い出し、約25万リットルを地域の市民団体、チャリティ団体、市民など、必要な人々に再配分しました。これらのペンキは地域の子どもの遊び場や幼稚園の壁の塗り直し、家具のアップサイクル、再開発地区の活性化などのために使われています。「Community RePaint」は未使用ペンキを、地域の「有効資源」と捉え直し、地域コミュニティの活性化のために使えるようにしているのです。
2012年のロンドンオリンピックでは、オリンピックレガシーの一貫でオリンピック開催地となった東ロンドンの再開発が行われました。
東ロンドンはかつて治安の悪いことで知られるエリアでした。落描きから発展したストリートアートが多くありましたが、オリンピックの際にはその芸術性が注目されました。あえてまちをストリートアートで装飾していくために、地元アーティストを募集するなどの取り組みが行われました。
この取り組みは、まちを東ロンドンらしいストリートアートで彩り、オリンピックのお祭り気分や、新しい活気が溢れる雰囲気を生み出しました。しかしながら、課題も見えてきました。地元住民から、「絵柄が好きじゃない」「前のままの方が好き」「落ち着かない」などと、評価が分かれるものもありました。逆に、電話会社のBTが期間限定で中心部で行ったロンドンのトレードマークである赤い電話ボックスをさまざまなアーティストがペイントした「BT ArtBox」など、オリンピック気分を盛り上げた好事例もあります。
「クール(おしゃれ)」という感覚は個人差や世代差があります。ペインティングやストリートアートは導入にコストが低く、誰でも参加しやすい反面、その公益性について見直す必要があるという議論が生まれています。また、まち全体の景観としてどうかといった判断や運営について、さまざまな課題も浮き彫りになっています。
日本でも、全国で公共スペースを活用したアートやデザインを使ったまちおこしが、各行政・地域で取り入れられています。壁や路地のペイントからマンホールのデザインまで工夫が凝らされ、その新しさや楽しさに注目が集まっています。しかし、地域の自然と調和した伝統的な景観美も守ることも大切でしょう。イギリスで見られたような、地域住民の声、個人差・世代差などの課題も考えられます。また、むやみにペンキなどの資源を無駄使いしないようにも工夫をしていきたいものです。
東京オリンピックという大きなお祭りに向けて、こうした取り組みが増えていきそうです。さまざまな事例を参考に、産民官連携で協力しながら、まちづくりに効果的に取り入れたいですね。